浦島太郎はメタバースから駆けだしたい
僕の名前は浦島太郎である。あの有名な昔話の主人公と同じ名前だ。
親が離婚と再婚を繰り返し、今の苗字が浦島になってしまった。名前と家庭環境が引き金になり学校ではいじめられていた。わずか十歳ぐらいの子供が邪悪な笑みで同級生をいじめているとは、人間って罪深い。
そんな折、学校の近くの公園で誰かにいじめられている女性がいた。白衣を着た科学者っぽい女性だった。いじめられているというか、上司らしき人にセクハラにあっていた。
いじめられっ子として、ここは助けたい。子供ながら勇敢に立ち向かい、セクハラ男を追い出した。
「ありがとう! 私、月山亀子っていう名前なの」
助けた女性は亀子という名前で、僕にお礼をしたいという。
「実は、これは研究中の『メタ☆バース』っていうゲームなの。面白いからやってみてね!」
亀子は僕の意見など聞かず、そのゲームを無理矢理やらせた。ゴーグルみたいな装置を頭につけられた。亀子はセクハラを受けている時と違い、やけに押しが強い女だった。
すぐにゲームがはじまった。どこかの剣と魔法の異世界を舞台にしたゲームだった。チート世界で、なんだかわからないうちに魔王になって、あっという間にハーレム状態になった。女性達はみな美人で、偉そうにしても魔王だからと許される。
まるで夢のような世界で、僕はゲーム世界にのめり込んでいた。僕の意識は主人公といつの間にか一体化していた。
リセットボタンを押すと、また違う世界に行くことができた。いかにも異世界風の場所も多いが、中華や和風のような世界に行くこともあった。どこの世界もチートですぐハーレムになった。
こうしてゲーム内の世界を転々としていると、異世界転生をしているような気分になった。ゲーム世界での命は紙の如く軽く、例え殺されてもすぐ別の世界に行けるようだった。たぶん666回ぐらい転生のような事をしていた。
最初は楽しいゲームだったが、チートすぎてだんだんと飽きてきた。はっきり言って退屈だった。最初は現実世界でいじめられていた事もあり、ゲーム世界がキラキラして見えたが、今はそうでもない。一言で言えば飽きた。退屈だ。どこの世界も低レベルで馬鹿にされてる気もした。僕は幼稚園児じゃない。
早くゲームを辞めたい。飽きた。この牢獄のようなゲーム世界から逃げたい。駆け出したい。
そう思っても、相変わらずぬるいチート世界。今は古代和風のような世界にいて王様をやっているが、ちっとも楽しくない。むしろ、気が狂いそうだった。
亀子と会ってから時間はどれぐらい経ったんだ?
相当な時間が経過している気がして、怖い。それでもゲームの辞め方がわからない。リセットボタンを押しても別の世界に行くだけだった。もしかして自分は永遠に生きてる存在にでもなったのだろうか。
「助けてくれ! 早くここから出してくれ!」
見えない鎖で繋がれているような感覚だった。この鎖をちぎり、一刻も早く現実世界に帰りたい。走って逃げたい。駆けだしたい。
すると、ハーレムの一人の姫がやってきた。乙姫という一番の美人だが、もう女の顔も飽きてしまっていた。
「王様、現実世界に帰る方法を教えます」
「え? いいのかい?」
「ええ。でも、この玉手箱を持って帰ってくださいね。現実に絶望したら、開けてください。ま、きっと絶望するでしょうけど」
乙姫の言ってる事はよくわからないが、もうこの世界にはいたくない。
僕は、玉手箱を手に現実世界へ駆けだした。