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6/8

会えない日

翌朝、しらほは学院で観測記録を受け取った。

 時刻の抜けを確かめ、器具を替えた地点にはその旨を書き添える。昨日と比べるには、同じ器具の値を使う方がよい。必要な問い合わせを済ませる頃には、午前の作業は予定どおり終わっていた。


 顔を上げると、窓の向こうに中庭が見えた。

 いつもなら、そろそろ久那岐が来る時刻だった。長椅子には誰もいない。しらほはしばらく見てから、次の資料を開いた。


 古い観測法に、今は使わない言葉があった。

 あとで久那岐様に聞こう、と思ってから、今日は会わないことを思い出す。意味を調べる方法はほかにもある。用語を控え、参照する資料を取りに立った。


 仕事は進んだ。

 ただ、調べ終えた言葉について、久那岐ならどう説明するのかは分からないままだった。


 昼の休憩に、借りた恋愛小説を開いた。

 長く共に暮らす二人のうち、一人が留守にしている場面だった。残された方が食事の支度をしながら、味を確かめてもらおうと隣を向く。いないと分かっていたはずなのに、声をかけかける。


 しらほは一度、頁から目を離した。

 午前中に何度も中庭を見たことを思い出す。本の人物がなぜそうするのか、今日は前の頁へ戻らなくても分かった。


 そこへ、教官が施設からの連絡を持ってきた。


「昨日、無事に着いている。道中に大きな異変はなく、到着後の測定も安定しているそうだ」

「今朝も、変わりはありませんか」

「ああ。引き続き確認するとのことだ」


 しらほは本を膝へ置いた。

 頷いて息を吐くと、肩が少し下がった。椅子の背に触れたところで、そこまで体を起こして座っていたことに気づく。


 道は安全だと聞いていた。それでも、着くまでに何か起きなかったか、ずっと気にしていたらしい。


 本人からの短い伝言もあった。


 借りた本は、急いで返さなくてよい。向こうでも読むものはある。ただ、術の記録が多いので、こちらを読み終えたら感想を聞きたい、と。


 しらほは最後まで読んでから、もう一度、到着時の状態を確かめた。

 無事だった。それが分かったのに、昼を過ぎれば中庭へ来るような気がするのは変わらなかった。


 午後は、神獣の応答が鈍った例の前後を調べた。

 先日は状態の変化を先に拾ったので、同じ資料群にある土地の記録までは読み切れていない。


 広い範囲で、霊力が普段と逆向きに流れた年の記述があった。

 測定値はほとんど残っていない。けれど、高位の神獣ほど帰路の指示を聞きにくくなり、同じ方角へ進もうとしたことが、複数の場所で記されていた。


 しらほは記述を分けて写した。

 異常が起きた土地。神獣が向かった方角。最後に変化が集中した場所。


 集中したのは、古い祭祀地のある山地だった。


 別の紙に、後から書き加えたらしい説明があった。土地の奥に眠る神格を「荒神」と呼び、霊脈の乱れと関わりがあるのではないかとしている。

 長い眠りの間に周囲の霊力と混じり合い、目覚めかけると、強い神獣の力をもその流れへ引くという。


 誰かを襲った記録ではなかった。

 神格の意志については分からず、書き手も、目覚めの兆しかどうかを確かめられなかったと残している。


 しらほは「荒神」の横へ、後世の推測、と記した。

 話をそのまま原因にすることはできない。ただ、神獣が同じ方角へ動いたという観察は、今の報告とも比べられる。


 古い図には、現在と道筋の違う川があった。道ではなく、尾根と川の合流点を頼りに位置を移す。

 西の沢と北側の道は、昔の異常域の端に重なるようだった。発生の順まで同じではないが、現在広がっている向きは、山地へ続いている。


 しらほは結界施設への道順も広げた。

 施設は現在の異常範囲から外れている。けれど、昔、流れが集まった方角を延ばすと、その先にあった。


 手を止め、尾根の位置をもう一度確かめる。

 施設が危険だと分かったわけではない。今朝の値も安定している。それでも、周辺を調べる理由はあった。


 しらほは資料を揃えて教官のところへ行った。


「過去にも、似た広がり方をした可能性があります。こちらが集中した場所で、施設はその方向の先です」


 教官は二枚の図を並べた。


「この祭祀地が、今も残っているかは分からんな」

「はい。場所もおおよその対応です。ただ、施設の内側だけでなく、こちら側の外縁を測っておいた方がよいと思います。神獣の反応も、測定値とは別に」

「分かった。施設へ資料を送り、観測点を増やしてもらおう。地理を確かめる方も手配する」


 移す際に調べた範囲へ、古い記録から得た方向が加わる。

 しらほは図の写しを作り、元の記述も添えた。「荒神」という名だけが先に伝わらないよう、確かめられたことと推測の紙は分けておいた。


 連絡の準備が終わってから、面会について尋ねた。


「施設へ伺える条件は、昨日のお話から変わりましたか」

「今はまだ難しい。道中と周辺の観測を揃える必要がある。許可が出れば、往復の経路と滞在時間を決めて、同行者をつけることになる」

「先にできる手続きはありますか」


 教官がしらほを見た。

 急ぎの仕事はないかと問われ、しらほは今日の照合は終わると答えた。面会を願い出る書類と、連絡を託せる時刻を教えてもらう。


 観測を増やす提案は、久那岐の安全のためだった。

 けれど、同じ結果を連絡でもらえるのに、会いに行く手順まで知りたいのは、それだけでは説明できない。


 本人の声で返事を聞きたかった。

 見つけた記述を示せば、久那岐はどこから読むだろう。分からぬと言うのか、何か覚えがあるのか。その返事の間も含めて、隣で聞きたい。


 安全な場所にいると分かれば済むのだと思っていた。

 済まなかった。


 仕事を終えてから、しらほは借りた本を開いた。

 頁の間に薄い紙が残っている。久那岐が疑問のあるところへ挟むのに使っていたものだった。紙の端は少し擦れているが、本の角は折られていない。


 しらほは紙片を指で挟み、いったん本を閉じた。


 次に会ったら、留守の相手へ声をかけかける場面は、今回は読み返さずに分かったと伝えようと思った。久那岐がそこをどう読んだかも聞きたい。

 閉じた本をもう一度開き、その頁へ紙片を挟み直した。


 面会の許可が出たのは、二日後の朝だった。

 施設までの道の観測値が揃い、短時間なら往復できると判断された。ただし、教官が同行し、滞在は半刻。途中でも異常値が出れば、その場で引き返すことになっている。


 しらほは条件を確かめ、その日のうちに手続きを済ませた。

 鞄には古い記録の写しと現在の観測図を入れる。借りた小説も、目印の紙を抜かずに持った。見せるだけなら写しを送れば済むが、本の頁は、隣に置いて話したかった。


 道中の値は安定していた。

 結界施設へ着くと、教官は外縁の観測記録を確認しに行き、しらほは面会用の部屋へ案内された。


 久那岐は窓際で本を読んでいた。しらほを見ると、開いたところを指で挟んだまま立ち上がる。


「来たのか」


 一歩こちらへ来てから本を持っていることに気づき、脇の台へ置いた。頁には何も挟まなかった。


「はい。半刻の許可をいただきました」

「ならば、座ろう。立ったまま話して終わっては惜しい」


 久那岐は向かいではなく、卓の隣側の椅子を引いた。しらほが鞄から写しを出すと、紙を広げられるよう場所を空ける。


「調査の話があって、来たのか」

「それもあります。古い図と比べていただきたいところが見つかりましたので」


 しらほは写しを置いた。

 久那岐が座るのを待つ間に、言わなければ、その用事だけで来たことになると思った。間違いではないが、それだけではなかった。


「会いたかったので」


 久那岐の手が、椅子の背に残った。


「調査だけではありません」


 しらほは顔を上げて言い添えた。

 いつからそうだったか、どこまでの感情なのかは、まだ説明できない。ただ、本人へ話したかった。それは今、別の理由に置き換えずに言えた。


 久那岐は少し黙ったあと、椅子へ座った。


「俺も、おまえに会いたかった」


 声に笑いが混じっていた。

 しらほは頷き、写しを二人の間へ寄せた。一枚目の上下を揃えるだけなのに、手を離すまで少し時間がかかった。


 古い図には、川の位置が今と違うところがある。しらほは尾根と合流点を基準に重ねたことから説明した。

 広い範囲の逆流、高位神獣が同じ方角へ進もうとした記録。最後に異常が集中したのは、祭祀地のあった山地だった。


「現在も、広がる向きには似たところがあります。ただ、発生した順は同じではありません」

「こちらが学院か」

「はい。外門はこちらです」


 久那岐は図を自分の方へ寄せた。

 学院内で歩こうとしたときの位置を示し、指を外門の先へ滑らせる。しらほはその指が止まるまで待った。


「向こうへ行くものだと思った。何のためかは、やはり出てこぬが」

「この山地と、ほぼ同じ方向ですね」

「うむ。ただ、あの場所へ行こうとしたとまでは言えぬ」


 しらほは方角だけを記した。

 名前を聞いて思い出したという話にはしない。久那岐も、図を見てから確かめたことだと断ってくれた。


「施設でも、そちらが気になることはありましたか」

「窓から眺めたことはある。引かれたのか、ただ見たのかは分からぬ」

「今後は、それも残していただけますか。違ったとしても、時刻と方向があれば比べられます」

「分かった。何も起きなかった分も、残しておこう」


 続いて「荒神」の記述を見せた。

 これは後から添えられた推測で、観測した者の記録とは分かれている。久那岐はそちらも読み、図の山地へ目を戻した。


「古い神格には、こうして言葉を交わせるものもあれば、土地や霊脈に近くなるものもある」

「もし、こちらの記述が後者なら」

「俺たちを呼ぼうとしているとは限らぬな。強い力があれば、周りの流れごと引いてしまうのかもしれぬ」


 久那岐は断定せず、記録をしらほへ返した。


「この名だけでは、俺にもどのようなものか分からぬ。祭祀地の記録を、もう少し探す必要があるだろう」


 山地が原因だと決まったわけではない。

 けれど、現在の異常の広がりと、神獣が向こうとする方角の両方から、確かめる場所が絞られてきた。


 しらほは資料を揃え、残りの時間を確認した。まだ、持ってきた本の話ができる。

 鞄から取り出すと、久那岐が表紙を見て頷いた。


「どこまで読んだ?」

「一人が留守の間に、食事の支度をするところです。相手がいないのに、味を確かめてもらおうとする場面がありました」


 挟んだ紙を目印に開いた。


「今回は、前の頁へ戻らなくても分かりました」


 久那岐は示された行を読んだ。

 すぐには何も言わず、その少し前まで目を動かす。それから顔を上げた。


「俺がいなかったからか」

「はい。調べものをしていて、あとでお聞きしようと思いました。今日は会わないと分かっていたのに」

「答えは見つかったか」

「資料で調べられました。ただ、久那岐様なら何とお答えになるかも、知りたいままです」


 久那岐は本から手を離した。


「では、その話も聞こう」


 しらほが口を開きかけたところで、扉が叩かれた。

 入ってきた教官は、施設の外縁で弱い逆流が一度記録されたと告げた。


「今は戻っている。内側の値に変化はないが、約束どおり面会は切り上げる」

「方向は分かりますか」

「山地に向いた側だ。ほかの地点では、まだ出ていない」


 しらほは開いていた図を示した。教官は新しい報告の位置と見比べ、久那岐が示した方角についても確認する。


「学院へ戻り次第、資料を揃えて報告しよう。祭祀地周辺の現状を、優先して調べる必要がある」

「久那岐様を近づけずに確認する方法も、お願いします」

「ああ。まず、現地の記録と外側からの観測だ」


 久那岐は頷いた。窓へ近づくことも、外を確かめに出ることもしなかった。


「俺の方は、ここで感じたことを残そう」


 しらほは必要な写しだけを彼へ渡し、残りを鞄へ収めた。小説も持ち帰る。返すかどうかを尋ねるより先に、久那岐が、続きも読んでおいてくれと言った。


 予定より少し早い別れになった。

 玄関まで送ることも控えるため、久那岐は部屋の戸口で止まった。しらほは廊下へ出てから振り返る。


「次に面会できる条件が分かったら、知らせてください。許可が出たら、また来ます」

「うむ。待っている」


 明日とは言えない。

 それでもしらほは、今度は尋ねることを残したまま帰ると決められた。


 廊下を進むと、教官が帰路の観測結果を確かめていた。しらほも立ち止まり、異常のない道を図で追う。

 学院へ戻って報告する内容に、祭祀地と施設外縁の位置関係を加えた。その下には、久那岐から聞いた方角を別に記す。


 本は鞄の内側にあった。

 話せなかった用語は、写しと一緒に教官へ渡さず、自分の手元へ残した。


 学院へ戻ると、しらほは教官と祭祀の記録を開いた。

 窓の外が暗くなるまでに、古い図の山道を、現在の尾根筋へ移せた。祭祀地そのものを示す名は消えていたが、沢の合流点と、石段を設けた斜面の向きが合っている。


「跡が残っている可能性は高そうです」

「祭祀は、何のために行っていた?」

「霊脈の流れを鎮めるため、とあります。ただ、最後の年が分かりません」


 記録は途中から欠けていた。祭祀が途絶えたのか、書類だけが失われたのかも確かめられない。

 しらほはそこを空欄にした。行われなくなったから神格が怒った、という説明は、残っている紙のどこにもなかった。


 高位神獣を伴わず、山地の外側を調べた報告も届いた。

 中心部へは入っていない。けれど、霊力が山側へ流れる地点が複数あり、斜面には崩れた石段と、割れた石の囲いが見つかったという。


「この囲いは、祭祀の設備でしょうか」

「位置は近い。ただ、いつ壊れたかが分からんな」

「では、破損と逆流は別に残します」


 現在の観測図へ印を加えると、学院周辺から山地へ向かう線が少し延びた。

 眠っていた神格が周囲の力を引いているという仮説には合う。合うからといって、それが原因だと決める段階ではなかった。


 翌日は、安全を確かめた道から外側の観測を増やす。

 その準備を始めたところへ、結界施設から急ぎの連絡が入った。


 外縁で逆流が繰り返されている。

 一度きりだった昼間と違い、戻ったと思うと、間を置かずにまた針が振れたという。


 しらほは施設の図を広げた。


「内側の値は」

「大きくは変わっていない。だが、久那岐様に異変が出ている」


 教官が読み上げた内容に、しらほは置きかけた筆を握り直した。

 山側を見続け、問いへの返事が遅れた。内側の部屋へ移っても、引かれる感覚が消えないと話している。


「結界の破損はありませんか」

「ない。外から押し破られた形跡もないそうだ」


 しらほは、祭祀記録にあった霊脈の図を隣へ置いた。

 土地の奥を通る流れまで、部屋の結界で断っているわけではない。囲いの内外ではなく、足元から影響が続いている可能性があった。


 次の連絡には、久那岐の言葉が添えられていた。

 自分の前へ無理に立たないこと。力で押さえ込まないこと。変化が強くなれば、周囲を空けること。


 学院としらほから届いた資料については、まだ話せていたという。


 しらほは時刻を確かめた。

 面会のときには、椅子に座って一緒に図を見ていた。そのあと、まだ半日も経っていない。


 教官は追って状態を知らせるよう返答し、学院側でも山への経路を確認し始めた。しらほは報告が届くたびに位置と時刻を移し、古い図との対応を示した。


 夜のうちに、久那岐が人の姿を保ちにくくなったと伝えられた。

 人のいない開けた場所へ、自分で移動したという。施設側も離れたところから観察を続けた。


 白銀の体が現れたのは、そのあとだった。

 久那岐は建物を避け、尾が人のいる方へ回らないよう身を曲げた。止まるよう声をかけられると、一度は脚を止めた。


 だが、また山側へ進み始めた。


 教官が報告を読み終えた。

 しらほは頷き、図の上へ指を置いた。ここで何を感じたかを考えるより、確かめなければならないことがあった。


「最後に確認された場所を教えてください。どのくらいの速さで動いていますか」

「谷沿いを進んでいる。走ってはいない。追跡は、霊力を測りながら離れて行っている」

「人家のある道は通っていますか」

「いや。こちらの道へ出ず、斜面へ移ったそうだ」


 しらほは示された場所を見た。

 道を進む方が平らで、山へ向かうにも近い。それでも斜面を選び、建物から離れている。


「まだ、場所を選んでいらっしゃるのかもしれません」


 筆先が少し滑った。しらほは線を引き直した。

 久那岐が周囲を傷つけないように動けている間に、追いつきたかった。次に呼んだときにも、こちらを見ることができるうちに。


「私も行かせてください」


 教官が顔を上げた。


「古い地図と現在の道を照合しています。山へ向かう方向も、ご本人に確かめました。呼びかけに応じられたときの様子は、私が一番近くで見ています」

「同じように戻るとは限らない」

「はい。ですが、声をかけるなら、私にもできることがあります」


 適性の値だけでは、何を防げるか分からない。

 それでも、受け渡す力の量を伝え、久那岐が応じる速さを知っている。今の反応が、普段とどれほど違うかも比べられる。


 教官はしらほの図を見た。


「単独では行かせない。私も行く。観測を続ける者と、退路を確かめる者が必要だ」

「お願いします」

「近づくかどうかは、現地の値を見て決める。呼びかけても反応がなければ、一度距離を取れ」

「承知しました」


 しらほは必要な図を選び、器具の箱を開けた。

 数値を測れる範囲と、針が振り切れた場合に見るものを分ける。道の分岐には、帰路に使う目印も記した。


 鞄の内側に、小説が入ったままだった。

 取り出すと、薄い紙が挟まった頁が少し開いた。今日、久那岐と読んだところだった。


 しらほは紙を奥へ挟み直し、本を棚へ置いた。

 借りたものなので、濡らしたくない。取りに戻る場所が分かるよう、表紙を上にして置く。その空いた分へ、祭祀地の図と予備の測定具を収めた。


 会うために行く。

 調査の理由をいくつ並べても、そこは消えなかった。


 もう一度、自分の声へ返事をしてほしかった。図を見て、ここは違うと言ってほしい。今日話せなかったことも、まだある。


 空が白み始める頃、山へ向かう道の直近の観測が揃った。

 久那岐は谷の奥へ進んでいる。周囲の値は乱れているが、その外側を回る経路なら、今のところ通れるという。


 しらほは教官と学院を出た。

 門を過ぎてからも、器具の値は確かめ続けた。昨日なら面会の許可を待っていた時刻へ、近づいている。


 道が開けたところで、山の尾根が見えた。

 木々の向こうに、一度だけ白銀の長い首が現れた。すぐに斜面へ隠れたが、見間違える大きさではなかった。


「久那岐様です」


 しらほは止まって位置を確かめ、図の谷筋を指した。教官が追跡の報告と照らし合わせる。


 姿の消えた方へ直進すれば近い。けれど、それでは乱れの中へ入る。

 しらほは器具を持ち直し、確かめてある外側の道へ足を向けた。返事が届くところまで行くために、まだ測るのをやめるわけにはいかなかった。


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