第12話 イベントホライズン
安井が、弁護士事務所に到着した時、
先客が背を向けて、応接室のソファーに座っているのが見えた。
「先生。安井様がご到着なさいました」
「どうぞ。おかけ下さい」
「失礼します。ん?! 」
安井が、ソファーに腰をかけようとしたその時だった。
思わず、先客の顔を見て驚いた。
「あんちゃん! 」
「元気だったか? 」
「今まで、どこで何をしていたんだい?
何故、突然、いなくなったんだい? 」
「すまなかった」
安井の兄、良武が深く頭を下げた。
「見つかって良かったですね。現在は、何をされているんですか? 」
弁護士が改まって聞いた。
「衆議院議員の角田晃一の秘書を務めています」
良武が答えた。
突然、急に表が騒がしくなった。
何者かが、事務員の静止をふり切るようにして、
応接室の中へ押しかけて来た。
「警視庁の川口と言います。角田晃一さん殺害事件のことで、
秘書の犬山左京さんに、お聞きしたいことがあります」
川口が、良武にねじり寄った。
「何かわかったのですか? わたしでお役に立てるのであれば、
何なりとお聞きください」
「ご出身は新潟県だと聞きました。大学は、東州大学でしたか?
卒論の準備の為、山梨県の富士の樹海へ
行ったことに間違えございませんね? 」
「もしかして、わたしの大学時代の友人が、疑われているのですか? 」
良武の目が一瞬泳いだ。動揺が隠し切れない様子だ。
「犬山左京って、誰の事ですか? 」
安井が身を乗り出すと聞いた。
「我々から、弟さんに真実をお知らせしてもよろしいですか? 」
川口が、良武に聞いた。
「わたしの口から伝えなければなりません」
良武が真実を話した。
大学最後の夏、オヤジから、地元へ帰るなときつく言われた。
理由は薄々感づいていた。元々、東京で働きたかったから、
就職活動は、東京やその近郊の企業を何社か受けた。
内定をもらいあとは、卒論を残すだけだった。
専攻していた地磁気学の卒論テーマに、富士の樹海を選んだ。
当時、農林水産大臣を務めていた角田顕氏が、
新潟の実家の周辺が対象になっていた
4ヘクタール超の超大規模開発事業の
政府の認可に対して、大きな役割を持っていた。
おやじも含めて、地元の人たちの半数が反対していた。
開発事業を推し進めようとする地元の不動産業者が、
地上げ屋を雇い、反対派の住民の声を封じ込めようとしていた。
卒業を待たずして、おやじが不詳死を遂げた。
当時住んでいたアパートにも、地上げ屋の下請けとも思える
反グレが押しかけて来るようになって、
わたしは逃げるように、行方をくらました。
その間、角田先生と再会を果たして、息子さんの議員秘書になった。
「角田晃一さんを殺害したのが、あなたの友人だった
福原一紀という会社経営者だったんです。あなたが先日、
発表した論文ですが、何故、このタイミングで出されたのですか? 」
川口の言葉に対して、良武が、懐から紙袋を取り出すと、
隕石をテーブルの上に置いた。
「これはたしか、オークションに出されたはずじゃないか? 」
安井が言った。
「あいつは、売っていませんでした。突然、事務所へ訪ねて来たと思ったら、
20年前の偉業を成し遂げてほしいと頭を下げられました」
「何故、角田晃一さんを殺害したのか聞いていませんか? 」
「何も聞いていません」
そのとき、隣の部屋から、
「容疑者逮捕」とのテレビリポーターの声が聞こえた。




