第5話:学園へ行くのです
穴の底で響いた“ヘブンズ・コーラス”の余韻が、まだ耳の奥に残っていた。
玉ねぎ精霊たちは静かに散り、コンダクター玉ねぎは深々とお辞儀をして消えた。
咲姫はカメラを抱えたまま、ぽてまる(巨大芋)を従えて言った。
「猫二。学園へ行くのです。玉ねぎコーラスを届けるのです」
新人が涙目で叫ぶ。
「ま、まだ目がしみてるんですけど!?学園って……あの“普通の人”がいる場所ですよね!?」
「普通……」
咲姫は少しだけ寂しそうに呟いた。
「そうなのです。だからこそ、可愛いを届けるのです」
ルネは玉ねぎドレスを抱えたまま震えていた。
「わ、わたし……まだ涙が止まらないのですぅ……でも……あの歌……すごかったのですぅ……」
ぽぷらんが元気に言う。
「よし!じゃあ行こうぜ!芋も玉ねぎも準備万端だ!」
「準備万端って何ニャ……僕はため息をついた。
うさちぁんは屋台を押しながら言う。
「はいはい~、学園出張販売~。“玉ねぎ餡子まんじゅう・学園限定パッケージ”作ったよ~」
「仕事が早いニャ!!」
学園への道のり
学園は社宅から歩いて30分ほど。ぽてまるは勝手に転がってついてくる。
新人が叫ぶ。
「なんで芋がついてくるんですか!!」
「芋は自由なのです」
咲姫が断言する。
いや、自由の定義どうなってるニャ。
ルネは玉ねぎドレスを抱えながら言う。
「わたし……学園って初めてなのですぅ……どんな場所なのですか……?」
咲姫は少しだけ目を伏せた。
「静かで……広くて……でも、少しだけ冷たいのです」
ぽぷらんが首をかしげる。
「冷たいって、空調の話?」
「違うのです。心の温度なのです」
新人が息を呑む。
僕は咲姫の横顔を見て、胸の奥が少しだけ痛くなった。
学園、到着
白い壁と整った芝生。規則正しく並ぶ校舎。風が静かに吹き抜ける。
新人が感動して言う。
「すごい……普通の学校だ……!」
「普通ニャ……」
僕は逆に不安になった。
咲姫は門の前で立ち止まり、玉ねぎをそっと抱きしめた。
「ただいまなのです」
ルネが驚く。
「咲姫さん……ここに通ってたのですか……?」
咲姫は静かに頷いた。
「でも……居場所はなかったのです」
ぽぷらんが眉をひそめる。
「なんで?」
咲姫は玉ねぎを見つめながら言った。
「可愛いが……届かなかったのです」
うさちぁんが空気を読まずに言う。
「はいはい~、じゃあまずは学園前で屋台開くね~!」
「空気読めニャ!!」
新人は震えながら言う。
「で、でも……今日はコーラスを披露するんですよね……?」
咲姫は微笑んだ。
「そうなのです。今日こそ……可愛いを届けるのです」
玉ねぎが「ぽぉん……」と優しく震えた。
その音は、学園の静かな空気を揺らした。
こうして――玉ねぎコーラスは、学園へ踏み出した。




