パンツから戦争へ
「それでは、飯困らずダンジョン20階層到達おめでとうパーティ開催やで~」
「イエーイ、おめでとー。ってなわけでいい食事出してくれよセン」
「なんで祝われる側の俺が出すんだよ全く……」
「いいじゃねえか、お前じゃなくて飯コアの方へのお祝いなんだからよ」
現在、飯困らずダンジョン20階層到達記念パーティと称して、いつものメンバーが集まって食事会を開催している。
というか、別に普段から定期的に集まって食事会はしているので、その時なにかめでたいことがあれば、それ記念と言っているだけに過ぎない。
先月は宝石ダンジョンの階層が伸びた記念と称していた。普段との違いはタニアさんの好物を多めに出すだけのことである。
「次は温泉ダンジョン20階層祝いになるだろうけど、その時は誰が何を出してくれるんですか……?」
「宝石マスターのなんぞ微妙なメシか、ウチの故郷の辛い郷土料理でよければなんぼでも出したるけどな」
「微妙なメシとカ言わないデくださイ……、紅茶とお酒くらいならお出ししますヨ」
そういって、糸ダンジョンマスターと宝石ダンジョンマスターが笑う。
実際問題、古い時代の人間が作り出せる食事の大半は、味よりも保存を念頭に置いた食事であり
「美食」を大量に作り出せるのは飽食の時代を生きてきた俺しかいないのだ。
「じゃあ、今日はちょっと豪勢なバイキング形式でいくか。好き放題に飲み食いしていってくれ」
そう言って俺は、ちょっとお高いリゾートホテルのバイキング会場を作り出す。
普段バイキング形式の会場を取り出す時は、ファミレスの朝食バイキングを出しているのだが。今回はまっとうに祝うのにふさわしい20階層到達記念なので、寿司やステーキなども食べられるワンランク高価なバイキングを作り出す。
完全再現出来ているなら各種カクテルなども飲み放題のハズなのだが、俺が当時そのあたりの酒に手を付けていなかったせいか、そのあたりは飲んだ経験のあるビールやワインくらいしか置かれていない。
「おお、なんか今回は見たことない知らない料理がいっぱいだな! ほんとに豪勢だなセン」
ブグくんがとりどりの料理に驚きを見せている、なにしろ大きな節目があるまでみんなには隠していた豪勢なバイキングだからな。
これ以上豪勢な食事は、俺の記憶では超豪華客船に仕事絡みで乗り込んだときのパーティくらいしか残ってない。
それらは世界最大のダンジョンになった記念が来る時まで取っておくつもりである。
まあ……この高級ホテルのバイキングと何が違うのかと言われたら、トリュフだのフォアグラだのフカヒレだのキャビアだの、美味いのかなんなのかよくわからないけどお高い食材が増える程度で、そんなに大きい差は感じないけどな!
「ああああ~~、20階層だよ~~私も超大型ダンジョンの仲間入りだよ~~嬉しい~~嬉しい~~」
ペタちゃんは20階層になって以降、ずっと感極まっていて料理どころではなさそうなので、こういった時は俺がバイキングを用意するのはちょうどいいのかも知れない。
高級バイキングはステーキやら豪勢な中華料理やらは概ね好評だが、海鮮料理はシルクさんと宝石マスターには生魚という部分に禁忌を感じるのかゲテモノを見るような目で見られて全然好評じゃなかった。
普段から食べさせているペタちゃんと、ブグくんやタニアさんは生魚を食べるのは危険だという固定観念が念頭にないので何の問題もなく食べていた。
「生の魚美味いニャ」
黒猫の糸コアも生の刺身は普通に食べる。というか味付けされた普段の料理より美味しそうに食べている、まさに猫である。
「ブグサン、銀装飾ナイフの評判はいかほドでしたかネ?」
「ああ、上々だよ。浅い階層に来る駆け出し冒険者の人数があきらかに増えたからね」
「装飾ナイフ?」
「ここに来るポイントは武具コアに払って貰ってる代わりによ、マスターに武具の装飾をするよう頼まれてるのさ」
どうやらブグくんは宝石ダンジョンをここに呼び出すポイントを、意味もなく奢ってあげているわけではなかったようだ。
今もなお、こうやって人脈を広げつつ、淡々と自分のダンジョンの改良を続けている。やはり世界最大のダンジョンなだけなことはあってブグくんは老獪だよな。
「ふぅん、マーポンウェアからの要望書からも何か読み取って、ダンジョンを改良したりはしているのかい? ブグくん」
「うーん、あれなぁ。何の武具が不人気で、何が人気なのかくらいは読み取れたから、一応参考にはしてるんだけどさぁ。
人気だからって、じゃあいっぱい出しますって単純に応えてやるのは愚策じゃん? だから結局あんまり要望には応えようがないっていうか……」
「だな。人気だからこそある程度出し渋って、長期的に軍隊に滞在してもらわないといけない場面もあるからな」
そんな事を話していたら、シルクさんとタニアさんが、えっ!? って顔をした。
2人は普通に人気の品がいっぱい出るようにでもしていたのだろうか、あとで修正しておこうといった顔になっている。
そんなこんなで、和気あいあいと食事会は進んだ。
「ああ、そうやセンはん。ちょいと小耳に挟んだんやけど、ドルピンス王国がセパンス王国に攻め込むちゅう計画があるみたいやで」
食事も終わりに近づいてきた頃にシルクさんがとんでもないことを言った。
ぶっ。
俺は食っていた寿司を盛大に吹き出した。
「汚いな、何してんだよ。
まあ、セパンスみたいなさほどデカくない国に、飯困らずや温泉といった有益なダンジョンが出来たらそりゃ攻めるよな、当たり前だよ」
「むしろ遅かったくらいやあらへん? 慎重な前国王が亡くなるまでは動けんかっただけかもしれんな」
「おいおい! ブグくんもシルクさんも、なんかこう普通の日常の世間話のように話しているけどな、侵略だぞ!?」
「侵略やな。で、どうなんセパンス王国の状況は? ちゃんと防衛できそうなん?」
「出来なきゃ出来ないで、もっと強い国にダンジョンを支配されるだけだから便利だよ? 昔、マーポンウェアに侵略された国のダンジョンは軒並み数階層は成長したから、どのコアも喜んでたしな」
ええ……。
ブグくんはともかく、シルクさんも侵略に対する認識が現代日本人と違いすぎて調子が狂うな。
そんな、台風が来そうやけど準備はできとる? くらいのニュアンスで言われても……。
「宝石マスターさんはどう思うんですか?」
「負ければ支配されル、興味はありマセんガ、当然のことデすよネ」
紅茶を飲みながら、さも当然のように宝石マスターは答えた。
はいはい、植民地を作りまくりの、太陽の沈まぬ帝国様に同意を求めたのが間違っていました。
どうやらこのメンバーの中で侵略戦争に禁忌感があるのは俺だけらしい。
まあ、戦国時代の日本人に聞いても似たような回答が返ってくるだろうから、そのあたりは時代の違いで仕方がないのか。
「なんやろな、たぶんやけど結構前にセンはんに見せてもらったパンツが原因やったかもしれんなぁ……」
「パンツ????」
「センはんが前の世界で普段着てた服みせてぇなってウチが頼んで、一般的な服を何着かもろうたことあるやろ?
で、センはんの時代の服のパンツの中、なんや、びよんびよん伸び縮みする変な素材が入っとるやん?」
……ゴムのことか?
「あの奇妙な伸縮性をそなえた強靭な糸を作って出してみたんやけどな、多分あの糸で作った弓が強すぎたからこれはいけるとか考えたんちゃうの。
ウチとしては、コルセットとかに使ってくれるかなぁとか思っとったんやけど」
「マーポンウェアがやたらと乱暴になってたのも赤の剣が集まり始めた時期だからね、いい武器ができるとだいたいどこもそうなるもんだよ」
そう言って2人が飯をつまみながら談笑してるが、あるある話をしているみたいに呑気にしゃべってるんじゃないよ全く。
パンツをシルクさんに渡しただけで、強力な兵器が完成して戦争の原因になるとかどこの誰が考えるってんだよ。
気軽にこっちの製品をみんなに渡すのは危険なんだなぁ……。
「で、セパンス王国は大丈夫そうなんか?」
「その弓の射程……シルクさんわかりますか?」
「んー、それほど正確には知らへんねんけど、一方的な距離から攻撃し続けられる程度にはなっとるハズやで」
「つまり相手の倍、高く見積もって3倍程度の射程から撃てる新型の弓からの一方的な遠距離射撃、それがドルピンス王国の勝算ですか……。
うーん、その程度だったら、たぶん大丈夫そうですね……」
「ほう?」
シルクさんが意外そうな声で答える。
シルクさんにとってセパンス王国の印象は、美容の温泉が湧く食料豊富な国といった程度だろう。
仮に温泉で強化された兵士がいるという情報までは入っていたとしても、蒸気機関の兵器の情報はさすがにまだ入っていないはずだ。
「むしろ止めてあげないと、逆にドルピンス王国の方があっさり潰される可能性がありますよ」
「マジか!?
いや、別に治める国が変わったところで、ウチらダンジョンにはさほど影響はあらへんからそれは構わんのやけどな。
お互いダンジョン探索出来んくなるほど疲弊されるんが一番困るから、やるにしてもやられるにしても一方的なほうがまだええわ。
でも食料と美容の温泉やろ? それでどうやって性能が違う弓と戦う気なんや?」
……本当になぁ。
一体何がどうなってアウフちゃんは蒸気機関兵器の開発にまで至ったんだろうな。
「このタイ、塩で包んでオーブンで焼いてるのかな? 塩気の移り具合がいい感じね、後で作ってみよっと」
ペタちゃんはペタちゃんで侵略なんかより、料理を食べて再現することのほうが大事らしい。
ダンジョンコアにとって国が侵略されるのは、ミツバチの巣の中身が別のミツバチの群れに入れ替わる程度の話であって、蜜が集まることに変わりはない。
セパンス王国とドルピンス王国、勝った方がダンジョン探索を継続してくれるだけであり、実質何の変化もないのである。
ま、数年後の話ならともかく、すぐに来るようだったら俺たちダンジョンにできることは何もないけどさ……。
セパンス王国応援派の俺だって、アウフちゃんやトウジ隊長やユーザ陛下が何とかしてくれることを期待するくらいしかないわけだ。
「う~ん、でも一応、何かしてあげられないかな」
それでもまあ、何かしら戦いのお手伝いになりそうなことは考えて実装しておくことにしよう。







