新しい武器
武器を壊して帰ってきた男性第1部隊に、温泉ダンジョンの修復の湯で再生した虹の鉱石ハンマーを手渡し。
それからさらに数日ほどたった頃。
トウジ隊長たち女騎士第1部隊は、新しく作られたという新型の虹の鉱石ハンマーの性能を確認するべく武器工場に集まっていた。
「この新型の虹の鉱石ハンマーの先端は虹の鉱石、本体は鉄ダンジョンで新しく採れはじめた、硬くしなやかで頑丈な金属。
最も壊れやすい柄の根本部分は、衝撃が分散するように計算して設計し直した。
そして、この武器の最大の特徴は、ハンマーの中央に空洞が設けられており、中に小さな虹の鉱石を詰めたことじゃ」
兵器開発担当のモロク老人から新しい虹の鉱石ハンマーを渡されたトウジ隊長は、ハンマーの中でカタカタと重たいオモリが動く奇妙な感覚に困惑する。
そして、武具ダンジョン産の恐ろしく強固なのだが、無駄に重たくて大きく使い勝手の悪い不人気防具「鈍重の盾」を、25階層のモンスターに見立てて、そのハンマーを振り下ろした。
結果、鈍重の盾は見事にひしゃげて潰れた。
その凄まじい威力と感触に、トウジ隊長は驚愕の表情になる。
「ひゅー、すげえっすねトウジ隊長。あの重くて硬いだけの鈍重の盾があっさりと潰れましたよ。これなら25階層のモンスターも一撃なんじゃないですか?」
「……おい、ユネブ。お前もこの武器使ってみろ。……すごいぞ」
「ん? 武器がですか?」
ユネブ副隊長や、周りの隊員も新しいハンマーで鈍重の盾を叩く。
叩くたびに、なんだこれ? すっげえ! ……気持ち悪い。といった感想が第1部隊の面々から漏れ出す。
叩きつけた時に、本来あるべき反動が返ってこないからだ。
「どうじゃ!? 弾き返される反動を中の重りで相殺することで、打ち付ける衝撃を無駄なく伝えることができるのじゃ。
ただ威力が上がっただけではないぞ! 反動が減ったことにより武器や人体にかかる負荷も大幅に軽減し、武器の耐久性は桁違いに跳ね上がるはずじゃ!」
言われてみれば、通常ならば痺れるような手の感覚に耐えねばならないが、その負荷もあまり感じていない。
武器にも負荷軽減が反映されているのか、あんなにみんなで代わる代わるガンガンと打ち付けたにも関わらず、柄には全く歪んだ様子もない。
この武器ならば、長い間壊れることなくダンジョンの深い階層で戦い続けられるかもしれない。
それはつまり、25階層や26階層も長い期間探索できるようになるということだ。
うおおおおおおおお!!! 先生すげえ! モロク先生すげえ! と、第1部隊のテンションがマックスになり、大盛り上がりとなる。
「ほっほっほ、この武器が作れたのはそなたたちの人間離れした膂力あってこそじゃよ。
昔から構想だけはできておったのだが、重量がかさんでまともに使えるような武器になるとは思っておらんかったからのう。
それでは、この武器が量産できたら鉄ダンジョンにいるヒトウ隊長たちに届けてやってもらえるかの」
「あ……。はい……」
トウジ隊長たちの上がりきったテンションが一気に地の底まで下がる。
結局この武器を使えるのは、鉄ダンジョンにいるヒトウ隊長たちなのである。
まだ20階層に満たない温泉ダンジョンや飯困らずダンジョンでは威力が過剰であり、重たいだけで何の意味もない武器なのだ。
自分たちが鉄か糸か武具ダンジョンに行きたいですと言った所で、医療の湯の運び出しや、そこに入る貴族の護衛をした方が国益に適うため許可が下りるはずもない。
今のお湯の運び出し業務からは逃げられないのだ。
「そう気落ちしなさるな、このようなもの、既存のハンマーをただ改良しただけにすぎぬ。これからの戦いを根底から変える新型武器が近いうちに完成する予定じゃぞ!」
「……それも完成したらヒトウたちに届けに行くだけなのでしょう?」
一瞬、喜びそうな顔になったトウジ隊長が険しい顔で言い返す。
「たしかにそれは否定せぬが、今作っておる武器は温泉ダンジョンや飯困らずダンジョンでも十分使えるぞ!
その武器を作るために、そなた達の筋力を一度詳しく測定させてもらえるかのう?」
「はいっ!!!」
モロク先生の素晴らしい技術力を目の当たりにした第1部隊は、素直に筋力測定に応じた。
長さや重さが違う金属の棒を何度も振って、その振れる速度や、今の筋力で正確に扱える重量や長さをひたすら詳しく検証された。
温泉ダンジョンでも使える武器でありながら、深層でも通用するとは、いったいいかなる武器なのか。
トウジ隊長のワクワク感がどんどん膨れ上がっていく。
「ふむ、凄まじい結果じゃな……。この膂力ならば確実に低階層から26階層のモンスターを蹂躙して回れる武器が完成するであろう!」
「い、いつ頃その武器は完成する予定でしょうか?」
ワクワク顔が止められないトウジ隊長がそう質問する。
「うむ、試作品程度の品であれば明日には完成しておると思うぞ」
明日!?
これからの戦いを根底から変えると言い放つような武器がたった1日で??
明日また来るがよい、と言われその場は解散となったが、そんなことが可能だというのだろうか? トウジ隊長にはとても信じられなかった。
しかし、先ほどの反動のないハンマーのような魔法のような武器を作り上げるようなお方である。
もしかしたら本当にすごい、想像もできないような武器を作ってくれるかもしれない。
その夜、トウジ隊長は結婚前夜の可憐な少女のごとく、期待と不安が渦巻く興奮で寝付けない夜を過ごした。
そして翌日、大急ぎで胸躍らせながら武器工場に駆けつけたトウジ隊長の目に飛び込んできたものは、でっかいスプーンだった。
巨大な怪物が岩を食べるのに使うのかと思わんばかりの、意味のわからない太さのスプーン。
他には、水をまくにはあまりに無骨で巨大な、全体が太い鋼で作られている柄杓の化物のような物体がそこにあった。
「あのぅ……、モロク先生? なんでしょうかこれは?」
「人力の投石機じゃよ! こいつを使って虹の鉱石を投げつけるのじゃ!」
数百年前くらいに活躍してた兵器じゃないか! と、トウジ隊長は心のなかでツッコミを入れた。
「古代の兵器じゃないですか!?」
心の中だけではなく、口からもツッコミが漏れ出てしまった。
「言いたいことはわかるぞ。わかるが現在手に入る素材と、そなた達の常識を超えた怪力を組み合わせると、こいつが最適解に舞い戻るんじゃよ、ほっほっほ」
先生曰く、糸ダンジョンの糸を使って、まともな人間には引っ張れないような強度の弓を作っても。
温泉ダンジョンで鍛え込んだ肉体でぶっ放す、この原始的な投石機のほうが威力も飛距離も上だという。
実際にこの武器を使って虹の鉱石をぶん投げると、手で投げるよりも格段に強い威力で放つことが出来た。
この威力なら、25階層のモンスターも遠くから数発で倒せてしまうだろう。
しかも、石を投げているだけなのだから、武器が壊れてしまう心配も限りなく低い。
うん、強い。たしかに強い……。強いんだけど……だけど。
なんだか思ってたんと違う……。
そうトウジ隊長は思わざるを得なかった。
前に鉄ダンジョンで戦っていた時の、ドロップ品の鉄を投げつけて敵を倒していた頃の様子が脳裏に蘇る。
これではあの時の投石するだけの原始人に、ちょっとした道具が加わってパワーアップしただけではないか!
「温泉ダンジョンや飯困らずでは手で投げるだけでも十分でしょう? 虹の鉱石も過剰ですよ」
「練習じゃよ練習。虹の鉱石の重さを扱った命中率を普段から鍛えておらぬと、いざ深層で使う時に真価を発揮できぬじゃろ?」
……なるほど。練習か。
トウジ隊長の目に、少しやる気が出てきた。
上手に当てる練習だと考えれば、普段なら殴り飛ばして済ませるだけの低階層のモンスターでさえも十分な練習相手になりうる。
そう考えると、弱いモンスターをなるべくラクに倒せるよう手を抜いて対応してきたことを心の中で恥じた。
「なるほど、仰るとおりです。……しばらく練習させてもらってもよいですか?」
「当然じゃ、長さや形状も自分に合うものを探るとよいぞ」
第1部隊の面々は、各自スプーン型の投石武器を使い、遠くの的に虹の鉱石を投げつける練習を始める。
虹の鉱石自体は、武器を壊して戻ってきた男性第1部隊の連中がそこそこまとまった数を持って帰ってきているので困ることはない。
数百メートル離れた場所に生えた大木に、一斉に虹の鉱石を打ち込むと、大木はまたたく間にボコボコに凹み、無惨にへし折れる。
遠くの壁に設置された的に一斉に打ち込むと、的もろとも壁が粉々に砕け散っていく。
その様子は投石の練習などという生易しいものではなく、大砲の発射実験さながらの様子であった。
その練習の様子を見ていたモロクは思う。
「……怖いのう。機動力のある蒸気の投石機みたいな集団じゃのう……。こやつらが敵じゃなくてよかったわい」
砦に取り付けた蒸気の投石機程度で、こいつらを食い止められるのかと考えると正直自信が持てず、モロクは少し身震いした。







