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分離

コミカライズ4話も更新中


https://manga.nicovideo.jp/comic/77245?track=official_list_l1

「いやあ、タニアさんってば、ずいぶん困った人だなぁ」


 みんなが帰ったあとで、タニアさんの痴態を思い起こしてニヤニヤしていると。

「ニヤついた顔で言うのはやめて」と、ペタちゃんに怒られる。

 全く……最近のペタちゃんはエッチなハプニングを無知スルーしてくれないから困る。


「それにしてもみんな、人間とどうやって交渉するかは難航してそうだね」


「ふっふっふ、私たちは直接会話できる方法があるのが確定したからね~。ここからどうするのマスター?」


「何もしないよ」


「……なんでよ!?」


「基本的に最新階層の最深部まで来れる人間以外と会話しても、状況がカオスになるだけで何の意味もないからね。

 交渉するにしても、秘密を守れそうなトウジ隊長かヴィヒタさんが最深部に来た時にするべきだね」


「むううう~、それでも、何かこう今すぐ交渉でバーンと状況を良くする方法ってないの?」


「無駄に交渉しても、交渉できるという事が話題になって。ブグくんやシルクさんがどうやってやったんだって聞きに来るだけじゃない?」


「うえ。めんどくさ」


「慌てなくても、蒸気機関の開発が進めばダンジョンポイントは大量に手に入るようになるって。今は慌てずにじっくり待つ段階だよ」


「うう~~、20階層! 20階層の超大型ダンジョンに早くなりたいよ~~」


 俺は気長に構えるつもりだが。

 ペタちゃんはとにかく早く20階層まで発展したい欲がうずうずと加速して待ちきれないようである。

 ある程度ダンジョンコアとの融合が濃くなった俺もその気持ちは少しわかるのだが。

 それでも、今はゆったりと構えている方が後々有利になりそうなのでここはのんびりしておく。

 どうせ19階層の医療の湯だけでも20階層は確実に達成できるし。

 目先の20階層より、ブグくんの27階層超えの方が俺の目標だからな。


「そんなことより20階層で取り出すべき、斬新なダンジョン食は思いついた?」


「医療の湯と同じで、若返りの温泉水の運び込みで人は来てくれるんじゃないの?」


「温泉水の運び出しに頼ってないで、ちゃんと飯困らずダンジョンならではのモノも出さないとダメだよ」


 正直なところ酒やカレー以降、食材だけでこれ以上の評判を得ることは不可能だ。

 だいたいあれは、そのうち地上の文明が発展すればどちらも自力で作り出してしまうだろう。

 差別化をするには何かしらダンジョンの魔法パワーを込める必要があるのだが、ペタちゃんのダンジョンは食べればパワーアップできる食事が出るといった奇跡の効果が起こせるコンセプトではない。

 だから、溶けない氷とか、振っても炭酸が抜けないビール缶といった、ちょっと物理法則に反する程度の作用しか起こせない。

 溶けない氷以降、ず~~っと気の利いたアイデアが出てこないままズルズルと時間だけがたっている。

 なのでペタちゃんが人間と交渉したくなっているのもわかるのだ。

 正直なところ俺もいいアイデアが思いつかないので、何を出すのがいいんですかねえと、アウフちゃんに直接伺いたいくらいだ。


「溶けない氷、抜けない炭酸、あとは数百度のすぐ揮発するコーヒーみたいな温度の常識無視くらいか。あのコーヒーは人間が飲んでも死ぬだけだからな……」


 初期にペタちゃんが思い付きで作り出した数百度の謎コーヒーは、いまだに気に入って飲んでいるが。

 あんなものを人間が飲んでも大やけどして死んでしまうだけだし。

 80度くらいの温度が保たれる効果にしたところで、腹の中で80度が保たれ続けたらそれも十分死ぬ気がする……。


「あのコーヒー飲む? マスター」


「あー、久々に飲みたいな、ちょうだい」


「はーい」


 ペタちゃんがいそいそとコーヒーを淹れ始める。

 最初から数百度のお湯でドリップするとひどい苦みが出てくるため、まともな温度の熱湯でドリップしつつ、抽出し終わったコーヒーに謎の加熱処理を加えていく。

 そうして出来たコーヒーに、ミルクと砂糖を加えて完成。

 でも、今日はなんとなくブラックが飲みたい気分だな。


「あ、ペタちゃん。今日はブラックの気分だから、ミルクと砂糖はなしでちょうだい」


「はいはーい」


 そう言うと、ペタちゃんはすでにミルクと砂糖が混ざりこんだコーヒーから、ミルクと砂糖をこともなげに分離させてブラックコーヒーを俺に渡してくる。

 ずいぶん非常識な行動をあたり前のようにやってのけるものだ。

 ……そうか「分離」も飯困らずダンジョンの物理常識無視で可能な範疇か。

 これは、新しいアイデアに繋がるかもしれない!


 俺は、渡されたブラックコーヒーを口に含み、分離をテーマにした素晴らしい食材のアイデアに思いをはせる。

 揮発したコーヒーが鼻腔をくすぐり、心地の良い香りがあたりに充満する。

 その瞬間、素晴らしいアイデアが産まれて……。

 産まれてこねえ。

 分離で何か素晴らしいことができそうな気はするんだけど、特に思いつかない。

 科学者なら一瞬で何かいいこと思いつきそうな気がするんだけどな、助けてアウフちゃん。


「ねえマスター、今ふと思ったんだけど……。コーヒーに混ざったミルクや砂糖の分離って人間にはできないわよね? ……だったら」


 お、ペタちゃんも同じ発想に至っていたらしい。

 これは何か期待できるか?


「だったら、さっきみたいにミルク入りコーヒーをブラックコーヒーに戻せる調理器具を出せばウケるかしら!?」


 ウケるわけないだろ。

 やはりペタちゃんはペタちゃんか……。

 

 ん? しかし調理器具を出すってのはアリだな。

 調理器具なら飯困らずダンジョンのコンセプトから外れていないから、今の料理が大好きなペタちゃんなら、それほどコストもかからず出せるはずだ。

 温泉ダンジョンが温泉に関係あると言い張って、タオルだの石鹸だの鏡だのを出してるのと同じようなものだ。


「そんな変な調理器具を作れるの?」


 そう言うとペタちゃんは、食堂に置いてある水入れのピッチャーのようなものを取り出す。

 ペタちゃんがピッチャーにミルクコーヒーを入れてコーヒーを注ぐと、中からブラックコーヒーが出てきた。

 ブラックコーヒーを全部取り出しふたを開けると、ピッチャーの中にはミルクだけが残されている。


「ここにミルクコーヒーを入れて、注ぎ口からはブラックコーヒー以外が出てこないようにするだけじゃない?」


 するだけじゃない? じゃないよ、気軽に言ってくれるなぁ……。

 そんなもの人間の技術じゃ絶対に作れないからな?

 ……でもこれ、すごいな。

 いや、すごすぎるかもしれない。


「これって地上に持ち帰って使えるの?」


「温度を保つ氷と比べたらほとんど魔力は必要ないから、地上の瘴気量でも使えると思うけど」


「ねえペタちゃん、これ、ブラックコーヒーじゃなくてさ、水だけを取り出せるようにできる?」


「ええ? それじゃただ元に戻るだけじゃないの?」


「いいから」


 ぶつくさいいながらも、水だけが取り出せるピッチャーをペタちゃんが作り出す。

 その中にブラックコーヒーを注ぎ込んで、水を取り出すと、中にはドロドロになった異常に濃いコーヒーが残された。

 水で希釈して飲む、コーヒーポーションの出来上がりだ。

 さらに味噌汁を注ぎ込んで水を取り出すと、顆粒だしや味噌が残され。

 塩水を注ぎ込んで、水だけ取り出すと、中にはべちゃべちゃの塩だけが残される。 


「ああ~、なるほど。水だけを取り出せば、すぐに濃くできる道具としても使えるのね? いろんな食材を煮詰める時短になりそうで結構便利かも」


 まあ、ペタちゃんが言っているような使い方もできるだろうけどさ。

 これの一番やばいところは、どんな腐った泥水からでもきれいな水だけを取り出せるだろうし。

 海水からあっという間に飲料水を作れてしまうことなんだよ。

 これひとつあるだけで、山でも海でも安全な水が飲み放題というわけだ。

 こいつは地上の文明レベルが現代の領域にまで到達しても、役に立ち続けるアイテムになってくれることだろう。


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― 新着の感想 ―
しれっとやべーものを リアルの海水浄水設備の燃費の悪さ考えたら 地上で稼働できないダンジョン産アイテムって事実上存在しないんじゃね?
そういえば宝石ダンジョンの二人はどうやって冒険者達の様子を監視してるのでしょう? ブグくんは漫画、シルクさんは織物の刺繍アートですが宝石となると… 占い師みたく水晶玉に映し出してるとか? いまだ伏せて…
すごい発想! これ以上はないと思ってしまった自分を恥じるわ
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