捧げ物
流しソーメンを流す竹の水路の前に、ブグくんとタニアさんと、宝石ダンジョンマスターとシルクさんと、俺がめんつゆを持って立っている。
ペタちゃんはソーメンを鍋で茹でており。
黒猫の糸ダンジョンコアは、ソーメンを茹でているペタちゃんの近くにごろんと寝転んでいた。
「セン、あれはお前の仕業か?」
「仕業ってなんだよ、おかげって言ってくれよ?」
ブグくんがソーメンをすすりながら文句を言ってくる。
あれとは、各国がダンジョンに要望書などを含んだ捧げものをし始めた件についてだ。
どちらかというとあれはアウフちゃんの仕業と言うべきなのだが。
あの娘が、19階層の医療知識を匿名で拡散させたあげく、その知識を温泉ダンジョンに捧げたという方向性に持っていくとは俺だって思わなかったし。
確かにあの医療知識をそのまんま発表したら、セパンス王国は大いに恨まれるかもしれないとはうっすら思っていたので、あの対応は仕方がないとも思う。
しかし、その一件を元に、各国がダンジョンにお願いや捧げものをし始めるという流れになるのはさすがに予想外だった。
「いやぁ、センはんのおかげやで、おかげ! 間違いなくな! うへへ」
糸ダンジョンに製糸技術や、デザイン書や、貴族の服飾がそのまま大量に捧げられたシルクさんは逆にホクホク顔をしている。
これまで、手に入れたくても手に入れられなかった貴族たちの衣装の現物が、そっくりそのまま手に入ったのだから願ったりかなったりなのだろう。
逆にブグくんがあんまりうれしそうな顔をしていないのは、マーポンウェア王国が送り付けてきた技術書や戦争の歴史がずいぶん難解な内容で、読むのが面倒くさすぎるからだ。
しかし、その内容がこれからの武具ダンジョンの経営に有益な情報であることも理解できる。
つまり今のブグくんは、将来必ず役に立つ参考書をプレゼントに送りつけられた子供のようなありがた迷惑な心境なのだ。
俺も少し読ませてもらったが、図書館の誰も近寄らない古書の専門書コーナーに置いてあるような分厚い本だった。
わかりやすく伝えることを放棄したような、その道の専門家や知識人しか読まないような本だ。
正直、パラ見しただけでそっ閉じするような内容である。
今のところ、すぐ役に立ちそうな知識は、どの階層で出たどの武具が人気かといった情報くらいだろうか。
「全く、ダンジョンには全知全能の賢者が住んでるとでも思ってるのかあいつら? その辺の一般人が読んでわからないものはボクにもわからないよ!」
「安心しろブグくん、俺にもあれはよくわからん」
「わかれよ! 解説してくれよ!」
「贅沢デスね、ウチなんテ、捧げモノなんテ、何も送られテ来てイませんヨ? ……気づいてナイだけカモしれませンが。
後でデザイン書と服飾はワタシにモ見せてくだサイね、シルクさん」
「そんなことより、もっとソーメン流してくれよ飯コア!」
「はいはーい、次のソーメン流すよ~」
ペタちゃんが茹で上がったソーメンを上から流し始める。
常識では考えられないほど大量に流してくるが、ここに集まっているメンバーは、満腹などという概念などないため、遠慮なく取れるだけの量を取るのでこのくらいの量でちょうどいい。
むしろペタちゃんが律義に麺を鍋で茹でて、氷水で冷やしてから流すという手順を取っているから足りていないくらいである。
「ああ、美味いなぁ、麵料理はウチのいた国にもあったけどそれとは雲泥の差や」
シルクさんの時代の麺は、品種改良もされてない癖の強い小麦粉かそば粉みたいなものを、練って伸ばしただけのようなもので。
一度食べさせてもらったが、ボソボソで粉っぽく、嚙んでると口の中でぐにょぐにょした食感とえぐみが出てくるようなシロモノだった。
ハズレの店で食べるボソボソの手打ち10割そばの食感を10倍ほどひどくして、スープを塩水に変えて、えぐみを追加したような品である。
少なくとも現代人が笑顔で食べられるものではない。
「美味いけど、なんかあっさりしすぎてるんだよな、ラーメンの方がボクは好きだね」
一方、最初から俺のとりだす食材で作られた食事しか知らないブグくんは、基準が現代日本な味覚をしているので感想が贅沢である。
「うめえ、うめえ」
タニアさんは何でもかんでもうめえと言うだけなので、よくわからないな……。
「それで、人間たちが捧げものをしてくるようになったのはいいけどさ。毎回毎回どうやってそれを確認すればいいんだ?」
ブグくんがブツブツと文句を言う。
俺たちはモニターで侵入してくるお客さんの様子はリアルタイムの動画で確認できるのであまり問題はないのだが。
侵入者の様子を時々巻物や本にしてダンジョン内部の様子をうかがっているブグくんや、刺繍で侵入者の服装を確認してるシルクさんなどは捧げものに気が付かなくてもおかしくはない。
「そもそも今回、他所のダンジョンではどういう風に捧げものをされてたんだ?」
「ウチでは、ダンジョンに捧げものが吸収されるまでの間、周りでずっと太鼓みたいなものをドンドン鳴らし続けとったみたいやで。音はマスタールームまで聞こえてきいへんから、あの方法あんまり意味ないんやけどなぁ」
「じゃあ、どうやってシルクさんは気付けたんです?」
「捧げものがあります、お受け取りくださいみたいな垂れ幕を掲げてたのが刺繍に書き込まれとったからや。あれがなかったら気付けへんかったかもしれへんわ、怖い怖い」
「ボクの方は、何十年ぶりかに大軍勢が27階層に入り込んできたからかな。
とうとう27階層を本格的に再挑戦する気になったのか!? と思って楽しみにしてたら27階層の入り口付近に捧げものを置いてすぐ戻っちゃったんだよ。
26階層の方では、目立つようにかがり火をたいて、同じような品を捧げてくれてたから、人間側も気づかれるように色々工夫はしてくれてるみたいだけどね」
「かがり火もあんまり意味はないだろ? 気づいてもらえたのは運が良かっただけだな……鉄ダンジョンのオッサンとか気付けてるのか?」
「あー……、オジキは、普段からダンジョンの様子なんてほとんど見てなさそうだな……、ちょっと伝えてくるか」
ブグくんは皿にため込んだソーメンを一気に口の中に流し込むと、さっさと鉄ダンジョンと連絡を取ってそっちに行ってしまった。
こういう行動の早さは頼もしいな、ブグくんは。
「あ、おい! ブグがいなくなったらここへの接続ポイントが俺たち持ちに戻っちまうじゃねえか!」
「戻りマスか? タニアサン」
「……ええと、今の階層差だと1時間にかかるポイントは……うう、もう少し、もう少しだけ食っていこう。飯コアぁ、料理作る工程飛ばして完成品直接くれよぉ」
「やーよ、私は作るのが好きなんだもの」
次のソーメンを茹でながら、ペタちゃんが調理工程のカットを却下する。
ペタちゃんは茹で時間やお湯の温度などを調整して、どう作ればより美味しくなるのか毎回実験しているため、調理工程を飛ばすことはほとんどない。
「それにシテも人間とノ連絡デスか……私たちモ似たようナことハやりマシタよネ?」
「ああ? ああ、俺がお前の宝石を身に着けて人間の前に姿を現すアレか、やったなそんなの」
「へえ、そんな事していたんですか?」
「おう、ダンジョンの奥底までくれば、こんな宝石が手に入るぜって宣伝するためにな。これなら言葉は通じなくても効果があるだろ?」
「おお、それええアイデアやな? ウチも服を着てダンジョンを歩いてみるのもアリなんかな。でもなぁ、ファッションを冒険者や騎士に見せてもなぁ……」
たしかに、人間にしか見えない外見のシルクさんがきらびやかな服装でダンジョンを歩いても。服には注目されずに、心配されてしまう方が先かもしれない。
かといって黒猫の糸コアではその役目は果たせない。
「20階層以上になレば、出せるはずなんデスよ、地上の宝石でハ絶対に出せなイ煌めきト輝きをモッタ究極の宝石ガ」
そう言って、宝石マスターは大きな宝飾品を取り出す。
見た目はファラオとかがつけていそうな、豪華絢爛な宝飾品だが。
地球でも見たことがないような、怪しげで、蠱惑的な魔力をもった輝きを放つ宝石だった。
「うはぁ~綺麗やなぁ~、ええなぁ~、この宝石に釣り合うようなファッションが見てみたいわ~」
シルクさんは凄まじく美しい宝石を見ても、その宝石に魅了されるわけでも、自分がそれを欲しいと思うわけでもなく、それが似合うファッションを欲してしまうらしい。
「うん? じゃあ俺のこの服装にこの宝石は似合わねえってのか?」
「あ、そ、そういうわけやないんやけどな、まあ、服装はともかくタニアさんの外見と身体なら十分似おうとるで、はは」
慌てて弁明するシルクさんだが、服飾マニアなだけあって、タニアさんのラフな服装がこの豪華な宝石に似合っているとは弁明でも口にしない。
たしかにタニアさんの豊満なナイスバディ悪魔ボディと、このゴージャスな宝石は似合っているが、服装がこの宝石とはあまり似合ってないことは俺も否定しない。
「はっはっは、心配ないぜ、宝石に注目してもらうために、あの時は宝石以外のモノは身に着けずに行ったからな」
「「「 は? 」」」
俺とシルクさんと宝石マスターが同時に声を上げる。
「だってよ、あれって宝石を見てもらいたかったんだろ? じゃあほかのモノは余計じゃねえか」
「あの……具体的にどんな格好していったんです?」
そういうとタニアさんは、何の躊躇もなく全裸になり、ゴージャスな宝石を身にまとう。
宝石をジャラジャラ身に着けた、褐色爆乳全裸悪魔ボディの姿は、まさに痴女であり、もはやサキュバスにしか見えない。
隠すべきところも全然隠せていない。ありがとうございます。
「ほらな、これなら宝石以外に目を向けるところがねえわけだろ?」
いや、どうみても宝石以外のところに視線が行ってしまうのですが。
タニアさんはドヤ顔でフフンと得意げにしているが、シルクさんは完全にドン引きしており、宝石マスターも完全に固まっている。
「センはん! なにガン見してんねん。あっち向いとき!」
「宝石コア~! あんた何してんの!?」
ペタちゃんがキレて、ソーメンを茹でる手を止めてこっちに文句を言ってくる。
最近のペタちゃんは、この前に魂の融合量を増やした影響か、俺が女性の裸を見る事を少し嫌がり始めてて困る。
しかし、今は少し嫌がるどころかブチキレているので、コアの裸を見るのは人間の裸よりもペタちゃんにとって気分がよろしくないのかもしれない。
「あ~……やっぱ、鉄ダンジョンのオジキ捧げものに気付いてなかったよ……!? な、何してんだ!?」
鉄ダンジョンから戻ってきたブグくんが、色々と丸出しのタニアさんをみてギョッとなる。顔も少し赤い。
おいおい、何を意識してるんだブグくん? ダンジョンコアの感性のままならこんなもの真顔でスルー案件だろ。
あーあ……、やっぱりブグくんにも色々とよくない影響が出始めてるな、これは。
「ああ? 飯コアも武具コアも何してんだって、何がだよ。つーか飯コア、お前こそ何してんだ。もうそのソーメン茹で上がってるだろ、早く次を流してくれよ」
タニアさんは痴女そのものの格好で、周囲の反応をものともせず平気な顔をしてソーメンを催促する。
そんな騒ぎをよそに、鍋の隣で寝転んでる黒猫のコアがぼそりとつぶやいていた。
「人と人型のコアが考えてることは、よくわかんニャいニャ……」
4巻の作成作業に入ったので、しばらく更新遅れるかも







