85 虫捕撫子ー9(女神官視点)
精霊喰いの結界を発動しているのがロクサーナ嬢であるという、本人と嫡男の証言を得ることが出来たためすぐさまその報告を神殿と王家に送る。
思ったよりも早く判明したが、使用している本人たちは全く悪びれていないし隠そうともしないことに驚きを隠せない。
夫人の体調に関しては恐らく精霊喰いの結界の代償と考えられるが、他に影響が出ていないか確認をしなければいけない。
使用人に話を聞き出していくが、雇い主の事だからなのか当たり障りのない事を話されることが多かったが、アナシア様付きのメイドの1人が内密に話したいことがあると、こっそりメモを渡してきた。
他にも何人かの使用人が質問をした調査員に内密に話したいことがあるとメモを渡したそうで、屋敷に滞在する私達がそれぞれ個別に話を聞くことにした。
夜番以外の者が寝静まったころ、私にあてがわれた客室のドアをノックする音に静かにドアを開ける。
そこには何かを決意したように表情を硬くするアナシア様付きのメイドがいた。
部屋の中に招き入れると、心を落ち着かせるように言って温めたミルクをカップに入れて渡すと、メイドはそれをゆっくりと飲んで深く息を吐き出した。
「今から聞く事で貴女が不利にならないよう最大限の行動を約束させていただきます」
「ありがとうございます」
「それで、内密の話しとはなんですか?」
私が話すように水を差し向けるとメイドは一度息を吸った後に勢いよく頭を下げた。
「どうか奥様と若奥様をお助けください」
「頭を上げてください。そして、なぜそのようにおっしゃるのか詳しく話してもらえますか?」
頭を上げたメイドはぐっと唇をかみしめて、何かに耐えるように合わせて握りこんだ手がブルブルと震えている。
「奥様は病にかかったのではありません。ロクサーナお嬢様が発動した精霊喰いの結界の代償に使われたのです」
「それは何か確証があっての発言ですか?」
「ロクサーナお嬢様の魔力が減少した際、奥様に旦那様と若旦那様がおっしゃったのです。可愛い娘のために母親として出来る限りのことをするべきだと。その時奥様は精霊喰いの結界の事など知らされておりませんでしたので、母親として魔力の補充に出来る限り協力するとおっしゃいました」
「そうですか」
「その翌日です、奥様が倒れてしまわれたのは。しかもまるでその事を見越していたかのように領地から呼び寄せていた医師が奥様の診察をして、原因不明の病だと診断を下しました。奥様は、ロクサーナお嬢様の魔力補充のために、今まで以上にご自分の魔力を譲渡しなければいけないと、そうおっしゃっていたのにっ」
メイドは悔しそうに言う。
一度話し始めたら止まらなくなったのか、続きを促さなくても自分からどんどんと話をしてくれる。
「そもそも、あの医師はロクサーナお嬢様の診察をするために呼び寄せられていましたが、それだってロクサーナお嬢様のふしだらな行いを隠ぺいするために呼ばれたのです」
「ふしだらな行い?」
「若奥様の妊娠が判明したのと時を同じくして、ロクサーナお嬢様の妊娠も発覚しました。それも、領地から呼び寄せた医師による診察で発覚したのです。旦那様はロクサーナお嬢様の月の物が来ていないことと貧血気味だという事を聞いてすぐに領地にいる医師を手配したのです」
「妊娠……」
その言葉にやはり、と当たって欲しくない予感が当たるのではないかと眉をひそめてしまう。
「それは、ロクサーナ嬢が誰かに乱暴を働かれたという事ですか?」
「いいえ! ロクサーナお嬢様の身の安全はこの家の者がプライドにかけて守っておりました」
「では……」
「旦那様と若旦那様です」
「…………は?」
「3人で話があると私ども使用人を下げて、旦那様の私室で何度も3人はふしだらな行為に及んだのです!」
「そんなことが……いえ、それは確かな事なのですか?」
「寝室の片づけや3人の衣装を整えているのは私ども使用人です。奥様や若奥様にはとても報告できませんでしたし、私どもも余計なことを言えば家族ともども命はないと脅されました」
「なんてこと……」
嫡男とロクサーナ嬢の間にある空気から、もしかしたら2人の関係は義理の兄妹以上の物なのかもしれないとは思っていたが、まさか養父とまで関係を持っているなんて。
「ろ、ロクサーナ嬢は……その……、2人に無理に純潔を奪われたのではありませんか? もしくはいいように騙されているという可能性は?」
「私どもも初めはそう思っておりました。15歳になったばかりの子供をだまして誘導し、自分達の都合のいい性欲のはけ口にしているのではないかと。……けれども、違うんです。ロクサーナお嬢様は愛し合う者同士なのだから、性行為をするのは当然だと。どちらの子供でもバスキ伯爵家の血を引いているのだから、この家に歓迎される子供を作るのは、自分の役目だとそう望んでいるのです」
「それこそ、そのように2人に思考を誘導されたのではないのですか?」
「いいえ、いいえ違います。15歳になる前に家庭教師より男女の交際について、性行為も含めてその意味を家庭教師がしっかりと教えております。けれどロクサーナお嬢様は若奥様になかなか子供が出来ない事を考え、自分こそがバスキ伯爵家の後継者を産むべきなのだと思い、自ら旦那様と若旦那様を誘惑なさったのです」
「け、けれどもアナシア様は夫婦として夜の生活が続いていたからこそ妊娠なさったのですよね? ロベルト様はそれを理由に断らなかったのですか?」
「若旦那様はご結婚なさる前からロクサーナお嬢様を妹としてではなく、女性として見ていたように思えます。何度もロクサーナお嬢様に若奥様とは政略結婚で愛はないと、世界で一番愛しているのはロクサーナお嬢様だと若奥様のいないところでおっしゃっていました」
それではただの不貞を働く夫ではないか。
確かに魔力の高い子供を作るために、養子に迎えた子供との関係を一度きり愛人として迎えることはあるが、それはあくまでも妻の了承を得ての事だ。
今の話しだとアナシア様は嫡男がロクサーナ嬢に愛を囁いていたことを知らなかった。
夜の生活は問題なく行われていたから、なかなか子供が出来なくてもいずれ出来ると思っていたのだろうか。
いや、それだけではおかしなことがある。
「バスキ伯爵は、なぜロクサーナ嬢と男女の関係を持ったのですか?」
「旦那様はロクサーナお嬢様を実子よりも愛情深く育てておりました。ただ、ロクサーナお嬢様が15歳になって旦那様に若旦那様の子供を自分が産みたいと相談なさった時、それならば念のため自分とも関係を持って確実に子供がなせるようにしようと提案なさいました」
「……待ってください。貴女はその話が行われた場に居合わせたのですか?」
「はい……私は以前はロクサーナお嬢様付きのメイドでした。3人が関係を持ってロクサーナお嬢様の体調が悪くなってしばらくして奥様が倒れられてから、まるで口封じのようにアナシア様付に担当が変わったのです」
「…………念のため、というのはどういう意味だったのですか?」
「若旦那様が原因でお子が出来ない場合を考えていたのではないでしょうか」
「ロクサーナ嬢は、バスキ伯爵にその提案をされて拒否しなかったのですか?」
「なさいませんでした。むしろ愛している旦那様とも関係が持てるのなら3人で仲良くしたいと申し出たのはロクサーナお嬢様です」
あまりの内容に眩暈がしてくる。
貴族としての行動を考えて嫡男と関係を持つのは、養子を解除していない上に妻の了承を得ていないのであり得ないが、後継ぎを作らなければという焦りからだと百歩譲ることは出来ても、バスキ伯爵まで関係を持つなんて理解できない。
ロクサーナ嬢も貴族としての勉強も性行為の勉強もしているのに、養父と義兄の3人で行為を行う事を喜んで受け入れるなど、正常な思考をしているとはとてもじゃないが思えない。
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