23 薫衣草ー7
課題の研究をしていたらマダム・スカーレットが来たという知らせを受けサロンに向かう。
サロンに到着すれば既にお母様がお針子に囲まれており、仮縫いが始まっているのだと言うことが分かる。
「お待たせいたしました、お母様。マダム・スカーレット」
「いらっしゃい、ベアトリーチェ。先に始めていますわよ」
「お久しぶりですマスター。早速仮縫いを初めてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんわ」
早速お母様の隣に並ぶとドレスを脱がされていき、代わりに仮縫いのドレスを着せられていく。
「きついところや動かしにくいところはございますか? この部分は少し布地が余っておりますのでつめてしまいますね」
マダム・スカーレットがてきぱきと調整を行っていく。
「そうですわね、腕を上にあげる時に脇の部分が少し突っ張る感じがいたしますわ」
「かしこまりました、少々お待ちを…………これで如何でしょうか」
「……ええ、大丈夫ですわ。あとは、そうですわねコルセットで胸を押し上げますがこのままですと胸がこぼれてしまいませんこと?」
「サイズ表通りにお作りしましたが、コルセットを変えましたか?」
「ええ、今日つけているのは新しいコルセットですわ」
「原因はそれですね。胸を押し上げる機能が今までの物よりも優れているのでしょう。流石にこぼれるという事はないと思いますが、胸の部分に少々布を増やしましょうか」
「そうしていただけます?」
「ではこちらのレースをこのように…………これで如何でしょうか?」
「そうですわね、このぐらいなら大丈夫ですわ」
レースで胸元が先ほどより隠れたのを姿見で確認して納得すると、体のあちらこちらを動かす。
ダンスを踊る際にドレスがひきつったり布地が余ったりして見苦しくなっては困るので、ダンスの型も取ってみて調整を行っていき、ドレスのあちこちに針が刺され、布地が付け足されていく。
「ターンをした時のすその広がりをもう少し出せまして?」
「広がりですか……。うーん、これ以上となると………………そうですね、裾のレースを軽くする代わりに腰回りの刺繍トレースを増やしてバランスを取りましょうか」
「そこはお任せいたしますわ」
舞踏会当日は確実にジョセフ様と踊り注目を集めることになるので、万に一つもミスは許されない。
細部までチェックを行っていき仮縫いを終えて詳しい刺繍などの装飾の話に移っていく。
お針子たちがメモを取ったり実際に布を当てたり刺繍を少しして進めていく。
「この牡丹の刺繍が今回の我が家のお揃いのモチーフになりますのね」
「ええ、そうですわ」
お母様のドレスを見てやはり牡丹が共通のモチーフなのだと認識し、牡丹以外の刺繍の要望を出しつつ、全体の調整をする。
「マダム・スカーレット、貴女から見て納得のいく物になりそうでして?」
「もちろんでございます。ただ、このドレスに見合う髪飾りはどうなさる予定でございますか?」
「手持ちの物でもどうにかなりますが、新しいものを用意したほうがいいですわね」
「S.ピオニーに良い物があるとよいのですが」
販売している物を思い浮かべてみるが、最近デザインされたものを含め既製品の中にはないので一からデザインするか輸入して新しいものを用意するか……。
ドレスに合わせてデザインをしたほうがよさそうだな。
「新しく作らせますわ」
「さようでございましたか」
「あら、わたくしもそうしようかしら?」
「ではお揃いのものを作りましょうか、お母様」
「いいですわね」
流石に髪型は変えるが、髪飾りをお揃いにするのは家族の仲の良さを見せることが出来る。
どんなものがいいかマダム・スカーレットに伝えるとその場でデザイン画を描いてくれるので、お母様と一緒に決めていく。
子供っぽ過ぎず、尚且つ大人っぽ過ぎてもいけない。
その塩梅が難しく、お母様とあれがいいこれがいい、どこの部分を直したほうがいいそのまま別の飾りに流用したほうがいいなど真剣に話す。
髪飾りのデザインが決まると仮縫いのドレスを着たまま、それぞれの専属メイドに髪型を相談していく。
髪を全て結い上げることはせずに、ハーフアップにして編み込みにし、似たような髪飾りをつける。
「如何でしょうかお母様」
「いいですわね。ベアトリーチェの白銀の髪が良く映えていますわ。貴女の髪飾りの色は赤……はダメですわね。藍色はどうでしょう?」
「藍色ですか……それもちょっと……黒はダメでしょうか?」
「悪くはありませんわね」
有力な婚約者候補の色も問題だけど、叔父の瞳の色である藍色もちょっと避けたいところだ。
「藍色はベアトリーチェによく似合いそうですのに、あまり選びませんわよね。リゼンが良く贈ってくるのにもったいないこと」
「……叔父様にはたくさん藍色の装飾品をいただいておりますわ」
独占欲丸出しの装飾品がそれはもうたくさん贈られてくる。
全くつけないとそれはそれで問題なので、たまにつけているが、叔父が一緒に参加する社交行事にはあまりつけていきたくない。
なんと言っても叔父がそれを自慢げに周囲に言いふらすからだ。
まあ、叔父がわたくしを溺愛しているのは有名なので周囲は生暖かく見守っているのだが、わたくしとしてはあまりそう言った事を言いふらさないで欲しい。
「本当にリゼンはベアトリーチェを可愛がっていますわね。生まれた時からですからもはや呆れるのを通り越して感心してしまいますわ」
生まれた時から溺愛っていうのもなんだか怖いな。
その瞬間から女としてわたくしを見ているという事は流石に無いだろうが、そうなるといつからわたくしを女としてみるようになったのだろうか?
あくまでも悪役令嬢と脇役なのでそこのところの明言はなかったのが痛いが、3歳からあんまりにも溺愛してくる叔父に疑問を抱いて距離を置いたのに、全く変わりはしない。
叔父はわたくしの何が良くてこんなに執着するのだろうか。
ブラコンを拗らせてその娘のわたくしを溺愛するという設定だが、それだったら弟も可愛がっていなくてはおかしいのではないだろうか。
同じお父様の子供だぞ。でも弟には叔父はさして興味を示していない。
この違いは何なのだろうか。やはり性別か?
その場合、叔父は生まれた瞬間からわたくしを選んだことになるが、その決め手は?
わからない。
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