22 薫衣草ー6
「2人の衣装の仮縫いが出来上がったらわたくしも見てみたいですわ。付き添ってもよろしくて?」
「「えっ」」
「まあ、だめですの?」
何か驚かせるようなことを仕込むつもりなのだろうか?
「ダメというわけではないが、仮縫いともなると下着姿になることもあるだろう。ベアトリーチェがむしろ平気なのかい?」
なるほど、わたくしの淑女としての在り方を気にしてくれているらしい。
これが他の男性であれば遠慮するが、家族は別だ。
「家族ですもの、下着姿ぐらい平気ですわ」
「姉上が良くてもぼくは恥ずかしいかな」
「まあ! グレビールは整った体つきをしているのですから恥じることなどありませんわ。お兄様だって騎士として鍛え上げられた体ですし」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど、わたしも騎士団の訓練場やケガをした時の治療を受けるわけじゃないのに下着姿を見られるのはどうかと……」
「ですのでわたくしは気にしておりませんわ」
そもそも家族の下着姿で騒いでいるようでは前世で家政婦など出来やしない。
誰が雇い主の下着を洗っていたと思っているのだ。
こちらの世界に転生してからだって、最近はなくなったが子供のころは一緒にお風呂にだって入ったことがある。
それに比べたら下着姿ぐらいどうという事はないじゃないか。
「……諦めようグレビール。こういう態度をとるときのベアトリーチェはこちらの言い分を聞かない」
「そうですね兄上。お風呂の二の舞です」
「あらっ、2人はわたくしとお風呂に入るのが嫌でしたの?」
「子供の時は別に構わなかったですよっ」
「そうだな、子供の時ならな」
「子供の時しか一緒に入っていないではありませんか」
2人とも成人すれば子ども扱いじゃなくなるのだからと、どちらかが15歳になると断られるようになってしまった。
確かにそう言われると反論できないため頷くしかなかったが、わたくしからしたらどうということないのに、なんだか子供が親の手を離れて行くような寂しい気分になったものだ。
「二次性徴を迎えたら敏感になってもらいたかった」
「月の物の時は遠慮しておりましたわよ?」
「「それが逆にだよ(ですよ)」」
……年頃の男の子って本当に難しいな。
わたくしとしては気を使っているつもりなのだけれどもそれが逆にダメなのか。
「でしたら、毎日一緒に入浴でしたらよかったのでしょうか?」
「ベアトリーチェ、そう言う問題でもないから」
「姉上、少しはご自分を大事にしてください」
「大事にしていますわよ?」
悪役令嬢になりたくないとか、ものすごく大事にしていると思う。
それさえ乗り切れば王太子の婚約者という面倒ごとは待っているかもしれないが、むごい未来は避けられる。
いや、王太子妃の仕事の一つが世継ぎを産むことだけど、少なくとも望まない妊娠は避けられるだろう。むしろそれが一番重要な事の気がしてくる。
やはり重要なのはわたくしが悪役令嬢にならないかつ、悪役令嬢になった子を全力で救い出すことだと確信して朝食を終えると、そのまま部屋に戻って魔術学院で出た課題を終わらせる。
1年のころは実技も多かったが2年になると魔術理論の課題が多くなってくる。
特に高位貴族ともなれば新しい魔術の習得も出来なければいけないという義務もあり、誰もが真剣に取り組まなければいけない課題だ。
己の魔術陣にいかに情報量を多くし、魔術の発動のコストを抑えるかが鍵となるこの課題は実際に魔術の訓練を行いながらするのだが、通常は部屋の中で行うべきものではない。
外で行い実技を交えて行ったほうが実際にはいいのだが、わたくしの場合は精霊魔法があるため疑似空間を作り上げそこで魔術陣を顕現させる。
自室で小さな魔術陣をいくつも同時に顕現させる。
一般的に魔術陣は一度につき1つ、体を包み込むほどの大きさと言われているが、それはあくまでも一般論だ。
わたくしが研究しているのはこのように小さな魔術陣を複数顕現させ、それぞれから魔術を繰り出すこと。
小さな魔術陣になればその分書き込める情報量も少なくなってしまいがちで魔術の威力が下がってしまう。
わたくしの研究ではそこに属性を固定することで情報量を抑え、威力を引き上げることが出来ないかというものを試しているのだ。
課題のレポートをいったん書き終えると早速実際に試してみようと周囲に小さな魔術陣を10個ほど顕現させる。
「……これは失敗ですわね」
レポートに仕上げた物よりも書き込める情報量が少ないため、想定より威力が少ないだろう。
魔術陣を消してもう一度頭の中で整頓してから魔術陣を顕現させる。
今度は情報量的には問題ないが大きさが先ほどの3倍ほどになってしまった。
なかなかうまくいかないものだ。
何が問題なのだろうか……属性を決定する方向性は間違っていないはずなのでもっと削れる情報があるはずなのだ。
どうしたものだろうか。
魔術師団に相談すればなにか解決策があるかもしれないが、そうなると確実に総帥である叔父に話がいってしまうに違いない。
学生の課題に魔術師団の総帥が手を貸すなどとんでもない話だ。
以前もこうした研究が叔父にばれてしまい、魔術師団に被害が出たことがある。
わたくしの研究を手伝おうと魔術師を派遣したのはいいのだが、その魔術師に叔父は契約魔術を結ばせ、どんなことをしてもわたくしの研究を完成させようとした。
もちろん当時のわたくしは未熟で研究内容自体がお粗末で、たとえ魔術師団の優秀な人材をもってしても実現不可能な魔術を目指していた。
いやね、せっかくファンタジーの世界に転生出来たのだから色々したくなったのだ。
その結果があんな惨事……一人の優秀な魔術師の死をもって終わるとは思わなかっただけであり、むしろそこまで話が大きくなるとは思ってもいなかった。
あれ以降叔父に魔術関連で何かがばれることを極端に恐れるようになったわたくしは、こうして自分の部屋でこっそりと研究をするようになった。
おかげで精霊魔法による空間関与の能力は飛躍的に向上した。
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