5-13
その日、レオニスは書庫から必要な資料を持ち出し、第三室へ戻る途中だった。
廊下の先にある休憩室から、聞き慣れた声がする。
「で、どうよ。レオニスの指導は」
ラザだった。
レオニスは思わず足を緩めた。
「ああ、ローゼンフェルト補佐ですか?」
答えたのは、ノエルの声だった。
「そうそう。あいつ、厳しいだろ」
……あの男。
レオニスは内心で眉をひそめた。
部下にわざわざそんなことを尋ねて、何を聞き出そうというのか。
もっとも、ラザが言ったことは間違っていない。厳しく指導している自覚もある。
ノエルには、少々難しい課題をあえて与えることも多かった。
理解できていなければ何度でもやり直させたし、曖昧な答えで済ませようとすれば、その場で指摘した。本人からすれば、不満の一つや二つあって当然だろう。
とはいえ、そういう話はもっと人目のないところでしたまえよ。
そう思いながら、さっさとその場を離れようとしたところで、ノエルが答えた。
「厳しいというより、すごく丁寧ですよね」
……何?
思わず、その場で足が止まった。
「丁寧?」
ラザも聞き返している。
「はい」
ノエルは何でもないことのように答えた。
「教えていただく時も、どこがわかっていないのか、きちんと確認してくださいますし。質問すれば、理解できるまで説明してくださるので」
「細けぇからな。でも、結構容赦ねえだろ。わからねえと何度でもやり直しさせるし」
「それは、僕が理解できていないからですよね?」
あまりにあっさりとした返事だった。
「ローゼンフェルト補佐から教わったところは、実際に仕事で使うことばかりですから。曖昧なままにしておいたら、後で困るのは僕です」
「お前、嫌になんねえの?」
ラザの声には、どこか答えがわかっているような、笑いを含んだ響きがあった。
「え、何がですか?」
「毎日あれだけ細かく言われてりゃ、少しくらい思うところもあるもんだろ」
「うーん……」
ノエルが少し考えるように言葉を切ったところで、なるほどなと思った。
彼は人が良い。それは関わっていればすぐわかる。そんなノエルが無意識に不満を溜め込まないように、あえて掘り下げているのだろう。
ラザはノエルにとって上司だが、旧知の相手でもある。こうして本音を吐き出せる場を作るのは悪いことではない。
相手がラザであることには、何か余計なことまで吹き込みそうという点で、少々思うところがあるが。
「手間を取らせて申し訳ないな、とは思います」
「へぇ」
「自分なりに努力は怠らないつもりでいますけど……それでもユーリスと比べたら、どうしても覚えるのに時間がかかってしまうので」
その言葉を聞いて、レオニスは僅かに眉を寄せた。
やはり、能力の差は自覚しているのだ。
ならば、その差に苦しんでいないはずがない。
そう考えたところで、ノエルが続けた。
「でも、それは仕方がないですね」
「ふ……」
あまりにあっさりした言葉に、レオニスは一瞬、息を止めた。
そんなレオニスをよそに、ラザが小さく笑った声がする。
「なので補佐に対しては、感謝しかないです。根気強く向き合ってくださるので」
「なるほどな」
「それに、悪意を感じたこともありません」
ようやく息を吐けたと思ったら、また理解できない言葉が聞こえてくる。
「悪意?」
「はい。もちろん、叱られる時は叱られますよ。でも、それは僕が何か間違えた時です」
ノエルの声は、相変わらず穏やかだった。
「厳しく言われたからといって、僕のことを嫌っていらっしゃるわけではないと思うんです。少なくとも、初めてお会いした時から、補佐には一度もそういう目で見られたことはありませんから」
……目?
レオニスは瞬きをした。
そんなことを、考えたこともなかった。
指導する際の言葉には気を配っていた。
必要な説明を省かず、理解できているかどうかも確かめてきた。
しかし、自分がどんな目でノエルを見ていたかなど、意識したことはない。
「お前、相変わらずよく見てんなぁ」
「そうでしょうか?」
「その辺の鋭さはエドリック譲りか」
ラザが可笑しそうに笑った。
「でもよ、採用された経緯を考えりゃ、あいつがお前に厳しいのも、それなりに理由があると思わねえ?」
レオニスの眉がぴくりと動いた。
そこまで聞くのか。
ノエルがどの程度事情を知っているのか、レオニスにはわからなかった。
だが、祖父からの依頼によって特別に採用枠が設けられたことくらいは、本人も知っているのだろう。
「ええ。ですから、なおさら凄いなと思います」
「……凄い?」
「はい。だって、僕の採用に納得していらっしゃらなくても、全然おかしくありませんよね」
やはり、声は穏やかだった。
「実際、僕には第三室へ配属されるほどの魔術的な才能があるわけではありませんし。それなのに、突然採用が決まって、教育まで任されることになったんですから」
レオニスは何も言えなかった。
本人が、そこまで理解していたとは思わなかった。
「正直、悪く思われても仕方がないと思うんです」
「ほう」
「でも、補佐はそうなさらないでしょう?」
ノエルは当然のことのように言った。
「僕の採用についてどう思っていらっしゃるかと、実際に仕事を教えることは、きちんと分けて考えてくださっています」
「……」
「相手が誰であっても、ご自分のお仕事を疎かになさらない。まだ知り合って間もないですが――」
一拍置いて、ノエルが続けた。
「高潔な方ですよね。上位貴族の方って、僕は個別に接することほとんどないんですけど、皆さんああなんでしょうか」
……。
レオニスは、その場で固まった。
高潔。
誰が? 私が?
あれほど縁故採用に反対し、能力不足を懸念し、本人に厳しい課題を与えてきたというのに。
もちろん、故意に苦しめようとしたことはない。
だが、そこまで立派な動機で接していたかと問われれば、素直に頷く気にはなれなかった。
厳しくしていたのは、必要だと思ったからだ。
何より、才能の差というものが、どれほど残酷になり得るかを知っていた。
それだけの話だ。
「……ぶはっ!」
突然、ラザが吹き出した。
「ははっ! 高潔! お前、あいつのこと高潔って!」
「え? そう思いませんか?」
「いや、思う思う。すげぇ思う。……くくっ、あー、腹いてぇ」
何がそんなに可笑しいのか、小一時間問い詰めてやりたいが、今ここで姿を見せるわけにもいかない。
そもそも、他人の会話をここまで聞いてしまったこと自体、褒められたものではなかった。
これに関してだけは、間違いなく高潔とは言い難い。
「そんなに笑うことですか?」
「くくっ……いや、お前、やっぱいい感覚してるわ」
「……?」
「はー……悪い悪い。で? 教育係に不満はねえ、と」
「はい。僕としては、これ以上ないくらい丁寧に教えていただいていると思っています」
ノエルはそう答えたあと、ふと思い出したように続けた。
「ただ、一つだけ気になっていることがあって」
「お?」
「僕の教育係を任されたことで、補佐のご負担が大きくなっていないか、ということです」
レオニスはまたしても言葉を失った。
「僕の理解が遅い分、どうしても時間を取っていただくことになりますから。元々お忙しい方なのに、仕事を増やしてしまっているのではないかと」
「それはまあ、多少はあるだろうな」
「ですよねえ……」
ノエルが、初めて気がかりそうに小さく息をつく。
それから、いつもと変わらない穏やかな口調で言った。
「もし補佐から、僕の教育係を降りたいとご相談があったら、ちゃんと所長が責任を取ってくださいね」
「……は?」
「採用を決めたのは所長でしょう? そもそも僕、実はちょっと怒ってます」
「なんでだよ」
「お祖父様のお願い。多分、頼まれたからってだけじゃなくて、所長なりに僕を採ってもいいと思ってくれた理由があったから、受けてくれたんだろうなって思ってます」
「そりゃあそうだ」
「でも、その理由の半分くらいは『面白そう』ですよね?」
鋭いな。
しかし、どうだろうね。七割くらいはその理由が占めてる気がするが。
「九割くらいはそれだな」
アルヴェイン君はその男を今すぐ殴っていい。司法は任せろ、私がなんとかしよう。
ラザのあんまりな返答にそろそろ堪忍袋の緒が切れそうなレオニスをよそに、ノエルは困ったような、それでいてどこかのんびりした声で小さく笑った。
「でしたらなおさら。僕がここにいるのは九割が所長のわがままなんですから、補佐に負担がかかり過ぎないようにするのは、所長の責任だと思います」
一瞬、ラザが黙った。
「……くっ」
堪えきれなかったように、笑い声が漏れる。
「ははっ! なるほどなあ、俺に責任取らせようってか」
「間違ったことは言っていないと思いますけど」
「いや、言ってねえよ! 言ってねえけどさあ!」
何かを叩く音がする。
ラザはひとしきり笑ってから、ようやく息を整えた。
「……はあ。お前がレオニスに懐いてんのは、よーくわかった」
「わっ、ちょ!」
どうやら、ラザがノエルの頭を撫で回しているらしい。
「ちょ、ちょっと、髪がぐしゃぐしゃに……!」
「ははは! いやあ、お前採ってやっぱ正解だったわ! 既に面白いもんな〜」
「もう、何なんですか……」
呆れたようなノエルの声が聞こえる。
その声に、レオニスはようやく我に返った。
……まったく。
何という会話だ。
あれほど厳しく指導してきた相手から、まさかそんな評価を受けているとは。
しかも、本人は少しも特別なことを言ったつもりがないらしい。
レオニスは手元の資料へ視線を落とした。
少なくとも、嫌われてはいないようだ。
それは、悪いことではない。
悪いことではないが。
「……高潔、ね」
小さく呟き、思わず眉間を押さえる。
何とも居心地が悪い。
本人のいないところで褒められることが、これほど気恥ずかしいものだとは思わなかった。
それに、ノエルが自分の指導をどう受け止めているのかも、少しわかった気がした。
厳しい指導を受けても、才能の差を目の当たりにしても、あの青年はひどく自然体だ。
他人と比べて落ち込むよりも、今の自分にできることを考えている。
その姿勢が、そして精神構造が、レオニスにはまだよく理解できなかった。
だが。
騎士団との一件以来、少しずつ変わり始めていたノエルへの評価が、また一つ動いたような気がした。
……いや。
だからといって、指導を甘くする理由にはならない。
レオニスは小さく咳払いをした。
高潔だの丁寧だのと評されたからといって、調子に乗ってはならない。
ましてや、あの男に笑われるなど御免だ。
ほだされてなるものか。
レオニスはそう心に決めると、手元の資料を抱え直し、静かにその場を離れた。
◇ ◇ ◇
「……ふ」
レオニスは、思わず小さく笑った。
今になって思い出しても、何とも据わりの悪いの悪い出来事だった。
自分が高潔などと評されたことも、ラザに散々笑われたことも。
あの頃の自分は、ノエルをどこか自分に似た人間だと思っていた。
魔術的な才能に突出したものがない。
周囲には、遥かに優れた能力を持つ者がいる。
その環境で仕事を続けるには、人一倍努力しなければならない。
だからこそ、必要な技術を身につけさせなければと思っていた。
だが、ノエルは自分が考えていたようには傷つかなかった。
魔術の理解に時間がかかることを申し訳なく思ってはいても、身近にある才能を羨んで卑屈になるようなことはなかった。
できないことは教わる。
できることは、自分でやる。
困っている相手がいれば、手を貸す。
ただ、それだけだ。
ユーリスが難しい術式をあっさり理解すれば、素直に感心する。
リディアの解析能力を目の当たりにすれば、嬉しそうに褒める。
ラザが新しい魔術を組み上げれば、目を輝かせて話を聞く。
そこに、卑屈さはなかった。
もちろん、ノエルだって失敗すれば悔しがるし、できないことが続けば落ち込む時もある。
それでも、他人が優れていることを、自分の価値が低い理由にはしていなかった。
レオニスは、その違いについて考えた。
自分も、他人の才能を認めることはできる。
実際、ラザの能力を否定したことなど一度もないし、ユーリスの優秀さも高く評価している。
しかし、認めることと、羨ましく思わないことは別だった。
優秀な人間が目の前に現れれば、その能力に感心すると同時に、自分にはそれができないと考えてしまう。
そして、その考えは時として、自分の足りないところを数える作業へ変わっていく。
ノエルには、そういうところがない。
少なくとも、レオニスの知る限りでは。
あの青年は、自分より優れた相手が何をできるのかを知ること自体が、楽しそうだった。
「……不思議なものだね」
レオニスは小さく呟いた。
ノエルには、ラザのような術式の発想力はない。
ユーリスのように、難解な理論をあっさり理解することもできない。
しかし、あの青年にできて、彼らには難しいことがある。
騎士団との訓練区画を巡る一件が、そうだった。
そして、昨夜の管理室でも。
職員たちの立場や事情を聞き、対立しているように見える人間たちの間から、共通する目的を見つけ出す。
相手の言葉だけでなく、その背後にある事情まで考え、必要なことを整理する。
それは、誰にでもできることではない。
だからこそ、昨夜はノエルへ仕事を任せたのだ。
その判断に、迷いなどなかった。
ノエルが魔術師として突出した才能を持たないことは知っている。
それでも、第三室に必要な人材だと認めている。
そして昨夜、自分はその能力を頼った。
適任だと思ったから、仕事を任せた。
そこには、同情も妥協もない。
ノエルの能力を正しく評価した結果だった。
「……そうか」
レオニスは、ふと気づいた。
あの頃から、答えはすぐ近くにあったのだ。
ノエルが魔術を得意としていないことと、彼に優れた能力があることは、何も矛盾しない。
自分はそのことを、とっくに理解していた。
魔術師の集まる第三室でさえ、それ以外の能力が必要とされることはある。
そして、違う能力を持つ人間がいるからこそ、解決できる問題もある。
そんなことは、今さら教わるまでもない。
これまでの仕事の中で、何度も経験してきたことだ。
それなのに。
どうして、自分自身については同じように考えられなかったのだろう。
レオニスは、窓の外へ目を向けた。
昨夜、自分が照明の術式を修正した時。
その仕事は、自分が適任だと思ったから引き受けた。
そして、実際に結果を出した。
ラザが中枢を修正したのは、ラザが適任だったからだ。
自分には、あの発想がなかった。
その事実は変わらない。
しかし、だからといって、自分が行った仕事の価値まで変わるわけではない。
ノエルがユーリスほど魔術に長けていなくても、管理室で果たした役割が失われないのと同じだ。
あまりにも当たり前の話だった。
「何とも、情けない話だね」
レオニスは苦笑した。
他人の能力なら、正しく評価できる。
必要な場面で誰に何を任せるべきか、普段から考えている。
それが所長補佐の仕事だからだ。
だが、自分のこととなると、途端に視野が狭くなる。
自分にはできなかったこと。
他人にはできたこと。
そうしたものばかりが目について、できたことまで見失ってしまう。
ラザが言っていたのは、そういうことなのだろう。
『お前は才能とやらを神聖視しすぎだ』
レオニスは、今度こそ落ち着いてその言葉を思い返した。
才能は、確かに重要だ。
優れた能力を持つ人間が、そうでない人間にはできないことを成し遂げる。
それは、間違いなく価値のあることだ。
だが、才能は一つではない。
そもそも、どの能力が重要になるかは、その時の状況によっても変わる。
魔術の才能が必要な場面もあれば、別の能力が求められる場面もある。
そして、どれほど優れた才能を持つ人間でも、すべてのことを一人でできるわけではない。
ラザでさえ、普段から仕事の大半をレオニスへ任せている。
……いや。
あの男の場合は、もう少し自分で仕事をするべきだと思うが。
それはまた、別の問題だ。
レオニスは小さく息を吐いた。
他人と比べることが、悪いわけではない。
優れた者から学ぶことも、自分の不足を認めることも、必要なことだ。
そうやって、自分は今まで努力を重ねてきた。
それを間違いだったと思う必要はない。
これからも学び続けるつもりだ。
ラザの術式を見て悔しいと思うことも、きっとあるだろう。
ユーリスの理解の早さに感心しながら、同時に羨ましく感じることもあるかもしれない。
そんな感情まで、簡単に変わるとは思わない。
だが、それだけを見ていては、自分にできることまで見落としてしまう。
昨夜の自分が、まさにそうだった。
「まったく……」
レオニスは、再び眼鏡を外した。
こんな単純なことを、わざわざ一晩かけて考え直すとは。
しかも、そのきっかけが所長への八つ当たりだったというのだから、救いようがない。
明日、ラザに何を言われるか。
考えるだけで、少しばかり気が重かった。
しかし、どう謝るべきかは、もうわかっている。
昨夜、ラザが自分の努力を否定していないことは、わかっていた。
それなのに、才能への羨望を理由に、その言葉を受け止めようとしなかった。
自分の感情が正しいと証明するために、相手の言葉まで曲げて受け取ってしまった。
あの男が、これ以上話しても仕方がないと判断したのも無理はない。
「……申し訳ないことをした」
レオニスは、今度ははっきりと口にした。
ラザが怒っていないからといって、何もなかったことにはできない。
明日、きちんと謝ろう。
そのうえで、改めて話をすればいい。
才能とは何か。
自分にとって、それは長い間、追い求めるものだった。
今でも、憧れが消えたわけではない。
ラザのような発想力が欲しいと思うし、ユーリスのような理解力を羨ましく思うこともある。
その気持ちは、これからも変わらないだろう。
だが。
才能は、それほど重要なものなのか。
重要だ。
けれど、それだけがすべてではない。
少なくとも、昨夜の第三室が証明したのは、そういうことだった。
レオニスは、机の上に置かれた杯を手に取った。
水はすっかり冷たくなっている。
それを飲み干し、立ち上がった。
窓の外は、まだ暗い。
しかし、遠くの空には、ほんの僅かに夜明けの気配が見え始めていた。
随分と長い時間、考え込んでいたらしい。
昔から、理解するまでに何度も考え直すことは珍しくなかった。
一度でわからなければ、もう一度。
それでもわからなければ、違う角度から。
何度でも考え、調べ、試す。
そうして、ようやく自分のものにしてきた。
今回も、きっと同じなのだろう。
頭ではわかっていたはずのことを、自分自身の問題として理解するまでに、これほど時間がかかった。
だが、時間がかかったからといって、何も得られなかったわけではない。
レオニスは、ようやく寝台へ向かった。
明日は、まずラザに謝罪しよう。
それから、途中になっている報告書を仕上げる。
必要なら、あの回路についても詳しく教わればいい。
できなかったことがあるなら、できるようになるまで学ぶ。
自分がこれまで続けてきたことを、今さら変える必要はない。
ただし。
できたことまで、なかったことにしないように。
「……少しは、学習したつもりだったのだがね」
独り言を零し、レオニスは明かりを落とした。
窓の外には、夜明け前の静けさが広がっている。
結局、今夜も随分と遅くなってしまった。
明日の仕事に差し支えないよう、少しでも眠らなければ。
そう思いながら、目を閉じる。
不思議と、先ほどまでの苛立ちはもうなかった。
代わりに残っているのは、少々の悔しさと、明日への気まずさ。
そして、どこか懐かしい、いつもの感覚だった。
まだ、足りないところはある。
ならば、また学べばいい。
それだけのことだ。




