5-8
「……なるほど。照明の術式そのものに、明らかな破損は見つかっていないのですね」
「うん。供給側も正常らしいんだけど、魔力の流れが時々弱くなるみたいなんだ」
ノエルの説明を聞き終えたリディアは、制御盤へ目を向けた。
「記録をお借りしてもよろしいでしょうか」
「もちろん」
ノエルが記録簿を渡すと、リディアはまず、異常が観測された時刻を順に確認し始めた。
それから制御盤の前へ移動し、術式を慎重に観察する。
淡く光る魔力の線が、幾重にも重なっていた。
「……少し、解析してみます」
リディアが術式を展開した。
制御盤の上に新たな魔力の線が浮かび、既存の術式に沿ってゆっくりと広がっていく。
直接手を加えるのではなく、流れている魔力の状態を読み取るための解析術式だ。
ノエルは彼女の邪魔にならないよう、少し後ろへ下がった。
管理室の職員たちも、固唾を呑んで見守っている。
しばらくすると、リディアが小さく眉を寄せた。
「……やはり、変ですね」
「何かわかった?」
「はい。魔力が弱まる間隔に、規則性があります」
リディアは記録簿を開き、いくつかの時刻を指した。
「最初の変動から次の変動までは、比較的長い間隔がありました。ですが、その次は少し短くなっています。そして、さらにその次は……」
「ああ、確かに」
ノエルは示された記録を覗き込んだ。
言われてみれば、異常が観測される間隔が徐々に短くなっている。
「しかも、魔力の減少幅も僅かずつ大きくなっています。このまま同じ傾向が続くとすると……」
リディアは制御盤へ視線を戻した。
指先で解析術式の一部を操作し、幾つかの値を確かめる。
「照明の維持が難しくなるのは、およそ一時間後だと思われます」
「一時間……」
年配の職員が呟いた。
「そんなに早く?」
「もちろん、現在の変動が続いた場合の予測です。途中で状態が変われば、前後する可能性はあります」
リディアは落ち着いて答えた。
「ただ、少なくとも現状のままで夜会の終了まで維持できるとは考えにくいです」
管理室に重い沈黙が落ちた。
ノエルも記録簿へ目を落とす。
一時間。
十分な時間があるとは言えないが、今すぐ照明が落ちるわけでもない。
レオニスへ状況を報告し、対応を考える猶予はある。
「リディアさん、他の設備への影響はどうかな?」
「今、そちらも確認しています」
彼女は再び解析術式を操作した。
「照明と同じ魔力供給系統に接続されている設備を、順番に調べていますが……」
そこで、リディアの手が止まった。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「室温管理の術式にも、同じような変動が見られます」
「室温管理?」
ノエルが問い返すと、管理室の職員の一人が慌てて制御盤へ近づいた。
「そんなはずは……! そちらの監視値は正常だったはずです!」
「通常の監視値では、まだ異常として検出されない程度の変動なんです。でも、こちらを見てください」
リディアは解析結果の一部を示した。
照明とは別の術式に、細かな魔力の乱れが現れている。
「今の室温は正常に保たれています。ただ、魔力の流れが一定の間隔で弱まっていて……しかも、こちらの方が減少の進み方が速いです」
リディアは記録と解析結果を照らし合わせた。
その表情が、少しずつ厳しくなっていく。
「……二十分ほどです」
「え?」
「このままでは、室温管理の術式が二十分ほどで維持できなくなる可能性があります」
今度こそ、管理室がざわめいた。
「二十分だって?」
「そんな、照明より早いじゃないか!」
「室温管理まで止まったら、会場はどうなるんだ?」
「落ち着け、照明よりは止まったとしても多少は間が持つ!」
「だが、何とかしなければ……!」
職員たちが口々に話し始める。
先ほどようやく落ち着いた室内に、再び焦りが広がっていくのがわかった。
ノエルは制御盤へ目を向けた。
照明だけではなかった。
しかも、室温管理の方が先に停止する可能性がある。
それなら、優先順位は変わってくる。
「リディアさん。室温管理の術式は、空間制御を応用したものだったよね?」
「はい。室内の熱の移動を制御して、温度を一定に保つ仕組みです」
「ならそれはユーリスに見てもらおう」
「はい、ヴァレンベルク先輩でしたら、私よりもずっと専門的な対応ができると思います」
ノエルは頷いた。
空間魔術を得意とするユーリスなら、少なくとも自分たちより正確に状態を判断できるはずだ。
それに、今は原因を突き止めるよりも、二十分後に止まりかねない設備を維持することが先決だった。
「じゃあ、最優先は室温。照明については、レオニス先輩にも報告しないと」
「はい。ただ、ノエル先輩」
リディアが少し躊躇うように声をかけた。
「もう一つ、気になるところがあります」
「もう一つ?」
「はい。照明と室温管理の両方を調べていて見つけたんですが……」
彼女は制御盤の中央付近を指した。
そこには複数の術式へ魔力を分配するための、複雑な接続部分があった。
「ここです。術式同士の間に、何か……本来とは違う魔力の流れができています」
「違う魔力の流れ?」
「はい。ただ、どういう仕組みで発生しているのか、私にはわからなくて」
リディアは解析術式の表示を切り替えた。
細い魔力の線が、複数の術式の間を横切るように伸びている。
それは照明の術式でも、室温管理の術式でもなかった。
「何か別の術式が紛れ込んでいるということですか?」
職員の一人が尋ねた。
「いえ、それもまだ判断できません。独立した術式のようには見えないんです。ですが、既存の接続部分とも一致しません」
リディアは困ったように眉を寄せた。
「すみません。これ以上は、今すぐには解析できそうにありません」
「ううん、十分だよ。ありがとう」
ノエルはそう答え、改めて制御盤を見た。
原因不明の異常。
照明は一時間ほど。
室温管理は二十分ほど。
そして、その二つ以外にも何かが起きている可能性がある。
今までより状況は複雑になったが、少なくとも何を優先すべきかは明確になった。
「皆さん、少しよろしいでしょうか」
ノエルが声をかけると、職員たちがこちらを向いた。
「まず、室温管理の対応を優先します。僕が今から、空間魔術を専門とする魔術師を呼んできます」
「ですが、照明の方は……」
「そちらもローゼンフェルト補佐へ報告します。今はまだ照明に一時間ほど猶予がありますから、先に室温管理が止まるのを防ぎたいです」
年配の職員が頷いた。
「……そうだな。まずは時間のない方からだ」
「はい。それから、原因のわからない魔力の流れについても、必ず伝えます。皆さんは他の管理業務を引き続きお願いします」
ノエルはリディアへ向き直った。
「リディアさん、申し訳ないけど、もう少しここで解析を続けてもらえるかな。特に、他の設備にも同じような異常がないかを確認してほしい」
「はい。お任せください」
リディアは迷いなく頷いた。
その様子を見て、ノエルも少し安心した。
管理室の職員たちも、先ほどより落ち着きを取り戻している。
やるべきことが決まれば、皆、それぞれの仕事へ戻れるのだろう。
「では、行ってきます」
ノエルは一礼し、管理室を出た。
廊下には、遠くから微かに楽団の音楽が聞こえていた。
会場の人々は、まだ何も知らずに夜会を楽しんでいるはずだ。
できれば、そのまま楽しんでいてほしい。
そう思いながら、ノエルは広間へ向かって歩き出した。
◇ ◇ ◇
広間へ戻ると、華やかな音楽と人々の話し声が再び耳に飛び込んできた。
先ほどと変わらない光景だった。
招待客たちは思い思いに会話を楽しみ、給仕たちは飲み物を載せた盆を手に、人々の間を静かに行き来している。
見上げた天井には、柔らかな光を放つ魔術の灯りが並んでいた。どれも普段と変わらず輝いており、今にも消えそうな様子はない。
室温についても同じだ。広間は快適に保たれていて、二十分ほどでその状態が崩れるかもしれないとは、とても思えなかった。
だからこそ、今のうちに対応しなければならない。
ノエルは足を止めず、周囲へ目を向けた。
まずはユーリスだ。
ヴァレンベルク家の一員として参加している以上、どこかで挨拶をしているだろう。先ほど別れた壁際にはもういないが、あの銀髪なら人混みの中でも比較的見つけやすい。
そう考えて探し始めると、幸い、それほど時間はかからなかった。
広間の奥、数人の招待客が集まる一角にユーリスの姿があった。
年配の男性と、その傍らに立つ夫人らしき女性を相手に話している。相変わらず姿勢は端正で、表情にも乱れはない。
ノエルは少し離れたところで足を止めた。
さて、どうしよう。
急ぎの用件とはいえ、相手のいる会話へ突然割り込むわけにはいかない。かといって、いつ終わるかわからない話を待っている余裕もなかった。
何か失礼にならない呼び出し方はないだろうか。
「……」
そう考えたところで、一瞬だけ目が合った。
ユーリスは何事もなかったように目の前の男性へ向き直り、二言三言、何かを告げる。
男性が頷いた。
そうして丁寧に一礼し、自然な足取りでこちらへ向かってきた。
「ノエル」
「ごめん、お話し中に」
「構わない。どうした?」
いつもと変わらない声だったが、ユーリスは周囲に聞こえない程度まで近づいてきた。
どうやら、ただ挨拶に来たわけではないと察しているらしい。
ノエルも少し声を落とした。
「実は、会場の室温管理の術式に異常が見つかったんだ」
ユーリスの目が僅かに細められた。
「室温管理?」
「うん。今は正常に動いているんだけど、このままだと二十分ほどで維持できなくなる可能性があるらしい。リディアさんが解析してくれたんだけど、僕たちだとすぐに修正できそうになくて」
「場所は管理室だな」
「うん、リディアさんと担当の方たちが待ってる」
「わかった。すぐ向かう」
返答に迷いはなかった。
ノエルは思わず安堵する。
「ありがとう。急にごめんね」
「問題ない。他には?」
「照明にも異常が出てる。そっちはあと一時間くらい持ちそうだけど、原因がまだわかってないんだ。それから、複数の術式の間に妙な魔力の流れが見つかっていて……」
「なるほど」
ユーリスは短く頷いた。
「まずは室温管理の方を確認する。残りも対応出来るかは見ておく」
「うん、お願い」
「お前は?」
「レオニス先輩に報告してくるよ」
「そうか。なら、後は任せた」
ユーリスは軽く頷くと、そのまま広間の出口へ向かった。
近くにいた数人が、早足で歩いていく彼へ目を向けたが、誰も呼び止めなかった。
ノエルはその背中を見送る。
状況を聞いて、必要なことだけを確かめ、すぐに動く。
こういう時、冷静なユーリスは本当に頼りになる。
ノエル自身も、のんびりしている場合ではなかった。
次はレオニスだ。
先ほど別れた時には、まだ何人か挨拶をしなければならない相手がいると言っていた。
おそらく、今も広間のどこかで話をしているだろう。
ノエルは再び人々の間を歩き始めた。
見覚えのある金髪を探しながら進むと、先ほどとは別の場所で、レオニスの姿を見つけた。
ただし、その周囲には数人の貴族が集まっている。
しかも、中心にいる男性には見覚えがあった。
確か、侯爵家の当主だったはずだ。
ノエルは思わず足を緩めた。
レオニスは相変わらず穏やかな表情で応対している。
何か話題が出るたびに適切な言葉を返し、周囲の者たちもそれに満足しているようだった。
先ほどのように、こちらの姿を見つけて抜け出してくれれば一番いい。
しかし、今度の相手は侯爵だ。
いかにローゼンフェルト家とはいえ、相手の立場を考えれば、会話を切り上げるにもそれなりの配慮が必要になる。
そもそも、先ほど一度、仕事を理由に席を外しているのだ。
何度も同じことを繰り返すのは、あまりよい印象を与えないだろう。
どうしたものか。
もちろん、異常を放置するわけにはいかない。
けれど、この場で「術式に異常が起きています」と口にするのも避けたい。必要以上に騒ぎになれば、不安を呼び夜会そのものに影響が出てしまう。
ノエルは近くの侍従を探そうと、辺りを見回した。
「……アルヴェイン殿、でしたかな」
不意に、背後から声がかかった。
振り返ると、そこには一人の男性が立っていた。
長く淡い金髪に、どこか儚さを感じる顔立ち。
年齢はレオニスより幾分上だろうか。上質な礼装を隙なく着こなし、穏やかな笑みを浮かべている。ノエルはすぐに思い当たった。
名門貴族ローゼンフェルト家の嫡子。
キース・ローゼンフェルト。
以前、宮廷でレオニスに部下として紹介され、一度だけ挨拶を交わしたことがある。
「ローゼンフェルト様。ご無沙汰しております」
ノエルは丁寧に礼を取った。
「お久しぶりです。弟がいつも世話になっているようですね」
「いえ。こちらこそ、補佐には日頃から大変お世話になっております」
「そうですか」
男性は軽く頷くと、ノエルが見ていた方へ目を向けた。
そこには今も、侯爵たちと会話を続けるレオニスがいる。
「弟に何かご用ですか?」
ノエルは僅かに迷った。
相手はレオニスの兄とはいえ、仕事上の事情をどこまで話してよいものか。
しかし、わざわざ声をかけてくれたのだから、曖昧に誤魔化すのも失礼だろう。
「はい。宮廷魔法局の業務について、少々ご報告したいことがございまして」
「急ぎの用件でしょうか」
「……できれば、早めにお伝えしたいと考えております」
男性はノエルの返答を聞くと、それ以上は尋ねなかった。
「では、私が代わりましょう」
「え?」
「ちょうど私も、あちらの方々にご挨拶をしようと思っていたところです」
そう言って、柔らかく笑う。
「少々お待ちください」
「あ、ありがとうございます」
ノエルが礼を取ると、男性はそのままレオニスたちの方へ歩いていった。
その姿を見送る。
歩き方も、周囲へ向ける視線も、どこかレオニスに似ている。
ただ、纏っている雰囲気は少し違った。
レオニスが一つひとつの振る舞いを正確に積み重ねているように見えるのに対し、キースの方は、その場にいること自体がごく自然に感じられる。
ノエルがそんなことを考えている間に、会話の輪へ加わっていた。
侯爵が何かを言い、キースが笑顔で応じる。
レオニスも話に加わっていたが、やがて兄へ一度視線を向けると、何かを短く告げた。
兄が頷く。
それだけで、会話の中心が自然と移っていった。
レオニスは周囲へ丁寧に一礼し、輪から離れる。
あまりに滑らかな流れで、ノエルは状況を一瞬忘れて感心してしまった。
兄弟揃って、本当に社交がお上手だ。
そう思っていると、レオニスがこちらへ歩いてきた。
「やあ、アルヴェイン君。待たせてしまったね」
「いえ。お忙しいところ申し訳ありません」
「構わないよ。兄が声をかけてくれて助かった」
レオニスはそう言って、軽く振り返った。
兄は既に侯爵たちとの会話を続けており、こちらを気にする様子もない。
「さて」
レオニスはノエルへ目を戻した。
「何か報告があるのだろう?」
「はい。少々、急ぎの内容でして」
「そうか。では、場所を変えよう」
言葉を交わす間にも、レオニスの表情は穏やかなままだった。
ノエルもそれに合わせて一礼し、二人で広間を離れる。
先ほどと同じように、廊下へ出て人の少ない場所まで歩いたところで、レオニスが足を止めた。
「それで、どうだった?」
「……思っていたより、少し状況が悪いようです」
ノエルは管理室で聞いた内容を、順番に説明した。
照明の魔力の流れが不安定になっていること。
魔力の供給そのものにも、術式の構造にも、明らかな問題が見つかっていないこと。
そして、リディアが記録と術式を解析した結果、照明は約一時間後に維持できなくなる可能性があること。
「一時間か」
レオニスが小さく呟く。
「はい。ただ、現在の変動が続いた場合の予測ですので、前後する可能性はあります」
「それはそうだろうね。続けたまえ」
「それから、照明以外にも異常が見つかりました」
レオニスの眉が僅かに動いた。
「他にも?」
「はい。室温管理の術式にも同じような変動が起きています。しかも、そちらの方が進行が速くて……このままだと、約二十分後には維持できなくなるそうです」
「室温管理……」
レオニスは考え込むように視線を落とした。
「そちらは空間制御を応用した術式だったね」
「はい。ですので、先ほどユーリスを呼びました。すでに管理室へ向かっています」
「適切な判断だ。彼なら対応できる可能性が高い。リディア君は?」
「管理室に残って、他の設備への影響がないか調べてもらっています。解析と記録の整理をお願いしました」
「なるほど」
レオニスは腕を組んだ。
「よく整理されている。管理室の担当者たちは、君が到着した時点で対応を始めていたのかね?」
「いえ。皆さんも異常には気づいていたんですが、原因がわからず、対応方針が決まらない状態でした。リディアさんが来てくれたおかげで、かなり状況が整理できたんです」
「そうか」
レオニスは短く答えた。
それから、ノエルへ視線を戻す。
「それで、他には?」
「……実は、もう一つあります」
「聞こう」
「リディアさんが解析中に、原因のわからない魔力の流れを見つけたんです」
レオニスの表情が変わった。
「わからない?」
「はい。照明と室温管理、それぞれの術式を調べていたところ、複数の術式の間に、既存の接続とは一致しない魔力の流れができていたそうです」
「独立した術式ではないと?」
「リディアさんによれば、そうは見えないとのことでした。ただ、どのような仕組みで発生しているのかは、まだわからないそうです」
レオニスは黙った。
その目が、ゆっくりと細められる。
ノエルは少し待った。
レオニスが何かを考えている時は、必要以上に言葉を重ねない方がよい。
やがて、レオニスが口を開いた。
「……照明と室温管理は、それぞれ独立した制御術式だ。だが、魔力の供給系統は一部を共有している」
「はい」
「その間に、設計上存在しない流れができているというのなら、単純な術式の破損ではない可能性があるね」
「そうなのでしょうか」
「まだ断定はできない。人為的か、自然発生か……実際に見なければ何とも言えないが……」
レオニスはそこで言葉を切った。
少し離れた広間から、楽団の音楽が聞こえてくる。
その華やかな音とは対照的に、レオニスの表情は厳しかった。
「まず、私も管理室へ向かおう」
「よろしいのですか? まだご挨拶が残っていると……」
「状況が変わったからね。照明だけならともかく、他の設備にも影響が出ているとなれば、悠長なことは言っていられない」
そう答えると、レオニスはすぐに歩き出しかけた。
しかし、二歩ほど進んだところで足を止める。
「……いや、待ちたまえ」
ノエルも立ち止まった。
「どうしました?」
「ノエル君。もう一つ、頼まれてほしい」
「はい。何でしょう」
「所長を探して、管理室へ連れてきてくれたまえ」
「所長を、ですか?」
「ああ」
レオニスは頷いた。
「照明の術式だけなら、私にも対応できるだろう。だが、原因不明の魔力の流れについては話が別だ」
そこで、僅かに眉を寄せる。
「複数の術式に跨がる異常となると、実物を見てもすぐに原因が特定できるとは限らない。私一人で対処できると考えるのは、少々楽観的すぎる」
ノエルは頷いた。
レオニスほどの人物が、そこまで慎重に考えている。それだけ、今回の異常は複雑なのだろう。
「わかりました。では、所長を探してきます」
「頼んだよ。見つけたら、照明と室温管理の両方に異常が出ていること、それから原因不明の魔力の流れがあることを伝えてくれたまえ」
「はい」
「私は先に現場で状況を確認する。何かわかれば、そちらで対応を進めておこう」
「承知しました」
レオニスは頷くと、今度こそ管理室の方へ歩き始めた。
その背中を見送ってから、ノエルは広間へと向き直る。
さて、今度はラザを探さなくては。
先ほど話した時には、まだ挨拶回りが随分残っている様子だった。
今もどこかで、面倒くさそうな顔をしながら社交をこなしているのだろうか。
できれば、すぐに見つかるといいのだけれど。
ノエルはそう思いながら、再び華やかな会場へ戻っていった。




