5-3
王宮を出たノエルは馬車へ乗り込み、しばらく揺られる。
窓の外へ流れていく王都の景色は、ザーレンとはまるで違っていた。
大通りには何台もの馬車が行き交い、店先には人が集まり、建物の間を縫うように行商人や使用人たちが忙しなく歩いている。
王女の帰国を控えているためか、通りのところどころには王家の紋章をあしらった旗や飾りも見えた。明日の夜会へ直接招かれていない人々にとっても、他国へ嫁いだ王女が一時帰国するという話は十分な話題なのだろう。
およそ一か月半。
それほど長い期間でもないはずなのに、ザーレンの静かな村で過ごしていたせいか、王都の人の多さが以前よりも強く感じられる。
大通りの喧騒が遠ざかり、代わりに高い塀と整えられた庭園を備えた屋敷が増えていく。見慣れた角を二つ曲がると、ほどなくしてアルヴェイン家の紋章を掲げた門が見えてきた。
生まれ育った家へ戻るのも、久しぶりになる。
馬車が玄関前に止まると、扉の向こうから数人の使用人が出迎えに現れた。その中には幼い頃から世話になっている顔もあり、ノエルは馬車を降りながら軽く会釈する。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、ノエル様。お荷物をお預かりいたします」
「ありがとうございます。お願いします」
荷物を渡していると、玄関の奥から聞き慣れた声がした。
「まあ、ノエル。早かったのね」
顔を上げると、淡い色のドレスをまとった女性が、ゆったりとした足取りでこちらへ向かってくる。
エレノア・アルヴェイン。ノエルの母だった。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
エレノアは嬉しそうに微笑むと、ノエルの両腕へそっと手を添えた。
「ザーレンはもう随分寒いと聞いたけれど、元気そうでよかったわ」
「あちらはもう雪が積もっています」
「まあ、素敵ねえ」
ノエルとエレノアが笑っていると、その後ろから落ち着いた声がした。
「エレノア、玄関先で話していることもないだろう。ノエルも落ち着けないよ」
声の主は、彼女の夫であり、ノエルの父。アルヴェイン家の現当主でもあるエドリック・アルヴェインだった。
端正な顔立ちに、きっちりと整えられた衣服。立ち居振る舞いに無駄がなく、視線を向けるだけでも相手を静かに観察していることが伝わってくる。
ノエルは父を見ていると、少しだけユーリスを思い出す。なんとなく二人は雰囲気が似ているのだ。
「ただいま戻りました、父上」
「ああ。おかえり、ノエル」
エドリックは息子を一度見渡してから、表情を僅かに緩めた。
「例の移動扉は問題なく動いたのか?」
「はい。驚くほど滑らかでした。王宮側の記録も確認しましたが、特に異常はありません」
「それなら結構だ」
エドリックが頷いたところで、隣のエレノアが楽しそうに口を挟んだ。
「でも、扉を通るだけで王宮へ戻れるなんて便利だわ。実用化はそろそろなのかしら?」
「まだ一般普及は難しいだろう。しかし、立案から試験運用までの期間を考えると驚くべき速さだ」
「そうなのねえ」
エレノアは元々騎士家系の生まれであり、魔術の素養はほとんどない。そのため、エドリックの言う「難しい」や「驚くべき」が、具体的にどの程度のことなのかはわかっていない。しかし、それを掘り下げることもなかった。
そしてエドリックもそれ以上深く説明するでもなく、ノエルへ視線を戻した。
「ともかく、中へ入ろう。夕食まではまだ時間がある。部屋も整えさせているから、少し休みなさい」
「はい。ありがとうございます」
◇ ◇ ◇
自室へ入り、荷を解く。
一か月半ほど空けていた部屋は出発前と変わらず整えられており、机の上には新しい花が飾られていた。棚の本も以前の場所に収まっていて、いつ帰ってきても困らないようにしてくれていたらしい。
そして室内には、既に明日の夜会で着用する正装が用意されていた。
魔術師家系の正装とは、すなわちローブのことだ。大抵は家紋の刺繍が入った濃紺、あるいは黒のローブを羽織るのが習わしになっている。
騎士、貴族、魔術師。それぞれの家々に受け継がれる正装の形式には違いがあり、見慣れた者なら、その装いから家系を察することもできた。
「貴族の正装に比べれば大人しいものだけど、装飾が意外に多いんだよね……」
しばらくぶりに見た正装を少し手で撫でながら、ノエルは以前に見たことがあるユーリスとレオニスの正装を思い出した。
普段からどちらも身なりに気を使っているのがわかるが、さすがに上流貴族の正装はどちらも華やかさが段違いだった。
きっと明日も二人は目立つんだろうなと思うと、億劫な夜会が少し楽しみになった。
そこで、ふと思い出す。
「そういえば、明日の夜会準備ってどうなってるんだろう」
王宮で開かれる大規模な夜会では、当然ながら事前の準備に人手と時間がかかる。照明や装飾、当日の警備、出席者の管理、食事、挙げればキリがない。
それらは主に王宮所属の専門部署が担当しており、必要に応じて魔法局や騎士団へ応援要請が入ることもあった。
ノエルも以前、一度だけ準備を手伝ったことがある。
その時は本番まで二週間ほど猶予があったが、会場の設営や照明に使用する術式の確認に追われ、前日まで余裕のない日程だったことを覚えている。
今回は王女の帰国が急に決まったこともあって、準備期間はさらに短い。
「……大丈夫なのかな」
もちろん、今回も経験のある担当者たちが準備を進めているはずだ。急な催しというのも、彼らにすれば特別珍しいことではない。
それでも、一度あの慌ただしさを経験しているだけに、他人事とは思えなかった。
もっとも、今からノエルができることがあるわけでもない。明日の夜会が滞りなく開かれることを願いながら、正装のローブを衣装掛けへ戻した。
◇ ◇ ◇
夕食には、ノエルの好物がいくつも並んでいた。
普段から食卓が質素というわけではないが、今日は明らかに品数が多い。
「今日は一足先に、我が家だけの夜会よ」
エレノアは楽しそうに微笑み、ノエルの皿へ料理を取り分けるよう使用人に頼んだ。
「ありがとうございます、母上。でも、こんなに用意してもらわなくてもよかったのに」
「あら。久しぶりに帰ってきたのだから、これくらいはいいでしょう?」
エレノアが当然のように答えるので、ノエルは笑って礼を言った。
食事の途中で話題に上がったのは、やはり明日の夜会だった。
「ミリザリア殿下がお戻りになるのは、四年ぶりでしたっけ?」
ノエルが尋ねると、エドリックが答えた。
「そうだな。正式な帰国としては婚姻以来初めてだ。今回は外交上の協議も兼ねているから、滞在中はかなりお忙しいだろう」
「そうなんですね」
「明日の夜会も単なる帰国祝いではない。両国の関係が良好であることを内外へ示す意味がある。出席者も普段より多いから、王宮側は今夜中に相当な準備を進めているはずだ」
「帰国が急な話だったとはいえ、手は抜けませんからね」
「その通りだ」
エドリックは頷き、ふと思い出したように話題を変えた。
「ノエル。明日は私たちと一緒に入場するつもりでいいか?」
「はい。その方がいいと思います」
「王家への正式な挨拶は一緒に済ませよう。国外からの来賓も多いが、紹介が必要な場合は私が対応する」
「わかりました」
父はこうした場面で頼りになる。
誰がどの立場にあり、何を望み、どこまで話してよいのか。エドリックはその見極めが正確で、アルヴェイン家の当主としても優れた手腕を発揮していた。
魔術師としての才能だけを見るとオズワルドと比べて見劣りするが、当主としての才は間違いなくエドリックに軍配が上がるのは明白だった。
得意とすることが違うのだなと周りは昔から言うが、ノエルにしてみれば祖父が規格外なだけで、父は魔術師としても一流だと思っている。
それに比べて自分は。
なんてことをノエルが考えないで済むのは、母のおおらかな性格を引き継いだからなのだろうと、ノエル自身は昔からそう思っている。
「それにしても、王宮の夜会なんて久しぶりねえ」
エレノアが楽しそうに言った。
「久々にお姿を拝見できる方もきっと沢山いらっしゃるわ。とっても楽しみ」
「母上は相変わらず物怖じしませんね」
「エレノア、あまり楽しみすぎないようにな。まあ……楽しめること自体は素晴らしいことだが」
エドリックが目を細め、わずかに笑みを浮かべながら妻へ視線を向ける。
「もちろん。それより、あなたは今日こそ早く寝ないと駄目よ。ノエル、聞いてちょうだい。この人ったら招待状が届いてから、ずっと遅くまで準備しているの」
「父上……いけませんよ。身体に毒です」
よく似た顔の妻と息子が揃って心配そうにたしなめてくる。
エドリックは少しばつが悪そうな顔をし、近くに控えている老齢の従者へちらりと視線を送った。
「恐れながら、奥様とノエル様のおっしゃる通りかと」
「お前まで言うか」
従者が澄ました顔のまま恭しく頭を下げると、エドリックは何とも言えない表情になった。
アルヴェイン家に長く仕えている者たちは、当主が少々神経質で、仕事を抱え込みがちなことをよく知っている。こうして家族に加勢するのも、一度や二度ではなかった。
「……善処しよう」
「善処ではなく、今日はちゃんと休んでくださいね」
ノエルが念を押すと、エドリックは小さく息を吐いた。
「わかった。今夜は早く切り上げる」
「それなら安心ね」
エレノアが嬉しそうに微笑んだ、ちょうどその時だった。
「戻ったぞ」
食堂の入口から、よく通る声が響いた。
振り返ると、オズワルドが外套を使用人に預けながら入ってくるところだった。
「お祖父様。おかえりなさい」
「おお、ノエル!」
オズワルドは孫の姿を見つけるなり、ぱっと顔を明るくした。
「戻っていたか、元気そうだな!」
「はい。昨日はお電話をありがとうございました」
「うむ。無事に帰ってこられて何よりだ」
祖父はノエルの肩を嬉しそうに叩いてから、所定の席へ腰を下ろした。
「父上。お帰りになるなら連絡をいただければ、食事の時間を調整しましたのに」
「気にするな。わしが勝手に遅くなっただけだ」
オズワルドは運ばれてきた料理を眺め、満足そうに頷く。
「おお、今日は一段と豪勢なことだ」
「ノエルが帰ってきたお祝いですわ」
「そうかそうか! それはいい!」
エレノアの説明を聞いて、オズワルドはますます上機嫌になった。
久しぶりに揃った家族の食卓で、祖父がまず尋ねてきたのはザーレンのことだった。
「それで、セント君は元気だったか?」
「はい。とても元気ですよ。お知り合いと知って驚きました」
「当時は今ほどアカデミーの生徒も多くはなかったからな。しかし、そうか……もう引退するとは、時間が経つのは早いものだ」
「ロゼをはじめ、いくつかの街を回って後任を探すそうです。引き継ぎの残りも、それまでに片付ける予定になっています」
「最後まで自分の仕事をきっちり終わらせるつもりか。責任感の強さは変わらないな」
オズワルドは懐かしそうに頷いた。
「そういえば、お祖父様」
「何だ?」
「オリバーさんから、オズワルド先輩によろしくお伝えくださいと言付かっています。最優先で伝えてほしいそうです」
「ははは! あいつめ、そんなことを言っていたのか」
「ええ。お祖父様が名前を覚えていたことにも、随分喜んでいました」
「何だ、そんなことでか」
祖父は可笑しそうに笑う。
ノエルはオリバーのあの喜びようを思い出し、つられて笑ってしまった。
「こちらからもよろしく伝えておいてくれ。引退して気楽になったら、久方ぶりに顔を見せろとな」
「わかりました」
「第三室の方はどうだ? ラザは相変わらず好き勝手やっているか?」
「今日も夜会から逃げようとしていましたよ」
「あいつらしいな!」
何がそんなに愉快なのか、オズワルドは声を上げて笑った。
「でも、天体観測の日記を見せる約束をしたら、ちゃんと出席してくれそうでした」
「日記?」
「ザーレンでつけ始めたんです。王都では見えない星もよく見えるので」
「ほう、それは面白そうだな。わしにも見せてくれ」
「もちろんです。でも、先にラザさんに見せる約束をしてしまったので」
「いーや、わしが先だ。星に関する読み物なんて、あやつは一回渡したらどうせしばらく返さんだろ」
子供のように言い張るオズワルドの様子にエレノアがくすくすと笑い、エドリックは呆れたように茶杯を置く。
「父上もラザも、そろそろ落ち着いていただきませんと。ラシルも嘆いておりましたよ」
「あそこは本当に正反対の兄弟だな」
エドリックが口にした名は、ノエルにも馴染みがある。
ラシル・エルヴェスター。
エルヴェスター家の現当主であり、正式に家督を継ぐ前までは宮廷魔法局第一室所長を務めていたこともある。
戦場で的確な指揮をとる姿と決断の速さから、冷徹で血も涙もない男と揶揄されることも多い。しかし、幼い頃からノエルが知っているラシルは、生真面目な仕事人という印象だった。
「ラシル様とはしばらくお会いしていませんが、お変わりないでしょうか」
「私も先日久しぶりに議会で顔を合わせた程度だが、普段通りには見えた。とはいえ、星降祭も控えているからな……やはり忙しいのだろう」
星降祭は王家主催の催しだが、実質的な取り仕切りは古くからエルヴェスター家だった。
一説によれば建国初期、初代星の聖女と共に王家の下で国を救った魔術師が、エルヴェスター家の始祖だとか。
御伽話の世界観ではあるものの、そんな伝承が残るほど歴史と権威のあるエルヴェスター家は、今も王家と関わりが深く、星降祭の取り仕切りも変わらず担っている。
もっとも、その家名を継ぐ者の一人である男が昔に「んなこじつけでいちいち面倒かけられる身にもなれってんだよ」と嫌そうに溢していたことを、ノエルは覚えていた。
「明日の夜会でお会いできるかもしれないわね」
そんなことを話しながら、話題は星降祭、明日の夜会、ザーレンでの暮らしなど軽やかに移り変わる。
ノエル自身もザーレンで白星草を見に行った話や、村の子供たちと親しくなったこと、支部に残っている古い資料の整理について話した。
オズワルドはどの話にも興味を示したが、とりわけ昔の術式に関する資料の話になると、食事の手を止めてまで詳しく聞きたがった。
「父上。続きは食後にしてください。ノエルの食事が進みません」
最後にはエドリックにそう言われ、オズワルドは渋々頷いた。
「まったく、お前は昔から堅い男だな」
「父上が自由すぎるのです」
「あら。でも、せっかくノエルが帰ってきたのですもの。お話ししたくなるのもわかるわ」
エレノアが穏やかに取りなすと、オズワルドは得意そうに頷いた。
「ほら見ろ、エレノアはわかっているぞ」
「……母上が見たらなんと言うか」
「む、リシャーナの名は卑怯だぞ!」
オズワルドが珍しく困ったように眉を寄せる。亡くなって十年にもなろうかという厳格で聡明な愛しい妻の名には、さすがの天才魔術師も敵わない。
そんな家族の様子は懐かしくも温かく、ノエルは自然と笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
夕食を終えたあと、ノエルは散々まだいいだろうと引き止める祖父に付き合って話をしていたが、結局は古株の侍従にオズワルドがたしなめられ、ようやく自室へ戻った。
上着を脱いで椅子へ腰を下ろし、明日の夜会に備えて父から渡されていた資料に目を通していると、扉が控えめに叩かれた。
「ノエル。入ってもいいか?」
父の声だった。
「はい、どうぞ」
エドリックは部屋へ入ってくると、息子の手元にある資料を見て僅かに頷いた。
「もう確認していたのか」
「はい。今回は来賓の方も多いので」
「そうだな。まあ、無理に覚えようとしなくてもいい。必要な場面では私もいる」
「ありがとうございます」
エドリックは窓際の椅子へ腰を下ろした。
「……ザーレンでの生活は、本当に順調なのか?」
「はい、仕事もだいぶ慣れてきてーー」
「仕事の話ではなく、お前自身のことだ」
ノエルは少し目を瞬いた。
「僕自身、ですか」
「ああ。宮廷魔法局に入ってから随分と忙しくしていただろう。今度は地方へ長期滞在だ。生活環境も変わる」
「そうですね。でも、思っていたよりずっと楽しく過ごしていますよ」
エドリックは静かに頷いた。
「ならいい」
「父上は、何か心配していたんですか?」
「心配していないと言えば嘘になる。お前は、自ら望んで宮廷魔法局へ入ったわけではないからな」
ノエルは苦笑した。
あの時も父は何度も確認していた。本当に宮廷魔法局でいいのか、他の仕事もある、アカデミーに残る道だってある、と。
しかし、ノエルとて分かっている。一度公式に通してしまった話を引っ込めることは簡単ではない。通した相手が昔からの知人だとしても、通した後の処理にはたくさんの人が関わっている。
だから、ノエルはアルヴェイン家の人間として、その話を受けることにした。自分から望んだ道ではなかったが、進むと決めた以上は、そこで自分にできることを探すつもりだった。
そして、息子のために入局しなくてもいいと言っていた父の優しさも理解していた。
「最後まで心配していましたよね」
「そうだな。お前に能力がないと思っていたわけではない。ただ、あそこは普通の職場とは違う。求められるものも、周囲の目も厳しい」
「はい」
「だからこそ、お前自身が何を望んでいるのかは、何度でも確かめておきたかった」
ノエルは黙って父の言葉を聞いていた。
宮廷魔法局へ入ってから、簡単なことばかりではなかった。
自分より優秀な魔術師はいくらでもいる。第三室では特にそれを実感する瞬間が多い。
「大変なことは多いですよ」
ノエルは正直に答えた。
「できれば、もう少し魔術が得意だったらよかったなと思うこともあります。でも、第三室に入ってよかったと思っています」
エドリックは口を挟まなかった。
「できないことばかりではないですし、皆さんにも本当に良くしてもらっていますから。それに、今はザーレンでの仕事も任せてもらえています」
ノエルは少し笑う。
「僕は、今の仕事が好きですよ」
エドリックはしばらく息子を見つめていた。
やがて、静かに頷く。
「……なら、それでいい」
短い返事だったが、ノエルには十分だった。
父は立ち上がり、椅子を元の位置へ戻した。
「明日は準備もある。今日はあまり夜更かしをしないようにな」
「はい。父上も」
「私はもう少し仕事が残っている」
「……ほどほどにしてくださいね」
ノエルがそう返すと、エドリックは苦笑した。
「お前は年々、エレノアに似てくるな」
「そうでしょうか?」
「ああ。敵いそうにない」
「それなら父上の睡眠を守れそうで安心です」
エドリックは珍しく控えめに声を上げて笑い、一度ポンと肩を軽く叩いてから扉へ向かう。
出ていく直前に一度だけ振り返った。
「おやすみ、私の可愛いノエル」
「おやすみなさい、父上」
幼い頃から変わらないその呼び方に、ノエルもいつも通り答える。
エドリックは僅かに微笑んで、部屋を出ていった。




