【イベント】『狐の嫁入りなんて猫には関係ありません』エピローグ「通り雨のように」
毒性を持った魔物の討伐及び防衛作戦……作戦というには規模の小さく見えてしまう人数による戦闘から三日。
あの日、ハツネの放った炎によって毒性の魔物は全滅。霧のように森を覆っていた毒性を晴れ、通行は可能になりラプタの窮地も救われた。
ナハトも他国から来ていた新人ハンターを突き止め責任を言及。
彼が持っていたハンターとしての身分証は剥奪され、二度と同じことが起こり得ないように新人ハンターを承認する試験の見直し徹底を図らせた。
そして、当事者の俺やエルも怪我から回復し事件は終息した。
ただ、あの後ハツネは二度と姿を現すことがなかった。
「ご主人、ふんすふんすする」
「ん?」
「約束したもん。ご主人、治ったらふんすふんすしていいって」
ああ匂いを嗅ぎたいってことか。
たしかにそんな約束をした覚えもあるし別にエルは俺に対して臭いとか辛辣な発言はしないだろうしいいだろう。
むしろエルの鼻息のくすぐったさが良かったりする。
あと匂いを嗅ぐのに夢中になってくると俺のあっちこっちにエルの胸やらお尻やらが触れたり押し付けられていることも気にならなくなってくるらしく、それも良かったりする。
って、そういえば確認してから嗅ぐ必要はないよな。
「エル……?」
「ご主人なんで服着てるの? 脱いでよ」
「まさか直接とか言うつもりか?」
エルはこくり、と頷く。
いやいや、服を来ている上から色々されたりとかするのは問題ないけど直接はアウトだ。
お前は少し危機感を持った方がいいぞ。
やっぱちゃんとした物を喰って、よく寝て、それから日差しの元で活動するのは大切だってことなんだろうな。
エルも段々年齢に見合った身体に成長してきている。
故に直接だと気になってしまうのだ。
「って脱がせるな馬鹿!」
「ご主人はいい匂い……。でも、この前の一件で臭い」
「うわ、傷つく発言」
「だから脱いでって言ってるの。ご主人の匂いふんすふんすしたいけど臭いからエルの匂いにする。だからぎゅって、直接ぎゅってしたいから脱いで。別に舐めてはいたからばっちくないよね」
あ、なるほどな。
そういえば出血は止めたが無駄に体力を消費して数日眠りっぱなしとかにならないようにハツネの指示通り傷を塞ぐのにはかなり時間をかけたんだよな。
で、傷が塞がらないってことは身体も洗えないと。
そりゃあ魔物臭くなるし奴等は腐敗してたから臭いってストレートな表現されるのもわからなくもないな。
脱ぎますか。ていうか脱がされてやりますか。
もはやエルが俺の穿いてるものとか普通に下ろしてるから何とも言えないんだけどな。
「んー! やっぱご主人ふわふわ」
「一応、ほんとに人間が近くにいるかもしれないから弁明できるように言い訳しとくけど、お前は女だからな? 普通に考えて俺を裸にして身体を密着させてたらダメなんだからな?」
「エルご主人の嫁だからいいもん」
「いや、位置とか気にしろよ。いくら嫁だからって節操無いと言われるからな?」
俺の胸辺りの体毛が一番ふわふわしているからって下腹部辺りに腰があるのは良くないと思うぞ。
まあ、エルがその気なら別にいいけど。
まだ真っ昼間だけど……仕方ないけど。
「エルのこと触る?」
「えっと、これでも病み上がりなんだが」
「でもご主人元気だよ?」
それはエルが俺の変なところをお尻でふにふにするからだろ!
んな柔らかいもの押し付けられてたら否が応でもだよ!
「あ、ごめんなさい。タイミング悪かったみたいね」
「ハツネ!?」
「私は帰るからどうぞ続けて? 交尾の途中だったんでしょ?」
「いや、ちがう。そうじゃない」
「言葉と自分の状態は一致した方がいいと思うけどね」
いや、分かってるから。
俺はエルのせいで絶賛元気バリバリの状態でちょっとエルがお尻を揺らしただけで交尾が始まりそうな……というかある意味では始まってるっていうのは分からなくもないけど。
俺は裸だし。
「エ、エル悪いけどおりてくれ。さすがにハツネに見られてるしできないのにしたいとか恥ずかしくて耐えられない」
「分かった。エルもハツネと話したいし」
俺はエルを持ち上げて床に下ろすとさすがに元気になったものは目的を果たさないと鎮まる気配はないし、かといって目の前でやるわけにもいかないので毛布を使って隠した。
中がどんな状況か知られてる状態だと恥ずかしいことこの上ないが仕方がない。
「ま、まあとりあえず座れよ」
「ありがと。それで今日、本当は会わないつもりだったのにここに来た理由なんだけど……」
「?」
「やっぱりファングがあの狼みたいなの」
「は?」
あの、その狼って誰のことですか?
「いや、私がこの世界に来る前にいた狼なんだけど、この前のファングが私に向けて叱った時の言葉がそっくりでね? よくよく考えたら匂いも同じだし最初に会った時から緊張しちゃったというか、エルと仲良くしてるのを見て悔しくなったし、裏切られたような気がして」
「あの、紛れもなく別人だと思うんですが?」
「似すぎなのが悪いのよ! さっきのだって寝起きの狼のやつに似てたし!」
いや、知らないから。
そもそも狼とか呼ばれてるハツネの初恋の奴はデリカシー無さすぎじゃないか。
寝起きでそのまま来るとか。
あ、でも俺も同じに見られてるってことか?
「だから、良かったらこの国に居てもいい? それで、たまにこうして話に来てもいい?」
「それはまあ、別に……」
「え? 嫁入り先にしてもいいの?」
「ご主人! ダメ! ハツネご主人奪るつもり!」
あの、そもそもたまに話に来ることが嫁入りになるならシオンなんてしょっちゅう来てたからな?
二人とも知識がないし突拍子の無い話を持ってくる当たりは似たり寄ったりなんだな。
でも居るくらいなら怒る必要もないだろう。
「近所に住んでるくらいならいいんじゃないか?」
「ダメ!」
「止めても無駄よ。外を見て。空は晴れてるのに雨が降ってる。こういうのを狐の嫁入りと私の故郷では呼んでいて絶好の嫁入り日和なの。つまりファングが私の嫁入りを認めるのは決定事項なのよ」
「知らないもん! ご主人はエルのだから! ハツネは狐の嫁入りに破局しろバカ!」
まじか……。
あの時、ハツネのおかげで助かったのも事実だし別に近所に住むのは嫁入りとは関係なかったからいいだろうと思ってたらエルがあそこまで怒るとはな。
まあ、たしかに猫には狐の嫁入りなんて関係ないだろうけど。
「あそこまで言うことないんじゃないの?」
「気持ちを察してやってくれ。俺がエルに一目惚れだったようにエルにも俺しか居なかったんだ。あと、ハツネはわざとエルを怒らせるつもりで嘘吐いただろ」
「そりゃあね。同棲してたらまだしも別居して嫁入りしましたなんてバカでも違うって言うと思っていたし。あの猫は冗談が通じなさすぎよ」
その冗談でも本気にするくらい必死なんだよ。
特にハツネが俺にファーストと思われるキスをしてきた時もずっと拗ねてて顔すら合わせてくれなかったくらいだ。
冗談なんかあってないようなもんなんだろ。
まあ、エルらしいところはあるけどな。
「でも破局しろって言い残してどっか行ったよな」
「ええ?」
「たぶんエルはお前にはやらねえよ、って言ってるけど少しだけ二人きりで話す時間はくれたんだよ」
「ん、ああそういうことね。通り雨のごとく短い嫁入り、ね」
ハツネはそれを聞いて嬉しそうに耳を立てていた。
まあ、エルとハツネを二人きりにした時にあれだけ仲良くなったのだからお互いの性格なんて知れているのだろう。
だからこそエルは遠慮したし、ハツネもそれを知って喜んでいる。
「そろそろ帰るかな」
「ん、もういいのか?」
「だって最中だったのに止めちゃったんだからファングも辛いはずでしょ?」
「何の最中だこのやろう!」
「それに、狼とはお別れをしたんだもの。あなたのことをファングとして見なければ二人に失礼でしょ?」
雨が止んでより眩しく輝いている空にハツネは何を思ったのか。
でも苦しんでいた時よりも明るい顔だな。
決別する覚悟ができたから首飾りも自分で砕いたんだろうし。
「じゃ、たまに会いに来るから」
「おう。その時はお前の好きな油揚げでも用意してやるよ」
「気が利くのね」
どうせラプタはそんなに広くないからすぐに会うだろうけどな。
それでも一回一回のお別れは大切にするべきだ。
なあ、シオン。
お前も今までのお別れ一つ一つを大切に覚えていたんだもんな。
「ハツネ帰った?」
「ああ」
「…………そっか」
エル、お前も少し寂しそうだな。
まあ別に会いたくなったら自力で匂いを頼りに探しに行けるだろうし深く考える必要はないか。
と、俺はどうするかな。
ハツネも帰ったことだしテキトーに自分でどうにかして活動できるようにでも……。
「ご主人、続き」
「は?」
「まだふんすふんすもしてないしぎゅってしてない。それにペロペロもしていい約束だったはず」
「………………」
これはしばらく落ち着けなさそうだな。
『狐の嫁入りなんて猫には関係ありません』fin
これで『狐の嫁入りなんて猫には関係ありません』は終了になります!
過去に想いが実らないまま世界を違えてしまった
ハツネは記憶にある姿と
ファングを重ねていた訳ですが……
今回の件で吹っ切れて自分の過去とも
向き合うことができました
次は本編第9章になります。
シオンの死を一度は受け入れたもののファングは
やはり立ち直れずにいて……、
そんな時、二人の前に現れたのはシオンの弟子を名乗る魔女でシオンの過去を知るべく彼女が暮らしている集落へ向かったが……!




