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銀狼の飼い猫  作者: 厚狭川五和
イベント「2020/ジューンブライド」
15/18

【イベント】『狐の嫁入りなんて猫には関係ありません』第3話「過去に偽る力」

 溜め息しか出てこない。

 何で俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。


「レクセル、お嫁さんとか欲しくないか?」

「なんだい急に……。僕とファングの仲だからなんとなく言いたいことは分かるけど」


 分かるというなら助け船くらいだしてくれよ。

 今は俺一人でレクセルの店に来ているが昨日は大変で落ち着けない一日だったんだ。

 エルとハツネが喧嘩を始めるし、仕方ないからハツネの分の飯も用意するとエルが拗ねるし、寝るときにエルと寝ようとしたらハツネが怒鳴り始めるし対抗してエルも服を脱いで抱きついてこようとするし……。

 かたや怒り疲れて眠ってかたや俺の体温を感じながら健やかに眠って……俺だけが寝れなかった。

 騒がしかったしエルが気になりすぎたんだ。

 いくら対抗するためとはいえ全裸になる必要なんてどこにもなかったのにな。


「でもまあファングは楽しそうだしエルさんも最近は他者との生活に馴染んできているし、いい傾向じゃないか」

「そのいい傾向を崩されそうなんだよ」

「昔の君なら大喜びしてただろうね」

「は? ふざけんな! 俺の嫁はエルだけだし。あんな空気の読めない狐野郎なんか知るか!」


 その割には放置してないよね、とレクセルは俺の前に水の入ったコップを置く。

 放置するも何も、ハツネも権能保持者なんだぞ?

 仮に放置していてアンセムに目をつけられた時に何で守らなかったんだろうなんて後悔したくない。一つの選択ミスを一生悔やむなんてらしくない。

 それに、花嫁の季節なのに一人ぼっちは寂しいだろう。

 これで雨でも降ったら報われるのだろうか。


「善悪を見抜く力、か。商売向きな力だね」

「適任じゃん。ハツネもらってやれよ」

「そういう問題じゃないんだと思うけどね。ハツネさんが君を選んだのは単なる興味とかじゃなくて前にいた世界で彼女が一番近くに感じていた人に君が近いとか」


 イヤな記憶を思い出させやがるな。

 たしかにシオンも俺と自分の使い魔だった大切なやつを重ねていたらしいが次もなんてありあない。

 そう、毎回だと困ることの方が多い。

 アンセムが俺を作ったのは極端な話、権能を持った連中を確実に仕留めて自分の力として回収するため。わざわざ心情を形成するようなシナリオは描くような奴じゃない。

 俺を中心になんて……。

 でも、偶然かもしれないし俺かエルがそのように運命を書き替えているのかもしれないから否定はできない。

 それこそ『破壊』の申し子なら可能なはずだ。


「興味ないね」

「そうは言っても解決しないとファングが彼女の怒りを買ったら相手側に願えるかもしれないし、そうなったら救おうにも力が奪われてしまうのが先かもしれないんだよ?」

「善悪を見分けるだけの力ならいらねえよ。俺にとってはエルが善なら他はどっちでも関係ない。それこそ俺が悪だったとしてもお約束なんかありえないさ」


 空になったコップに鼻先を入れた俺は退屈そうに光が屈折して歪んでいるレクセルを見る。

 相変わらず俺の話をホイホイ信じてくれてる。

 俺が何者なのか、この世界はどういう状況なのか、それから何が起ころうとしてて俺はどうしようとしているかを語ったところでレクセルは嘘などとは言わず聞いてくれた。

 今回もそうだ。信じてくれた。

 俺の言葉を信じて一緒に考えてくれるだけ何の力も持たないレクセルも重要な存在だ。


「そういえばハツネさんは?」

「あまりにエルと喧嘩するから置いてきた」

「ええと……喧嘩する二人を同じ空間に置いてきたら逆効果じゃないかな」


 それは知らん。

 仲良くなるか嫌いになるかは二人次第だからな。



 ──sideハツネ。

 絶対におかしい。

 この猫は理性がぶっとんでいて私が正しいんだ。

 きっとまともな私から見たらろくに教育も施されなかった猫は異常で放っておいたら危険な存在。それこそ誘爆していきそうな大きな爆弾だ。


「いつ彼が帰ってくるかも分からないのに裸になるなんて信じられない! 今すぐ服を着なさい!」

「だって綺麗にしてないとご主人怒る」

「だからって──」

「そもそもエルはお嫁さん。ご主人に裸を見せるのは普通。恥じることない」


 そう言って猫はファングの家の裏手で湯浴みを始める。

 いくら裏手側が柵で囲ってあってファングが住んでいると誰しもが知っているとしても覗かれない保証はないというのに豪胆にも程がある。

 外で裸なんて……。

 そもそも嫁だというならもう少し慎みのある姿を見せた方がいいのではないだろうか。

 それこそ毎日裸でいるような女性は軽いと思われて捨てられてしまう可能性が高い。いつでも愛していてほしいなら時には落ち着かなければならない。

 って、どうして私は敵のことを気にしているのだろう。

 ファングに見てもらうためには猫は邪魔物だ。

 私の方が後から来たのかもしれないが彼と出会ったのが遅れたという理由で機会を失っていいものでもないだろう。


「随分と貧相な身体ね。ちゃんと食べないから痩せていくし大きくならないのよ」

「う、うるさい。ちゃんと食べてるしエルが小さいのは仕方ないの! それにご主人は小さいエルの相手をするのが好きなんだから気にしない!」

「ただのロリコ……きゃうっ! ちょっと!」


 猫が私に水をかけてきた。

 なんて躾のなってない猫なのかしら。


「こんな駄猫なんて相手にしてちゃだめね」

「エルだめじゃないもん!」

「どこが? あなたのご主人様より頭に血が昇りやすいようだしちんちくりんでわがままで露出癖もあって、どうしようもない猫じゃない」

「そんなこと、ないもん……っ!」


 こんな言葉程度で涙するなんてお子様なのだろうか。

 いや、この際だから立場くらいは理解させておかないと私ではなくファングが苦労する。

 幸いというかエルもぐずっているが戦うつもりらしい。


「服を着る時間くらいはあげるけど?」

「うるさい。ハツネに文句言われたくない」


 私が安い挑発をするとエルが怒りを言葉に乗せてきた。

 それによって何かが起こるというわけではなかったがいつの間にかエルの身体はしっかり服に覆われていて、思わず私は呆気にとられてしまった。

 早着替え?

 いや、それにしては近くに服などなかったしエルは一切動いていない。

 つまりエルの力は()()ところから()()()()力だ。

 生産性が高いのは結構だが私の力と相性が悪い。


「新品の服だったみたいだけど、ごめんなさい?」

「別にいいし。エル困らないから」

「何を言って…………あれ?」


 たしかに作る力だったんだろうが生産性のある力は焼き続ける私の力に相性が悪い。

 火は消えることなく燃え続け作った先から燃やしていく。

 そのはずだった。

 なのに、私が燃やした先ではもう一度エルが服を身に付けていて、しかもそれから間も無くして私の火が打ち消されていたのだ。

 もしかして炎を作って相殺した?


「ハツネ勘違いしてる。私はたしかに作り出す体質だけどそれは関係ない」

「何かをぶつけて相殺したわけじゃないってこと? ほんと生意気な力ね」

「生意気でもいい。ご主人が必要としてくれるから。エルも正直いうとこの力が好きじゃなかったよ。でも、最近はこの力のこと好きになれる」


 野蛮な猫だ。

 所詮は暴れることを前提とした力なのだからファングが好きというのは当たり前だろう。

 彼もまた「壊す力」の持ち主だ。

 でも私は彼の「壊す力」が何かを守ろうとしていることくらい知っている。

 この猫とはちがう。


「爆ぜなさい!」

「っ!」

「……なっ!?」

「相性悪いのは、そっち?」


 それこそ爆発するほどの熱気をぶつけたというのに無傷どころか怯みすらしていない。

 直後に追加した物理攻撃もしっかり避けてくるし戦うことに慣れている。殺人やそれ紛いのことを生業として育てられたかのように習得されている。

 これがただの猫?

 あの人の嫁?

 こんな強いなんて想定していないし戦えば戦うほど力量差がはっきりしていく。

 私じゃ敵わない。


「ハツネって強い人?」

「ばかにっ……してるの……?」

「ううん、確認」


 何が言いたいのだろう。

 私と殴り合いながら、否、私が一方的に殴っていて全てを避けているはずのエルが息も切らさずに私の力量について確認をしてきている。

 それを馬鹿にしているというのだ。

 どこを狙ってもかわされる。

 姿勢を崩したところを狙っても手を使って転ぶのを回避した上で蹴りを被せてくる。

 私の狐火は効かないし物理は全てかわされる。

 この状態でわざわざ確認するな。

 私は強くない、そんなことを確認されずとも分かってる!


「ハツネは強い」

「私を見下すなっ!」

「きっと強いけど戦いを好まない人。いや、必要な戦いはするけど今回は無意味って思ってる……ちがう?」

「なんで、分かった風に……」


 そうだよ、こんなの無意味だ。

 新参者が何を言っても既成の事実は覆せない。

 エルがファングを愛していてファングの愛情がただ彼女一人に向いているのは変えられない事実で、私は戦ってまでそれを覆そうとすることに意味を感じていない。

 だってエルが真っ直ぐなんだって知っているから。

 だって……私が彼を好きな理由が、矛盾しているから。

 だめだ。

 考えれば考えらほど自分がおかしい。

 もはや立っている気力すら感じられない。


「ねえ、ハツネ? エルのこと悪だなんて思ってないから本気で戦ってないよね」

「だって、だってエルが言ってることは本当で! 真っ直ぐで嘘も偽りもないから私が裁けるものじゃないもの! あなたがファングに向けている感情は本物で、それに怒ってる私は八つ当たりしてるだけで……バカみたい!」

「ハツネ?」

「なんで裏切り者の狼なんか……っ!」


 あれ、裏切り者?

 たしかに記憶には狼の姿があるし、それは私を裏切ったようで、それでも好きだった人だ。

 どういう、ことだろう。


「たぶん前の記憶。エルにはないけど、エルの知ってる人はその記憶に苦しめられてた。でも、とても幸せな記憶。ハツネ、ご主人を好きでいることは怒らない。たぶん、ご主人は本当にあなたの知ってる人でもあるから怒らない」

「どういうことなの?」

「詳しく説明したら困惑すると思う。端的に言うと複数の世界を繋げようとした人がいて、それに巻き込まれた人がハツネで、ハツネの知ってる人の一部がご主人」


 よく分からない。

 そんな根拠もないようなことを言われても私には理解できないし私の知っている人の一部がファングと言われても……。


「もしかしてファングは本当に……」

「どこまでが本当か分からない。でもご主人は間違いなくエルのご主人。だから好きでいるのは怒らないけど、エルから奪わないでほしいの」


 それが本当なら私はファングの一部、ほんと片耳分くらいしか理解してなかったのかもしれない。

 ならエルからすれば怒って当然。

 そんな私を許してくれたエルは天使か何かなのだろうか。


「ごめんなさい、一人で焦ってらしくないことをした」

「ん、これで仲直り。ハツネ、一緒にご主人待と?」


 差しのべられた手が柔らかい。

 ああ、結局私は誰かに答えを与えられるまで気がつけない愚か者だったのか。

 そんなだからいつまでも…………って、エル?


「どうしたの?」

「パンツ、ない」

「え?」


 私は慌ててエルのスカートを覗き込む。

 いや、さっきの戦闘前にエル自身が作り出した服を着たのだから穿いていないことはない。

 つまり、問題はその前?


「身体を洗う前に穿いてた方のこと?」

「うん。別にエルは魔力余ってるから服とか作り出せるけど……」

「みなまで言わなくていいわ。私だって同じだもの」


 いくら作り出せても奪われてしまういい気はしない。

 ファングという好きな人がいるのに知らない人に盗まれたともなればなおさらだ。

 一応、戦闘で消し飛んだのではないかと確認してみる。


「ない」

「あれだけ派手にやったのに?」

「エルがハツネの攻撃魔力で包んでた。だから爆発しても回りに被害ない」


 なるほど。

 そういえば家も消し飛んでいないし周囲にも瓦礫などないことを考えたらエルが色々と考えてくれていたのだろう。

 やはり探さなければいけない、か。

 誰が持っていったのだろう……。



 ──sideファング。


 ハツネの善悪を見分ける力。

 それは俺を悪と判定したがエルは善であると判定し、それは間違っていたわけではない。

 でも本当にハツネの力は()()なのか?

 少なくとも俺には別の力があるように見えて──ん?


「いやあ、たまには興味本意で行ってみるもんだな」

「そんなこと言ってるっすけど意外と危なかったんすからね?」


 危なかった?

 この近辺で起こるような戦闘は大抵小さくて危ないなんて言うよりは面倒の方だったはずだが……。

 もう少し詳しく聞くか?


「大丈夫だろ。あの猫が全部受け流してたし」

「あの狐の方っすよ。あの辺に住み着いた狼の野郎とか猫と違って力の使い方が荒いっていうか」

「噂で聞いたんだがあいつらには二種類力があって先天性のものと後天性のものがあって後天性はちゃんと向き合わないと使えないらしいぜ?」


 たしかに間違ってない情報ではあるな。

 俺やエルに当てはまるのかは知らないがシオンは最初は魔力を回収することばかりでほとんど魔法を使えていなかった。

 後々戦わなければいけないと理解してから強くなった。

 あれがシオンの過去に関係して、たとえばシオンが戦わなかったから大切な存在を救えなかったことに対して向き合った結果なのだとしたら合っている。

 どこからの噂だ?

 それに猫やら狐やら言ってたよな。


「なあ、そこのお二人さん。詳しく聞かせてくれないか?」

「誰が知らねえやつに……はっ!?」

「なあなあ別にいいだろ~? 俺の家に興味本意で近づいたんだもんな~」

「くそ、逃げるぞ!」


 まあ待てよ。

 頭のいいやつなら自分の領域に入られた主が獲物を簡単に逃がさないことくらい分かるだろう。

 つまりこいつらは頭がよくない。

 俺から逃げられると思っている時点でまだまだだ。


「悪いようにはしねえからさ、詳しい話を聞かせてくれねえか?」

「み、見逃してくれるなら」

「……()()()()関しては」

「あの狐について知ってること話せばいいんだろ!?」


 そう、ハツネのことだ。

 もし話を聞いたことでハツネが困っていることを解決できるならば釣りがくるくらいだろう。


「なんか先天性、いつも使ってるような力は元から意識にあるから使える状態らしいんだが後天性のものは何か忘れているようなことを理解しないとどうたらって変な奴が言ってたぞ」

「変な奴?」

「なんか白い服来てる意味わからないことしか言わない若い男だよ」


 アンセムか。

 神出鬼没というかなんというか俺たちの前にすらたまにしか姿を現さないのにどこかしこであいつを見かけたという話があるのが気持ち悪いな。

 まるで見張られている、いや、野放しにされた獣の気分だ。

 この国も所詮は奴の手の上なのか?


「で、忘れてるようなことって?」

「知らねえよ! だってお前らと違って俺らには後天性どころか先天性の力だってねえのに!」

「へえ? 逆に聞くけど自分は持ってないのに他人が持ってると聞いてそれを信じるのか?」

「ぎくっ!」


 おかしいよな。普通に考えて。

 例えばお前らは人間という種族として生きていたからこそ俺という存在を認めたくなくて毛嫌いしていた過去を持っていたわけだが、それとこれは別か?

 自分と違うものは信じられないはずだろ。

 それなら変な奴がどんなに信憑性があっても信じない。

 つまりお前らは力を持っているか、それを信じるに値する何かを見ているか、だろ?


「あまり嘘ばかり吐いてると俺の気が変わるかもしれないが、それでもいいのかな?」

「う、嘘じゃねえって!」

「お前らが一番知ってるはずだよなぁ? 俺がいるから安心して森を歩けるってことを」

「ひっ!」

「黙ってても意味ねえっすよ! こ、殺されるくらいなら話した方がいいっす!」


 よかったな、兄貴思いの後輩がいて。

 俺は話す相手を変えて前に出てきた子分的な存在の方に顔を向ける。


「あ、あんたのところの猫は壊すのが専売特許だって噂になったことのある暗殺者だろ!?」

「…………よくそんなこと知ってるな。まあ、それなりに有名だったなら仕方ないか」

「それこそ当時は全力をぶつけて壊すばかりだったはずっす。それが最近は全力ではあるだろうに壊さずに戦ってるから何か変わったのかと思ったんすけど…………変わったんじゃなくてもう一つ力があるんじゃないか、と」


 なるほどね、よく観察してる方だな。

 俺のエルの能力と言えば馬鹿みたいにあまりある魔力だがあくまでその魔力は戦うときに放出して破壊することをメインとしたものであって他の使い方はできない。

 それこそ俺やシオンと違って魔法みたいな使い方は無理だ。

 だからこそエルは他人を頼る。

 何でも自分で解決できるような万能な力の持ち主じゃないから俺やシオンに助けてもらってる。

 でも最近はちがうような気がしていた。

 今までは俺が作ってやった武器じゃないと戦えなかったが自分で武器を調達、性格には魔法を使い始めたばかりの俺のように魔力で武器を形成している。

 たぶんアンセムに作られた奴はみんな後天性は魔力の自由度が高くなってるという意味だ。


「ありがとな、もう行っていいぞ」

「も、もう二度と関わるなっす!」

「おっと、お前はもう少し残れ」

「は…………?」


 俺は素直に話した子分は逃がしたが何も話そうとしなかった臆病な男を捕まえると匂いを嗅ぐ。

 おかしいな。

 ああ、実におかしな話だ。


「なんでお前から俺の猫の匂いがするんだ?」

「ひ、人懐っこい猫だよな。魚あげたらスリスリしてきて匂い付けられたんだよ」

「へえ?」


 俺の聞き間違いかな。

 たしかエルハツネと喧嘩してて二人はその最中に俺の家付近を彷徨いてたんだよな?

 なら、魚なんてあげる余裕はあったのか?

 それこそハツネが贔屓されてるエルに腹立って暴れだすだろうに臆病なお前ができるのか?


「ほほ、ほんとだよ!」

「悪いけど俺の猫は人懐っこくないんだよな。最近はご飯くれる奴に懐いてる気はするが、俺はついぞエルが他人に気を許した姿を見たことはがないんだよな」

「は?」

「ん、分かんないのか? エルが誰かと話してる時に耳を伏せてる理由。それに尻尾だって巻いてるだろ?」


 どちらも不安や警戒を意味してる。

  エルは一度、俺と再会するまでの間に騙されてそういうことをされそうになったことがあるから他人を簡単には信用しないし疑い続けている。

 店の人間などとは仲良くしてるつもりだが身体ははっきりと怯えを見せているのだ。

 それに気がつけないこいつは馬鹿だ。


「俺は何も──っ!」

「言わなくてもいい。俺がなんでお前からエルの匂いがしてるのか当ててやるよ」


 はっきり言ってエルが俺以外に懐いているとしたらシオンくらいであり、他の人間には身体を接触させようとなんてしないことは確実なんだ。

 つまり、エル自身から付いた匂いじゃない。

 何か間接的に他人に匂いが付く理由……。

 うっすらとなんてもんじゃない。色濃く、俺の嗅覚だからかはっきり嗅ぎ取れるほどの匂いだ。


「エルの身に付けてた何かを持ってるな?」

「っ!」

「図星だな。で、お前が持っていくとしたら何だろうな……。普通に考えてエルは可愛いし見た目的にいつ襲われてもおかしくないくらい幼く見えるよな。でも、さすがに服なら盗む意味がない」


 つまり選択肢は一択だな。

 だとしたら俺はこいつを殺してもいいくらい怒っていいわけで逃がすつもりもないってことだ。


「お前な、俺の嫁が穿いてたパンツ盗むとか最低だな。変態で最低で嘘つきなんて救いようがないぞ」

「た、頼む命だけは!」

「いや、俺の猫に手を出した時点で処刑確定だ。んー、でも殺すとナハトが騒ぐしな」

「な、なら!」

「社会的に死ね」


 俺はそう言って腕を振り下ろす。

 ああ、もちろん殺すつもりだやってないし変態で最低で気持ち悪い男の肉なんて喰うつもりにもなれないから爪に血肉を付けるつもりもない。

 これは服を裂くためだけの簡単な仕事だ。

 俺の爪が触れた先から服は破けて辛うじて身に付けている状態になる。

 それこそ、風に吹かれただけで持っていかれるレベルだ。


「…………たぶん回収してもいらないだろうな」

「なっ!」


 エルのパンツは男の腹の辺りから出てきた。

 さすがにこんなの持って帰ってもエルは二度と穿きたがらないし俺が穿かせたくない。

 かと言って男にあげたくもない。

 故に俺はぽいっ、と投げ捨てたふりして男が拾おうとした瞬間に燃やした。

 固定されてなくても指定した物質を燃やすくらいは簡単だ。


「じゃあな、ナハトに連絡しとくから懺悔でもしとくんだな」


 俺は捨て台詞を残すと巡回していた騎士団の人間にナハトへの伝言を頼み、道端に転がっていた男を連れていくように言った。

 それから家に戻るとエルとハツネが困った顔をして待っている。


「ん、どうしたんだ?」

「あ、おかえりなさい。あなたがいない間にエルの下着が盗まれたのよ」

「ご主人ごめんなさい。持ってかれた」


 ああ、なるほどな。

 何かしてる最中に盗まれたってことか。


「持ってた奴は今頃捕まってるだろうし気にするな。殺しはしなかったけど生きてはないだろうしな」

「あなたって時折、本当にたまにだけどえげつないことをするのね」

「嫁に手を出したら万死、当然だろ?」

「これでよくエルに手を出そうなんて考える輩がいるものね」


 まあ、それだけエルが可愛いんだろうな。

 誉められて悪い気はしないがほいほい獲物にされるのはあまりいい気分ではない。

 かといって見せしめに殺したりもできないからな。

 やっぱ地道に潰してくしかないのか?


「そういえば仲直りしたんだな」

「うん。ハツネ友達になった」

「友達ってあなた勝手に! まあ、別に構わないけど……」


 二人の楽しげな会話を見ていた俺は安心したが、それと同時にあの二人が話していたことが頭を過る。

 後天性の力、か。

 ハツネ、お前は自分が過去に何をされたのか本当に覚えていないのか?

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