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銀狼の飼い猫  作者: 厚狭川五和
イベント「2020/ジューンブライド」
14/18

【イベント】『狐の嫁入りなんて猫には関係ありません』第2話「断罪の狐と嫉妬の猫」

 少しくらい、ほんの少しくらい悪の心を持った存在でも信じてみようと思った。

 私は何かしらの過ちを犯したのだと、そう考えて変わろうとした矢先だったのだ。

 やはり人の心など推し量れるものではない。

 私の器が小さいから?

 それとも相手が神様でもなんでもない異種族だから?

 もしくは私が恋愛なんて知らないから?

 いずれにしても私の目から見れば明らかに異様で、悪質で、罰せられるべき光景だったことに間違いはない。


──sideファング。

「にゃ、にゃっ……!」

「ほら頑張れ~。あと少しだぞ~」

「……………………」


 エルの頑張っている声と赤く染まってきた顔に動く度に散る汗が俺に伝わる。

 そんな状態で汗もかかず応援するだけの俺は薄情かもしれない。

 しかし、そんな俺が一番心を痛めていることを理解してほしいし、この光景を見ている人間がいるならば勘違いすることの無いように理解を示してほしい。

 俺は何もおかしなことはしていないということを。


「昼間から盛んになってるのね」

「ん、ああハツネか。昨日ぶりだな」

「普通に返事を返さないでもらえる!? 私は朝から行為に励むような狼とは挨拶をする気なんてないから!」

「今の挨拶じゃなかったのかよ」


 まあ、挨拶にしては軽蔑の込められた素晴らしい言葉だったようにも聞こえたな。

 とはいえ途中だから終わるわけにもいかない。

 俺はハツネを無視してエルの相手を続ける。


「だぁかぁらっ! 私の前で破廉恥極まりない行為はやめてくれないと言ってるの!」

「うるせえ女狐だな」

「うるさいって何よ! ここは公共の場なの! 皆から見られるかもしれないって弁えてるの!?」

「何を弁えるんだよ」


 俺は腹が立って一度エルから少しだけ離れてハツネの方を見る。

 別に変なことはない。


「女の子を半裸にして朝から盛んに腰を振ってたじゃない!」

「やっぱエロ狐だな。エルとかノルンみたいな若い奴よりも想像力があるらしい」

「誰が老けてるのよ!」

「誰もそんなこと言ってねえから喚くなエロ狐! まったくエルのダイエットの邪魔しやがって……」

「あなたのダイエットの間違いじゃない?」

「俺のどこが太ってんだ? いい加減にしねえとてめえの尻尾むしってレクセルに珍しい素材だって売り付けるぞ!」


 粗方どちらも言いたいことを言い終えて落ち着いた頃、俺は仕方ないから事情を説明することにした。

 勘違いされるようなこともなかったから俺に非はない。

 とはいえ勘違いされたのも事実。説明せずに勘違いされたまま俺がヤバイやつだと思われるのも嫌だったのだ。


「せっかく俺の好みの体型に保ってたのにエルがつまみ食いしすぎて太ったからダイエットさせてたんだ」

「エルの全てに惚れたとか言ってなかった?」

「それとこれとは別だ! 俺は飼い主なんだからエルに常々可愛くいることを求める権利がある」


 今考えたら横暴だな。

 でも互いに依存し合ってるわけだしエルのことを心配してるが故の行動から許してほしい。

 ほら『破壊』を司る猫が巨大化したらさ、可愛くないだろ。


「とにかくエルに運動させるにも最近は天気がいいわけで暑いんだから具合悪くしないように脱がせるのは当然だろ? 別に俺しか居ないんだからエルがどれだけ露出してようと気にしなくていいだろうが」

「さすがに下着姿は危なくない?」

「その方が俺もやる気でるし」

「趣味悪い」

「好きな女の身体見たくて何が悪いんだよ! そりゃあ頑張ってる姿も可愛いけど恥じらいながら頑張ってる方が気分的にいいだろうが!」


 あ、俺って意外とどうしようもない変態なのか?

 いやいやそんなことはないはずだ。

 可愛い猫は何をしてても可愛いけどただ頑張らせたって俺に内緒でつまみ食いしまくって太った罰にならないし脱がせることで意味が出てくるんだ。

 何よりエルが暑さでぐったりしたら困るのは俺だ。

 そう、これは俺の偏った思考で導きだした行動ではなくエルのことも考えて決めた方法なんだ。


「それで、下着姿なのはあなたの趣味として何でエルのダイエットであなたが腰を振ってるの?」

「は?」

「いや振ってたでしょ。そりゃもう最中ですと言わんばかりに振ってたでしょ!」

「ちがうちがう、エルが腹筋してるの押さえようとしたら必然的に俺も動くんだよ。はっきり言って普通の人間なら押さえられなくて転んでるレベルだ」


 そう、腰を振っていたのではなくエルのパワーに負けないよう浮いてしまった腰を何度も地面に戻そうとしていただけなのだ。

 この猫のパワーは本気を出したら俺よりも強いからな。

 たしかに何度もエルの身体にぶつけるような感覚はあったが意識はしてなかった。意識なんてしてたら今にもエルを襲ってしまいそうになるのだから。

 と、俺が誤解を説明しているとエルはハツネの質問攻めにしてくる態度が気にくわなかったのか頬を膨らませると俺とハツネの間に割って入った。


「文句ばっかり」

「なによ、私は別に……」

「ご主人に文句ばっかり。ご主人はエルのご主人なの! だからあなたに文句言われる筋合い無い! それにご主人がエルにどんなことしてようと勝手でしょ!」

「噛みついてくるけどあなた細身よね? こんな小さい身体しておいて心配するなとでも言いたいわけ?」

「だめ! ご主人はエルの!」


 なにか勘違いしてるのか?

 ハツネは俺に文句を言ってるだけで別にエルから俺を取り上げようとなんてしてないぞ?


「ご主人、ハツネなんか見ないでエルのこと見て」

「別に余所見なんてしてたつもりないんだけどな」

「ちょっ! 人前で何してるのよ!」


 何って毛繕いだが、と答えるまでもないので俺は視線で伝える。

 今日のノルマは達成しているし無理にエルを運動させて具合を悪くしたり、健康でも筋肉質になってしまったら俺としては運動させたことを後悔するレベルだ。

 故に切り上げるからこそ毛繕いしている。


「エル、さすがにハツネに怒ってるのは分かるが外で変な気を起こすな。俺だってエルの声を誰にでも聞かせたくない。だから今はダメだ」

「むう…………ハツネにご主人といちゃいちゃしてるの見せつけたら帰ると思ったのに」

「もういいわ、なんか怒る気も失せたし……」

「…………にゃっ(どやっ)」


 いや、そんな勝ち誇ったような顔をされても。

 俺はエルをそれなりに綺麗にすると服を着させて定位置……俺の胡座をかいた足の間に座らせる。

 ハツネは文句を言いに来たのではなく俺に会いに来た。昨日はほとんど辛辣な態度ばかりを取っていたから仲良くしたいというわけでもなさそうだし理由は別にあるのだろう。

 故に話を聞く姿勢を整えたのだ。

 エルは俺の足の間にいれば大人しくなる。

 暴れる=拘束されて悪戯される、と分かっているからこそ大人しくなるんだ。


「あの、あなたも服とか着てくれない?」

「別にだらしない身体はしてないから隠す必要もない。それに運動して暑かったから涼ませろ」

「ほんと調子狂う狼……」


 別に全裸でもなければ問題ないだろう。

 さっきから文句を言われたからエルには服を着せたし俺は別にパンツさえ穿いていれば問題ないはずだ。

 それに他人が気にしすぎだろう。


「ねえご主人、ハツネ殺していい?」

「俺の猫が物騒なこと言うなよ。せっかく可愛いのに牙剥き出してどうすんだよ」

「だってハツネご主人に欲情してる」

「してないわよ!」


 エルの発言もどうかと思うが慌てすぎじゃないか?

 まあいい。とりあえずエルが殺気立ってきているから嘘とかは吐かせないようにしないと。


「その、あなたに頼みがあって来たの」

「ご主人はエルの……ふにゃっ!」

「話が(こじ)れるから少し黙ってような? 尻尾握っててやるから」


 ハツネが一言口を開けば追い討ちを掛けようとする猫の尻尾を掴むと顔を赤くして大人しくなった。

 当然だ。エルの二番目に触られるのが好きな場所だ。

 こうしていれば無駄口を叩こうとはしない。

 エルにとっては尻尾や耳を無遠慮に触ろうとしてくることは自分の所有権を主張されていることと同じらしく、それ即ち俺に求められていると考えるらしい。

 まあ、本人がそれで良いなら気にしないが……。


「お前の過去についてか? それなら生憎と俺はここの世界の住人で、しかもその辺にいる子供と大差ないくらいしか生きてないから難しいぞ」

「ううん、過去は自分でどうにかしたいと思う。ただ、少しだけ相談したいというか、独りぼっちになりたくないというか」

「なんで顔赤いんだ?」

「べべ、別にどうだっていいでしょ! と、とにかく話を聞いてもらえる人がほしいのよ!」


 言いたいことはわかる。

 たぶん自分が他の世界、もしくは他の時間軸から来たと知ったところで誰かに話しても信じてもらえない。

 それは俺やエルだって承知している。

 シオンのような魔女やエトのような竜も存在していなかったはずだがアンセムによって存在していることにされたため人間は違和感を覚えなかったが俺とエルは別だ。

 逆に存在していたはずなのに存在を知られていなかった。

 ハツネはまあ、生い立ち的には前者に該当するが種族的には俺やエルに近しい。

 故に、積極的に相談するのを恐れる気持ちは分かる。


「孤独は嫌だ、その気持ちは俺らも知ってる。別に相談も聞いてやるから気軽に来ていいぞ」

「え? そんなあっさり……」

「別にあーだこーだうるさかったのはお前が初めてじゃない。それに俺はエルとの関係を否定したり壊そうとしたりする輩でもなければ毛嫌いする理由もないし」


 まあ、野放しにはしないけどな。

 最近はこの国の人間も俺を祝福してくれるというか応援してくれるような雰囲気があるから狙われることはまずない。

 だからうるさくても心配してくれてるのだと思えるようになった。


「その、今日ここへ来たのは私について少なからず情報を持ってるあなたに協力してほしくて来たの」

「協力?」

「どちらかというと私の疑問に答えを出してほしいというのが正しい。理解者から助言が欲しいって意味よ」


 それは別に構わないが理解者と呼べるのか?

 俺が知ってるのはハツネが異世界の住人で、何かしら役割を背負っていて、確実に孤独であること。ある程度は話を聞いていれば誰でもわかる話だ。

 しかし、それでも信じると?

 俺はハツネが本気なのか確かめるためにわざと相手を殺すような眼差しで睨んだ。


「俺は敵かもしれないぞ?」

「そうね。私からしたら敵みたいなもの。それに情報を握られているなんて怖くて仕方ない」

「…………敵って言いきるんだな」

「私には悪質な人間と善良な人間を見分けることができる力がある。その目で見るならあなたは悪意を具現化したような存在で私が消さなければいけない存在よ……」

「へぇ、面白いこと言うんだな」


 実際のところハツネの何が俺が悪が善か判断しているのかは知らないが俺のどこを悪と判断したかは予想できる。

 初日の他人を威圧するような態度。

 エルという身体が小さい女を飼い慣らしてること。

 それに節操無いくらいエルと戯れていることや俺が見えないところでどれだけ生き物を殺してきたか見据えているのだろう。

 その点では正解だ。

 俺は間違いなく悪でいい。他人のことを見下し自分の意思だけで少女を懐柔し欲望に忠実で、自分のためだと他の生物を躊躇なく殺せる、そんな奴は悪だろう。

 でも本人に言えるのはハツネが強いからに他ならない。


「俺が逆上するとは思わないのか? 最初からお前は俺に対してこれでもかというほど悪態をついて、その上で頼みごとをしてきたにも関わらず敵だなんて言って怒ると、そう考えないのか?」

「…………」

「お前を脅して従わせるのもエルのように逆らえなくするのも殺すのも簡単なんだぞ」

「やろうと思えばできる、というのは実際にはやる気のない人間の言葉よ。私を従わせようとすればエルが怒り、逆らえなくするとは言っているけどエルはあなたに心酔している。殺すと言っておきながらあなたは私を警戒している。悪意を着せるのが上手いみたいね」


 さすがに認めざるを得ないな。

 俺は本物の悪で上から「悪態」という衣を着せていたというのにハツネはそこまで見分けていた。

 この力は本物で、ハツネの信頼も本物だ。


「とりあえず覚悟もあるみたいだしお前はそう簡単に力の使い方を間違えないだろうな」

「……私はその自分の力に疑問を抱いてるの」

「は?」

「私はあなたを紛れもなく悪だと言った。けれど、あなたは悪を着ているだけの善…………いいえ? 根は完全な善によって作り出されているかもしれないのよ」


 つまり何が言いたい?

 間違ってないから俺はハツネの力を肯定したわけで、俺が肯定したから「この力は間違ってるかも」なんて考えたのか?

 それなら明らかに腹立たしい行為ではあるが……。


「おい! 突然はだけるな!」

「この首から下げている石……私の知っている言葉では勾玉と呼ばれていたけど、この石がそれを判断してる。だからその判定を信じて良いのか、私は分からないのよ」

「ハツネ、触ってもいい?」

「べ、別に私の一部ってわけでもないんだから好きにしたら!?」


 エルは何かを感じたのか俺に許可を求めるよりも先にハツネに許可を得て彼女の首から下げている緋色の勾玉という特殊な形をした石に手を触れて調べ始めた。

 大きさとしてはそこまで大きくはなく簡単に飲み込んだりできるような大きさである。


「ご主人、これに魔力は流れてない。魔道具みたいなものじゃないからハツネは嘘吐いてる」

「ちょっと!」

「いや、エルは自分の体内に膨大な魔力が流れているからか他人や物に宿っている潜在魔力を感じることができるんだ。それが一切感じ取れないなら魔力は本当に流れてない」

「…………っ!」

「でもハツネは嘘を吐いてない。それはさっき俺が脅して確認したんだから間違いない」


 エルは魔力に敏感だ。

 故に敵の接近にもいち早く気がつくことができるし俺の魔力が枯渇していたりして魔力を供給したいと感じるとエルの方もそれを理解しているのか聞いてくれる。

 そんなエルが読み取れない魔力がある?

 いや、それはないんだ。

 ハツネと同じように異世界出身と考えられる魔女のシオンや悪魔のヴェルゼの魔力の流れは見えていたのだから見分けられないことはない。

 だとすると力を使う瞬間にしか流れない?

 たとえそうだとしてもエルは一度魔力が流れた痕跡があるかどうかを確実に見つけるのだからあり得ない。

 俺の浮気探知もエルはその魔力の流れを確認しておこなっているのだから。


「なあ、一つ確認したいことがある。覚えていたらでいいんだがハツネは明るい場所で生きる方だったか?」

「何よその質問。ま、まあそうだったかもね」

「光的な意味での明るいじゃないぞ」

「わ、わかってるわよ! どちらにしても暗い人間も来るけれど場所自体は明るかったの!」


 これで確信した。

 ハツネに魔力が流れていないのは当然だ。

 だって「魔に属する者」ではないのだから。


「ハツネ、もしかして神とか天使とかそっち側の存在だったんじゃないか?」

「…………そうだったかもね。それなりに人間に慕われてたし、この力は善悪を見分けるためというよりも善の心を持った不幸な者を救うためにあったみたいだし」

「エルは?」

「お前は俺だけの天使」


 最近のエルは話の腰を折るのに慣れてきてるな。

 いや、俺がハツネに神とか天使とか誉めるような表現を使ったから嫉妬したのだろう。


「この力はきっと人を救うためにあった。だけど、最近は人を苦しめてるような気がして……それに、私が悪と判断して罰した人間は等しく涙を見せていた。だから本当に悪だったのか、と疑ってしまうの」

「ハツネ、それちがう」

「どうして?」

「人間は当然悲しくても、苦しくても泣く。でも嬉しくても、楽しくても喜ぶときですら泣く。エルは一人になった悲しみも苦しみも知ってて泣いたし、でもご主人と再会して好きって言われた時も嬉しくて泣いた。ご主人が性癖こじらせてエルのこと食べようとした時も恥ずかしかったけど楽しいから泣いた」


 おい、余計なこと言うな。

 それに喰おうとしたんじゃなくてお前のこと綺麗にしてやろうとだな?

 まあ、たまに喰うけど……。


「エルもご主人も人間じゃないのは知ってる。でも、マッドな研究者に人間の心を与えられたのも事実。そんなエルが言う。人間は感情なんて定義で語れない矛盾の生き物。嬉しくても泣いて痛くても笑う。怖くても挑み、余裕と知っていても警戒する曖昧な生き物」

「私に何を諭そうとしてるの?」

「つまりどんな場面でも泣ける奴は泣ける。自分は悪だと知っていながら死にたくないがために涙を見せて同情を買おうとした可能性があるだろ?」

「でも…………」

「自分で過ちを理解して後悔する人間なんてごく一部だよ。気がつくまでに何人の人間が死ねば分かるのかって奴もいる」


 俺も、その部類だったんだろうな。

 あの時、俺がすぐにアンセムの研究を阻止していれば犠牲者がここまで大きく……いや、そもそも俺が産まれてこなければ奴の研究は頓挫してたはずなんだ。

 だというのに俺はエルを選んで逃げた。

 もちろん、それが不正解だとは思っていない。

 一目でエルに恋をしたから選んだというのは紛れもない事実だったがそれは単に俺が奴の完成品であるが故に同じ完成品であるエルに魅力を感じたのだ。

 結果としてアンセムは終止符を打てずにいる。

 だから過ちに気がつくのが遅い奴も早い奴もいるし、気がついても後悔する奴と後悔しない奴がいる。

 ハツネの場合は後者を引き当てていたのだ。

 こいつは性格には出さないようにしているがお人好しというか助けなければいけないという使命感に駆られるばかりで相手の素性を詳しく見ようとしなかったのだろう。


「気に病む必要はねえよ。それにお前がその誰かさんを殺したことで救われる奴はいなかったのか? そんなお前だけが慢心で気持ちよくなるためだけに正義を振りかざしたのか?」

「そんなわけないでしょ!」

「いいんだよ、それで。お前の本心はちゃんと残しとけ? 誰かのために行動したってことを忘れたら、それこそお前自身が悪側の存在になっちまう」

「…………まさか悪側に説教されるなんてね」


 ハツネは勾玉を服の内側から出してはだけていたのを整える。

 さすがに視線を向け続けるわけにはいかないと思っていた俺としてはありがたい。


「この石は私のいた世界では神器と呼ばれていて神様が力を顕現する際に用いる道具よ。神様によって物や形は様々だけどね?」

「じゃあハツネの善悪を見分ける『断罪』の力は魔力に関するものじゃなくて()()によるものなんだな?」

「そう。そして、私が請け負った役割は知らないけど今の私が求めているのは居場所だと思う。結局は前の世界では私の信仰が廃れてしまったのはもちろん追い出されてしまったから居場所が欲しいのかもね」

「居場所ならテキトーに……」

「そういう居場所じゃない。神様でいるのも飽き飽きしてきたし私も家族というものが持ちたいのよ。向こうでは晴れているのに雨が降ることを()()()()()というのよ」


 たしかにエトが雨が急に降りだすかもしれないなどと空を見て言っていた。

 それがもし天気雨のことなら……。


「そ、それなら早くお前に似合う旦那さんが見つかればいいな」

「何言ってるの?」

「へ?」


 俺は冷や汗をかく。

 応援してやったらふざけるなとばかりに睨まれて、つまり探すのを手伝えとかそういう意味の「何言ってるの?」ではないことくらい簡単に察しがつく。

 そして、その言葉はエルの前で言われるとかなり都合が悪い。


「あなたがなってよ」

「はぁぁぁっ!?」


 いや、俺にはもう嫁がいるんですが!?

 もはや一生の付き合い前提でいつ子供ができてもおかしくない関係の嫁さんがいるんですが!?


「エル、頼むからそんな目で見ないでくれ」

「ご主人って何で好かれるの?」

「普通に傷つくんでやめてくれますか?」

「エルだけがご主人のこと好きでいるって決めたのにどうしてこうなるの? エル何でもするよ。ご主人と寝るしご飯だって作れるようになるしご主人のペットもちゃんと演じられる。言ってくれれば好きな時に交尾だってするよ?」

「あの、エルさん。怒ってるのかもしれないけど俺は何も悪くないんだが?」

「面倒見るって言ったんだから責任持ちなさいよね」


 いや、相談を聞くとしか言ってないし。

 俺はエルのことが一番大切なのにどうして勝手に修羅場が展開されていくんですか?

 頼むから誰か助けて……。

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