第157話 ヒロイン育成計画⑱
———都内某所
ザザザッ ザザザッ
歩を進める度に手に持ったレジ袋が揺れて音を奏でている。
マイバックを持つほど所帯染みてはいないし6人分のお弁当と飲み物と考えると手ぶらで運ぶのも難しい。
(朝はパンだったから昼はお弁当にしようと思ったけど……女の子なら軽めにおにぎりとかにしておけば良かったな…)
そうすれば体積と重量も減らせて重たい荷物を持つ労力も削減できたというのに……
フォーーーーーン———
何かが頭を過ぎったシグナル。
能力が発動したため集中するために動きを止めた。
体は止まっていても吹く風でレジ袋と白衣はバサバサと震えていた。
「…………ほぅ、面白いな」
まさかこういう形で戦うことになるとは…
だが先程の彼女といい、直接目で見て肌で感じるのが手っ取り早い———
———大島総合病院 12階
———ムクッ
しばらく倒れ込んでいた枚方であったが、病室が静かになったタイミングでゆっくりと起き上がった。
……………
4人の覆面集団が床に倒れていて少し気味が悪い光景になっていた。
「……桂西、敵はもういない。出てきていいぞ」
「………」
ガラガラガラ
ズザザッ
何かを引き摺りながら桂西が病室の外に出た。
「うわぁ、4人も足止めしたんですね。さすがです。おかげでやりやすかった」
引き摺っているのは覆面の男、会話の内容からして病院を襲撃したリーダー格だ。
「数の優位、たった1人の護衛の戦闘不能。勝ちを確信するなというのが無理な話だ。あの状況で伏兵がいるとは思うまい。2人入っていれば結末は変わってただろうが…、そもそもこの病室にいないんだから問題ない」
無茶な体勢での攻撃だったが顎にヒットし脳を揺らしたおかげで気絶してくれたようだ。
桂西なら不意打ちで1人、純粋な戦闘能力でもう1人を倒すのは難しくなかっただろうがより確実で安全な結果となった。
「とりあえず縛り上げますか?彼等、ご丁寧にガムテープを用意してくれてましたよ」
甘い物の差し入れをした神原と麦島であったが、その中にガムテープが含まれていた。
通常の入院患者への見舞いでガムテープなんて不要だ。
彼等が病院に来てからこのガムテープの使用に至るまでの全てが計算通りということだろう。
桝飛セキュリティサービスの力を信じた上で……またはそれくらい出来て当然とばかりの差し入れだろうか。
おそらく彼らもガムテープを持っているはずだ。追ってくるであろう駄愚螺棄を拘束するために……
全部が神原達の頭の中の通りに動いた。
あの通信機は想定外だったろうが、より彼等の作戦を推し進めることが出来るだろう。ここまでは通信機がなくても出来ることだから、きっとまだ何かをしてくれるはずだ。
「拘束具は持ってなかったから助かったな。とりあえずまだそこで呻いている奴から拘束しよう。……もう時間的にも限界だな。警察も集結しているだろう」
ビビビビビとガムテープを伸ばして駄愚螺棄の腕に巻きつける。5人の手首と足首の拘束なら足りるだろう。
桂西が巻き付けながら枚方は他の駄愚螺棄の人員が目覚めないかを警戒していた。
ビビビビビ
狸寝入りをしていれば分からないが、病室にいないとカマをかけても反応はなかった。眠っている連中は本当に気絶している。警戒は不要だが超能力の存在を知ってしまった以上はあらゆる場面に備えなくてはならない。
彼等を気の緩みで倒したように、自分達も気の緩みで足元を掬われてはならないのだ。
———
全員の拘束が終わった。覆面も脱がせて1箇所にまとめた。
ウーーーーウーーーウーーー
「サイレン……結構な数のパトカーだな。時間切れだ」
病院襲撃から経過した時間を考えれば警察官が大量に流れ込んでもいい頃合いだろう。
駄愚螺棄による大島病院襲撃は終わった。目的が絶対に達成されることのない成功率0%の戦い。
無謀を遥かに超えた無駄な争い。駄愚螺棄には同情してしまう。
「……皮肉なことですが、一昨日誘拐されていたおかげで助かりましたね」
「仮にされていなかったとしても今より人は多いんだ。万に一つも誘拐されることはなかっただろうよ。だが、たった5人だから助かったんだ。もしも駄愚螺棄が警察や謎の連中と結託してもっと狡猾に攻め込んで来ていたら…分からなかったな。一昨日のように窓ガラスからショートカットしてれば桂西、お前1人じゃ捌ききれなかったと思うぞ」
「そうですね。でも裏を返せば駄愚螺棄はどちらとも繋がっていないということでしょうか?確実に神原への有効打になりえる場面で協力しないはずがないと思うのですが……」
「薄くはなったが0にはなっていない。入念な下準備が整う前に駄愚螺棄が暴走した。彼らが病院に来たから我慢できずお手つきしたとも考えられる。……まぁそんな馬鹿なことをする連中と結託するわけないから繋がりはほぼないだろうな」
神原奈津緒らが話していた虹色ネイルの女。超能力を持つ女。彼女が駄愚螺棄を使って伊武祥菜の誘拐を企てた。
失敗するやいなや切り捨てて記憶を消した。そして豊橋刑事は警察内部に超能力関連の事件の捜査を中止するように圧力が掛かったと言っていた。
超能力と警察が裏で繋がっている。
ヤクザが警察と繋がっているというのはドラマの世界でもある話だが、超能力者と繋がっているなんて、あり得るのか?
「………駄愚螺棄は警察に引き渡しても問題ない…でいいんですよね?」
「……あぁ、答えが分からないがここから彼らを連れ出せないんだから襲撃犯として警察に渡すしかないな……シッ!誰か来る!」
12階に響く足音。
少しずつ大きくなっている。この病室に向かって来ているようだ。
「「…………」」
足音は………1人。
駄愚螺棄ではない。今このタイミングで来るはずがない。
病院の上層部…の可能性もあるが自室に鍵を掛けて閉じこもっているはずだ。身を挺してまで来ないだろう。
超能力者か、警察か———
足音からして右折する。
そうすれば顔を拝める。
コツッコツッ———
見えた
覆面はしていない。
白衣を纏ってもいない。
警察官の青い制服でもない。
黒いスーツの男性だ。
虹色ネイルの女でもない。
見たことのない顔。
豊橋刑事でも伊武三成議員でも秘書の隠岐でもない。
伊武議員の関係者。警察の刑事。超能力の関係者。その他。
第一声で凡その分類が可能だ。
2vs1だが敵でないと嬉しい。
———
男が2人を視認した。
その壁に一列に並んでいる駄愚螺棄の構成員もチラリと確認した。
「………」
「「…………」」
何も言って来ないのが怖い。
男が歩みを進めて2人の正面1.5メートルまで近づいた。
まだ誰なのか特定できない。もしも超能力者であるのなら、既に何か仕掛けている。
記憶の消去、機械の操作
枚方と桂西はその2つしか知らない。神原奈津緒、麦島迅疾がどんな能力を有しているのか話されることはなかったからだ。
超能力と聞いて連想できるスプーン曲げ。いわゆる念動力というだけでも数の優位は簡単に覆る。
敵ではないこと。戦うこともやむなしとなった場合、果たして善戦できるのか。
「………なるほど。失敗したわけだな」
最初の一言で特定できるはず。そう思っていたのだが固有名詞一つ出て来ないのでは特定は難しい。
失敗と言っているのだから拉致計画を知っている者?駄愚螺棄とも超能力者とも警察ともどれでも受け取れる。絶妙な言い回し。意図的に伏せて話しているようにさえ思える。
迂闊にこちらが喋って情報を与えるわけにはいかない。
((………どっちだ?))
♢♢♢
———都内某所 廃ビルの4階
ググググググ
強い圧迫感が4人を襲う。身動きが取れない。
侵入者がいる!
狙いはドクターの持つ『超常の扉』に違いない。
ドクターの『確実達成』であれば侵入者に勘付いて逃走する選択肢もあるが、この廃ビルには伊武祥菜がいる。
伊武祥菜に一切の危害を加えずに神原奈津緒の元へ返す。これが神原奈津緒との契約の一つだ。
侵入者と伊武祥菜を鉢合わせてはならない。
それに、ドクターは外出中だが『超常の扉』をこの廃ビルに置きっぱなしにしていたら?
ドクターがそんな雑な管理をしているはずがないが、万が一がある。
ドクターの作業部屋と伊武祥菜の滞在している部屋は両方5階にある。5階には絶対に行かせない。
侵入者の所在は全く分からない。重力を扱う能力者ということしか現時点での情報はない。
侵入者を見つけ出すにもまずはこの重力によって床に伏せさせられている状態から脱しなくてはならない。
「1番扉に近いのは……実録か」
階段へ繋がる扉から実録、丹愛、市丸、零の順番になっている。
『隠れ鬼』の自分ではそもそも侵入者への対処は難しい。
顔を一目見れば能力が続く限り監視することは可能であるが、それは後に重宝される。今の侵入者への対処には支援系の『超能力』は不要であった。
実録の『氷鬼』であれば侵入者の動きを固定することができる。
一度止めてしまえばこちらの勝ちだが、そこに至るまでが難しい。
ここは遠距離攻撃が可能な市丸、丹愛を何とか動かせるようにしたい。
「市丸、丹愛。どうだ動けるか」
「は、這って進めば何とかなるけど…」
「這う体勢じゃないからまずはそこまで体を動かさないと……グゥゥッ。圧殺されそうでそれどころじゃないよぉ」
うつ伏せであれば匍匐前進にシームレスに移行できたが、皆立っていたか腰掛けていたため上からのパワーに対してなすがままに突き落とされた。
仰向けで芋虫のような抵抗しか出来ないというわけではないが、うつ伏せになるために最低でも4分の1体を捻る必要がある。それすらも過重力は困難にしていたのだ。
腕や足が交差していてその箇所が痛い。サンドされている手足にビキビキと荷重が加わっている。
まずは動くためのうつ伏せ状態になるための捩れを解消する。この過重力の中で———
体が動かせないなら使えるのは『超能力』だ。『氷鬼』と『隠れ鬼』は有効打がない。
『色鬼』か『氷鬼』のどちらか。
(『高鬼』は厳しいか。触れた物を自身より上に持っていく必要があるが、この重力の中で上に投げ飛ばすのは不可能だ。市丸の『色鬼』は触れるだけで条件を満たすから最適だが……)
「市丸、何か『色鬼』で発動できるものはあるか?」
「えっ?でも俺の『色鬼』は単一色じゃないと発動しないから人間を引っ張ったりは出来ないぞ」
「そうじゃない。とにかく動ける状態に体勢を直せれば良いんだ。お前の手の届く範囲で操作できるものでアクションを起こさないとこのまま永遠の眠りについちまう」
「ごめん市丸兄。今のままじゃ『高鬼』の発動条件を満たせない…」
「と言っても俺の『色鬼』じゃ時間制限が……『高鬼』なら時間の制約はないのに…」
『色鬼』
触れて宣言した色が大多数を占める物体を最大1分半操作する。
同じ色を続けて操作することは出来ない。
『高鬼』
触れて自身より高い位置に運んだ物体を操作する。
自分よりも低い位置に移動したら操作効力は切れる。
操作可能時間で見れば『高鬼』だが、今回のような特殊なケースでは不利だ。
市丸の『色鬼』なら道具さえ手元にあれば触れるだけで条件を満たせる。
そして市丸は常に能力発動に有効な道具を携帯している。それは府中動乱の時のように現地調達では不測の事態に対応できないと理解させられたからだ。
なので携帯しているのだが、アジト……つまり自宅の中で常に携帯している物には限りがある。押し潰された体勢からして精々ポケットを弄るのが関の山だ。
(くそっ!トレーニング用のリストを何十個も取り付けられてるみたいだ…。指を動かすのに体力を消耗する…)
じっとしていても重力で体はダメージを負っていく。
侵入者への対処を可及的速やかに行わなければならないが、自分達の体力的にも時間は限られている。
カチン
「あっ……」
「どうした?何か見つかったか?」
この硬い材質。ポケットに入れたままだった。
いや、入れたままだったというのは嘘だ。常に能力発動に使える道具を持ち歩いているが、これは常時所持するにはリスクの大きいものだ。
怖くなったのだ。
滝波夏帆の『超能力』によって『色鬼』が発動出来なくなったことが…。
超能力者への絶対的切り札を手に入れた彼女。滝波夏帆が体術に優れていなかったとしても、自分の絶対的自信のある手札を破壊されたのだ。
思わず手持ちの中で1番殺傷能力のある道具を欲してしまうのはおかしいことではない。
相手が滝波夏帆と考えると情けないムーブだが、この状況においては大事な道具………いや、武器だ。
神原奈津緒襲撃でも使用した銀単色のナイフだ。これなら侵入者にも対処できる。
「ナイフが入ってた。他にもいつも持ち歩いている他色のがあるからナイフを使って侵入者への牽制は出来る……けど…」
『色鬼』の1つ当たりの操作可能時間は1分半だ。1分半で侵入者を撃退する。いや、そもそも『色鬼』は精密な動作が出来ない。ここから部屋の外までナイフを飛ばしても、視界外では覚束なくて最悪時間内に手元に戻せなくなる。
ズシズシと体が圧迫されていく。
廃ビルだからか床に重みが伝わってギシギシ音を立てている。体力の問題もあるが重さにビルが耐えきれない可能性も出てきた。
(ナイフと小道具レベルのもんでこの過重力から抜け出せるのか…くそっ…わかんねぇ)
とにかく行動するしかない。ナイフに触れて宣言する。
「『色鬼』、銀色っ!」
♢♢♢
ウーーーウーーーウーーーウーーー
パトカーのサイレンがけたたましく響く。
ヒューザ川崎前広場は大島総合病院から遠く離れていないがここまで遠くまで聞こえるということはもうタイムアップだ。
穂村のスマホに一通の連絡が届いていた。電話ではなくショートメッセージだ。
簡潔に「失敗しました」と書かれていた。
これを古坂に伝えるのは正直めんどくさい。八つ当たりされるのは目に見えている。
だがそんな役回りをやることもなく、古坂は己の敗北を痛感していることだろう。
"なつお"の消息が絶たれ、未だ誘拐成功の連絡が来ない。古坂のスマホにも一切の連絡が入っていない。
完全なる敗北であった。
「…………古坂さん。時間です」
「………」
ボスに無断で人を動かした。
警察に捕まった構成員がいたらいよいよ責任問題になる。全員が撤退してくれてると良いが、"さちな"の病室まで進み込んだ者はもう出られないだろう。
逮捕者0には出来ない。自分も巻き添えを食らいそうで嫌な気分だ。
「警察が来ます。取り調べまでラグはあると思いますが、馬鹿が道連れに古坂さんがここにいることを言わないとは限りません。心中お察ししますが、一先ずはここから撤退するべきです。あなたまで捕まってしまったら稀中の比にならないくらいに駄愚螺棄はダメージを受けることになります」
古坂を組織の序列で見ると上から数えた方が早い。稀中も同様だが古坂は参謀としてより上の位に位置している。
組織のブレーンが高校生に負けて捕まったなんてことが世間に知られてしまったらいよいよ駄愚螺棄の立つ瀬がない。
「……そうだな。"なつお"との賭けには負けたが、奴の言う通りに従う義務はない。奴には確実に猿認定されるのがムカつくが……組織のためだ」
(賭け?……まぁいいか)
病院側に残した人員は各人で撤退しているだろう。
"さちな"の病室まで辿り着いたであろう梔子から連絡がない。"さちな"の部屋を守る護衛がいるだろうと予想はあったが、腕利きのいい人材を起用していたようだ。
「迎えの車で帰ります?すんなり帰れるか怪しいですけど…」
「かと言って公共交通もスムーズかってっと分からないな。ラジョーナで時間潰して帰れば良い。まさか警察も犯人が近くでウィンドウショッピングしてるとは思うまい」
至極納得の意見だ。下手に逃げるような動きを見せれば後々監視カメラ等で追跡されてしまう。
周囲を見ても慌てて逃げる人はいない。むしろ馬に成り下がりたいのかサイレンのする方へスマホ片手に向かう者もいるくらいだ。
2人は広場からラジョーナへ続く一本道を進んでいく。
ごく自然にサイレンにビビっている姿を晒してはいけない———
ブーン ブーン ブーン
このタイミングでの電話。穂村ではなく古坂のスマホ。病院側の窓口は穂村であり、"なつお"追跡側の窓口は古坂だ。
その古坂のスマホからの通知ということは……
「…………蔵野からだ」
じっと発信元を見て古坂は苦々しく蔵野の名前を出した。
送り主は蔵野ではなく、一番声を聞きたくない相手だからだ。
「蔵野……ということは"なつお"?なぜ奴が自ら…………サイレンかっ!"なつお"は東京じゃなくてこっちに戻って来てる!?」
「落ち着け、動揺を見せるな。向こうは俺達の顔を知るわけがないんだ。近くにいるなら尚のこと一般人を装え」
川崎駅に戻って来ていて電話をしたということは、まだ自分達を特定できていない。
不自然に周囲を警戒する人間がいたら"なつお"や警察に身バレしてしまう。
「……ではその電話には出ないのですか?」
「出たら動きでバレる」
シュカッ
古坂は着信を切った。すぐそばにいるのなら音でバレてしまうからだ。
……着実に追い詰められている。
自然にする……と言われても追われていると分かっている中で平静を装うのは難しい。
ジェットコースターのようにずっと目を瞑っていれば終わってくれるというものでもない。努めて冷静に、キョロキョロせずにい続ける。
ピコン
またもや古坂のスマホに着信が来た。今度は電話ではなくチャットのようだ。
「…行きましょう古坂さん、早く屋内へ」
屋外では立体的に探すことが出来るが屋内であれば立体と言っても限界がある。
中央の広場には出ず、駅から直通の自動ドアから建物内に入れば屋上から双眼鏡で監視するというまさに自分達がやった行いをやり返されることはなくなる。
(むしろそうしてくれてたら撒くことが出来るんだけどな…)
高いところにいればいるだけ、屋内に入った目標を追いかけるのに時間がかかる。奴らは2人しかいない。1人が監視、1人が実働だとしても情報伝達が不十分であれば取り逃がしてしまうだろう。
無論、"なつお"に限ってそれはないだろうと穂村は感じていた。そんな馬鹿な失態をするはずがない。そんな奴ならこっちが勝っているからだ。
———ピコン
またもや通知音。しかし先程と違って古坂ではなく穂村のスマホからだった。
病院側の窓口の穂村へということは、大島総合病院にいる人間からの連絡だ。
病院側なら"なつお"からではない。ギリギリ逃げ仰せた誰かからだろう。
「………!梔子さんからです。『確保したが警察が突入して出られない』とのこと」
「!?………ちっ」
吉報のはずだが古坂は舌打ちをした。"さちな"を諦めて撤退するという決定事項に『仲間の救出』という横槍が入ったからだ。
連絡を受けてしまった以上助けない選択肢はない。それに"さちな"を連れ出せれば"なつお"を敗北させられる。
「今なら野次馬に混ざれますけど……院内に入れますかね?」
「中にいる協力者の手引きがあれば何とかなるだろう。物資運搬の搬入口みたいなのがあの規模の病院ならどこかにあるはずだ」
大島総合病院は四方が道路に囲まれている。
どこかから入れる通り道があるはずだ。そういう場所は大抵警備員がいそうなものだが、今の騒動であれば上手いこと隙を付けるかもしれない。
院内にいる情報提供者と協力しながら外への脱出ルートを指示していく。
「チャットってことは電話が出来ない状況だ。梔子の居場所と警察官の配置を教えるように伝えろ!」
「承知しました」
♢♢♢
———大島総合病院 12階
「「………」」
目の前のスーツの男は何も語らない。
こちらが向こうの正体を探ろうとしているのと同様に、向こうもまたこちらの正体を探ろうとしているのだろう。
もしも警察内部に超能力と関わりのある者がいるのだとして……、自分達の身分がバレると豊橋刑事に迷惑がかかってしまう。
個人的な付き合いだが豊橋刑事と桝飛セキュリティサービスの繋がりに気付いていてもおかしくはない。
伊武議員管轄の護衛と誤解させるように誘導したいところだが、豊橋刑事の話では伊武議員の娘が搬送されたということは伝わっていないようだ。
キュッ
床と靴の摩擦音だけ。
さっきのタックル野郎であればどれほど楽なことか。
警察関係者なら銃を携帯しているはずだ。超能力者でなかったとしても銃だけで無力化される。
この狭い場所では射線を外すことも出来ない。
「………ふーむ」
まだスーツの男は切り出さない。
……焦らして来やがる。ずっと側面を撫でられているようだ。
さながら我慢対決。目の前の男だって時間はないはずだというのに、余裕からなのか間を取ってくる。
(やりにくい。我慢できずに突っ込んでくるのを狙ってるのか?俺も桂西も超能力者相手に突っ込むことはしない。奴がそうだとして、超能力者と俺達が気付いているとは知らないはずだ。……あるとするなら、こちらの我慢が切れたタイミングでの超能力による強襲。超能力ではなく駄愚螺棄関係者だとしたら……任務に失敗した仲間の救出…。見たところ40代以上、駄愚螺棄は半グレで若い奴中心かと思ったが……いや、年齢で決めつけるのは良くないな)
ここに単身で来ている時点で年齢でフィルターしていい男ではない。
(仲間が目を覚ますのを待っている?拘束している中仮に目覚めたとしても自力での脱出は出来ないだろ。何が目的なんだ……?)
「……見たところ護衛のようだな」
「「………」」
「一昨日の一件と同じ場所……」
「「………」」
「…今日ここに、そこの連中以外の人が来たのかね?」
「「……」」
駄愚螺棄側の人間ではなさそうだ。事情を把握していないように見える。
一昨日の駄愚螺棄襲撃未遂は知っている。同じ場所という発言から窓ガラスが割れたことも把握している。
失敗したというのは、一昨日から続く駄愚螺棄襲撃を指している。
(そして…神原君と麦島君のことは知らないと……。超能力者側は神原君のことを知っているはずだから……)
この男は警察の人間
豊橋刑事が言っていた圧力をかけた側の警察官だ。つまりは敵。
キュッ
腰を落として身構える。枚方のその動作で桂西も身構えた。目の前の男を敵と判断したということだ。
「…ほぅ、答える気はないか。ならば———」
鬼束兄弟vs謎の過重力
枚方&桂西と謎の警察官
神原&麦島vs古坂&穂村
ヒロイン育成計画も終盤戦です
謎の警察官登場
超能力者なのか、そもそも豊橋刑事と敵対しているのか一切不明です
次回、素性が分かりそうです
そして鬼束兄弟に襲いかかる謎の重力
『色鬼』を発動することに成功したが上手く危機を脱することはできるのか!?
最後に駄愚螺棄の古坂と穂村
消息不明の神原達から逃げたいところに追加ミッション到来
警察巣食う病院へ向かわねばならない
果たして川崎での争いはどうなるのか!?




