第156話 ヒロイン育成計画⑰
———大島総合病院
任務に失敗する。
向こうが成功すれば失敗しても問題ないというセーフティーこそあるが、失敗は失敗。
信用を落とすことになるし次のチャンスは巡らず下っ端からやり直しということもあり得る。
腕っぷしだけで上に上がれない奴は、頭を使い与えられた仕事に対して期待以上の成果を上げる必要がある。
最後の一斉突撃。
余裕こいて数の有利で勝ち進もうとしたところを一発で戦局を塗り替えられた。
誰の手柄とかどうでも良い。4人の内の誰かが中に入ってしまえばそれで勝ちなのだ。
(…スペアを狙うんじゃなくて狙われに行かないといけないのか…)
この通路での戦いをボウリングに見立てている枚方。敵の一掃をストライクと表現していたが、次は逆だ。
奴らは残り1ピンを倒してスペアを取るも良し、ガーターにしてボールを届けるだけでも良いのだ。
扉に張り付いたのは正解だった。
ガーターにはさせず、ピンも倒さない。ボウリングの球で倒されないようにしてボールを弾き返す。現実のボウリングベースで考えれば到底あり得ない話だ。
「…昔ユーツーブで見た改造動画みたいな感じだな…」
「あ"あ"っ?」
「こちらの話だ。早くしろ。時間は限られてるぞ」
梔子達を敢えて煽る枚方。
「言われなくてもそのつもりだよ!行くぞお前ら!一斉に飛び掛かれ!!!」
「「「うっす!」」」
ダダッ
3人が駆ける。いくら彼らに武の経験がなかったとしても数の暴力で枚方は全てを同時に捌き切ることは出来ない。
取りこぼしは良い。倒れなければそれで良いのだ。
ドガッッッッ
真正面にいた男の腹に蹴りをお見舞いする。
ウブッと漏らしながら男の動きが止まったが、壁に張り付いていて力が全然乗っていない。さっきの男のように意識を奪うことは出来なかった。
追撃をする余裕もない。とにかく扉に張り付いて妨害する。妨害するだけ病室に入った後には気が抜けてしまう。病室に誰もいないという異常事態への一瞬のフリーズと気の緩み。桂西の不意打ちが気持ち良い程に決まるシチュエーション。
桂西も窓を見張っていたが、扉に枚方がもたれかかったことを音から感知して死角でスタンバっていた。
1人は止めたがもう3人は止まっていない。
仕留めた男には特攻隊長ほどの気迫は感じられなかった。これが集団だからか、自分が失敗しても他がいるという意識からか。実際に他がいるから間違ってはいない。
ドダダダッ
1人を仕留めたが脇から2人が扉を開かんと入り込む。
蹴りを入れたことで体を支えるものは一本しかない。両側から入り込まれたら体幹を鍛えていても厳しい…。
ドバッ バギッッ
右からは顔面、左からは左脇腹。
「グッッ」
回避も難しいし防御を行える体勢でもないしそもそもそれを行う十分なスペースがない。
(タンク役ってのはこういう感じなのか…。鉄の盾くらい欲しいもんだな)
モロに喰らってしまったがまだ戦える。
リーダー格が真っ直ぐ突っ込んでくる。綺麗に三方向からの攻撃になっている。
あの勢いからしてタックルかライダーキックだろう。
枚方に当たれば良し。枚方が避けても扉ごとを突き破って中に入るつもりのようだ。
三方向になっているのは選択肢を与えるため。だがどの方向を対処するかは決まっている。
奴らが味方の木偶の坊に手をこまねいている間に最適解を導き出していた。
「んむっっっボラっ!!」
右から殴ってきた男の口から顎にかけて掴み取った。
この部屋の扉の掴みは枚方から見て右側にある。正面突破で扉が壊されなかった場合を考えると、普通に開閉されるのを防ぐことが最善だと即座に判断した。
「ガバッッ」
口を覆われたことで混乱している右の男。反撃したいが顔面を握りつぶされていてそれどころではない。
「世良っ!?っ、このっ!」
保巴は枚方の脇腹に攻撃を加えた姿勢のまま下から突き上げるようにタックルを決める。倒せなくても扉から退かすことが出来れば梔子の突撃が活きる。
三峰も蹴りをくらったが悶絶しているだけで意識が飛んだりしていない。時間ギリギリだが梔子のヘルプには入れるだろう。
「ギッッ」
ただでさえ人1人を片腕で掴み上げている状態。かつ下からの突き上げ攻撃。
足を後ろに下げてバランスを整えるところだがそれも難しい。このまま倒れる———
「っ……おぉっ!」
どうせ倒れるなら最大限足掻くまで…。
倒れそうになりながら左足で思い切り床を踏む。思い切り踏んだところで倒れる未来は変わらないが、踏んだことで一瞬だが体勢が固定された。
それでも一瞬で後は突き上げられた勢いのまま掴み上げた男に覆い被さるように倒れるのみ…
ヒュッッッ
「ブバッ」
保巴は突然の衝撃で視界が揺れた。
目の前の護衛の男は倒れるだけだったはずだ。何故衝撃が襲って来る!?
揺れ動く視界は世界を正確に捕捉していないが、目の前の護衛らしき物体がどんどん下へ移動しているのは見えている。
「ガッッッッッ」
バダッッン
一瞬の苦悶の声。……世良だ。
護衛がのしかかったからか?地面にぶつかった音が聞こえたから護衛と世良は伏している。
(やべぇ、立ってられねぇ)
揺れ動いた世界では直立を保つことさえ難しい。
真っ直ぐ立っているつもりだが足は千鳥足のように忙しなく動いている。動くつもりがないのに体が無意識にフォローを続けていた。
「……マジかよすげえな」
左からの声……梔子の声だ。
俺には何をされたのか分からないが、梔子が賞賛するだけのことをこの護衛はしてのけたようだ。
バンッ ガラララッ
扉を引いた音。梔子が扉に手を掛けたのだ。
これで病室に入って"さちな"を回収すればこっちの勝ちだ。自分の身に何が起こったのか全く分からないが、これでミッションは達成だ。
(後は……逃げる準備を……あれっ?)
いよいよ立っていられなくなってきた。
次の足が出て来ない。散々鳥の真似事をさせておきながら、急に打ち切ってくるのは理不尽にも程がある。
「…行けっ、梔子さん———」
バダンッ
保巴も眠りについた。
空の病室の前で立っているものは、1人としていなくなってしまった———
♢♢♢
———都内某所
「だから私は———奈津緒君の隣で戦える力が欲しいの」
おそらくは麦島君も同じ考えを持っているのかもしれない。
『………滝波夏帆とは真逆なんだね』
彼女は戦わせないように願った。対して伊武は一緒に戦う力を願った。
「隣で戦う……いや、それはその先の思いかな。…奈津緒君は私や麦島君がしがみついても止まってくれない。けど奈津緒君が唯一止まってくれる時がある。………私が危険な状態の時よ」
『…神原なら助けようとするでしょ。あいつ、結構身内に甘いし』
「そう、それ!それなの。奈津緒君は私や麦島君のために動いてくれる。でもそれは……足を引っ張ってるってこと…………嫌なの!邪魔をしたくないの!」
ずっと……迷惑をかけてきた。
彼はきっと「巻き込んでしまった」と言うのだろう。
駄愚螺棄の一件だって、最初から4人相手に勝っていればイザコザも発生していなかった。
自分が誘拐されたせいでドクターと取引が発生することになった。
(私が弱いからだ。私を守らなくちゃいけないから奈津緒君は自由に動けない…行動を縛ってしまう)
「奈津緒君に守られなくても大丈夫な力。そして奈津緒君の隣で戦える力が欲しい。これが私の願い…」
『……』
彼女の願った力に時雨は共感していた。
『超能力』を失った彼女にとって力を取り戻すのは急務だ。
取り戻せなければこの先の戦いに参加できない。時雨もまた純粋に力を欲していた。
『…イメージは、あるんですか?』
「………まだないね。雪華ちゃんはいなくなったけど『超能力』が発動してる気配もない。発動条件を満たしていないのかもしれないわね」
雪華の願いと伊武の願いでは後者の方が攻撃性を孕んでいる。雪華は無効化能力だったが、伊武の力は攻撃的な『超能力』になるだろうと時雨は予感していた。
伊武も同様の考え方だったが、自分が人に危害を加えるようなイメージを想像できなかった。
これまでの15年の人生で喧嘩や暴力とは無縁の世界で生きてきた。
政治絡みの腹の探り合いのようなものの方が祥菜にとっては馴染み深い。
〜〜〜
———とあるパーティ会場
「これはこれは越岡先生。暫くぶりですね」
「おぉ、伊武君かね。君の話は周りから聞いているよ。中々精力的に頑張ってるみたいだね。館舟の再開発、課題も多いと聞いているが大丈夫なのかね」
「はははっ、トラブルも多いですがなんとかやれてますよ。東京オリンピックまでにと言われると少々暗雲立ち込めていますが、地域住民へ理解いただけるように精一杯頑張る所存です」
「結構なことじゃないか!頑張りたまえ。………ところで、後ろにおられるお嬢さんは?」
伊武議員の後ろには華美なドレスを纏った少女が控えていた。
「あぁそうでした。今回は娘の紹介をしようと思いまして。祥菜と言います。来年の春に高校生になります。祥菜、こちらは国会議員の越岡先生だ。川崎の選挙区じゃないから知らないと思うが私が昔お世話になった尊敬する先生だ」
「…伊武祥菜と申します。この度は素晴らしいパーティにご招待いただきありがとうございます」
嫌というほど練習させられた淑女たるポーズ。肩がこって苦しい。学生服でよかったのに無理矢理ドレスを着させられた。
「ほぅ…今度はしっかりしたお嬢さんじゃないか。ウチのバカ息子に見習って欲しいもんだ。家族同伴可能なのに断りおったせいで私1人での参加だ。主催が手ぶらとは中々に情けない…」
「それは残念です。是非ご子息にも娘を紹介したかったのですが…」
(えっ?)
「バカ息子も後悔するでしょうな。まぁそれはまたの機会にしましょう。祥菜ちゃん。また参加すると良い。今度は顔合わせできるように準備しておくよ」
「……ありがとうございます。またの機会を楽しみにしております」
「うんうん、愚息も喜ぶだろう。…伊武君、今後ともよしなにね———」
———
「…お父さん、どういうつもり?」
さっきの一連のやり取り、祥菜の意思は介在せず大人同士で勝手に進められていた。
「ただの顔合わせだ。本当はもっと早いうちから引き合わせたかったがお前の高校受験が終わるのを待っていたんだ。ま、叶わなかったがな」
「そういうことじゃなくて!越岡議員の息子さんと会わせてどうするつもりなのって聞いてるの!」
そんなのまるで———
「向こうのご子息…洸磨君だが祥菜の二つ上の高校2年生だ。年も近いし仲良くしておいて損はないだろう。親同士が親交深いのに子供はそんなに…ってのは格好がつかないからな」
「……違うでしょ。旧時代的なことを私にやらせるつもり?そんなの納得するわけないじゃん!」
そんなのまるで許嫁だ。見知らぬ相手と結婚なんてまっぴらごめんだ。
「洸磨君はイケメンだから祥菜も喜ぶと思ったが…今の祥菜には油だな。それに向こうに気に入られなければ結婚にはならないだろう。…無論、ヒールを演じるのは許さないがな」
「っ……!」
「流石に高校生で結婚ってことにはならない。だが親交は避けられないだろう」
「……最悪だわ」
〜〜〜
———最低な記憶を思い出してしまった。
そういえば結局洸磨さんには会っていない。
私がテニス部に入って時間の都合が付かなくなったからだ。
(病院でお父さんが言ってた"身分相応の男"が洸磨さんなんだわ。最初からそれが目的だったのね…。次の衆議院選挙で神奈川10区で出馬する…。その後見人として越岡議員の後押しをもらう見返りに………政略結婚……)
自分の出世のために娘をダシに使う。…最初から分かっていたことだ。
自分の家のことも、上流家庭の娘に求められていることも……
(だから…沁みた…。何の見返りもなく自分のやりたいように生きてその道すがらで人を助ける奈津緒君に……興味が湧いた。議員の娘と知らず、持て囃しもせずただのクラスメイトとして普通に接してくれた奈津緒君に…)
「———責任を取ってこれからも娘さんのそばに付き添わさせていただきます」
(…責任を取るとお父さんに宣言してくれた奈津緒君に………。奈津緒君のために———)
守られなくても大丈夫な力———
誰にも危害を加えられない力———
奈津緒君の隣で戦える力———
………
♢♢♢
———ヒューザ川崎前広場
ユサユサユサユサユサユサユサ
広場に腰掛けられる場所にどかっと構えながら古坂は貧乏揺すりを繰り返していた。
「穂村ア!梔子からの連絡はまだかぁ!」
側に付き従っている穂村に怒鳴るように確認した。
「……いえ、連絡はありません。こちらからの連絡にも応答はありません。病院の中なので無意識下で使わないようにしているのかもしれません」
「んな悠長にルールを守ってる場合か!ちっ…梔子め、失敗したらただじゃおかねーぞ!」
(……)
さっき"なつお"に踊らされてからずっとイラついているようだ。
(古坂さんの顔が引き攣ってたから余程のことを言ってのけたみたいだな。……古坂さんの言う通り…駄愚螺棄への危険分子になり得るポテンシャルを持っている。潰すなら早い方が良い)
古坂さんはさっき電話をかけていたが繋がらなかったようで怒りに任せて腰掛けていたステップに蹴り付けていた。
"なつお"捕獲のために動いている人員と連絡が付かないようだ。
(ターゲットは2人だけなのにまさか全滅したのか?……奇襲や不意打ち……いや、それで仕留められても1人が2人だ。全員にヒット&アウェイで不意打ちを繰り返した?古坂さんや俺へヘルプを出す間も無く……無理だろそんなの…)
想像以上の想像以上。"さちな"拉致の方に多めに人を割り振っているにしても結構な数だ。
怖気付いている?とんでもない!古坂の言う通り徹底抗戦の構えだ。
全員を倒しているのだとしたら今の"なつお"達はフリーだ。既に多摩川を越えて東京都へ逃げ込んでいるだろう。
———失敗
ここまでのことをしておいて失敗。相当なペナルティがあるに違いない。
だがまだ古坂には希望がある。"なつお"は失敗しても"さちな"が成功すれば"なつお"は自首するしかない。
だから病院側からの連絡が来ないことに異様に焦っているのだ。
(……染節が飛んだのも何となく分かる気がする。ガキに翻弄されて敗北したのを見せられたら…こんな組織にいたいとは思わないよなぁ…)
だからといって今の自分が飛ぶかと言えばそれはない。気持ちとしてはあっても実際に行動に移すまでには行かない。
4日前の西宝ショッピングモールで、"なつお"とのドンパチ以外にナニカがあった。
そのナニカに染節は魅入られたのか巻き込まれたのか、駄愚螺棄と縁を切って姿を消した。
今"なつお"と敵対している俺達もまた、そのナニカに関わってしまっているかもしれない。
(…それを言っても、逃げないよな……今の古坂さんは。"なつお"への執着。昼休みのチャイムなんてことを言ってたけど、古坂さんがボスに無断で動いている以上成果を持ってこないと処罰される。引くに引けなくなってるんだ)
撤退の選択は早い方がいい。沽券に関わるから報復なんて言っているが、それは病院を襲撃しただけでも十分果たしているはずだ。
駄愚螺棄に手を出せば病院だろうが攻め込む。それだけの恐怖を世間に知らしめれば、"なつお"にやられたことによるマイナスのイメージも払拭される。
それに……そもそも"なつお"の件は駄愚螺棄の外には漏れていない。SNSでも駄愚螺棄の人間が子供に負けたなんて情報はどこにもなかった。
十分だ。これ以上深追いして失敗を確定させるよりはまだ傷が浅い内に引くべきだ。
(……おそらくその逃げの選択肢を奪われたんだ。古坂さんらしくない)
………なつお、お前はマジで一体何もんなんだ?
♢♢♢
———都内某所
伊武祥菜が己の願いを萩原時雨に打ち明けているのと同時刻。
ドクターは朝食で出たゴミを処分、そして昼食の買い出しに出掛けていた。
今この廃ビルにいるのは鬼束4兄弟、伊武祥菜の5名だ。伊武祥菜が5階で、鬼束兄弟は4階にいた。
鬼束兄弟は神坂雪華が去った後、自身の能力が使えるようになったかを確認していた。
「…あーあー、いいなぁ市丸兄は。滝波夏帆といっぱい話せて…」
「…滝波夏帆はいたけど、直接会話したのも一瞬だったし良いなって言えるほどじゃねーよ。……ずっと神原の彼女から殺気みたいなの放たれてて握手とかする空気じゃなかったし…」
神原奈津緒に敗北した鬼束市丸だったが、恋人の伊武祥菜もまた苦手な対象となっていた。
「で、で、で!生の滝波夏帆はどうだったの?」
実録がウキウキで聞いてきた。
「……お前、拉致る時に顔見たろ?」
「すぐに収納玉に入れる必要があったからじっくり見る余裕はなかったよ」
人気の少ない場所で実行したとは言え、渋谷のど真ん中だ。しかも相手は人気声優。正体に気付いた一般人が尾行してくることは十分にあり得た。
滝波夏帆自身が渋谷の繁華街から逃げるように移動してくれたのは非常に助かった。
ドクターの話では白ウサギが警鐘を鳴らしたみたいだ。隕石能力者の仲間が白ウサギに接触したらしい。
「生の滝波夏帆……すっげえ可愛かったよ。テレビで見たのは紛い物かってくらい輝いてた。芸能人をテレビで見るのと生で見るのは全然違うって話はマジなんだな」
「ほぇぇ〜。零兄もそう思ったの?」
「…確かに可愛らしい顔立ちだったが、白ウサギといる時はプライベートだったりお忍びの格好をしてたからなんとも言えないな。白ウサギが邪険にしていてあまり一緒にいる時間はなかったよ」
「…白ウサギ、あんな美人の姉ちゃんがいるのに嫌がるなんてな。異性の姉弟ってどこもそんな感じなのかなぁ?」
全員が男の鬼束らには分からない話だ。
「…滝波夏帆だけじゃなくて他の2人も凄かったと思うぞ。……伊武祥菜は怖くて直視できなかったからちゃんと見てないけど、神岐が連れて来た女子大生。お上品な人だった。大和撫子っていうのはあの人のことを言うんだろうな」
「平原暁美さんだっけ?神岐の恋人の」
「いや、恋人ではない。友達レベルだな。あの2人はそういう関係にはなっていない」
『隠れ鬼』で神岐を監視していた零が言うのならそうなのだろう。
「うへぇ…神岐は『認識誘導』でなんでもやりたい放題なのに、あんまりそういう方向では使ってないよな。府中では存分に使ってたのに…。零兄はなんか理由みたいなの見たことあるの?」
「……逆だろうよ。『認識誘導』で心を丸裸に出来るからこそ近付けないんだよ。相手の心の中が読めて相手を思い通りに出来て…、でもそれって恋人なのか?」
「「「…………」」」
「少なくても俺が『隠れ鬼』を手に入れて半年間神岐を見て来たが、神岐自身が無意識にそう思っていた節がある。合コンにも行く…。人並みの恋愛願望はあるがそれが成就していない。『認識誘導』を使って手に入れた恋人は恋人の形をした何かなんだろう」
能力にそぐわない願望。強い能力を持ったが故に欲しいと思ったものが手に入らない。
『超能力』で楽を知って怠惰になると同時に、人が当たり前に通る過程や達成感、幸福感を喪失する。
「神岐には能力を使いすぎないようにしようとするブレーキがある。彼の友人…竹満には能力を極力使わないようにしていた。奴なりのルールがあって平原暁美もその範疇なんだろう。だが府中では奴のルールが適用されなかった。そうなった時の神岐は手段を選ばない。ブレーキがないから……」
時雨をここに置いておかなかったのは正解だ。丹愛の暴走誘発、電車の衝突事故と、ドクターが関わるとブレーキが掛からなくなる。今でこそ取引しているが、いつ神岐が凶行に走るか分からない不安定な状況。
ドクターを攻めてきた時、時雨が巻き込まれかねない。
「…話が逸れたな。平原暁美と神岐はあくまで友達だ。神岐のテリトリーに入っている以上は恋仲に発展するかもしれないが…。簡単に操れてしまう人間を神岐が選ぶかというと……疑問だな」
「じゃあ『認識誘導』が効かない人ってこと?滝波夏帆みたいに…」
「そうだな。『認識誘導』でどうこう出来ない人を神岐は心のどこかで求めているのかもな。あの2人、テレビ局で接点があるみたいだし十分考えられる」
「……神岐と白ウサギが義兄弟になるのか……。なんか…想像つかねーな」
実録の言葉に他の3人も黙り込んでしまった。
義兄弟もだが神岐が滝波夏帆とくっつくことも考えにくい。
滝波夏帆は高校1年生で神岐は大学3年生だ。
5歳差、しかも滝波夏帆は高校生。神岐がイケメンであってもどことなく犯罪の香りがしてくる。
「なんか…滝波夏帆の無効化能力を知ってアプローチをかける神岐を想像したら……恐ろしいな」
「……止めろよ。なんか考えるのも嫌になる。神岐の凶悪さの意味が変わっちまうだろうが!」
「でも恋愛初心者の神岐を見れるのは面白いと思うぞ」
「「「それは……まぁ…」」」
府中で見せたのとは違う様相を見せるだろうから見たくないと言えば嘘になるが、悪役の善行ってのは酷いノイズになるのも事実だ。
「恋愛って言うなら、白ウサギだろ。あいつモテてる———ぐわっ!!」
バダダダダン
一斉に4人が地面に叩き付けられた。
「な、なんだ!」
「市丸、大きい声を出すな。俺達は潜伏してるんだぞ」
「で、でも零兄。う、動けねぇよ」
丹愛も立ちあがろうとするが体を支えるための腕すら上がらない。
「ゆ、床に押し付けられるぅ…」
まるで自分に『氷鬼』を使っているかのように身動きが取れない。
頭から押さえつけられているわけでなく、全身に均等に押し付けを感じる。
これは……
「重さ……重力!『超能力者』の攻撃か!?どこからだ」
廃ビルは崩れていない。地球環境が崩壊して加重力になっているのでないのなら、これは『超能力』によるものだ。
「れ、零兄。ドクターは上なんじゃないの?『超常の扉』が危ないんじゃぁ….」
重力で体の内側も圧迫されている。呼吸すら苦しい。
前にドクターに見せてもらったダイラタンシー流体。あれの中に体を埋めているような感覚だ。
「ドクターは外だ。だけど丁度良かった。広範囲の無差別攻撃でもない限りはドクターは無事だ。ドクターの『確実達成』なら必ず気付く!だがここでじっとしてるわけには行かない。『超能力者』がこの廃ビルに侵入しているのだとしたら、そいつを見つけて叩く———」
駄愚螺棄とのイザコザが終わろうとしているタイミングでの超能力攻撃
一瞬で鬼束兄弟を無力化するパワー
零は重力の能力者と判断したが果たして…
外にいるドクターはどうアプローチするのか?
枚方、古坂、神原
各々の戦いも終盤戦です
枚方は勝利も同然ですがどうなることやら———




