仙人、『仙道』修行、陰陽双修法
「『仙道』の修行か………ウーン」
「将人、どうした?」
誠一郎と結衣が将人の顔を覗き込む。
「この『仙道』ってやつが苦手で、『氣』を発生させる事は出来るけど、体に『氣』を巡らせる事がどうしても………」
「こういうのは自転車と同じでな、何度もやってコツを掴むしかない。まあ、やってみようか」
将人たちは家の縁側に移動し、右から誠一郎、結衣、将人の順に座る。誠一郎と結衣は胡坐をかき一方の足を他方のももに乗せ、更に下方の足も空いている片方の足に乗せ両足を完全に組み合わせる結跏趺坐追いう座り方をする。これをすると背筋が伸び、瞑想を行うには最適な座り方である。ただ慣れないと足を痛めるという欠点がある。将人は片方の足を股に乗せ下方の足はそのままとう座り方、これを半跏趺坐という。結跏趺坐より座りやすいが背筋が曲がったり肩が落ちたりするため、その度に姿勢を正さなければならないが長時間座る事が出来る。手は右手の上に左手を乗せそれぞれの親指を合わせる簡単な形を作り『丹田』の位置に置く。
将人たちは目を閉じ『仙道』独自の呼吸法と意識の集中を行い『丹田』に『氣』を発生させる。発生させた『氣』をしばらく維持し強めていく。そして『丹田』から下半身そこから背中に廻すのだが将人はこれが出来なかった。呼吸法と意識で持って『氣』を動かすがその途端『氣』が弱まり、せっかく発生させた『氣』が消えてしまう。
(やっぱりダメか………)
将人は薄目を開け、誠一郎たちを見てギョッとする。二人から白い靄の様なものが吹き上がるのが見えたのだ。強まった『氣』が眼で視認出来たのだ。
(二人とも凄いな………)
将人は目を閉じ、『丹田』に『氣』を発生させ、再度『氣』を体に廻す事に挑戦するが………
それから一時間、誠一郎たちから白い靄の噴出が収まる。足をくずし肩や足首を回し、固まった関節をほぐす。誠一郎たちは肌がツヤツヤで気力が充実しており、誠一郎は見た目より若くなった様に感じられた。
(『仙道』ってようは不老不死の仙人になる為の修行法だもんな。だから誠一郎さんは少し若くなった様に見えるのか? とある漫画家さんは五十代なのに三十代に見えるのは『仙道』をやっているからと言われているけど誠一郎さんもそうなのか? 姉さんは『仙道』のせいで成長が遅くなったんじゃないか?)
将人はそんな事を考えながらや結衣を見つめる。結衣はジロジロみられ、恥ずかし気に顔を俯かせ、胸を両腕で隠す。
「……エッチ」
「ゴメン、結衣姉さん!」
将人は頭を下げる。それを見え結衣は頷く。
「ところで結衣姉さん、質問。『氣』を体に巡らせるのになんかコツはないのかな?」
将人に言われ、結衣は言葉に出そうとするのだが言葉に詰まる。感覚的な事で言葉に表しにくいようだ。必死に考えている結衣に悪いと思いもういいと言いかけた時、誠一郎が声をかける。
「それについて俺も考えてみたんだが………『氣』を巡らせる感覚が分かるかもしれん」
「それは一体どうやって」
「それなんだが、将人………『房中術』って知ってるか?」
将人はそれが意味するところを知ってた為、声を荒げる。
「師匠、アンタ女の子の前で何を言ってるんだ!!」
将人は無意識に左掌を振り下ろしていた。無意識に『劈拳』を繰り出していた。
「最後まで聞けよ」
誠一郎は右拳を頭上にもっていき将人の左掌を防ぎ、右拳で顔面を突くが、ギリギリのところで止める。剣の風圧が顔を撫でる。『炮拳』でカウンターを取られていた。
「将人の反応を見ると『房中術』の事を知っているようだがそれは一面的なところしか見てないぞ」
将人は興味を引かれ誠一郎の話に耳を傾ける。
房中術―――部屋(房)の中で男女が帯を緩め衣を脱いで体を接触させて行う術の事なのだが、この方法では相方の『氣』を一方的に奪うのでよろしくない。制御に失敗すれば気持ちいいだけでどちらも『氣』を損なってしまう。だが、誠一郎が言う房中術は衣を脱がず、帯も緩めず、肉体の接触はなし、それでいてお互いに利益がある都合のいいウィンウィンな修行法だというのである。
「『仙道』にはいろいろな宗派があってこの術を『房中術』というのを嫌って別の言い方をしている。『陰陽双修法』と呼ばれている」
「そんな都合のいい修行法が本当にあるんですか?」
「ある、今ここで出来るからやってみよう。結衣、将人の正面に立って」
結衣が将人の正面に立つ。
「二人とも腕を伸ばしてお互いの掌を数センチ離してかざしてその状態で手から出ている『氣』を感じてみろ」
将人は掌を上下左右、前後に動かすと掌に押し返すような圧力を感じる。これが将人の『氣』の感覚だった。人によっては熱感やビリッよ痺れるような電気の様な感じがするらしい。
「結衣はもちろん、将人も『氣』を感じる事は出来たようだな。その状態で結衣、『膻中』に『氣』を発生させて『気』を腕に通して将人に送れ」
結衣は意識の集中と呼吸法をもって胸の中心にある『膻中』と呼ばれる場所に『氣』を発生させ右腕、右掌を通して『氣』を放出する。将人の左掌に感じていた『氣』の圧力が強まる。思わず掌を後ろに下げようとするが誠一郎に止められる。
「将人、結衣の『氣』を吸収しろ!」
「どうやって!?」
『氣』を吸収する方法が分からず慌ててしまう。
「将人、落ち着け。感じられる『氣』を意識で引っ張って自分の中に引き込むようイメージしろ!」
将人は言われたように左掌の間にある『氣』を掌の内側に引き込むようイメージした。すると掌の圧力感が左腕のほうにずれた。
「うまく吸収できたようだな。後は『氣』をイメージで動かして左腕から胸、右腕、右掌と動かして結衣に『氣』を返すんだ」
将人は誠一郎に言われ『氣』を動かす。『氣』の圧力感が自分のイメージの通り動く。右掌まで『氣』を動かし『氣』を放出した。その『氣』を結衣が吸収したのだがそこで結衣が小悪魔めいた笑みを浮かべた。
「アッ、マー君のアツいのが入ってくる………」
結衣が艶めかしく言う。将人の右掌から出された『氣』を左掌から取り込む
「マー君のがナカでビクビクしてる………」
結衣は顔を赤らめ、何かをこらえるように目を閉じる。左掌から左腕、胸に『氣』を移動する。
「何か来ちゃう、来ちゃう!」
結衣が体をのけぞる。胸から右腕、右掌に『氣』を移動し、放出するが将人は『氣』を受け取る事が出来なかった。中腰ななで掌を向ける事が出来なかったからだ。その状態で誠一郎を睨む。
「アンタ、何教えてるんだ!」
誠一郎は首を首を振る。結衣を見るとまた小悪魔めいた笑みを浮かべる。
「マー君の机の引き出しの奥にそういうエッチな本があったよ。姉物が多かったけど………お姉ちゃんこれからどう接すればいい?」
将人の血の気が一気に引いた。
(姉さんの言動の原因は俺かよ………)
「マ~サ~ト~ク~ン、面白い本読んでるね………」
誠一郎が将人の肩を掴む。握力が凄く掴まれた方の骨がミシリという音が鳴った。
「クン付けなんて嫌だなあ………オトウサン」
心の中で悲鳴を上げながら振り向くと誠一郎はとても凄みのある笑みを浮かべていた。
「今はお父さんより師匠の方がいいかな。じゃないとお前を罰する事が出来ない」
「ゴ…ゴメンナ………」
「ゴゥトゥヘル!!」
このセリフと同時に将人は前の家族の時とは比べ物にならない地獄を見た。この後の事は将人の記憶から消えており何があったか思い出せなくなっていたが体は覚えているようで『氣』を体に巡らせる事が出来るようになっていた。




