仙人、将人の起源、『形意拳』修行
日下部家の養子となったのは五か月前の事だった。誠一郎は結衣とともに『崩拳』で将人を倒した事を謝りに来てくれたのだ。だが、それに対し将人の両親は誠一郎たちにきつく当たった。
「どうしてこのゴミを助けた!! 死んでくれた方がよかったのに」
「こんなゴミは死んでくれた方が世の為、俺たちの為になる。死んでくれれば保険金が入ったんだ!! なのに生き残りやがって!!」
両親に言われた後、将人は拳骨で殴られ涙をこぼした。それを見た誠一郎は切れた。
「馬鹿野郎!! それでも親か!!」
その声は近距離で雷が鳴ったようなそんな轟音と衝撃だった。将人本人はもちろん将人の両親は腰砕けになった。
「こんなクズに将人君を育てる資格はない! 将人君、荷物をまとめなさい。君は私が引き取る!! 結衣、将人君を手伝いなさい」
結衣は頷くと将人の手を引いて将人の部屋に向かう。
「何を勝手に………」
将人の父親が腰砕けの状態ながら将人の手を引く結衣の手を掴もうとするがその手を誠一郎が掴む。それほど力が入っていないように見えたが将人の父親は悲鳴を上げて膝をついた。
「将人君と養子援組を結んで俺の子供にする。将人君は私が立派に育てる! 分かったか!!」
「そいつは何の役にも立たないクズだ。それを貰ってくれるならありがたい事だ、持っていけ」
「クズ野郎が!!」
誠一郎の体から殺気がほとばしる。『氣』を感じられない将人の両親でも殺気が感じられ悲鳴を上げる。床が濡れていた。どうやら失禁しているようだ。それを見た誠一郎は気が抜けたとでもいうように殺気を収めた。しばらくすると簡単に荷物をまとめた将人と結衣が出てた。
「さあ行こう、将人君。今日から私たちが家族だ!」
誠一郎に言われ将人はまた泣いた。そうやって将人は十年以上暮らした家から出る事が出来た。その後、将人の両親から何か言ってくる事はなく数度の話し合いと書類を交わし正式に将人は日下部家の養子となった。養子となった将人は誠一郎に「俺のとっておきを教えてやる」と言われ教授されたのが『形意拳』と『仙道』だった。
それから五か月後、将人は『形意拳』と『仙道』の基礎を教わっていた。まず最初にやるのラジオ体操、これを二セットやって体を温めてから馬式という足腰を鍛える鍛錬を行う。両足を肩幅ほどに開き腰を下ろし両手は大きな球を抱きかかえるような感じで円形に伸ばす、いわゆる空気椅子だ。これを五分も出来れば上等だと言われたが今の所二分ぐらいしか出来なかった。その後『三体式』構えを取りその状態で五分間維持、右と左を合わせ十分ほど行う。それから『五行拳』を行う。一つの技に対し十分、『五行拳』全てを行うと五十分もかかり、終わるころにはヘトヘトになる。でも、将人はこの疲れが心地よかった。生きているという充実感、技を覚える達成感を感じていた。これは前の生活では感じられないものだった。
地面に直に寝っ転がり空を見ていると結衣がタオルとスポーツドリンクの入ったボトルを投げてよこした。
「マー君、パス」
将人は上半身を起こし、タオルとボトルを受け取った。
「結衣さん、ありがとう」
将人を不満げに睨む結衣。将人は結衣さんと呼んでしまった事に気づき言い直す。
「ありがとう、結衣姉さん」
「ン、よろしい」
結衣もタオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む。結衣は将人が『五行拳』の練習をしている間に『五行拳』、『十二形拳』の練習及び誠一郎と散打―――中国武術でのスパーリング、組手―――をこなしていた。自分とは年季が違うなと将人は思った。
「マー君、何ジロジロ見てるの………欲情した?」
結衣が前かがみになって将人を見る。Tシャルの首元がたるんで胸元がチラリと見えるが将人はそれを冷たい目で見ていた。
「それは絶対あり得ません!」
即答だった。将人的にはもう少し肉付きのいい子の方が好みだ、ツルペタストーンはご遠慮願う。そう思ったのを読んだのかにっこり笑って『三体式』の構えを取った。
「どうもすみませんでした!」
将人はその場で土下座した。
「将人よう、何というかもう少し抵抗しようぜ。即土下座というのは………」
誠一郎が呆れたように言う。
「結衣姉さんに勝てる訳ないじゃないですか、誠一郎さんが仕込んだんだから」
「ふむ、それもそうか………結衣、許してやりな」
結衣は『三体式』の構えを解く。
「さて、少し休憩したら今度は『仙道』の修行に入るぞ」
それを聞いて将人の表情は曇る。『形意拳』の修行は修行したという実感があるが『仙道』は空気のようにふわふわしていてイマイチ実感が得られないからだった。




