仙人、南門の一件の後、困った事態に陥る、その解決案
南門の一件から一週間後
将人は宿屋を出て冒険者ギルドに向かう。時間は昼時、いわゆる重役出勤である。同じ宿に泊まるマサリアとエミリアは別の依頼を受け、朝から出ており今回は一人である。セロ鉄製の鎖かたびら、その上にクロースアーマー、ゼロ鉄製のガントレットは腰に下げ、背中にゼロ鉄製の円形の盾―――先日命名アイアスの盾、通称アイちゃん―――を背負い、フード付きのマントを羽織り顔を隠して移動していた。将人はここ数日顔を隠しながら移動しなければならない理由があった。
「………マサト・クサカベ様ですか?」
冒険者ギルドの前に来たところで60才前後の商人風の男に声をかけられた。将人はまたかと思った。
「あなたにご依頼したい事がございます。どうか私の話を聞いてください」
その訴えに対す答えは決まっていたが、それを言わなければならないと思うと罪悪感で胃が痛くなってきた。
「すみません、個人に直接依頼するのはギルドで禁止されています。依頼はギルドを通して下さい」
「ギルドにはちょっと伝えにくい内容なので………依頼料は相場の倍お支払いします。依頼を受けてくれませんか?」
罪悪感が薄まった。
「犯罪に加担するつもりはありません。失礼します」
将人は足早に冒険者ギルドに入った。
依頼掲示板に張られている依頼書を確認するが複数人でなければ受けれない依頼がほとんどだった。他の冒険者に一緒に依頼を受けるように話しかけるが断られる。今日は依頼を受ける事は諦めるしかなかった。
将人はギルドの休憩所で日替わり定食を注文する。席に座り食事を食べる。ハァッと溜め息をついていると後ろから声をかけられる。
「打ちひしがれてるねえ、マサト君。若いうちからそんな悲壮感漂う背中を見せちゃダメだよ」
依頼を受けしばらく街を離れていたファテマだった。食事を乗せたトレイを持っている所を見るとこれから食事らしい。
(ファテマさんがいるという事は………)
将人は辺りを見回すとやっぱりいた。
「あっ、お兄ちゃんだ」
パウラが食事を乗せたトレイを持ちながら全力で走ってきた。
「パウラちゃん、ストォォォップ!!」
将人の声にパウラが急ストップする。
「こぼすからゆっくり来ようね」
パウラは「ハーイ」と答えながら将人の隣に座る。そこへ依頼を終えたマサリアとエミリア、アベルトが休憩所に入ってきた。
「あっ、マサト」
「マサトどのォォォ、お久しぶりですゥゥゥ」
アベルド将人に向かって突進してきた。アベルドが将人にダイブするがパウラがすかさず前に入りアベルトを叩き落とした。床にべたりと張り付いたアベルトに向かってニコリと凄みのある笑みを浮かべる。
「ダメだよ、アベルド君。お兄ちゃんに飛び込んでいいのは私だけだよ」
「コラ、パウラ何勝手なこと言ってるの、私だって………」
指先を合わせくねくねさせながら顔を赤くするマサリア。
「リアお嬢様、ファイトです!!」
将人はいつもの空気だと思うと胃痛が収まっていくように感じられた。
久しぶりに六人揃っての食事となった。ただしアベルトはまだ気絶している。
「それでマサト君、何かあったの? よかったら相談に乗るよ」
「実はですね………」
将人は一週間前の南門での一件の事を話した。
「この街にも『滅び』が出たって!? 衛兵や他の冒険者じゃ対処出来ない相手だし、マサト君がいなかったら街にどんな被害が出てたか分からない。マサト君がいてよかったよ。でもそれならマサト君、別に困る事ないんじゃないの? 英雄的扱いになると思うけど」
将人は溜め息をつく。
「その英雄的扱いが問題なんですよ………」
事情を知っているマサリアは自然と険しい表情になる。マサリアの表情に不安になるパウラ。
「リアちゃん………」
「マサリアちゃんどうしたの? エミリアさんどういう事?」
エミリアは何も答えずお茶をすする。その時であった。将人の頭に水がかけられた。
「いい気になってるようだから頭を冷やしてやったぜ、感謝しろよ、ルーキー」
そこにいたのは中年の冒険者三人組がへらへらと笑っていた。マサリア、パウラ、アベルドがかっとなって立ち上がるが将人が手で制する。それを見た中年冒険者三人組は更に将人を見下し嘲笑する。
「南門の一件お前の実力で解決出来るワケがねえ! 誰かの手柄を横取りしやがって、このクズ野郎! テメェ見たいな卑怯者は冒険者を辞めろ。辞めねえなら痛い目を見る事になるぞ」
中年冒険者が脅しをかけてくるが将人はそれを歯牙にもかけず食事を続ける。
「オイ、聞いてるのか!!」
中年冒険者が怒鳴るがまったく気にしていなかった。食事を終え、木のカップに入っている水を飲み干し一息つくとぽつりと呟いた。
「どこかで負け犬がキャンキャン吠えてウルサくてしょうがない。躾がなってないな………」
将人の言葉に一同はポカンとするが次の瞬間マサリアたちは大爆笑、中年冒険者たちは怒りに震えた。
「テメェ!!」
中年冒険者の一人が将人に殴りかかるが、それより将人が先に動いた。将人は席を立ち中年冒険者の頭に掌を振り下ろした。『劈拳』だった。軽く打ったように見えるが、中年冒険者は激しい衝撃を感じていた。脳が揺さぶられ一撃で意識を刈り取られた。それを見た中年冒険者二人の動きが止まる。将人は睨みつけ言葉を続ける。
「………人を脅す、暴力をふるうという事はその逆もまたあり得るという事です。アンタらはその覚悟があってやってることでしょうから俺も遠慮なくぶっ飛ばす事が出来ます。お覚悟を………」
将人が『三体式』の構えを取る。その構えを見て中年冒険者が後退る。
「………アンタらがいなくなるなら追いません。そこで伸びてる男を連れてとっとと立ち去れ」
中年冒険者二人が伸びている冒険者を担いでスタコラと逃げて行った。将人はそれを見送りながらため息をついた。
「こういうことが数日前からほぼ毎日あります」
「メンドクサい事になってたんだね」
ファテマが同情しきりという感じで将人の肩を叩く。パウラは将人を優しく抱きしめる。
「私はお兄ちゃんの味方だよ。辛くなったら甘えていいんだよ」
「パウラ! ドサクサに紛れて抱き着いてるんじゃないの」
「リアお嬢様、マサト様は今、精神的に弱ってます。弱みに付け込んでマサト様のハートをゲットしましょう。ササッ、リアお嬢様突貫です!」
「このおバカァ!」
マサリアが両拳をエミリアのこめかみにあててグリグリする。エミリアは苦痛に呻いている。将人はいつもの日常が戻ってきてクスリと笑った。
(少しは気が紛れたな。しかしこんな事がこれからも続くかと思うとどうするべきか………)
突然背後に強力な殺気を感じた。
「マサトクゥ~ン、パウラと何をやっているんだい………」
将人の後ろにギルドマスター、エドガルド・ハイドが凄みのある笑みを浮かべて立っていた。
「いや、オトウサン、決して変な事はしていません!」
「君にオトウサン呼ばわりされる覚えはない!!」
エドガルドに一喝された。
「ともかくパウラから離れたまえ!!」
将人はパウラから引きはがされた。将人はエドガルドに睨まれ縮こまる。
「ハイドおじさん、マサト君は悪くないよ。パウラが自分から抱き着いたのにマサト君を怒るのは筋違いだよ」
パウラがうんうんと頷きながらエドガルドを見る。エドガルドは溜め息を付きながら頭を掻く。
「………スマナいなマサト君。ファテマやパウラの事になると父性全開になってしまう」
エドガルドに頭を下げられ将人は慌てる。
「ハイドおじさん、そんな事を言いに来たの?」
エドガルドはポンッと手を打つ。
「そうだった。マサト君、君が今大変困った事態になっている事はギルドでも把握している。それを解決する手段なのだが………マサト君、冒険者進級試験を受けてみる気はないか?」




