仙人、『氣』の暴走にて『滅び』を駆逐する、帰還
アベルドは『滅び』の将人の攻撃に押され始めていた。体の動きがスムーズになってきており素人臭さが無くなってきている。将人の脳を支配した『滅び』は将人の戦闘の経験や記憶を検索し有効な戦い方を学び始めていた。
「マサト殿早く戻ってきてください」
アベルドの上段からの一撃を『滅び』の将人は左に避ける。その際アベルドの手首を掴む。手首の痛みに動けなくなったところへ左掌を打ち下ろす。『形意拳』の基本『五行拳』の一つ『劈拳』を行っていた。
「アベルト君、避けて!!」
背後からのパウラの声にアベルドが頭を下げる。その直後に拳大の石が飛んできて『滅び』の将人に直撃する。『氣』による障壁で石は体に当たっていないが衝撃は来るみたいで頭がのけぞっている。更にパウラが投石した石が『滅び』の将人を襲う。『滅び』の将人はアベルドから手を離し後退する。
「アベルド君、大丈夫?」
アベルドの傍に駆け寄ったパウラが問う。
「平気とはいいがたいです………」
将人に捕まれた手首には手形の痣が出来ており、血管が脈動する度に痛みが走る。
「アベルド君、早くお姉ちゃんに見てもらって。時間は私が稼ぐ」
「分かりました。でも注意してください。あのマサト殿、だんだん動きがよくなってきてます。もう少しで手が負えなくなります」
「分かった、注意する」
パウラは防御の構えを取り将人の攻撃に備える。
将人の『氣』には攻撃魔法や精神に影響を与える魔法はほぼ効かないと考えていい。ならば後衛のマサリア、エミリア、ファテマの魔法は防御や回復、身体強化にのみ使用。前衛のパウラとアベルドは交互に交代し防御に徹して将人が元に戻るのを待つ持久戦に出ていた。
「お兄ちゃん、早く戻ってきて!!」
パウラの叫びに『滅び』の将人は何も答えなかった。答える代わりに行ったのは『三体式』の構えだった。
(ヤバイな………俺の戦闘の経験や記憶を参考にしてだんだん動きがよくなってきてるだけじゃなくとうとう『形意拳』の技を使い始めた。自画自賛するつもりはないけど俺が敵になると相当厄介だな)
将人は体の支配権を『滅び』に奪われ体を自由に動かす事が出来なくなったがその他の事、見る事、聞く事考える事は出来た。だからパウラやアベルトと戦っているこの光景を見る事が出来る。
将人は自分の体を取り戻す方法を考えていた。将人に入り込んだ『滅び』は将人の中で進化を遂げ『氣』に耐える事が出来るようになった変種といえる。そんな相手をいかして追い出すか。自分が出来る方法は思いつかなかった。やはり外部から攻撃、それこそ殺すつもりで攻撃しなければ『滅び』の将人は止まる事はないだろう。それを伝える事も出来ない自分がもどかしかった。
高速移動が出来るという事は長所であるが同時に注意力が散漫になってしまう欠点がある。パウラが『滅び』の将人に攻撃を入れ離れようとした際、足元が崩れ尻もちをついてしまう。その隙を『滅び』の将人が見逃すはずもなく『崩拳』を放つ。尻もちをついたパウラの顔面に自分の拳が入る光景を想像し、将人は思わず叫んでいた。
(ヤメロォォォォォォーーーーー!!!)
その声と同時に『滅び』の将人の拳から弱い気が放出されパウラの顔を打つ。何が起こったのか分からないままパウラは後方に倒れ、結果として将人の拳を避けた。手首の怪我の治療を終えたアベルトが、長剣で横一文字に『滅び』の将人を切りつける。『滅び』の将人は後方へ下がり長剣を避け『三体式』の構えを取る。
「パウラ殿、無事ですか!?」
パウラの前に立ち長剣を中段にに構える
「ウン、大丈夫」
パウラが顔を押さえながら立ち上がる。
「よく、あの一撃を避ける事が出来ましたね」
「ウウン、私じゃない………何か見えないものに顔を叩かれて思わず後ろに倒れちゃったの」
「見えないものですか? それはもしかして」
「そうかもしれない、もう少しでお兄ちゃん戻れるかもしれない!!」
言葉にする事で心に活が入る。もう少しで将人が戻ってくることを信じアベルドは柄を握る手に力を入れた。
(見る、聞く、考える、その他に出来る事があった。俺も『氣』を操る事が出来る!!)
これを利用して『滅び』を追い出す事が出来ないか考える。この『滅び』は『氣』に耐える事が出来る変種、それを追い出すとなると通常よりも強力な『氣』が必要だと考えた。それを可能にするには………一つだけ方法を思いついた。それは過去の失敗だった。『仙道』で最初に行われる修法『小周天』。この修法にまだ慣れていない時、無理に『氣』を回した事があった。結果『氣』を外に排出する事が出来なくなり、体の中で倍以上にが膨れ上がり、三日三晩高熱を出した事があった。病気による高熱ではない為解熱剤が効かず、熱を冷ます為に入った水風呂の水がお湯なるほどであった。この状態を人為的に作れば『滅び』を追い出せる、最悪でも自分の体にダメージを与え動けなくする事が出来る、そう考えた将人はすぐ様実行に移す。
人体には『氣』の出入り口になる個所があり頭の頂点にある泥丸と呼ばれる場所がそうである。将人は穴を二で塞ぐイメージで泥丸を閉鎖する。そのうえで『小周天』を行う。『氣』の圧が高まりつつあることが将人には感じられた。特に頭に強力な圧がかかっており、内側から破裂しそうな痛みを感じていた。
『滅び』の将人の方にも影響が出る。頭を押さえ苦しみのたうち回る。
(ナニガオコッテイル……)
『滅び』はこの強烈な『氣』の高まり、その『氣』を外に逃がせない原因を探る為、意識を内面に向ける。そして、この体の本体の意識を見つける。
「貴様かあああああ!!!!!」
『滅び』の将人が叫び声を上げるのと同時に『滅び』が意識の内面にいる将人に攻撃を仕掛けた。『滅び』は将人に似た姿になり将人に飛び掛かる。
「ヤメロヤメロヤメロォォォォォ」
将人の意識に馬乗りになり首を絞める。
「余裕がないな、俺がやっている事は間違いじゃないようだな。このまま、お前を駆逐してやる!!」
「貴様、何故こんな事をする。私とお前が手を組めば最強の存在になるのだぞ!!」
「随分と人間臭い『滅び』だな。手を組むだなんて。話が出来るなら教えてくれないか、お前ら『滅び』とは何だ?」
「読んで字の通り『滅び』は全てを滅ぼす。その為の存在だ」
「その片棒を担ぐのはごめんだ」
「ならば貴様を取り込むまでだ」
『滅び』の意識が泥となり将人の意識を飲み込む。将人の意識は取り込まれながらも意識の集中は解かなかった。
「今すぐ『氣』の集中を解け。貴様死ぬぞ」
「お前も道連れだろ、それで構わん!!」
(脅しではない、本当に死ぬつもりだ!!)
将人の強い意志に『滅び』が屈した。『滅び』は将人の体から避難することを決める。だが今度は将人が『滅び』の意識を取り押さえた。
「逃げるんじゃないよ。我慢比べをしようじゃないか………」
「ヤメロォォォォォーーー!!!!」
『滅び』が悲鳴をあげ消滅した。将人が体の支配権を取り戻す事に成功した。それと同時に凄まじい頭痛と体が溶鉱炉になったような強力な熱が体を襲う。将人は穴を塞いだふたをどかすイメージで泥丸を開き、呼吸を用いて『氣』を排出する。それを数分行う事でようやく体が落ち着いた。体力、気力共に尽きて意識が遠ざかる。その前に自分が無事に戻ってきたことだけは伝えなければならない。将人は一言こういって意識を手放した。
「………ただいま」




