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仙人、異世界で無双する  作者: サマト
第四章 仙人、特級冒険者になる
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仙人、意識の深層にて『氣』を超越した力に触れる

将人との距離あと五メートルというところまで接近された。パウラ、アベルトは前衛、マサリア、エミリア、ファテマは後衛という陣形を取る。パウラとアベルトは短く呪文を唱え身体強化の魔法をかける。パウラは将人を見据える。将人の器物めいた無機質な目や表情を見て悲しくなった。自分に抱き着かれて照れたり、恥ずかしがったり、自分やマサリアを助ける時の必死な目が好きだった。ころころと変わる表情が好きだった。だから、そんな目で自分を見てほしくなかった。


「お兄ちゃん………」


パウラが悲痛な声で呟くが将人には届かなかった。パウラの隣に立つアベルドが長剣を構えながら呟く。


「パウラ殿、そんな顔をしていては出来る事も出来なくなります。私たちがやる事は決まっています。出来る事をやってマサト殿を取り戻しましょう」


「ウン、そうだね………一緒にお兄ちゃんを取り戻そう!」


パウラも両手を胸の前に突き出す構えを取る。将人はこれを敵対行動と見なし行動に出た。力強く踏み込み低空の跳躍をして五メートルの距離を一気に縮めパウラの間合いに入る。将人はパウラに右拳を繰り出すが大振りでどこにどう来るか分かりやすい、いわゆるテレフォンパンチになっていた。だから左手の甲で弾く事が出来たが激痛が走り、一瞬動きを止めてしまう。そこへもう一撃が来る。今度は避ける事が出来ない。


「パウラ殿!!」


アベルドが将人に切りつけ、将人は無造作に左腕で守る。腕と剣では剣の方に分があるはずだが鍔迫り合いの状態となる。将人が開いている左拳で攻撃を繰り出すだすが後方へ跳躍して躱し、パウラの傍に着地する。


「パウラ殿、どうして棒立ちになったのですか。下手をしたら攻撃を食らっていましたよ!」


「ゴメン、アベルド君。でも分かった事があるよ。お兄ちゃんの攻撃は絶対貰っちゃダメ。お兄ちゃんの攻撃は魔力の防御壁を簡単に突破してくる」


パウラが左手の甲を見せると血が滲んでいた。身体強化の魔法がかけられると文字通り身体能力が強化されるが、その他に物理、魔法の攻撃力を軽減する魔力の防御壁が張られる。余程強力な攻撃が入らないと負傷する事はない。パウラは攻撃を受けたわけではない、将人の拳を軽く弾いただけで負傷したという事は触るのもマズいという事になる。


「となると私の長剣だけが頼りという事になりますね。パウラ殿は私の援護に回ってください」


アベルドの長剣は将人の腕と鍔迫り合いが出来ていた。長剣に蓄積された将人の『氣』が防御壁となり将人の強大な『氣』を防いでくれたらしい。


「アベルド君も無理しないでね。私たちの勝利条件はお兄ちゃんを含めた全員が生き残る事だからね!!」


「分かっていますとも………」


アベルドが長剣を構える。長剣にイメージを送っていないのに『氣』が放出され刀身を包む。本体である将人に正気に戻れと言っているようであった。



ここで時間は少し前に巻き戻る。

『氣』の力が弱まった状態で『滅び』のゴーレムの攻撃を受け意識を失った将人は気が付くと全く別の場所にいた。将人の後方には何もない真っ白な空間。前方には地平線の果てまでありそうな広大な汚泥の川が流れていた。


「ここは一体?」


将人は少し前の事を思い出していた。

―――『滅び』のゴーレムとの戦い。

―――自分の『氣』がパウラを傷つけてけてしまった事。

―――冷静さを欠き『氣』が弱まった所に『滅び』の力を受けてしまった事。

それから先の事が思い出せなかった。だからここがどこなのか分からなかった。


「早くみんなの所に戻らないと………みんなが『滅び』のゴーレムにやられてしまう」


将人は焦る。後方には何もない空間、前方にのみ先がある、選択肢はなかった。汚泥につま先を入れる。ジュッという熱せられた鉄板に水滴を落としたような音と同時につま先に痛みが走る。


「この泥ってもしかして………『滅び』なのか?」


大量の『滅び』が流れる川、こんなものがあれば世界が滅びる。自分の『氣』でもこれは浄化出来ない。だが迷っている暇はない。『氣』を『丹田』に集中し循環を行う。余剰の『氣』が生成されそれを全身に纏い障壁が出来る。その状態で動く事が出来た。


「どうして? 『全身周天』を行うと『氣』の生成に意識を集中するから身動き取れなくなるのに今は動ける?」


これならと将人は『滅び』の川に踏み込んだ。『氣』と『滅び』が反応して異臭を放つ。異臭は意識の集中を妨げ、『氣』が弱まりそうになる。それでも先に進む。『滅び』の川を百メートル程先に進んだ時救いの手が差し伸べられる。上空から光が差し込んだのだ。その光は『滅び』を恐ろしい速度で浄化していき、将人の周りの『滅び』も浄化した。この光が何なのか将人には分かった。これは自分自身の『氣』だった。どうして自分の『氣』が上空から降り注がれるのか考えているうちにある可能性に気が付く事が出来た。


「ここは俺の意識の中か? この『滅び』の川は俺に流し込まれた『滅び』そのもの。上空から降り注がれる『氣』はファテマさんらの支援という事か」


このまま『滅び』が浄化されれば元に戻る事が出来る。そう考え将人は『氣』の障壁を解いてしまう。

『滅び』は浄化され川から拳大にまでなった。そこまで浄化された時、上空の『氣』が消えてしまった。その途端拳大まで消失した『滅び』が波立ち一気にあふれ出た。あっという間に将人のいるところまで『滅び』が押し寄せ飲み込まれてしまう。


(ヤバイ、ヤバイ………このままじゃ俺が『滅び』てしまう)


いきなり押し寄せた『滅び』に驚き『氣』を集中する事も出来ず『滅び』呑み込まれ、将人の意識は溶解される。体の輪郭が失われ、嗅覚、聴覚、味覚、触覚が消え、血、肉、骨も消えた。それなのにただ眼球の身が残っていた。眼球にはほんの微かな光が当たっていた。眼球に残っている僅かな意識が眼球を動かし光の方向を向いた。眼球に直接あたる光をまぶしいと思いながらもその光をいつまでも見ていたい、そう思う。すると眼球は光に引き込まれるが黒い壁のようなものに阻まれる。壁の様なものには亀裂が入っておりそこから光が漏れていた。その光をもっと浴びたいそう考え、眼球で壁を叩く。ただそれだけで亀裂が広がり入ってくる光がさらに増えた。すると眼球を中心の頭蓋骨が形成され肉が付き皮膚で覆われ髪が生え、頭が再生された。更に亀裂に頭突きをかます。亀裂が更に広まり体が再生された。亀裂から漏れる謎の光が『滅び』を退けている。これが分かった将人は更に亀裂を広げようと壁を叩くがそれ以上亀裂は広がらなかった。


「これじゃダメだ。もっと強力な一撃でないと壁が壊れない………」


これが自分の意識の中なら自分の石で壊れるはず、でも壁は頑強でこれ以上壊せない。自分が出せる強力な一撃、それを考え答えを見出した。将人はまっすぐに立つ。両拳を握り『丹田』の位置で合わせる。右拳を前方やや上の位置に突き出し右肘に左拳を添える。左足を踏み出し同時に左拳を右腕に沿って突き上げ拳を開きながら落とす。右拳は右下腹の位置に添え拳を開く。


―――『三体式』の構えだった。


(自分が出せる最大の一撃はこの構えからから出すこの技しかない!!)


将人はそう考え『氣』を循環させる。『氣』の圧が徐々に高まり、最高に高まった時、将人は右足を踏み込む。同時に右拳を突き出す。『氣』の力、踏み込みで起こる重心の移動、腰の回転、肩から腕に通した力、それらを全て拳に集約して放つ。『形意拳』の代表的な技である『崩拳』で壁を突く。壁は一瞬抵抗するがすぐに『崩拳』の力に屈した。壁の亀裂は縦横無尽に駆け巡り崩壊した。そこから噴き出す光は『滅び』を一瞬にして駆逐した。将人は光に押し上げられ、この意識の世界からはじき出された。


「やった、これで元に戻れる!!」


歓喜の声を上げる将人の横を何かが通り過ぎる。小さな石ぐらいの大きさの『滅び』だった。


「シツコいぞ!!」


将人は『滅び』を捕獲しようとするが手をすりぬけ先に移動する。『滅び』は先に進み、将人のある個所を制圧した。そこを支配する事で将人の体を操り、更には『氣』を使う事が出来るようななってしまった。将人の小脳、大脳は支配され、真逆の力である『氣』を操る事が出来る『滅び』が誕生した。















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