仙人、VS『滅び』のゴーレム、決着、生き残る為の戦い
―――圧倒的
将人と『滅び』のゴーレムの戦いはその一言に尽きた。
将人は『形意拳』の術理を用い戦い方をしていない。ケンカの素人がやるような手打ちの拳で『滅び』のゴーレムの防御を突破していた。体内の砂を操作して威力を受け流す事も出来ていない。将人が一撃を入れるごとに体が削られていく。
「………圧倒的じゃないですか!! これなら『滅び』のゴーレムを倒せます!!」
マサリアとエミリアに合流したアベルトが興奮気味に言った。
「でも、マサト少し様子がおかしかった」
「明らかにいつものマサト様じゃありませんでした。私たちの事が分かっていないようでした」
「ちょっとマズいかもしれない。もしかしたらマサト君は私たちも襲ってくるかもしれない………」
パウラの治療をしながらファテマが言う。
「お姉ちゃん、どういう事?」
治療を受け喋れるようになったパウラがファテマに問う。
「………マサト君にどんな変化が起こったのかは分からない。だけど似たような現象は見た事がある」
「お姉ちゃん、それは一体?」
「………バーサーク(狂戦士)化現象」
マサリアは冒険者ギルドでの基礎講習で聞いた事があった。
「確か…身体強化魔法を過剰にかけると理性を失って敵味方関係なく周囲の敵対存在を殲滅するまで暴れ回る。身体強化魔法の倍かけをしているから普通の身体強化魔法の数十倍の効果が引き出された状態で暴れるから非常に危険だと聞いてるわ」
「そう、その通り。でも魔法によるバーサークなら魔力が尽きるまで逃げればいいし、精神に作用する魔法を使えば沈静化する事も出来る。でもマサト君の『氣』には魔法が効きにくいしあの状態じゃ『氣』が尽きると思えない」
将人の体からは視認が出来るほどの白色にの『氣』が放出されておりそれが衰える感じはなかった。意識的に行う『全身周天』で出される『氣』とは明らかに別物だった。
「お兄ちゃんと戦う事になるの?」
パウラが悲し気な表情を浮かべる。
「分からない………『滅び』のゴーレムを倒したら沈静化するかもしれないけど………覚悟はしておいた方がいいかもしれない」
マサリアたちは沈痛な面持ちで将人と『滅び』のゴーレムの戦いを見守るしかなかった。
一方将人と『滅び』のゴーレムの戦いは終わりに近づいていた。将人の攻撃により『滅び』のゴーレムの両手足は消失し、その場に横たわっていた。コンコンと湧き上がる『氣』が『滅び』のゴーレムの再生機構を阻害しているようだ。将人は馬乗りになり更に拳を叩きつけ、胴体を破壊する。残された頭の部分は最後の抵抗をする。顔の下部分に線が入りぱくりと開く。そこから凝縮された『滅び』の力が放出される。闇の光が将人を包み一瞬姿が姿が見えなくなるがすぐに白色の光が黒い光を打ち消した。将人の『氣』が『滅び』を打ち消したのだった。将人は『滅び』のゴーレムの口に手を突っ込み、闇色に染まった石を引き出し握り潰した。石から『滅び』が完全に消去され、塵となって風に消えた。
「戦いが終わった………」
戦いの一部始終を見ていたファテマが呟く。
「マサト君、お願いだから元に戻って………」
こちら側では将人の後ろ姿しか見えない。正気に戻っているかは分からなかった。将人がこちらを向いて確認するとゆっくり歩いてきた。近づいてくる度に背筋に寒気が走り動機が早まる。仲間に対してどうしてこんな反応をしてしまうのか。ファテマは将人を見てその理由を悟った。
「みんな、戦う準備して!!」
ファテマの言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。
「ファテマさん、本気なの!?」
マサリアが悲痛な声で訴える。
「マサト君は今正気じゃない!! 目と表情を見るとそれがよく分かる」
全員が将人を見て納得してしまった。将人は全くの無表情で目に生気がなかった。エミリアも無表情だが慣れてくるとわずかではあるが感情の機微が分かるようになってくる。将人にはそんな感情の機微が全くなかった。『氣』で出来たゴーレムが向かってくるような錯覚に襲われる。
「マサト殿、正気に戻ってください!!」
「お兄ちゃん!!」
パウラとアベルドは涙を流しながら叫ぶが将人に反応はなかった。ファテマとエミリアは杖を構え、攻撃魔法を行う準備をしていた。
「ファテマ殿、エミリア殿、マサト殿をどうするつもりですか!?」
「………私たちの足じゃマサト君からは逃げられない。逃げれたとしても正気に戻らなかったら他の街や人に被害が出るかもしれない。そうなったらマサト君は犯罪者、下手をしたらモンスターとして討伐対象にされてしまうかもしれない。そうなる前に………」
ファテマはその先を言葉にする事が出来なかった。
「させませんよ!!」
「そうだよ、お兄ちゃんはやらせない!!」
パウラとアベルドが、ファテマとエミリアを取り押さえようとする。ファテマとエミリアの前にマサリアが立ち、パウラとアベルトを止める。
「私たちが争ってる場合じゃない!!」
「マサリア殿はマサト殿と戦うというのですか!? 私には出来ません!!」
「リアちゃん、お兄ちゃんの事が嫌いになっちゃったの………」
「そんなこと言ってる場合でもないでしょうに………」
マサリアが呆れたように溜め息をつく。
「マサトが言っていたでしょう。悲劇を喜劇に変えるって。マサトにとっての悲劇は私たちがマサト自身の手で殺される事だと思う。マサトが正気に戻るまで私たちが生き残れば悲劇を喜劇に変えられると思う」
「マサリアちゃんはマサト君が正気に戻ると思う?」
「どうでしょうね。でも私はマサトを信じます」
ファテマは脱帽したというかのように天を仰いだ。
「私は諦めてしまったというのに………マサリアちゃんは強いね」
「そんなことありません………」
マサリアは照れたように頬をかく。
「みんな、聞いて。マサトはきっと正気に戻る。それまで生き残る戦いをしよう。生き残れれば私たちの勝利よ!!」
マサリアの出した答えが全員の迷いを拭い去り、希望の火を灯してくれた。




