仙人VS『滅び』のゴーレム、暴走
『滅び』のゴーレムは破損個所の修復が終わりすくりと立ち上がる。
「パウラちゃん、ゴーレムが再起動したよ!! 妄想はもう済んだ?」
将人の声にハッとして口元から垂れていたよだれをふき取る。
「妄想って何の事かな、お兄ちゃん」
「今更だよ、それって。それよりもゴーレムが来るよ!」
将人は『三体式』、パウラは両手を胸の前に突き出す構えを取る。
「お兄ちゃん、あのゴーレムが破損している時どうして攻撃しなかったの?」
「手負いの獣は恐ろしいってな。確実に倒せないなら下手に手を出さない方がいいと思ったんだ」
話が終わるとゴーレムが動いた。一歩で最高速になる歩法で再び将人たちの間合いに入るが二回も見せられれば流石に対応が出来る。『滅び』のゴーレムは再び将人に左拳を繰り出す。将人は『滅び』のゴーレムの左拳を左掌で跳ね上げ、がら空きになった胸部に右拳を繰り出す。胸部に拳が当たった瞬間拳が右にずらされた感触があった。当てた瞬間に叩きこんだ『氣』をこちらに排出するのこちらも同じように対処するまでと右拳を引き左拳を打ち込むが『氣』と『氣』がぶつかる感触はなかった。そしてパウラが何の前触れもなく後方へ吹き飛ばされる。それに驚いて動きを止めたところで今度は将人に『氣』が排出された。将人はぎりぎりの所で左足を後方に引き体を開いて『氣』を避け、更に後方へ下がる。
「パウラちゃん大丈夫!?」
将人は倒れているパウラに声をかける。パウラは顔を上げ頷くが声が出せず、口元から血が流れている。呼吸音も少しおかしい。肋骨が折れ、内臓を傷つけているのかもしれない。心配させまいと弱々しい笑顔を見せるパウラが痛ましかった。
将人は『滅び』のゴーレムがやった事に気づき怒りの表情を向ける。
「お前、俺の『氣』をパウラちゃんに向けて排出しやがったな!!」
『氣』は『滅び』を打ち消す作用があるが魔力も打ち消す事が出来る。排出された『氣』がパウラの身体強化の魔法を打ち消し、無防備になった肉体を直接打ち付けられたのだ。近距離で爆発が起こったようなものだ。
「俺の武術や『氣』は誰かを守る為にあるものだ。それを使ってパウラちゃんを傷つけるとは皮肉にも程がある。お前は絶対許さん!! チリも残さず消滅させてやる!!」
将人は怒りに震えながら『三体式』の構えを取る。将人は自分から動き『滅び』のゴーレムとの間合いを詰め、至近距離での戦いとなった。『滅び』のゴーレムは戦闘技術は大した事がなかった。『滅び』のゴーレムの攻撃は全く当たらず、将人の攻撃は面白いように当たった。でも、将人の攻撃には決定打となるものがなかった。怒りで体に力が入ってしまい『氣』の流れが悪くなっているのだ。だから『滅び』のゴーレムは拳打の威力を受け流す必要がなかった。それどころか『滅び』のゴーレムは腹部の砂を操作し、ぽっかりと穴を開ける。そこに将人の右拳が通ると穴を縮め将人を捕縛する。『滅び』のゴーレムののっぺりとした顔に変化が起こる。人の口に当たる部分に横一文字の線がかと思ったらぱっくりと開いたのだ。そこに『滅び』の力が集まっていた。集めた力を射出しようとしていることが予想できた。将人は空いている左掌に『氣』を集中するが思ったより集まらない。そうなってようやく将人は頭に血が上っていた事に気が付いた。
(今から『氣』を練り直す事は出来ない。これでやるしかない!!)
将人は『滅び』のゴーレムの射出口に左掌を突っ込んだ。『氣』と『滅び』がぶつかり合う。左掌の『氣』が弱まり『滅び』の力が入り込んでくる。左掌から腕にそして胴体に『滅び』が流れ込んでくる。全身に寒気が走り力が入らなくなる。
(このままじゃ意識が保てなくなる。その前に………)
将人は『丹田』に『氣』を集中し気合とともに『氣』を右腕から放出、右腕を拘束する砂を弾き飛ばし、後方に飛び『滅び』のゴーレムから脱出する。体内に残留する『滅び』の力が将人を蝕み、体がうまく動かせない。だから『滅び』のゴーレムが射出した『滅び』の力をもろに受けてしまう。『滅び』の力を『氣』で弱まらせたとはいえ殺傷力は十分だった。倒れている将人に向け、『滅び』のゴーレムは『滅び』の力を再チャージし始める。
「マサト殿はやらせません!!」
『滅び』のゴーレムの後方から治療を受け回復したアベルドが唐竹割に切りつけた。『滅び』のゴーレムは頭にから左肩の砂を操作し真横に受け流した。
「マサリアちゃんとエミリアさんはマサト君とパウラを治療して!! その間、私とアベルド君で時間を稼ぐから!!」
アベルドが離れると同時にファテマが魔法で生成した火球を『滅び』のゴーレムに直撃させ注意をファテマに向けさせる。その間に将人とパウラの治療に入る。
「マサト、パウラ大丈夫!? すぐに治療してあげるから!! しっかりしなさいよ!!」
マサリアがパウラの治療に入ろうとするとパウラが掠れた声で言う。
「ワ…タシは…いいから………おニイ…チャンを……ハヤク………」
「でも………」
「オネガイ………」
パウラの必至な願いにマサリアは折れるよりなかった。
「もう、分かったわよ。もう少し我慢してなさい。将人が終わったらアンタも治療するからね!!」
マサリアは将人の治療に当たっているエミリアに駆け寄る。
「将人の傷の具合はどう?」
「『滅び』の力が体内に残留していてこちらの治癒魔法を受け入れません………」
将人の肌の一部が黒く変色していた。その部分からじくじくと血がにじんでいた。
「そんな、どうしよう!?」
「ですから、私のバックラーとマサト様の盾の『氣』で『滅び』を除去します。リアお嬢さまはマサト様の盾でお願いします」
エミリアはマサリアに将人の盾を渡す。将人の真上にバックラーと将人の盾を掲げ『氣』を放出する。変色した肌の色が元に戻っていくのが眼に見えてわかる。
「『滅び』を除去するのに少し時間がかかりそうです」
「やっぱり私もマサトに『氣』の使い方を教わるべきかもね?」
マサリアはこういう状況になり『氣』が使えない事に後悔していた。
「『氣』を習得すると魔法が使えなくなるかもしれないのですからしょうがないです。リアお嬢さま」
「でも、私たち『滅び』を相手にすると将人に全部丸投げしてるようで申し訳ないわ。私も何とかしてあげたい………」
「私たちが今できるのはマサト様の治療です。今はこれに集中しましょう」
エミリアに言われ力強く頷き、『氣』の放出を続ける。放出を続けて数分、肌の変色した部分が拳大ぐらいの大きさまで縮める事が出来た。あと一息という所でバックラーや将人の盾に蓄積された『氣』が尽きてしまう。『氣』の放出が止まった途端、変色部分が全身に一気に広がり将人の体は黒に染まる。
「そんな………『滅び』が一気に広がった!? このままじゃマサトが………」
マサリアが将人の手を掴むと氷以上に冷たく思わず手放してしまう。手を見ると水疱が出来ていた。凍傷に近い症状が出ていた。
「そんな………どうすればいいの!?」
マサリアはエミリアを見るが何も答えなかった。エミリアの顔には焦りの表情が浮かんでいる。
「マサトが………マサトが死んじゃう………私、マサトに何も返せてないのに………」
マサリアはその場にへたり込み大粒の涙をボロボロと流す。涙は将人の手の甲に落ちる。すると手の甲から変化が起こった。手の甲の肌の色が元に戻ったかと思ったら、そこを起点に一気に全身の肌の色が戻ったのだ。将人に侵食していた『滅び』が一気に駆逐されたのだ。将人はゆっくりと目を開け立ち上がる。
「マサト、大丈夫なの!?」
将人はエミリアに答えず辺りを見回し『滅び』のゴーレムの姿を確認する。『滅び』のゴーレムに向かって一歩踏み出した。一歩歩く、ただそれだけの動作にも爆発寸前の力が込められていた。ファテマがアベルドが、『滅び』のゴーレムさえも戦いを止め将人に注目する。
「マサトに何が起こったの?」
マサリアは将人の突然の変化に驚き唖然としながらエミリアに問うていた。
「私にもわかりません。ご自分で『滅び』の力を除去なされたのでしょうが様子がおかしいです」
将人は悠然と『滅び』のゴーレムの前に立つ。そして拳を打ち込んだ。『三体式』の構えからではないただ殴りかかっただけだった。こんな一撃では威力を受け流す必要もない、表面を硬化して将人の拳を防ぐがその何気ない一撃は硬化した部分をやすやすと破壊した。更に無造作な何の術理もない前蹴りで『滅び』のゴーレムは石ころのように蹴り飛ばされる。
「マサト殿に何が起こったんでしょうか?」
将人の圧倒的な力に驚きながらもファテマのもとに駆け寄る。
「私にも分からない。これなら勝てるかもしれないけど………私たちもマズいことになるかもしれない」
「それは一体?」
「ともかくマサリアちゃんたちと合流しよう。場合によっては戦う事になるかもしれない」
「誰と?」
ファテマは沈痛な面持ちでいった。
「………マサト君とだよ………」




