仙人VSマサリア、パウラ、悲劇から喜劇へ
―――『三体式』
中国拳法『形意拳』を習得するうえで最初に習う構えである。左手、左足を前、右手を腹部、右足を後方に置き膝を曲げ腰を落とす。『三体式』とは簡単に言えばそれだけの構えである。でもこの構えから派生する技は正に一撃必殺。次の技の為に力を蓄える為の構えともいえる。
将人は左『三体式』の構えを取ると今までにない不思議な感じがした。気合が入っただけではどうしようもないこの状況で体に無駄な力みがなかった。指先一つまでリラックスしており呼吸に乱れがない。丹田に『氣』が集まり全身に循環され、自然と『小周天』が行われていた。力みがない為か自然と笑みが浮かぶ。マサリアとエミリアの体に埋め込まれた『滅び』の石は警戒し力を強め障壁を作る。その瞬間将人が動いた。将人とパウラの距離は約二メートル。その後方にマサリアがいる。将人はパウラとの距離を一歩で縮め『崩拳』を放つ。将人の拳と障壁がぶつかりる。拳から流し込まれる『氣』が障壁を打ち壊し、パウラに打撃が入る。パウラは『崩拳』の一撃に耐え切れず後方へ飛ばされマサリアを巻き込む。将人は倒れている二人お見据え再び『三体式』の構えを取る。マサリアとパウラは『滅び』の力を放出し跳ね上がる様に立ち上がると『滅び』の力を放出し将人に襲い掛かる。
「これは一体どうゆう事?」
広場の端で治癒魔法でアベルドの怪我を治療しているファテマが今、展開されている光景を見て驚きの声を上げた。将人がマサリアとパウラが放つ『滅び』の触手の攻撃を躱し、いなし、打ち消し、間合いを詰め打撃を入れる。
「マサト君、盾を使ってないのにどうして『滅び』と戦えてるの?」
治癒魔法で傷が塞げても流れた血は戻らない為、顔色が悪いアベルドが答える。
「私にもよく分かりません。でも盾を手放してから明らかにマサト殿の動きが変わりました」
「でも、今のままでは対抗出来ているだけでリアお嬢様もパウラ様も助けられません………私たちも戦いましょう」
ファテマとアベルドを守っていたエミリアが将人たちの元へ向かおうとするがアベルドが止める。
「エミリア殿、ダメです。私たちが間に入ったらむしろ邪魔になります」
「でも、それではお嬢様が………」
「マサト殿は言いました。今のこの最悪の状況を悲劇ではなく喜劇に変えると。マサト殿はきっと二人を助けます。私は信じます!!」
「エミリアさん、マサト君を信じよう。私も信じるから!!」
エミリアが頷き将人の戦いに目を向ける。激戦は依然続いてる。
将人は戦いながらも考え続けていた。どうすればマサリアとパウラを『滅び』から解放する事が出来るのかと。オグマは言っていた。『滅び』の力を込めた石を体内に埋め込んだと。それを『氣』で壊せれば二人を解放できるはずだ。だがこの激戦の中それを見つけるのは不可能に近い。
(『滅び』の石はどこにある。『滅び』の力の流れを確認すればもしかしたら…………)
将人は両目に『氣』を集中した。『滅び』の力の流れを視認し、力の中心を探した。流れの中心は二人の乳房の間、膻中と呼ばれるツボの位置にあった。
(よりによってそんな場所か? オグマのヤロウ、二人にエロい事したんじゃねえだろうな………)
深く考えるのをやめ、目の前の戦いに集中する。マサリアが『滅び』の触手を空間に隙間なく展開し射出する。将人は『劈拳』で自分の正面に来る『滅び』の触手を打ち消した。その先には無防備になったマサリアがいる。将人は前進しマサリアとの間合いを埋め、『崩拳』、ただし拳ではなく掌底でマサリアの胸を打つ。『氣』が『滅び』を力を貫通し中心の石に届く。『氣』と『滅び』がぶつかり合い『氣』が勝利し、石は粉砕した。マサリアの体から力が抜けその場に崩れ落ちる。パウラの方を向くと動きが止まっていた。
「お兄ちゃん………私にも………早く」
パウラが『滅び』の力に抗って動きを止めていた。パウラは前にも一度『滅び』に憑りつかれている。それゆえか抵抗力が付いたのだろうか。
「パウラちゃん、待ってて」
将人はパウラのもとに歩み寄り胸に手を置く。フンっという気合とともに『氣』を流し込み、『滅び』の石を破砕した。パウラもその場に崩れ落ち苦しげに呻いている。
「パウラちゃん、どうした?」
「お兄ちゃん………イタイ………」
『滅び』の力で限界以上の力を引き出した上、痛覚を麻痺させていたみたいだから元に戻ればこうなるのは当然だった。よく見るとマサリアも苦しそうだった。
「ヤベッ、どうしよう」
辺りを見回し、こちらを見ていたエミリアたちに気が付き、大声で呼んだ。
「オーイ、エミさん、ファテマさんこっち来て二人を治療してあげて!」
その声に飛び上がり全力で駆け寄るエミリアとファテマ。マサリアはエミリアにファテマはパウラに治癒魔法を施す。その光景を見てようやく力を抜く事が出来た。その途端、膝の力が抜けその場に座り込む。
「悲劇を喜劇にする事が出来たかな、俺」
「これ以上にない喜劇に出来たと私は思いますよ」
いつの間にか後ろに来ていたアベルドが答えてくれた。それを聞いてようやく将人は笑う事が出来た。




