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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第1章 - 夜の来訪者編 -

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第1章 夜の来訪者編 - 第6話 「隠世の通販事情」


結界を覚えた、その日の夕方。


「……よし」


美月はドアの鍵穴に差した鍵をつまんだまま、身体の中にある流れを意識した。

昨日まで存在すら知らなかった妖力を、管に水を通すように、体の中心から指先へ流す。


すると、鍵が淡く白く光った。


次の瞬間、家屋全体を薄い膜のようなものが包む。


美月は感動のあまり、しばらく鍵を眺めた。


「妖生初の結界…!」


管理人いわく、これで美月が許可していない妖は、余程の力を持っていない限り家へ入れない。


「今夜から安眠確定!」


昨日は目を開ければ布団の上に二メートルの淫魔が生えていた。


なんなら今朝も生えていた。

今日からは、生えない。


「私のスローライフに生やすのは、野菜だけでいいんだよ」


自分で自分へ突っ込みながら、美月は畑へ向かった。














 翌日。


昨晩は本当によく眠ることができた。


朝の光が振り注ぐ中、美月は畑の前に立つ。


「スローライフだぁぁぁ……!」


思わず両手を広げた。


空は青く、風は爽やか。

馬乗りになってくる属性二種盛り淫魔はいない。


「完っ璧…!」


管理所でもらった生活用の端末で調べたところ、この辺りの土では人間界と同じ野菜も普通に育つらしい。


しかも通販まである。


人間界の文化が入ってきているのは理解している。


画面に映し出された文字は人間界で使っていたものと形が違ったが、美月にはなぜかそれが読めた。


「嫌でも自分が妖怪なんだって納得せざるを得ない…」


そして画面に大きく『異常妖稼働イジョーヨーカドー』やら、『鬼業オニゴウ』などの、人間界でもよく聞くネットスーパーの名を模したアプリが展開されていた。


「いや名前!」


どこから突っ込めばいいのかはわからない。


美月は端末をスクロールし、カテゴリごとに分けられているリンクをタップしていく。


商品内容を見ると、以外にも食品だけではなく日用品、園芸用品まで様々なものが販売されていた。


『妖力栽培対応!初心者向け野菜種セット』


「あ、これは絶対欲しい」


カゴに入れ、スクロール。


『火車髑髏印の耐熱鍋』


「“火車髑髏”って、まさか“火車”と“がしゃどくろ”のハーフ…?」


美月は深く考えることをやめた。

メーカー名の属性過多妖怪を想像し始めれば、きっとキリがない。


再びスクロール。


『リヴァイアさんの鮮魚セット』


「リヴァイアさんって“リヴァイアサン”じゃないの?」


正式名が“リヴァイアサン”なら、敬称をつけた場合には“リヴァイアサンさん”になる。


さんさん。

燦々。


「なんか振り注ぎそう…」


美月は再び考えることをやめた。


他にも多数の濃ゆい名前のメーカーがあった。


しかしそれはまた今度、脳のストレージに空きが出た時に考えることとする。


せっかく妖生を謳歌するのだ。

今展開されている文明の恩恵には全力で乗っかる。


美月は『初心者向け野菜種セット』に加え、大根、トマト、茄子の種を注文した。









そして、昼過ぎには届いた。


「早っ!」


まるで黒い巨大な箱のような禍々しい荷台を引いて現れたのは、首のない馬。


「黒棺!?」


美月の叫びをよそに、荷台から荷物を降ろしたのは首のない騎士だった。


「デュラハン!?」

「デュラハンと飛頭蛮のハーフです」

「両親の出会いがめちゃくちゃ気になるんだけど!」


飛頭蛮。

確か、眠っている間に体から首だけが離れ、空を飛び、虫や生き血を啜る妖怪だった気がする。


子供の頃好きで読んでいた妖怪漫画の知識が、この隠世で発揮されるとは当然思っていなかった。


美月は配達員を見る。


頭が胴体から離れていくのは夜。

そして、首が離れる時には、体は動かないはずだ。


「失礼ですけど、体は眠っているんじゃ…?」

「そこはデュラハンなので」

「頭は…?」

「害虫駆除に行っています」

「頭部は別の仕事してるんだ!?」


さすが異常妖稼働イジョーヨーカドー


外見インパクト、属性の濃さ、職員の背景に至るまでで一本の映画ができそうだ。


“異常”を掲げるだけある。


「こちらがお荷物です」


渡された荷物は結界をそのまま箱にしたようなものだった。


「時間停止、重力操作、衝撃無効の梱包となっております」

「異常に丁寧!」

「ペーパーレスで隠世にも優しい仕様です」

「そこも人間界みたいに気にかけてるんだ!?」

「あと、妖力印もいりません。余分に力を使う必要はないので」

「妖力残高にも異常な気配り!」

「印は、あなた方が当社を使っていただいたという事実で充分です」

「対応が異常にイケメン…!」


配達員は美月に荷物を渡すと、待機していた馬に飛び乗った。


「では、またのご利用をお待ちしております」


そして去り際。


「あなたの妖生に、異常妖稼働があらんことを」


そして、配達員は、突如として空間に現れた穴へと駆け出し、帰っていった。


「謙虚さまで異常だった……」


美月は受け取った荷物を持ったまま、穴の閉じた空間を見ているのだった。





第1章 夜の来訪者編 - 第6話

「隠世の通販事情」-完-

→第1章 夜の来訪者編 - 第7話

「スローライフとは」へ


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