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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 深まる関係編 -

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第5章 深まる関係編 - 第6話「津波から高波へ」


あれから。


美月が説得した結果、ようやく東《あづま》は渋々、美月を浜辺へ戻した。


「みんなー!」

「美月!怪我は―――」


ジャジーが一歩踏み出した。


刹那。


その横を、風が抜ける。


「わ……」


驚く暇もない。


二本の腕が美月の頭と背へ回り、その身体を強く抱き込む。


―――鳳《ほう》だった。


「お、おぉ……」


ジャジーが思わず声を漏らす。


嫉妬より先に感心が出るほど、鳳《ほう》の動きには迷いがなかった。


当の本人はジャジーなど見てもいない。

ただ美月を腕の中へ収め、しばらく黙っていた。


「鳳《ほう》……?」

「……拙者が……此方へ連れて来なければ……」


怖い思いをさせなかったかもしれない。

痛い思いもさせなかったかもしれない。


東《あづま》に対し美月の心が動くところを、目の前で見ることもなかったかもしれない。


だが、同時に。


ここへ来なければ、こうして迷わず抱きしめることもなかった。


自分の欲をまっすぐ向けることも、もっと遠かったかもしれない。


後悔と安堵と嫉妬と喜びが、鳳《ほう》の中でぐちゃぐちゃに絡まっていた。


岩場へ腕をかけた東《あづま》が、その様子を眺めながら鼻を鳴らす。


「……お前、やっぱ変わったな」

「お主はなぜそう平然としておるのだ!」

「だってよ。嫌われるようなことしたら、問答無用で眼中にすら入れてもらえなくなんだろ」

「さっきまでの荒さどこいったんだよ……」


ジャジーが呆れた声を漏らす。


美月は鳳《ほう》の背へ腕を回した。


「心配させてごめんね」

「美月殿のせいではござらぬ!拙者が此方へ――」


最後まで言わせなかった。

美月の腕が鳳《ほう》の首へ回り、少しだけ引き寄せる。


「……美月殿?」


鳳《ほう》の下がった頬へ。


―――ちゅ。


ほんの一瞬、美月の唇が触れた。


その瞬間、鳳《ほう》は石になった。


「連れて来たせいで、って思わないで」


美月は赤くなりながらも、固まった頬へ手を添える。


「ほんとは私が計画するはずだったのに、私のマップが終わってるせいで、鳳《ほう》が提案してくれなかったら、デート先が自宅か管理所しかなかった」

「最悪すぎる」

「ジャジーは黙ってて!」


再び鳳《ほう》を見る。


「海、見せてくれてありがと」


美月がにこりと笑った。


その横で。


「俺の海だけどな」


頬杖をつきながら東《あづま》が言う。


「ん゛ん゛ん゛外野が余計なことばっか挟んでくる!」

「じゃあ黙る」

「素直!」


ようやく鳳《ほう》の硬直が解ける。


「……美月殿」


大きな手が、今度は自分から美月の頬へ触れた。


「拙者は、もう迷わぬ」

「……うん?」

「あやつらには負けておられぬ」

「ちょっと待とっか?」

「拙者も、少々ペースを速めた方が良いと判断した」

「おっせぇ判断だな」

「それは俺も思う」

「二人の思考が下に寄りすぎなんだよ!」


そんな騒ぎも、やがて別れの時間を迎える。


「……なぁ。もう行くのかよ……」


東《あづま》は、美月のワンピースの裾を指先でちょんと摘んでいた。


先ほどまで津波のように迫ってきた大柄な海の怪異《かいい》が、今は置いていかれる大型犬のように布一枚へ未練を残している。


「ギャップがおかしい……!」


美月は反射的に両手で顔を覆った。


そしてゆっくり手を下ろすと、東《あづま》へと向く。


「悪いけど、私たちには家もあるし、やりたいこともいっぱいあるの。ずっとここにはいられないし、東《あづま》とは今日会ったばっかり」

「お前は会ったばっかでも、俺は長ぇこと探してたもんが見つかった気分なんだよ」

「知らないよ!」

「……寂しい」


海の者にとって、番と定めた相手から離れることは、身体の一部を引き剥がされるようなものなのだろう。


それでも東《あづま》は、その重さを美月へ丸ごと押しつけず、ただ一言、“寂しい”という言葉で渡した。


美月は少しだけ困ったように笑う。


「なら、東《あづま》から会いに来てよ」

「ぜってぇ行く」

「お主はまず妖力の扱いを学ぶべきでござる」

「で、誰が教えんだよ」


ジャジーが眉間に皺を寄せて問う。


「生憎《あいにく》、拙者には青札としての役目もある。こやつの学びに付き合い続けることはできぬ」

「……本音は?」


ジャジーの口角が上がる。


「来させとうない」

「鳳《ほう》?」

「おい」

「妖力なぞ覚えぬでよい」

「鳳《ほう》!?」


美月の目が見開く。


「お前……っ、自分で“妖力の扱いを学ぶべき”とか言っときながら……っ⋯」


ジャジーは肩を震わせている。


鳳《ほう》は淡々と続ける。


「これ以上、美月殿に触れて欲しくはないでござる」

「鳳《ほう》ーーー!!」


美月が叫んだ。


「ひでぇ!」


東《あづま》が岩場を叩く。


ジャジーは口元を歪めた。


「殻が割れたな」

「大破してるよ!壊れなくていい部分まで壊れてない!?」

「壊れておらぬ」

「今までが岩に足生えたやつだったんだ。こっちが本性だろ」

「足だけになってるよ!」

「妖力、死ぬ気で死なねぇように覚えるわ」


東《あづま》の顔は真剣だが、言葉が迷走している。


「また新たな概念が生まれた……」


美月は頭を抱えた。


すると、東《あづま》は海へ顔を向ける。

その視線は沖ではなく、はるか向こうを見ていた。


「⋯⋯まぁ、当てはある」

「海に仲間でもいるの?」

「まぁな。……なぁ、美月」


唐突に。


初めて東《あづま》から名を呼ばれ、美月の肩が小さく跳ねた。


「俺、美月を番《つがい》にしてぇ」


東《あづま》は真剣な表情で、真っ直ぐに告げる。


「だから妖力の使い方覚えたら、文《ふみ》を送っていいか」

「……文《ふみ》なら、いつでもいいよ。会いに来る時は、先に文を送ってくれればいい」

「分かった。約束する」


東《あづま》は一度頷き、それからもう一度、美月を見る。


「⋯⋯最後に、もう一個いいか」

「うん?」

「まだあんのかよ。もう妖力文《ようりょくぶん》でやりゃあ良いだろ」


ジャジーは露骨に嫌そうな顔をしている。


「俺にとっては文《ふみ》より大事だ!」

「いいよ。なに?」


すると。

東《あづま》の顔が再び真剣なものとなる。


「噛みてぇ」

「却下」

「今『いいよ』っつっただろ!」

「“言ってもいいよ”って許可だよ!」


東《あづま》は不満げに牙を見せる。


「俺らの求愛はな、言葉じゃねぇ。行動がすべてだ」


今度はジャジーも鳳《ほう》も口を挟まなかった。


美月は少し考える。


「私たちで言う、好きって言ったり、愛情を伝えること?」

「あぁ。俺らはただ言葉で言われても不安が残る。俺らの牙は武器だ。それを相手が受け入れるってのが、一番分かりやすい返事になる」

「……事情は分かった。⋯⋯でも」


美月は困ったように眉を下げる。


「今は、だめ」

「……そーか」


大柄な肩と眉が同時に下がり、明らかに落ち込んだ様子。


美月は続けて伝える。


「私、まだ二人にも返事してない。ジャジーと鳳の求愛の返事も返してないのに、東《あづま》のそれを受け入れるわけにいかない。そもそも東《あづま》のこと、まだ全然知らないし」

「……おう」


美月は少しだけ笑った。


「だから、そんなに私を好きだって思ってくれてるなら、まず陸仕様の愛情表現を覚えてきて」

「陸仕様……」

「急に触るのはだめ。抱くのも噛むのも論外オブ論外」

「ろんがいおぶろんがい」

「そこは学ばなくていい!」


美月は頭を抱えた。


「少なくとも、触ったり抱いたり噛んだりしたい時は、先に聞く。これが最低限」


東《あづま》はじっと美月を見る。


「それで、お前の気持ちは動くのか」

「ちゃんとしてくれてたら、もちろん動くよ」

「なら、やる」


東《あづま》の手が伸びた。

しかし、今度は強引に抱き上げたりはせず、途中で止まる。


「……じゃあ、手ぇ握ってもいいか」


美月は少し驚いて、それから笑った。


「うん。それならいいよ」


大きな手が、今度は本当にそっと美月の手を包む。


「ぜってぇ妖力覚える。美月に文《ふみ》を送る」

「あはは。うん」

「だから、美月も俺のこと、頭に入れといてくれ」

「それも、いいよ」


美月も、その手を握り返した。


津波のようだった東《あづま》の愛情表現。


それは美月との会話を経て。


ほんの少しだけ、波を弱めたのだった―――。




第5章 深まる関係編 - 第6話

「津波から高波へ」

→第5章 深まる関係編 - 第7話

「市場価値は真反対」へ

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