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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 深まる関係編 -

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第5章 深まる関係編 - 第5話「混沌《カオス》漁業」


東《あづま》の顔から、それまで浮かんでいた無邪気な笑みが消えた。


『誰にでも同じこと言うんじゃないの!?』


美月にとっては、照れ隠しも混じった一言だった。


―――だが。


「誰にでも言うわけねぇだろ!!」


怒号が飛んだ。


「ひ…っ…!?」


美月の肩が跳ねる。


少し離れた場所で機を窺っていたジャジーと鳳《ほう》も、動きを止めた。


東《あづま》は明確に怒っている。


けれど、その怒りは美月へ牙を剥くものではなかった。


「海のもんは死ぬほどまっすぐだ!」


東《あづま》は美月を抱えたまま、真っ直ぐその目を見る。


「自分が決めたやつと添い遂げられねぇなら、自ら死ぬやつも多い!」

「え……」


美月の表情から、さっと笑いが消えた。


それを見た東《あづま》は、深く息を吐くと、声のトーンを落とす。


「自分が気に入った相手と番《つがい》になれんだったら、なんだってやる。俺らの求愛は命だってかかってんだ」

「…重い…」


思わず呟いた。


先ほどまで軽快な速度で進んでいた求愛に急に命までが乗り、美月の調子も勢いを無くす。


東《あづま》は眉を寄せる。


「なぁ。どうしたら俺のもんになんだよ」


その表情は、わずかに苦しげだった。


「……力か?」


東《あづま》の視線が、美月の向こうへ移った。


その視線を浴びたジャジーと鳳《ほう》は、戦闘態勢を取る。


「あいつら、倒せばいいのか?」

「なんでそうなるの!?」


美月がぎょっとする。


東《あづま》から見れば、美月にはまだ契約印がない。

だが、あの二人との間に何かしらの深い繋がりがあることくらいは分かる。


なら、倒せばいい。


この雌を囲っている雄二匹を倒し、自分が奪えばいい。


鳳《ほう》は昔からの腐れ縁だ。

長い付き合いもある。


それでも今の東《あづま》の中では、迷う余地すらなかった。


番候補と、昔からの馴染み。


秤《てんびん》へ載せるまでもなく、前者が重い。


「海洋の王から百獣の王にならないでよ!」


美月が叫ぶ。


「あの二人は私の大切な人なの!」


東《あづま》に向けて、強く言い切った。


その言葉に、ジャジーと鳳は目を見開いた。


美月は続ける。


「それを傷つける人なら、一生好きになることはないです!」


東《あづま》は一度瞬いた。


「わかった。ならやらねぇ」

「早っ!?」


迷わない。


先ほどまで殺気混じりの視線を向けていたジャジーと鳳《ほう》から、すぐに興味を外した。


ジャジーが半眼になる。


「切り替えが怖ぇよ……」

「美月殿の一言だけで止まる点については、まだ救いがあるでござる……」

「それと!」


美月は続ける。


「私は陸で生きたいので」

「なら俺が行く」


また即答。


「…………」


美月は少しだけ考え、試すように言った。


「……食事、野菜だらけになるかもよ?」

「俺が魚取ってくる」

「わぁいそこはありがた……って、まだ番にならないからね!?」


魚に釣られかける美月。

“魚を釣る”ではなく“魚に釣られる”など、普通に考えればおかしな話である。


「とりあえずお互いを知る!話はそれから!!」

「……断られたわけじゃねぇんだな?」

「ま、まぁ……そうだけど……」


告白されたジャジーにも、鳳《ほう》にも返事は保留中。


ならば、この東《あづま》だけ、今この瞬間に完全拒否する理由もない。


美月がしどろもどろに認めると、東《あづま》は嬉しそうに牙を見せた。


「わかった。ならお前の返事を待つ」

「……っていうかこれ、私が受け入れる方向に誘導されてる?」

「そんなつもりはねぇぞ?」

「本当…?」


美月は疑わしそうに目を細めた。


そこで、少しだけ気になったことを口にする。


「……ちなみに」

「なんだ?」

「……待った結果、番になれなかったとしたら……?」


東《あづま》が目を瞬く。


先ほど、自分が選んだ相手と添い遂げられなければ、自ら死ぬ者もいると言った。


なら、美月が最後まで東《あづま》を選ばなかった時、この男はどうするのか。


少し、怖くなった。


だが―――


「それは俺の努力が足りなかったってことだろ」

「……え……」


あまりにもあっさりしていた。


「俺らは端《はな》から全力だ」


東《あづま》は真っ直ぐ言う。


「それで選ばれなかったなら、俺らに足りねぇもんがあったってことだ。そこに文句言うのは海の男じゃねぇ」

「…………」


ギュン。


美月の胸の奥で、何かが勢いよく跳ねた。


少し離れたところから、ジャジーが眉を寄せる。


「おい。遠くからでも概念擬音聞こえてきたぞ」

「だってこんなどストレートに気持ち伝えられ続けたら、キュンメーター振り切れるって!!」

「なんだそれ」


東《あづま》が首を傾げた。


「良いのか?悪ぃのか?」

「……ぃぃ……」


美月が小さく答える。


すると。


「そーか!ならよかった!」


ニカッと、先ほどまでの真剣さが嘘のように、東《あづま》は大きく笑った。


その単純明快な表情を見て、美月はしばらく黙る。

そして。


「……東《あづま》って、シベリアンハスキーみたいだね」

「なんだそりゃ」

「犬」

「犬!?」


東《あづま》の顔が盛大に歪んだ。


「うん。人間界にいる大型の犬で、全力で甘えたり遊んだりするんだけど、力加減が下手なの」

「それは俺自身知ってる」

「知ってるなら抑えてよ!」

「相手が番候補なら無理だ!」

「なんでよ!」


東《あづま》は当然のように海を指した。


「海は広ぇ」


一瞬だけ、その声に海の男らしい重みが乗る。


「次に会える保証なんかねぇ。気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる。本能に迷ってる暇がねぇんだよ!」

「…………」


美月は海を見る。


広い。

本当に、とんでもなく広い。


その中でたまたま出会った相手と、次の日も会える保証はない。


―――そう考えると。


「……回転寿司みたい……」


沈黙。


「なんだそりゃ」

「人間界の食事処」


美月は真顔で説明を始めた。


「お米の上に魚の切り身が乗った“寿司”って食べ物が、一定のスピードで流れてくるの」

「魚が陸で流れんのか?」

「そう。流れてきたお寿司を取らないと、次いつ来るか分からないから……似てるなって」


東《あづま》が少し考える。


そして。


「で、寿司はどっちだ?」

「私だよチクショー!」


美月の叫びが、海岸いっぱいに響いた。


魚を釣るつもりだった美月が、東《あづま》という海系怪異に釣られた混沌《カオス》漁業。


そんなやり取りを。


「まためんどくせぇ取り巻きが増えんのかよ……」


ジャジーは眉間に皺を寄せながら聞いていた。


「……」


鳳《ほう》は少し離れた場所から、黙ったまま見つめていた。


先ほどまで怒りに濁っていた瞳は、すでに元へ戻っている。


けれど。


その表情だけは、ひどく複雑だった。


東《あづま》の言葉。


『気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる』


ジャジーにも、似たことを言われた。


そして、今。


美月は、自分とはまるで違うやり方で真っ直ぐ求める男を前にして、確かに心を動かしている。


鳳《ほう》は無意識に、自分の口元へ指を触れる。


海から帰ったら、伝えると決めたことがある。


その決意だけは、もう胸の奥へしまわなかった。




第5章 深まる関係編 - 第5話

「混沌《カオス》漁業」

→第5章 深まる関係編 - 第6話

「津波から高波へ」へ

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