↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 深まる関係編 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/58

第5章 深まる関係編 - 第3話「最初からクライマックス」

「着いたでござる」


潮の匂いが濃くなり、やがて視界いっぱいに海が広がった。


「海だぁ⋯⋯!」


美月が思わず目を輝かせ、一歩前へ出ようとした、その時。


「美月殿とジャジー殿は離れておるがいい」


鳳《ほう》がすっと二人の前へ出た。


「なんで?」

「奴は基本、海の中に棲んでおる。顔を出す際、拙者らが濡れる可能性が高いのでござる」


ジャジーが海を眺めながら鼻を鳴らす。


「別に頭から全身濡れたりしねぇだろ」

「軽い津波だと思われよ」

「軽いにしても規模が災害!」


美月は即座に数歩下がった。


ジャジーも文句を言いつつ、その隣まで移動する。


二人が十分離れたことを確かめると、鳳《ほう》は改めて海へ向き直った。


「東《あづま》。拙者だ」


波が迫り、引いていく。


一秒、二秒、三秒。


しばらく何も起きなかった。


「……誰も来ねぇぞ」

「来ておる」

「でも波は静かだよ?」

「嵐の前の静けさでござる」

「結局災害じゃん!」


直後。


穏やかだった海面が、不自然に盛り上がった。


「え」


美月が目を見開く。


水そのものが巨大な何かに押し上げられるようにせり上がり―――


ザバァァッ!!


「鳳《ほう》!久しぶりじゃねぇか!」


大量の海水と共に、一人の男が姿を現した。


「うわっ!」


鳳《ほう》の言った通りだった。

離れていなければ、三人まとめて頭から潮水を被っていたに違いない。


海から現れた男の上半身は、ジャジーや鳳《ほう》と同じく大柄だった。


だが、腰から下が違う。


人魚に似た長い魚体が、海から上がってなお水中へ伸びている。

全身を覆う鱗は針のような鋭さを持ちながら寝そべり、巨大な尾びれは鎌と針山を合わせたような禍々しい形をしていた。


美しい人魚というよりも、圧倒的に怪異《かいい》だった。


「毎度もう少し落ち着いて出ろと言っているでござろう!」

「なんだよ。今日は客が来るっつったから落ち着いて上がっただろ?」

「身体が巨躯《きょく》なのでござる!」

「成長期に食いすぎた」

「縮め!」

「無理に決まってんだろ!」


ジャジーが半眼になる。


「また荒っぺぇの来たな」

「あれが鳳《ほう》の古い縁の人なんだ……」


東《あづま》はまだ鳳《ほう》しか見ていなかった。


ふと鼻を鳴らし、首を傾げる。


「お前、やっぱなんか変わったんだな」

「訳あって別の妖《あやかし》が混じったのでござる」

「何が混ざったんだよ」

「僵尸《きょうし》でござる」

「ふーん。まぁ生きてんならいい」

「いやもっと掘り下げねぇのかよ」


ジャジーが思わず突っ込む。


美月も目を丸くした。


「ずいぶんさっぱりした人なんだなぁ……」


鳳《ほう》は首だけを美月とジャジーに向けた。


「美月殿。ジャジー殿。こやつは東《あづま》。拙者の腐れ縁でござる」


その言葉で、ようやく東の視線が鳳《ほう》の向こうへ移った。


ジャジーを見て、そして美月。

その瞬間、東《あづま》が止まった。


「……雌《めす》?」


鼻が、わずかに動く。


「め…めす…」


美月は思わず復唱する。


「これ……あの時の匂いか……?」


鳳《ほう》から送られてきた妖力文《ようりょくぶん》。


そこにほんのわずかに混ざっていた、妙に頭へ残る香り。


東《あづま》の瞳孔が、針で引っ掻いたように細くなる。


「……待て」


鳳《ほう》の声が低くなる。


「何をするでござる」


返事はなかった。

東《あづま》はただ一点、美月に釘付けになっている。


―――ズル。


東《あづま》の長い魚体が砂浜へ乗り上げた。

下半身を引きずりながら、異様な速度で真っ直ぐ美月へ近づいていく。


「ウワァァ動きが爬虫類《はちゅうるい》!!」


美月が肩を跳ねさせた。


「おい!お前止まれ!」


ジャジーが前へ出る。


東《あづま》は面倒そうに一度だけそちらを見た。


「お前、ちっと退け」

「は?」


水かきのある大きな手が海面を掬《すく》う。


手のひらいっぱいにも満たない海水。

それを東《あづま》は、ジャジーへ《《撃ち込んだ》》。


ドンッ!!


「ゔっ――!?」

「えぇ!?」


二メートルの巨体が簡単に吹き飛んだ。


海水。

ただのコップ1杯ほどの海水。


なのにそれは、まるで鉄球でも投げ込まれたかのような衝撃だった。


砂浜を滑ったジャジーが即座に身を起こす。


「ぐっ……何すんだてめぇ!!」


東《あづま》はジャジーに視線すら移さない。


「邪魔だ」


更には悪びれる様子すらもない。


「え!?何!?なに!?」


美月の周囲を、東《あづま》の長い魚体がぐるりと囲った。


「イヤァァ魚を捕まえる予定が魚に捕まった!」


美月が縮こまる。


東《あづま》はそんな反応にも構わず、上半身を屈めた。


碇の紋様が入った治安の悪い顔が近づく。


東《あづま》の鼻先が、美月の首筋へ触れそうな距離まで寄った。


「やっ⋯⋯」


東《あづま》が、大きく息を吸った。


そして。


目を見開く。


「……やべぇ」

「え……っ!?」


その声と同時に、美月の身体が宙へ浮いた。


東《あづま》の腕が腰と背を抱え、軽々と持ち上げている。


「東《あづま》!!何をするのだ!!」


鳳《ほう》の怒声が飛ぶ。


だが東《あづま》は、子供のように二イッと牙を見せた。


「鳳《ほう》!こいつは俺の番《つがい》にすんぞ!」


当たり前のように告げる。


「番《つがい》ってなに……?」

「伴侶《はんりょ》のことでござる!」

「ゑ゛!!」


美月の顔が凍る。

東《あづま》はもう一度、その首筋へ鼻先を寄せた。


「……これだ」


うっとりした様子で低く呟く。


「本能がお前を逃がすなっつってる」

「ちょ、なに――」


東《あづま》の口が開いた。


ジャジーと鳳《ほう》の背筋に、同時に嫌な汗が走る。


「おいやめろ!!」

「東《あづま》!!」


その声を待たずして。


東《あづま》の牙が、美月の首筋へ沈んだ。


「ぁ……っ!?」


痛みに肩が跳ねた。


だが、深くはない。

皮膚を裂くほどでも、血を奪うほどでもない。

ましてや契約などではなかった。


海側の存在が行う、ただの求愛《きゅうあい》行動。


東《あづま》の口が離れる。


美月は噛まれた場所を手で押さえながら、涙目で東《あづま》を睨んだ。


「いったぁ……!乙女の肌に何してくれてんの!?」

「求愛だ。当たり前だろ」

「当たり前じゃないわ!」

「なら種族特性だ」

「どっかで聞いたことあるよそのセリフ!」


美月の横で、ジャジーがそっと目を逸らした。


その一方。


鳳《ほう》の中では、何かが切れていた。


自分が大切にしてきた美月の首筋へ。

自分が慎重に距離を縮めてきた、その場所へ。


よりによって、自分の腐れ縁が先に牙を立てた。


「東《あづま》ァ……貴様……!!」


鳳《ほう》の手が、メキメキと音を立てて変形する。


指先から鋭い爪が伸び、手そのものが獲物を捕らえ引き裂くための形へ変わっていく。


「鳳《ほう》……?」


美月が息を呑む。


鳳《ほう》瞳の色が濁る。

頭の皿に貼られた札が、ざわざわと不穏に揺れていた。


ジャジーが引きつった笑みを浮かべる。


「おいおい……あいつ完全にキレてんぞ」


しかし、東《あづま》はむしろ興味深そうに鳳《ほう》を見る。


「おー!ずいぶん禍々《まがまが》しい変貌《へんぼう》遂げてんじゃねぇか!それが僵尸《きょうし》か?」

「美月殿を……貴様の海に連れて来たのは、間違いであった……」


こめかみに青筋がくっきりと浮かんでいる。


「お主ならば問題ないと⋯⋯高を括った拙者の判断が誤りであった⋯⋯!」

「なんだよ」


東《あづま》は美月を抱えたまま、首を傾げる。


「この雌《めす》に印はねぇ。つまりお前のものでもねぇだろ」

「……黙れ……」

「欲しいもんは早く取らねぇと奪われる。それがこの世界だろうが」


鳳《ほう》の表情が止まった。


先日。

まったく同じ意味の言葉を、ジャジーから聞いた。


「……黙れと、言っている……」


低い声。


だが東《あづま》は気にしない。


「まぁ、こいつはもらってく!」


ニカッと、悪意など欠片もない無邪気な笑み。


「いいもん貰えた礼に、魚は好きなだけ取ってっていいからな!」

「私が魚の交換品になってるぅ!!」


美月の絶叫を抱えたまま、東《あづま》の長い魚体が再び海へ戻り始める。


「おい待て!!」

「東《あづま》!!」


穏やかな水面とは反対に。


ジャジーと鳳《ほう》の怒声が、砂浜へ響き渡っていた。





第5章 深まる関係編 - 第3話

「最初からクライマックス」

→第5章 深まる関係編 - 第4話

「津波のような男」へ

読んで頂きありがとうございます。


面白かったらぜひ評価や★を押して頂ければ、やる気が上がります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。