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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 深まる関係編 -

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第5章 深まる関係編 - 第2話「チュートリアル終了」

「よし、じゃあいざ海へ!」


朝の支度を終えた美月が、玄関先で勢いよく拳を上げた。


その格好は、普段よりほんの少しだけ外出仕様になっている。


つばの広い帽子には、小さなさくらんぼの飾り。

淡い黄色のワンピースには、胸元にパイナップルのワンポイント。

足元のサンダルには、小粒の苺がいくつも描かれていた。


全体で見ると、妙に児童の夏休み感が強い。


「……」

「……」


ジャジーとほうが揃って黙る。


美月は二人の前でくるりと一回転した。


「可愛い?」

「……あぁ」

「……うむ……」

「なにそのちょっと残念そうな感じ!ほうは笑ってるし!」


ジャジーが額を押さえる。


「まさかフルーツ盛り合わせが完成するなんて思ってねぇからな!」

「え!?だめ!?」

「だめではござらぬ。とても……味のあるものとなっている」

「誰が上手いこと言えと!」


ほうは口元を押さえたが、肩が微かに揺れている。


ジャジーは改めて美月を上から下まで眺めた。


「いや、可愛いぞ?ただ俺が想像してた“おしゃれ”の可愛さと別方向だっただけだ」

「想像してた可愛さってなに」

「もっと肌色率が高ぇ方だ」

「最悪に正直!」


即答だった。


「なら、今はどう可愛いの」

「庇護」

「子供っぽいってこと!?」

「問題ない。似合っているでござる」

「『問題ない』って褒め言葉なのかなぁ……」


ほうは真面目な顔で美月を見る。


「美月殿は着飾らなくとも愛い。そこへ果実が添えられただけでござる」

「褒められてるんだよね!?」

「無論でござる!」

「褒め方下手かよ」

「ではなんと申せばよい!」

「普通に言やぁいいだろ」

「……普通、とは」

「この家たびたび哲学出るなぁ」


美月は帽子を被り直し、用意していた荷物を持ち上げた。


「まぁ今回は動きやすい服にしただけだし!とりあえず早く魚!」

「もう目的がデートじゃねぇな」

「あやつも既に妖力文ようりょくぶんは読んでいるはずでござる。何かしらの準備はしてあろう」

「タンパク質は大事!筋肉!美容!」

「俺ら種族特性に応じた魔力とか妖力補給できりゃ、基本食わなくても健康だぞ」

「元も子もないこと言わないで!」


美月は気を取り直し、再び拳を上げた。


「いざ海へ!」

「さっきも言ってたぞ」

「意気込みは大事だから!」


三人は拠点を出て、海へと続く道を歩き始めた。

しばらく進むうち、美月は周囲をきょろきょろと見渡す。


「ようやく始まりの街から出た!」

「こんな長ぇチュートリアル、俺だったらゲーム叩き割る」

「長かった分、大きな幸せが舞い込むかもしれないでしょ!」

「お前の場合、舞い込むっつーより殴り込んで来そうだけどな」

「そんなことあってたまるかぁ!」


さらに歩くと、木々の向こうから水音が聞こえてきた。

やがて視界が開き、澄んだ川が現れた。


「綺麗な川……!」


美月が思わず足を止める。


ほうも懐かしむように水面を見つめた。


「ここは、拙者が美月殿と出会う前に拠点としていた場所でござる」

「……川が拠点?」


美月の目が点になる。


「うむ」


ほうは当たり前のように頷いた。


「……野宿?」

「うむ」

「毎日?」

「左様」

「ワイルドすぎる……」


美月が川辺を見回していると、ほうが少しだけ声を落とした。


「……拙者はまだ、美月殿から返事はいただいておらぬ。ゆえに、そろそろ貴宅より去ろうと思っておった」

「え?」


美月が振り返る。


「でも一日一回は補給必要でしょ?」

「ならば夜に参ればよいこと」


すると、美月の肩が分かりやすく落ちた。


「……やだぁ」

「……美月殿?」


ほうが目を瞬く。


美月は自分でも思った以上に素直な言葉が出てしまい、少しだけ視線を逸らした。


「別に……付き合ってなくてもシェアハウスする人だっているし……」

「しぇあはうす」

「人間界複雑すぎんだろ」

「っ……つまり!」


美月は勢いよくほうへ向き直る。


「あの家に住んでていいよってこと!」

「よかったな」


ジャジーが即座に言った。


「ジャジーはもっと遠慮ってもんを頭に入れて!」

ほうと同じこと言うな!」


ほうは二人のやり取りなど耳に入っていないように、美月だけを見つめていた。


「……拙者は、貴宅に居てよいのか」

「ござる消えてんぞ」

「いちいち報告せぬでよい!」

「良いに決まってるじゃん!それにさ」


美月は笑う。


「私の血を飲んでるんだから、家なんて今さらでしょ」

「……」

「え?なに?」


ジャジーが片手で顔を覆った。


「だからお前フォロー下手かよ…」

「なんでよ!」

ほうにしてみろ!“家主に手ぇ出してんだから、今さら家問題とかお前何言ってんだ”って話だ」

「翻訳されると最悪ぅ!」

「………よい……」

ほう!いつもごめん!」

「ならもっとフォローの仕方覚えろって話だな」

「それができれば……ん?」


ジャジーへ顔を向けた美月の視界に、小さなものが入り込んだ。


道の脇。

草木に半ば埋もれるように、古びたほこらが建っている。


「……ずいぶんボロボロだね」

「こちらにほこらがあることは知っていたでござるが……随分、風化しておるように見えるでござる」


近づいてみれば、木は色褪せ、端は欠け、長く人の手が入っていないことが分かる。


美月は少しだけ黙ったあと、ほこらの前へ立った。


そして、そっと手を合わせる。


「美月?」

「管理所で、消えそうな人の話が聞こえてきたけど……存在が消えたり忘れられるって、すごく悲しいよね……」


ほこらに残された文字へ目を凝らす。

疱瘡神ほうそうしん……病気の神様かなぁ?」

「病気の神のためにここまで来るやつもいねぇだろうからな。徐々に忘れられてったんだろ」

「……じゃあ」


美月は想いを馳せるように、ほこら全体を見る。


「私は、覚えておこうかな……」


ほうが美月を見つめる。


「……美月殿は、慈悲深いでござるな」


その言葉に。


美月はほうへと顔だけを向け、にこりと笑う。


「病気になるのは嫌だけど、覚えておくくらいはできるからね」

「じゃあ万が一そいつがお前の前に現れて病気撒いたらどうすんだ」

「気合いで免疫上げて回復する」

「病気になる前提じゃねぇか!」

「かかったら仕方ないもん!治せばいいだけ!」


三人の声が、少しずつほこらから遠ざかっていく。






―――その頃。


誰もいない道端で。


「……?」


一人の男が、自分の手を見つめていた。


薄れかけていた指先の輪郭が、ほんのわずかに濃くなっている。


「……なんだ……急に、輪郭が戻った……」


だが。


それも長くは続かなかった。


輪郭は再び、揺らぐ。


男はしばらく自分の手を見つめたあと、小さく息を吐いた。


「……そうだな」


ゆっくり立ち上がる。


「……私は、お前とともにある」


一歩。

丁寧に縫い合わせられた鼻緒の草履が、乾いた道へ軽い音を立てた。


「……消えるときは、一緒だ」


そして男は。


たった一人で、道の先へと歩き始めた。







第5章 深まる関係編 - 第2話

「チュートリアル終了」

→第5章 深まる関係編 - 第3話

「最初からクライマックス」へ

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