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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第4章 - 穏やか(?)な日常編 -

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第4章 穏やか(?)な日常編 - 最終話 前編「前進」


美月は、写仝シャドウから借りていた決済札を、そっと受付台の上へ戻した。


「じゃ、ありがとうございました!」

「……?」


写仝シャドウは札と美月を交互に見る。


「札は受け取って行かれないのですか?」

「また後日で!」

「……あなたの言っていた、職員へ会いに来られるための口実ですか?」

「んー、それもあるんですけど……」


美月は一度視線を逸らした。


それから。


少しだけ頬を赤くして、にへっと笑う。


「販売開始する前に、デートの計画もしたいので」

「……」


ザザッ。


今度は顔だけではない。

写仝シャドウの全身の輪郭りんかくが、一瞬だけ大きく揺らいだ。


写仝シャドウさん、次はなんでブレたんですか?」

「……なんでもありません」

「そう?」

「はい」

「じゃあ、また後日札を受け取りに来ますねー!」


美月は気にする様子もなく、満面の笑みで手を振る。


「……お気をつけて」


その背中が、管理所の出口へ向かって小さくなっていく。


写仝シャドウは、しばらくその姿を見送っていた。


美月が管理所から出る前に、通りかかった『在魂課ざいこんか』。

中から、数人の声が聞こえている。


「例の者、やはりだめです」

「見た目通り、頑固だな…」

「本当に消えるぞ」


美月は思わずそちらを見る。


「前に話題になってた人かなぁ⋯。まだ解決しないんだ⋯」


そして、同じ並びにある『風聞対策課ふうぶんたいさくか』でも、数名の職員の声がしていた。


「氷海でまた新しい目撃情報だ」

「例の天使のような者か?」

「そうだ。翼は赤いらしい」


美月は首を傾げる。


「赤い羽の天使っているの…?今度フレイフェルさんに会ったら聞いてみようかな」


美月は再び前を向き、出口へ歩みを進めた。


その頃。


「あら、写仝シャドウさん」


美月の背中を見守り続けている写仝シャドウの横から、聞き慣れた女性の声。


捜索監視課そうさくかんしか百之鬼モモノキだった。


「どうされたんですか?随分と輪郭りんかくが不安定でしたけれど」

「……問題ありません」

「あら」


百之鬼モモノキは、ちょうど出口の向こうへ消えていく美月を見つける。


「美月さんですね」

「はい」

「娘さんに何か良いことでもありました?」

「……良いことには、間違いありませんね」

「“娘さん”は否定しないのですか」

「……来徒らいとです」


百之鬼モモノキはくすりと笑った。


「今日はもう早上がりしたらどうですか?」

「……いえ」


写仝シャドウの視線は、まだ美月が消えた先へ向いている。


「私は、ここを好きだと言ってくれた来徒らいとのために、職務を全うさせていただきます」

「真面目ですね」

「定時までですが」

「ここまで来て台無しにしないでください」


二人は少しだけ言葉を交わした後、それぞれの持ち場へ戻っていった。


一方。


「ジャジー!ほう!お待たせ〜!」


管理所の門を抜けた美月が、大きく手を振る。


「美月殿。御苦労であ――」

「美月!」

「へ?」


ジャジーの翼が、大きく広がった。


次の瞬間。


「ヴァーーー!!」


景色が縦に跳ねた。


美月の身体が軽々と抱き上げられ、両足が宙に浮く。


「いぃぃいやぁぁぁ上昇型スプ○ッシュマウンテン!!」

「何だそれ」

「平和な景色が瞬時に縦にブレた!」

「生きてりゃそういうこともある」

「あと、ちょっと事故した時に迫ってきた2トントラック思い出した」

「俺は2メートルだ」

「重要なのはそこじゃないよ!」


美月はジャジーの腕の中でもがく。


「っていうか急に抱き上げないで!」

「お前が可愛い顔して走ってくんのが悪ぃ」

「濡れ衣!」


美月は管理所敷地の端で立ったまま動かない鳳に視線を送る。


ほう!ジャジーを大地に降ろさせて!」

「……承知」


下から返ってきた声は、やけに静かだった。


ほうの表情はいつもと変わらない。

 

ただし。


こめかみに、くっきり青筋が浮いていた。


「……ほう?」


その周囲に、水球が一つ。


二つ。

三つ。


そして、明らかに一人に向ける量ではない水球が、次々と浮かび上がる。


ジャジーの顔が引きつった。


「……待て。ありゃあ⋯⋯」


直後。


水球が銃弾のように撃ち出された。


「うおっ!?」


ジャジーが翼を打ち、身体を捻る。


水弾が羽根のすぐ横を掠めて飛んでいく。


「ン゜ァァァァトルネードスピンーーー!!」


美月はジャジーの捻りに合わせて、身体ごと振り回されるがままだ。


「お前、水はやめろよ!」

「ならば何ならよい」

「またござる消えてんぞ!」

「黙れ」

「美月!こいつマジで余裕ねぇぞ!」

ほう待って!私いる!」

「美月殿には当てぬ。ジャジー殿の羽根を撃つだけでござる」

「仲間に本気マジの力撃ち込むんじゃねぇよ!」


その時だった。


「……っ」


ほうの身体が、ぐらりと傾く。


ほう!」


美月の声が飛ぶ。


思い出した。


ほうが最後に血を口にしてから、三日経つ。


その状態で、今かなりの妖力を使った。


ジャジーも異変に気づき、すぐに地面へ降りる。

同時に、美月の足も地面へ戻った。


「……問題ない」

「問題なくないでしょ!」


よく見れば、ほうの顔色は明らかに悪い。


「ギリギリだったなら言ってよ……!」

「帰宅するまでは、言わぬつもりであった……」


その言葉で、美月の頭に先ほどエニシから聞いた話がよみがえる。


ほうちゃんはねぇ……とにかくなんでも自分の中にしまい込んじゃう性格なのよぉ』

『我慢してぇ、我慢してぇ、我慢してぇ……自分でどうにかしようとするの』


「……」


美月は迷わず袖を捲ると、白い腕をほうの前へ差し出す。


ほう。今、吸って」

「美月殿! ここは外でござる!」

「『妖力が枯渇する直前まで待つ必要もない』って言ったの誰?」

「……ぐ……!」

「ぐぅの音も出ねぇな」

「お主は黙っておれ……!」


美月は腕を下ろさない。


ほう

「……」

「必要な時に助けを求めるのは、恥じゃないよ」


ほうの黄色い瞳が、美月を見る。


「むしろ、我慢した結果倒れられる方が格好悪いし」

「……」

「私も、頼られてないみたいで悲しい」

「そのようなつもりはないでござる!」


思わず、ほうの声が強くなる。


その張り上げられた声に、美月は少し笑った。


「なら頼って」

「……」

「それにさ」


一度、腕を見る。


「もう数十人の前で一回必死に吸血してるから、今さら大丈夫だよ」

「……」

ほう?」


沈黙。


ジャジーが横から覗き込む。


「美月。お前、トドメ刺したな」

「刺してないよ!?」

「こいつ今、メンタル地面にめり込んでんぞ」

「なんでよ!」

「お前のフォローが壊滅的だからだろ!」

「うそ!?ごめんほう!」

「……よい……」

「声ちっせぇ!」


美月は気を取り直し、もう一度腕を差し出した。


「ほら、早く!」

「だが……」

「いいから!じゃないと今すぐ裁縫セットのちっさいハサミで指先切って、口の中ねじ込むよ」

「それはやめるでござる!」

「じゃあ、早く」

「……承知……」


観念したように、ほうが美月の腕を下から支える。


丁寧に、慎重に。


そして、肌へ牙を寄せた。


「……んっ……」


小さな刺激に、美月の肩がぴくりと跳ねる。

ほうの喉が、一度動く。


―――その横で。


ジャジーは何も言わず、知らん顔をしたまま。


外から視線が入らないように。

まるで、美月とほうを隠す幕のように。


大きな翼をいっぱいに広げていた。





第4章 穏やか(?)な日常編 - 最終話

前編「前進」- 完 -

→第4章 穏やか(?)な日常編 - 最終話

後編「未定」へ

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