第4章 穏やか(?)な日常編 - 第2話「連想ゲェムwith種族差異」
「あぁぁごめん鳳!だいぶ刺激のある話だったね!?」
美月は、先ほどまでジャジーと繰り広げていた“淫魔の補給事情”を思い返し、今さら申し訳なさが込み上げてきた。
向かいに座る鳳へ顔を向けると、彼はまだ微妙に頬を赤らめていたものの、静かに首を横へ振る。
「構わぬ。必要でござろう」
「そ、そう言ってもらえると助かる……」
美月はほっと胸を撫で下ろすと、卓上の紙へ視線を戻した。
「ちなみに、鳳はどのくらい保つの?」 「……三日程でござる」
「三日」
美月は紙へ“鳳・三日”と書き込み、それからふと顔を上げた。
「ちなみにそれは凄いの?」
「美月殿からの吸血が初のことであったゆえ、他を知らぬ」
「あ、そっか」
そもそも鳳は、あの日まで誰かの血を吸った経験そのものがなかった。
考えるように腕を組む。
「しかし、少量の吸血であったにもかかわらず、消耗しきった状態からほとんど満たされていた。通常はこうではあるまい」
「そ、そっか」
また何かがおかしいらしい。
自分の妖力なのか、血液なのか。
何がどう作用しているのかは分からないが、美月はとりあえず紙へ追加で書き込んだ。
「じゃあ鳳は三日に一回。時間は夜で」 「構わぬ。美月殿の体調を第一としよう」
あまりにもすんなり決まった。
先ほどジャジーとキスの時間を巡って大揉めしたことを思い出し、心底安堵する。
「よかった……鳳のシフト決定はスムーズだった……」
「お前はそれで平気なのかよ」
横からジャジーが口を挟むと、鳳は眉を寄せる。
「お主の補給とはわけが違う。拙者が美月殿から血をいただけば当然、美月殿の血液は減る。拙者の一存でどうこうするものではござらん」
「鳳……!」
美月の顔がぱっと明るくなる。
なんという安心感。
先ほどまでキスを業務扱いするなと騒いでいた男とは大違いである。
「⋯⋯だが」
「え」
「おっ」
美月とジャジーの声が同時に出た。
鳳は、ごく真面目な顔のまま続ける。
「妖力が枯渇する直前まで待つ必要もないでござる」
あまりにも普通に言った。
「……」
「……」
二人が黙ると、鳳は眉を寄せた。
「なぜ黙るのであろうか」
「鳳」
「なんでござるか」
「やっぱりムッツリだな」
「ムッツリではござらぬ!」
間髪入れず否定が飛んだ。
ジャジーは面白そうに口角を上げる。
「じゃあなんだよ。お前の言葉にしたら“破廉恥”か“助平”か?」
「……ムッツリの方が幾分控えめに思えるのはなぜでござるか……」
「そこで悩まないで!」
美月は頭を振り、再び紙を指さした。
「はい!吸血シフトは三日に一回!夜!以上!」 「つーかよ」
まだ何かあるらしく、ジャジーが紙を覗き込む。
「なんで俺が昼で、鳳が夜なんだ?」 「ちゃんと理由があります」
「聞こうじゃねぇか」
「まずジャジー」
美月は真顔で問いかけた。
「“夜”、“淫魔”、“男女”、“キス”で連想するものといえば?」
それを聞いた瞬間、ジャジーはピンときた様子で口を開いた。
「セッ――」
「ほらぁ!!」
最後まで言わせず、美月が卓を叩いた。
「なんだよ!」
「もう“夜”と“淫魔”の時点で危険なんだよ!だから昼にしたの!」
「昼だって普通にやるぞ? セッ――」
「はい次ぃ!!」
美月は強引に話題を切り替えた。
鳳は既に片手で目元を覆っている。
「鳳の吸血を夜にしたのは、あとは寝るだけで済むから。血液が減ってもすぐベッドで休める状況なら、安心でしょ?」
「……」
「鳳?」
「……かまわぬ」
返事までに、妙な間があった。
ジャジーはじっと鳳を見ると、再度美月へ視線を戻した。
「美月」
「なに?」
「こいつだって男だぞ」
「知ってるよ?」
「なら察してやれ」
「何を」
ジャジーは深く息を吐いた。
「じゃあ“夜”、“男女”、“ベッド”、“吸血”で連想するもん言ってみろ」
美月も先ほどのジャジー同様に、ピンときた様子で口を開いた。
「ロマン」
ジャジーの上半身がぐしゃっと卓へ崩れる。
「お前なんでそういう時はポンコツになんだよ!」
崩れた体勢のまま、ジャジーは頭を抱えた。
「俺のときはお前が危険なもん連想させた側だろ!」
「“淫魔”が入ってる時点で九割危険なんだよ!」 「種族差別だ!」
「風評じゃなくて本人実績がある!」
鳳が低く息を吐いた。
「……これで会議は終わりでござるか」
「終わりです!」
美月は紙をぱたんと伏せた。
ようやく終わった。
朝食後に始まった会議は、仕事の分担から始まり、最終的にはキスと吸血と男女の夜について語る場になっていた。
穏やかな日常のための会議とは、いったい何だったのか。
「そういえば」
美月は立ち上がりながら思い出す。
「野菜の販売許可と時間停止魔法は準備完了だけど、通貨になる妖力の受け渡しはどうするのか聞いてなかったから、今から管理所行ってこようかな」
「俺も行く」
「拙者も同行しよう」
二人はほぼ同時に立ち上がった。
「いやいや!いいよ!二人で留守番してて!」 「なんでだよ!」
ジャジーが即座に眉を吊り上げる。
「お前みてぇなちっせぇのが歩いてたら、取って食われるかもしれねぇだろ!」
「そんな回転寿司みたいなことある!?」
鳳は顎へ指をかけると、一瞬、何かを思い返すように視線を落とす。
「ありえぬ話ではない」
「そうなの!?」
まさかの援護射撃だった。
美月は頬を膨らませる。
「もう……」
本当は妖力の受け渡し方法を聞くだけではなく、管理所にもう一つ相談したいことがあった。
だからこそ、一人で行きたい。
「じゃあ、管理所の前まで!」
美月は人差し指を立てた。
「そこからなら一人でもいいでしょ?」
「なんでそんな必死なんだよ」
「元人間には色々あるんです!」
「なんだよその万能回答」
ジャジーが訝しげに美月を見る横で、鳳は少しだけ考えた。
「ならば、拙者達が送るのは管理所前までとしよう」
「鳳ありがとう! 理解早くて助かる!」
美月の顔に、満面の笑みが浮かび、それを真正面から受けた鳳。
「……」
ほんの僅かに目を見開いたあと、すっと顔を逸らした。
「……礼には……及ばぬでござる」
「お前だけご褒美もらってんじゃねぇよ」
「何の話?」
美月はきょとんとする。
ジャジーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ほら、行くんだろ。さっさと準備しろ」
「はいはい」
美月が奥へ向かい、出かける支度を始める。
その背中を見送りながら、ジャジーは鳳を横目で見た。
「顔赤ぇぞ」
「黙れ」
「ござる消えてんぞ」
「黙るでござる」
数分後。
準備を終えた美月が戻ってくる。
「お待たせ!じゃあ管理所の前までよろしくね」
何事もなかったような顔で笑う美月の後ろに、ジャジーと鳳が並んだ。
こうして三人は、管理所へ向けて歩き出す。
穏やかな日常は、今のところ会議の議題としてしか存在していなかった。
第4章 穏やか(?)な日常編 - 第2話
「連想ゲェムwith種族差異」- 完 -
第4章 穏やか(?)な日常編 - 第3話
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