第2章 隠世の問題編 - 第7話「取り立て屋?」
美月とジャジーは、管理所に来ていた。
「いらっしゃいませ」
「幼怪課の方を見に来ました」
「正直ですね」
「昨日逆の立場を味わったので」
「なら仕方ないです」
昨日の事情を知らない幼怪課担当にしてみれば迷惑な話だが、それがここではまかり通ってしまうようだ。
写仝の案内のもと、美月とジャジーは昨日見送った『幼怪課』の前で足を止めた。
今日は扉が開いている。
「担当戻ってるみたい!」
美月の目が輝いた。
「俺もう結果見えてる」
ジャジーは腕を組んだままドアを見ている。
「だからフラグ立ててないって言ったでしょ!」
「いや、お前そういう引きは強そうだろ」
「そんなくじ運いらない!」
「お二人とも中へお願いします」
そして中へと足を進める。
「……おん?」
すると、目の前に1人の職員が現れた。
「あちらが、幼怪課担当の守命流職員です」
モデルのようなスラリとした体格に、長い髪。
そこだけなら安心できた。
しかし。
まず目に飛び込んだのは、赤い肌だった。
四白眼の目つきは鋭く、かなり彫りが深い。
額には立派な角が2本、天に向かって反るように生えている。
どう見ても子ども家庭支援より、何かを取り立てる側に見える。
「ゑ?」
美月は思わず後ずさり、再度看板を見る。
「美月さん、看板を見返しても担当者は変わりませんよ」
写仝がドアの外へ引っ込んだ美月を見ながら告げた。
写仝の言葉が耳に入っているのか否か、美月は何度も看板を確認する。
確かに『幼怪課』と書かれている。
取り立て屋の事務所ではない。
「お前…っ…フラグ回収完璧じゃねぇか…っ…」
ジャジーは後ろで笑いを堪えている。
美月は処理落ちした。
あれだけ脳内で出来上がっていた穏やかな保育士や保健師のイメージが、一気によろしくない理念を掲げた事務所のボスへと変貌を遂げ、その場で固まっている。
「はじめまして」
そんな中、赤い肌の男性職員が、美月たちへと声をかけてきた。
声は穏やかだ。
「は、はじめまして……」
美月は再度ドアを越え、赤肌の職員へと近づいた。
「『幼怪課』を担当しております。“産女”と“ことりぞ”の混血、守命流と申します」
「また両親の出会いが気になるタイプ!」
美月は思わず声を上げる。
「何をそんなに驚いているのですか」
写仝はあいも変わらず淡々としている。
この世界ならよくあることなのだろうが、美月の脳内では子どもを巡った大事件が起きている。
そんな写仝を見上げて美月は口を開いた。
「だって“産女”と“ことりぞ”だよ!?」
「はい」
「子どもがラグビーボールみたいに奪い奪われる世界しか見えないよ!」
「“らぐびーぼーる”?」
「今そういうのいい!」
対する守命流は、そんな美月の様子を見ても驚かなかった。
「まぁ、よく言われます」
穏やかな声なのに、関わることを避けたほうが良いであろう者の顔だった。
ここで、美月は根本的な疑問を投げかける。
「でも産女って、女性の妖怪じゃないんですか?」
「そんなことを言いましたら、あなたの隣にいる方はどうなるのでしょうか」
守命流の視線がジャジーへ向く。
「俺を見んじゃねぇよ」
「……確かに」
ハーピィも、伝承上は女性ばかりだ。
「現在では、かつて女性しか確認されなかった妖にも男性個体が存在します。三千人に一人ほどですが」
「三毛猫のオスみたいな確率!」
「猫ではありません」
「知ってるよ!」
昨日は各家庭を回り、妖育の相談を受けていたらしい。
顔だけなら泣いている幼怪へ事情聴取を始めそうなのに、仕事はかなり柔らかい。
「でも、“シュメイル”って響き、神秘的で格好いいですね」
すると、守命流は手を顎へと添え、わずかに首を傾げる。
「……美月さんは、人間界出身でしたね」
「はい」
「なら話は早いです」
「へ?」
守命流は傾げていた首を戻す。
「人間界風に言えば、“守男”です」
至極真面目なトーンで告げた。
「守男!」
美月が食い気味に復唱する。
「神秘さが急に昭和の町内会役員の名前になった!」
守命流の眉間に皺が寄った。
「ちょうないかいやくいん」
「あっ、違うんです!私が勝手に守命流さんを神秘の彼方に飛ばした結果、着地場所が昭和の公民館だったんです!」
すると、守命流の髪が逆立った。
「勝手に飛ばしたんはあんたじゃろうが!」
美月が固まる。
「……“じゃろう”?」
美月の目が点になる。
守命流はハッとした様子で、コホンと一つ咳払いをした。
「……失礼。感情が高ぶると訛りまして」
「守命流さん広島弁なの!?」
「“ひろしまべん”はよくわかりませんが、仕事中は抑えております」
「もうこの管理所で日本一周できそう」
そこへ後ろから写仝が口を挟む。
「安上がりな旅行で良いですね」
なんのフォローにもならないひと言。
「いや、旅行なら普通美味しいもの食べたりしてお腹が幸せになるんですけど」
「出てきたもんの味付けが濃かっただけだろ」
「中華料理よりも濃くて胸焼けするわ!」
「ワシを料理にすな!」
「わぁぁまた守男来たぁぁぁ!」
「皆様館内ではお静かにお願いいたします」
写仝が淡々と注意する。
ようやく場が落ち着き、美月は頭の中で管理所職員を整理し始めた。
総務管理課担当、ドッペルゲンガーの写仝。
捜索監視課担当、悟と百々目鬼の混血、百之鬼。
妖魔力環境課担当、ドライアドとアルラウネの混血、蔓実。
種族支援課担当、妖狐の縁。
幼怪課、産女とことりぞの混血、守命流。
まだ全ての担当者から自己紹介をされたわけではないが、これだけの管理所職員情報だけでも、美月の目は遠くなった。
「凄い。魔王軍の四天王と参謀みたいな濃さ」
「魔王誰だよ」
美月の視線がジャジーへと滑った。
濃灰の肌に尖った耳。
漆黒の角と真っ白な牙。
背中には漆黒の羽を携え、濡れ羽色の翼腕は怪しく広がる。
何より身長2メートルの体躯。
「適任すぎる」
「俺は魔王じゃねぇ」
「でも最初、私のこと襲おうとした」
「……あれは、腹減ってたからだ」
「空腹で食物を食べるのではなく一般の妖を襲うのはなかなか魔王の素質がありますね」
「管理人てめぇ!」
美月の周りの者は濃く、能力も様々だった。
「でも、これだけの人たちがいれば、相談者も安心して任せられるね」
その言葉を聞いていた写仝が、美月へと体を向ける。
「はい。他人事のようには扱わないことを心がけ、何事も解決へと至ることの出来るように、私たちも全力で業務に当たっております」
「見学者に伝えるめちゃくちゃテンプレみたいな回答来た」
「事実です」
そして、写仝はそのまま続けた。
第2章 隠世の問題編 - 第7話
「取り立て屋?」- 完 -
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