序章 転生編 - 第2話「人間が乗れるはずの輪廻、私だけ席ナシ」
花畑の花がそよそよと柔らかく揺らいでいる。
「あなたは本来、人間として生まれるはずではありませんでした」
その中で急に落とされた信じがたい事実は、美月の脳に強めの衝撃を与えた。
ビュウ、と風が吹く。
花々が一斉に揺れ、花びらが舞った。
その中で、美月だけが動かなかった。
「…………はい?」
耳は聞こえている。
管理人の言っていることは、“文字”としては理解できる。
しかし、頭が理解を拒否している。
渡された言葉を“これだけは管轄外です”と、美月の脳が受理しない。
「ちょっと待ってください。一回聞き直しますね」
「聞き直しても変わりませんよ」
今の管理人の言葉は完全に右から左へと流された。
「……今、なんて?」
美月は片方の口角を引きつらせながら、目の前にいる性別不詳の管理人に言葉を投げた。
「輪廻の輪に乗れませんと言ったのです」
一拍。
「聞き間違いじゃなかったぁぁぁあ!!」
思わず頭を抱え、ぐしゃあと膝から崩れ落ちる。
「だから言ったじゃないですか」
「慈悲はないんですか」
「慈悲ならありますが通常の輪廻の席はありません」
「ここで私の世代で流行った“お前の席ねぇから”がリアルに来ると思いませんでした……」
「なんですかそれ」
「昔のドラマのセリフです……」
花畑は何も言わない。
先程一斉に揺れていたのが嘘のように、花はただこちらを見ているようだった。
「本来、人の輪廻へ入る魂ではなかったのです」
「…………えっと」
「手違いがありました」
「手違い!?」
「はい」
「私の人生、手違いで始まってたんですか!?」
「端的に申し上げれば」
「端的に申し上げないで!」
ひどい。
あまりにもひどい。
交通事故で死んだと思ったら、人生そのものにシステムエラーが起きていたという事実を告げられた。
「誰!?私を人間として送り出した担当者!」
「既に処分済みです」
「処分!?」
「異動させました」
「隠世に部署あるんだ…」
美月は離しかけていた手を再び頭に戻した。
「え、じゃあ私は本当は何だったんですか?」
「それについては、現時点では確定しておりません」
「一番大事な所が砂嵐になってる!」
「今言えることは、人間ではなかったということですね」
「雑すぎる!」
「妖の系統であることは確認できています」
「……妖?」
「はい」
「妖怪?」
「概念としては近いです」
美月はしばらく黙った。
一度自分の体に目を向け、両手を交互に見て、目の前の管理人に視線を戻す。
そして、自分を指差した。
「私が妖怪?」
「はい」
「30年くらい人間やってたんですけど」
「魂の誤配送です」
「宅配便みたいに言わないで!」
管理人は一切表情を変えなかった。
いや、そもそも表情があるのか無いのか、このシルエットではそれすら分からない。
しかし管理人の様子から、この程度の混乱は見慣れているのだろうと察した。
「したがって、あなたを再び人間として輪廻へ戻すことはできません」
「……じゃあ、どうなるんですか?」
「本来の所属へ戻っていただきます」
「本来の所属」
「隠世への転生です」
「転生の意味合ってます?」
「こちらでの生を謳歌していただきますので」
「謳歌できるかなぁ!?」
美月は周囲の花畑を見た。
隠世。
その言葉だけなら、昔話や怪談で聞いたことがある。
人ならざる者が、暮らしている場所。
「……ここで、暮らすんですか?」
「はい」
「妖怪として?」
「正確な種族が判明するまでは、暫定的に『妖』として登録します」
「登録」
「妖籍を作成します」
「ようせき」
もはやオウム返しをすることしかできない。
「人間界でいう戸籍に近いものです」
管理人は淡々と帳面に何かを記載していく。
「死んだ直後に隠世のお役所で手続きすると思わなかったよ……」
「妖にも社会生活がありますので、必要です」
「妙なところ現実的……」
それからというもの、管理人は美月についてくるように伝え、歩き出した。
正確には、画面が滑りながら移動しているような形での案内だった。
花畑の先にあった門を抜けた瞬間、美月は足を止める。
「…………」
「どうしました?」
「情報量が多いです」
街だった。
石畳の道。
瓦屋根の家。
木造建築の間に、どう見ても洋風の建物も混ざっている。
提灯が下がる店の隣に、ガラス張りのカフェがあった。
着物姿の女性が歩いている。
もちろんただの女性ではなく、頭から狐耳が生えていた。
向こうでは半透明の老人が新聞を読んでおり、電柱らしきものの上には翼のある人影。
道路脇には、角の生えた男がスマートフォンを見ながら歩いていた。
「スマホあるんだ……」
「あります」
「電気は?」
「あります」
「水道」
「あります」
「インターネット」
「あります」
「あるの!? 」
「人間界との交流がありますので」
「隠世の文明めちゃくちゃ進んでる!」
そして、 管理人は再び移動し始めた。
「こちらへどうぞ」
美月も慌てて後を追う。
次々に広がる新しい光景に、美月はただひたすら自分の脳をフル回転させながら、情報を押し込んで行くのだった。
序章 転生編 - 第2話
「人間が乗れるはずの輪廻、私だけ席ナシ」-完-
→序章 転生編 - 最終話「もう何かのフラグ立った気がする」へ
読んで頂きありがとうございます。
面白かったらぜひ評価や★を押して頂ければ、やる気が上がります。




