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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第1章 - 夜の来訪者編 -

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幕間「その後のあれやこれや」

「……すでに閉庁なのですが」


少し離れた場所で、管理人は夜空の下に並ぶ二人を眺めていた。


「私は何を見せられているのでしょうか」


隣では、百之鬼《モモノキ》職員が涙を拭っている。


「なんて素敵なのかしら……」

「私は早く施錠をして帰宅したいです」

「分かっています……でも……っ」

「腕の目まで泣かせないでください」


背後のやり取りなどつゆ知らず、美月は口を開く。


「私、聞きたいことは山ほどあるって言ったよね」

「あぁ」

「取り調べを開始します」

「事情聴取始まった」


美月はジャジーの手をきゅっと握る。


「なんであんな状態になるまで言わなかったの」

「言っただろ。拒否されたら死ぬって」

「本当に死ぬ意味だなんて分かるわけないでしょ!」


ジャジーが訝しげに美月を見る。


「お前、俺の魔力見えてんだろ?」

「見えるかぁ!」

「なんでだよ!」

「妖力の使い方だって昨日覚えたばっかだよ!」

「…………は?」


信じられない事実を耳にしたかのように、ジャジーの瞳が点になる。


数秒の沈黙。


すると、点だった瞳の輪郭が、ゆっくりと戻っていく。


「いや先に言え!」

「そっちでしょ!」


互いに睨み合った。


「それと」


美月はさらに詰め寄る。


「来た時、何か砕いた?」

「最後の魔力晶」

「魔力晶?」

「魔力が多い時、結晶化して持ってたやつ」

「なんで使ったの!」

「それ砕かねぇとお前のところに行けなかったからだよ!」

「……ごめん」


俯く美月の顔を見て、ジャジーはわずかに焦る。


「…まぁ、結果的に回復できたんだ。……ありがとな」

「……うん」


手はまだ繋がれている。


離すタイミングがないわけではない。

今は離すことに必要を感じていないからだった。


「……つーかよ」

「ん?」


ジャジーは口角を上げる。


「お前、俺の魔力残してたんだな」


その顔は、ただニヤついているものではない。


どうしようもない高揚感を抑えきれず、口角へと漏れ出している笑みだった。


「……ん゜?」


美月の口から、今までで最も濁った疑問符が出た。


「そこは私が説明致しますね」


今まで後方にいた百之鬼《モモノキ》職員がぬらりと現れる。


「現れ方がちゃんと妖怪!」


百之鬼《モモノキ》職員はあの時と同じほほ笑みを浮かべた。


「まず前提としてですね…」


人差し指を立てて続ける。


「受け入れ難い相手の妖力や魔力は、通常身体が異物として、勝手に外に出すのですよ」

「…………んぇ?」

「通常半日もあれば、完全に排出されます」

「そういうこった」


ジャジーの口角が更に上がる。


「俺の中にお前の妖力。お前の中に俺の魔力。両方残ってる」

「…………つまり?」

「離したくねぇってことだろ」


美月の顔が一気に赤くなった。


「ち…違う!!」

「違わねぇだろ。身体は正直だ」

「もっと言い方あるでしょ!!」


そこへ、管理人が淡々と補足する。


「相互残留状態ですね」

「急に色気マイナスになった!」

「意味は同じだろ」

「あなたは黙って!」


ジャジーは愉快そうに笑った。


「じゃ、今日からお前んとこ住むから」


決定事項のように落とされた発言。


「いぃや狭いわ!」


こぢんまりした家屋だ。

2メートル級の淫魔がいるなど、端から見れば外観が完全に侵略後だ。


「…断らねぇんだな」


当然、今までの傾向から、『ダメです』と言われると思っていた。


「断ろうか?」


美月の顔に黒い笑みが浮かぶ。


「却下で」


ジャジーは真顔で言った。


「いや却下する立場はこっちだよ!」


美月が食い気味に詰める。


なぜ家の主導権を握る自分の可否を、居候となる淫魔が却下するのか意味が分からなかった。


「じゃあ畑でいい」


妥協した先は、あの巨大野菜の生る畑だった。


「畑に二メートルの淫魔が寝てるとか鳥害すぎる」

「鳥害とか言うな!」

「畑だけでなく妖まで襲うのは、鳥害としてかなり優秀ですね」

「管理人てめぇ!」


結局話は平行線のまま進んだ。


すると。


美月は思い出したかのように、視線を泳がせた。


「…あと……その……」

「なんだよ」


言い淀む美月の様子に、ジャジーは首を傾げる。


「き……キス……」

「……」


唐突に落とされた爆弾に、ジャジーは固まった。


「一回したら……どのくらい保つの……?」


すると、ジャジーの顔が急に真剣になる。


眉を寄せ、視線を落とす。


一見すれば、生命維持に関わる重要な計算をしているようにしか見えない。


美月はじっとその顔を見る。


「……ねぇ」

「……なんだよ」

「今、“ちょっと短めに設定しとくか”とか、“どうにかその先できねぇかな”とか考えたでしょ」

「……してねぇ」


妙な間が開いた。


「ダウト!」

「なんで分かんだよ!」

「顔!」


そのやりとりをしばらく見ていた管理人のシルエットが、二人の間に伸びた。


「続きはご自宅でお願いします」


わずかに圧が見える。

全身から“帰りたい”というオーラが漏れ出していた。


それに驚いた美月の手が、無意識にジャジーから離れる。


「す、すみません……」

「いえ。ご帰宅頂ければそれで構いません」


美月とジャジーは管理所から出た。


「あ、あの」

「なんですか」


美月は管理人と、その後ろにいる百之鬼《モモノキ》職員に体を向ける。


「本当に、ありがとうございました」


そして、深く頭を下げた。


それを見たジャジーは、バツが悪そうに視線を逸らした。


「……悪かったな」


しばらく視線を泳がせたあとの、短い謝罪と感謝。


やがて二人が騒ぎながら管理所を後にする。


その姿が完全に見えなくなったところで、管理人は隣を見る。


「……なぜ、伝えなかったのですか」

「……なんのことでしょう」


百之鬼《モモノキ》職員は微笑んだまま、歩く二人を見ている。


「美月さんの感情や気持ちが見えていたのでしょう?」

「……ふふ」

「先程も、そのように誤魔化しておられましたね」


百之鬼《モモノキ》職員は管理人へほほ笑みを向けた。


「気持ちは、代弁してもらうものではないですからね」


管理人は一度黙り、静かに頷いた。


「……そうですね」


管理人もまた、二人の背に視線を向けた。


「……それから」


百之鬼《モモノキ》職員は静かに続ける。


「私は、あの焦れったさがとても好きなので」


心なしか、その笑みは妖しい。


「……なかなかのご性格で」


静まり返った管理所に、管理人のため息だけが落ちた。




幕間「その後のあれやこれや」- 完 -

→第2章 隠世の問題編 - 第1話「改めまして、隠世へようこそ」へ



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