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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜  作者: 桜桃
第1章 - 夜の来訪者編 -

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1章 夜の来訪者編 - 最終話 前編「夜と月」へ


「……気がかりな人が、いるんです」


管理人は展開していた図を閉じ、美月へ向き直る。


「人ではありません」

「今は特に修整いらないです」


美月のトーンが下がったことで、管理人もそれ以上に続けなかった。


「…なるほど」


手帳すら閉じ、いつもの淡々とした口調が、さらに至極真面目なものへと変わった。


「捜索を希望なのでしょうか」


その言葉に、美月はわずかに首を傾げる。


「捜索…」


そこまで大事な依頼にするつもりはない。

かといって、それ以外に協力を仰ぐ方法もわからない。


「居場所が分かればいいんです」


自分が発した言葉なのに、わずかな違和感が胸を駆け抜けた。


「名前だけでは、手続きを取れません」

「え」


美月は思わず目を瞬いた。


ここは隠世だ。

そもそも戸籍に相当する妖籍や仕組みが、人間界とは違う。


「一度でも妖力、あるいは魔力が互いに接続した相手であるなら、手続きが可能です」

「接、続?」

「はい」


管理人は美月の胸を指差し、続ける。


「双方に互いの妖力や魔力が残っている必要があります。それが手続きの取れる条件ですので」


美月は眉を寄せた。

思い当たる節があるような、ないような。


あの男は、自分に触れることで妖力を回復していた。

ならば、自分の妖力が彼の中にある可能性は高い。

しかし、その逆は分からない。


「確認できますか?」

「可能ですが、私は管理業務が専門ですので、検知担当を呼びます」

「ちゃんと分業してたんだ……」

「一人で管理所を運営していると思っていましたか?」

「ずっと管理人さんしか見てなかったので」


管理人は何も言わず、花畑の一角へ手を伸ばした。


百之鬼モモノキ職員。こちらにお願いいたします」


すると、淡い景色が縦に割れ、その向こうから一人の職員が現れた。


鹿のような角を頭に生やした小柄な女性で、一見すれば、ただ角を持つだけの妖に見える。


しかし。


袖口から覗く腕には、閉じた瞼のようなものがいくつも並んでいる。


「んひぃ!」


美月は思わず声を上げた。


「あっ!すみません!3日前まで人間をやっていたので慣れてなくて!」


角の生えた女性は柔らかく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。毎日数名の方からそのような反応を頂きますので」

「本当にすみません…」

「むしろ楽しませていただいています」

「ちゃんと妖怪してた!」


女性は美月の正面に立つ。


「申し遅れました。さとりと百々目鬼とどめきの混血、百之鬼モモノキと申します」

「この仕事のために存在してる感が凄い!」


女性職員は慣れた様子で一礼した。


「感情、妖力、魔力の流れを読むことと、残留した力を見る『捜索監視課』を担当しております」

「めちゃくちゃ敵に回したくない部署!」


その時、美月はふと思った。


「……もしかして、私の感情とか気持ちまで見えてます?」


百之鬼モモノキ職員はニコッと柔らかい笑みだけを向けた。


「では、確認しますので、美月様の手をお貸しいただいてもよろしいですか」

「あ、はい……」


美月の問いは綺麗に流された。


管理人は美月と百之鬼(モモノキ)職員のやりとりを後ろで黙って見ている。


百之鬼(モモノキ)職員が両手を美月に重ね、自身の顔の目を閉じた。


「あ、そこは閉じるんですね」

「魔力探知や捜索を行う際、視覚は邪魔になりますので」

「そこは目の多さが不便そう」


数秒後、百之鬼(モモノキ)職員が小さく頷く。


「ありますね」

「え?」

「あなたの中に、別種の魔力が残っています。鳥類系と悪魔系。かなり特徴的です」


美月の頭に、黒い翼が浮かんだ。


「……ジャジー」


名前を口にした瞬間、自分でも妙に胸がざわついた。


初めてあの男の名を口に出したのが、捜索。


美月の表情が、複雑に歪んだ。


百之鬼モモノキ職員は続ける。


「あなたの妖力も、相手側に残っています」


勝手に色々持っていかれているのだ。

むしろ残っていないと困る。


「ただ…」


一度、百之鬼モモノキ職員の言葉が詰まった。


「とても、“薄い”ですね……」


薄い。

美月はそれを、自分の妖力が消えかけているのだと理解していた。


「ただ今より『在魂捜索手続き』から、『在魂捜索』へと進めさせていただきます」

「ざいこんそうさく」


聞き慣れない言葉だが、今から捜索を開始することは分かった。


百之鬼モモノキ職員は何もない景色に光を展開し、指を動かしている。

美月からは百之鬼モモノキ職員の見ている情報が見えない。


けれど、手続きを進めているのだと理解できた。


「私の目なら、ジャジー様を千里まで探すことが可能です」

「やっぱり敵に回したくない部署だ!」

「では魔力探知を終え手続きも完了致しましたので、捜索を開始させていただきます」


ほっと息を吐きかけた美月。


しかし。


それまで後ろで見ていた管理人が食い気味に前へと傾き、百之鬼モモノキ職員の表情が変わったことに気づいた。


「……どうしたんですか?」


百之鬼モモノキ職員の腕にある目が、大きく開く。

美月には見えない何かを、遠くまで追っている。


「……見つけました」


その言葉を聞き、美月の表情にわずかな安堵が浮かぶ。


「良かった……」


何も考えず、ため息とともに出された言葉。


「それで、どこにいるんですか?」


ふたりは一度美月に視線を送ると、すぐに下へと下げる。

美月の声が聞こえていた事は明らかだった。


なのに、すぐに返事がない。


「状態は?」


管理人が百之鬼モモノキ職員へと問いかける。


「……良く、ありません」


その一言で、美月の喉が詰まった。


「妖力が、ほとんどありません。魔力も残量が極端に少ないです」


その時、美月の頭にあの言葉が蘇った。


『俺、お前に拒否されたら死ぬ』


「……うそ……」


あれは、大袈裟な言い方だと思っていた。

いつもの軽口だと思っていた。


百之鬼モモノキ職員はさらに視線を凝らし、そして静かに告げた。


「……彼は今、存在そのものを保てなくなっています」


美月の呼吸が、止まった。





第1章 夜の来訪者編 - 最終話

前編「夜と月」-完-

→第1章 夜の来訪者編 - 最終話

後編「夜と月」へ

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