2ページ「才能を確かめよう」
俺の名前はヴァル・トン・ケイレツ。
俺がこの世界に生まれてから早4年。
この4年で俺は、この世界がどういう場所なのかを親の会話や、読み聞かせを通して大体理解することができた。
ここは魔術と剣が存在する世界だ。
何かを作る時には魔術が用いられ、争いが起きれば剣が振るわれる。
俺の中にある翔の記憶とは、あまりにもかけ離れた世界。
あの世界では、こんな場所を異世界と言っていたな。
そんな異世界で俺が住んでいるのが、カール王国の西部にある城壁都市ドラン。
人族が半数以上を占めるカール王国の中でも、異種族の多くが共に暮らす珍しい都市だ。
隣国と国境を接している場所に位置しており、さらに周囲には魔物が多く生息している。
そのため、冒険者、傭兵、そして騎士団に所属する者たちが多く集まっている。
城壁都市ドランは、魔物や隣国から自国を守る西の防衛拠点。
その役割から、別名「西の国門」とも呼ばれている。
そして、その城壁都市ドランを守護する騎士団。
「ドラン騎士団」。
その副隊長を務めているのが、俺の父。 ヴァン・トン・ケイレツだ。
そしてお気づきの人もいるだろうが、今の俺の魂は一つになりつつある。
俺の考えることがヴァルの考えることであり、
ヴァルの人格が出来上がるにつれて、俺自身も少しずつ変わっていっている。 そんな感覚だった。
一人称も、自分の中で何かを考える時は俺。
でも普段、口に出す時は僕になる。
たまに俺と言ってしまうこともあるが、それはまだ完全に魂が一つになっていない証拠なのだろう。
2年ほど前までは、ヴァルという子供の魂が確かに存在していた。
しかし、翔とヴァル。
二つの魂が混ざり合っていくことで、17歳だった翔の精神に少しずつ引っ張られていった。
その結果、4歳という年齢でありながら、考え方や意識は同年代の子供とは大きく離れている。
それもこれも、翔の影響が大きいのだろう。
俺という存在は、俺だけではない。
島袋翔とヴァル・トン・ケイレツ。 二人で一人の存在なんだ。
そんな自分の置かれている状況を整理しながら、俺は父と共にドラン城へ向かっていた。
今日は俺が「啓示の儀」を受ける日だからだ。
この世界では、人間は生まれ持った才能を努力によって、
自分だけの力へと伸ばしていくという価値観が広く浸透している。
4歳になると、そんな生まれ持った才能が何なのかを魔法によって確認する。
それが啓示の儀だ。
もちろん、才能があればそれだけで無双できるわけではない。
どれだけ優れた才能を持っていたとしても、努力し、工夫しなければ宝の持ち腐れだ。
しかし、自分がどの分野に適性があるのかを幼いうちに知ることで、正しい努力の方向性を見つけることができる。
そのために作られたのが啓示の儀だった。
普通なら才能は1つや2つあるらしい。
父はいくつ才能を持っていたのだろうか。
「パパ。今日は僕の才能を教えてもらうんだよね」
「あぁ。パパの友達の魔術師がやってくれるんだ」
「へぇー。パパはどんな才能だったの?」
父は少し考えながら、笑いながら答えてくれた。
「んー、そうだなー。パパはねー、剣と力持ちの才能だったんだ。
剣には何個も種類があるんだけど、そのうちの一つの才能だよ」
何個もあるということは、剣にも流派があり、そのうちの一つに才能があったということだろう。
少し考えていたのも、それを分かりやすく息子に伝えようとしていたからだと思う。
「パパ。何個もってことは流派があるってこと?」
父は「おぉー」と驚いた顔をしながら答えた。
「よく知ってるな。パパは力も人よりあるし、剣の才能もあるって言われたから、その流派のうちの一つ、剛剣流を勧められてな。剛剣流の元祖であるオークの里に行って学んだんだ」
なるほど。
つまり、才能によって直接「この流派が向いている」と決められるわけではないのか。
父の場合、剣と筋力の才能があり、その二つを活かすなら、力を最大限活用できる剛剣流が適していると判断されたのだろう。
「へぇー。才能って戦いとかだけなの?」
「他にもあるぞ。商売や勉強、人をまとめる能力とか。人にできること全てに才能が宿っているんだ」 父は優しく笑いながら続ける。
「パパは戦いの才能があった。そして周りの人達が応援してくれたから騎士になることができたんだ」 そんな話をしているうちに、目的地が見えてきた。
ドラン城。
城壁都市の中心にそびえ立つ、この都市最大の建造物だ。
ドラン城は、王族が住むような華美な城とは違う。
美しい装飾や豪華な庭園よりも、防衛を第一に考えられている。
分厚い石壁。
巨大な門。
城の各所に設置された監視塔。
そして、魔物や敵国からの侵攻を想定した複数の防衛設備。
まるで一つの城ではなく、小さな要塞都市のような造りになっている。
それでも、その威圧感は凄まじかった。
翔の前世の記憶にある城とは、かけ離れた規模の大きさ。
俺は驚きを隠すことができず、口を開けたまま城を見上げていた。
辺りには鎧を身に着けた騎士や、貴族と思われる服装をした人々が多く歩いていた。
ここがドラン騎士団の本拠地であり、同時に西の国門を守る場所なのだと実感する。
「じゃあ入るぞ、ヴァル。こっちだ」
父はまるで「いつもの場所だ」と言わんばかりに、迷うことなく歩いていく。
そんな父の背中は、いつも家で見るものより少し大きく見えた。
普段は優しい父親。しかし今は、数多くの人から信頼される騎士団副隊長の顔をしていた。
ドラン城の内部へ入り、騎士団が使用している塔へ向かう。
城の中心部とは違い、
騎士団の塔は実用性を重視した造りになっていた。
武器庫、訓練場、作戦会議室。多くの騎士が日々ここで鍛錬し、国を守っている。
父に案内されながら階段を上り、塔の3階。一番奥にある部屋の前で父は足を止めた。
「ここだ」
父が扉を開ける。
すると、部屋の中には一人の男性が立っていた。
年齢は父と同じくらいの30歳代だろうか。
金色の髪。整った服装。そして、魔術師特有の落ち着いた雰囲気。
その男性は父を見ると、少し笑みを浮かべた。
「ヴァン。久しぶりだな」
「あぁ、ギルバート。久しぶりだな」
二人は握手を交わす。
「お互い忙しい身だが、こうして会えるのは嬉しいよ」
「悪いな。息子の啓示の儀に王都勤めの魔術師であるお前を頼んでしまって」
父は少し申し訳なさそうに頭を下げる。
しかし、ギルバートは笑いながら首を横に振った。
「別に気にするな。"ドランの怪鳥ヴァン"の頼みなら、断る奴などいないだろ」
「その呼び方はやめてくれよ」
父は困ったように笑う。
「名前なんて、一人で歩き出すと勝手に大きくなるだけさ」
「そういうところだよ、お前は」
ギルバートは呆れたように笑った。しかし、その表情には確かな友情が感じられた。
「それに、お前の息子にも興味があったんだ」
「俺の?」
「あぁ。あのヴァン・トン・ケイレツの息子だからな」
ギルバートは俺を見る。その視線には、興味と期待が混ざっているのだろう。
そんな表情をしていた。
「どんな子なのか、一度見てみたかった」
そんな二人の会話を聞いていると、父が俺の視線に気づいた。
「あぁ、そうだった」
父はこちらを向く。
「ギルバート、これが俺の息子のヴァルだ」
「ヴァル。パパの友達のギルバートだよ。ちゃんと自己紹介するんだぞ」
俺は一歩前に出る。
「ヴァル・トン・ケイレツです。会えて光栄です、ギルバート卿」
そう挨拶すると、ギルバートは少し目を見開いた。
「おぉ……これはどうも」
彼は笑みを浮かべながら頭を下げる。
「ギルバート・ホルン・ノームだ。君のお父さんとは昔からの友人でね。色々と昔から助けられているよ」
そして少し首を傾げる。
「それにしても、よく私が貴族だと気づいたね」
ギルバートは父を見る。
「まさかヴァン、お前が教えたのか?」
しかし、父も驚いた表情を浮かべていた。
「え?いや、俺は何も……」
その反応を見て、ギルバートも理解したようだった。どうやら父の入れ知恵ではないらしい。
俺はギルバート卿の質問に答える。
「王都で魔術師をしているって聞いたので。それに服もパパとは違って、高そうだったから貴族の方なのかなって」
「なるほど」
ギルバートは少し感心したように頷いた。
「その歳で相手の立場を考え、情報から判断するとは……ヴァンの息子にしては賢いな」
「ギルバート。俺の息子だから賢いんだよ」
父は少し誇らしげに言う。
「それはないな。」
ギルバートは笑いながらそう答えた。
「おいおい、どういうーことだそれは」
二人の会話を聞いて、自然と笑みがこぼれる。
父には、こうやって本気で信頼できる友人がいる。
それだけでも、父がどれだけ多くの人と関わり、認められてきたのかが分かる気がした。
「さて」
ギルバートが身につけている高級そうな時計を見る。
「そろそろ始めるか」
その言葉を聞いた父は頷いた。
「あぁ。俺は少し城主のところへ行ってくる」
「城主に?」
「あぁ。副隊長として報告があるんだ。啓示の儀が終わるまでには戻る」
父は俺の方を見る。
「ヴァル。ギルバートの言うことをちゃんと聞くんだぞ」
「わかった、パパ」
父は優しく笑うと、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
残されたのは俺とギルバートだけ。
「さて、ヴァル」
ギルバートは部屋の中央に置かれた台を見る。そこには透明な水晶が置かれていた。
「では啓示の儀を始めようか」
ギルバートは水晶の前に立つ。
「この儀式では、君の魂に刻まれた才能を読み取る」
「痛くはないから安心しろ」
そう言いながら、ギルバートは俺の手を優しく握る。
そして、俺の手を水晶へ触れさせた。
「では始めるよ」
ギルバートの周囲に魔力が集まっていく。
空気が震える。
部屋全体が静まり返った。
ギルバートは目と閉じ、魔力を水晶に注ぎ込んだ。
「タレントスキャン」
水晶に光の線が走る。
その瞬間。
水晶から眩い青色の光が溢れ出し、
強い光が部屋全体を包み込んだ。
光が消えると、ギルバートはそっと目を開け、しばらく水晶を見つめていた。
その表情は驚いているようにも見えたが、同時に何かを納得したような落ち着きも感じられた。
そして、ゆっくりと俺の方へ視線を向ける。
「ヴァル君」
ギルバートは落ち着いた声で話し始めた。
「君は……幸せという概念に強く囚われているね」
「....幸せ?」
突然出てきた言葉に、少し言葉が詰まる。
ギルバートは頷いた。
「そうだ。啓示の儀では、単純に戦闘能力や魔術適性だけを見るわけではない。その人間が何を持ち、何を求めているのか。魂に刻まれた価値観も読み取ることができる」
なるほど。
だから最初に、幸せという言葉が出てきたのか。
俺の魂には、島袋翔として生きた17年間の後悔が刻まれている。
大切な人を幸せにできなかった後悔。
自分自身が傷つけてしまった記憶。
もちろん、今思えばそんなに重いことでもないだろう。
しかし翔はそれほど自己肯定感が高かったわけじゃない。
彼にとってそれほど死ぬ前の出来事が大きいものだったのだろう。
それがヴァルという新しい魂と混ざり合ったことで、俺の根底にある願いとして現れたのだろう。
「君の中には、誰か大切な人を守りたいという強い意志がある」
ギルバートは続ける。
「ただ自分が強くなりたいわけではない。自分の力によって、誰かを笑顔にしたい。そんな思いが君の才能の根にあるようだ」
その言葉を聞いて、少し胸が熱くなる。
確かにそうだった。
俺が求めている力は、名誉のためでも、周囲から認められるためでもない。
もう二度と、あんな後悔をしないためだ。
「そんな君には、魔術の才能がある」
ギルバートは水晶へ視線を戻す。
「特に魔力操作の才能が非常に高い。魔力を細かく制御する能力……これは普通の魔術師には簡単に真似できるものではない」
「剣にも少し才能は見えている。しかし、君の場合は魔術の才能がそれを大きく上回っているようだ」
俺は水晶を見る。
翔の世界では存在すらしなかった力。
魔術。
「ただ、一つ気になるものがある」
ギルバートは少し考えるように水晶へ触れる。
「君の魔力の流れを見ていると、普通の魔術師とは少し違う特徴がある」
「違う特徴?」
「あぁ」
ギルバートは水晶に映った光の残滓を見ながら続けた。
「君の魔力は、広範囲へ放出するよりも、何かに留めたり、形を変えて維持することに向いている」
「つまり……?」
「直接攻撃する魔法よりも、何かを仕掛ける魔術」
ギルバートはそう答えた。
「例えば、罠魔術だ」
罠魔術。
その言葉に、俺は少し興味を持った。
「闇属性魔術の一種に、相手の行動を制限したり、攻撃したりするものがある。地面や空間に魔力を隠し、条件を満たした時に発動する魔術だ。闇魔術と言っても、禁術などではない。闇の中でよく使われていたから、闇魔術と呼ばれているんだ。」
「君の魔力操作能力なら、それを極めることができるかもしれない」」
罠かぁ。なんかイタズラみたいな感じの魔術だな。
でも不思議と良いとも思えた。
俺がヴァルと翔で別かれていた頃、ヴァルは小さい頃からおもちゃや何かを使って、両親にイタズラをするのが好きだった。それに翔自身も悪ノリで知恵を与え、怒られたものだ。
「そうですか、ギルバートさんはそれで人を幸せにできると思いますか?」
「そうだねぇ..そんなのわからないさ。何を幸せと定義し、どこまで幸せにすると思うかは人それぞれだ。しかし私は力がある事にプラスはあっても、マイナスは無いと考えているよ。」
ギルバートはハッキリと自分の意見を答えた。
「君はこの歳にしては物事が見えすぎているし、こんな物騒な世界じゃ人を守る術など剣術か魔法になってしまう。そういう意味では、強くなるということは大切な人を幸せにするという解釈もできるよね」
その言葉を聞いて、俺は静かに拳を握る。
まだ4歳。
この世界は翔の世界とはまた違うんだ。
平和な世界での幸せにするという意味はここでははっきり言って弱い。
争いは常にどこかで起きていて、今それが自分に起こっていないだけだ。
俺は知っているはずだ。翔の記憶が、後悔があるはずだ。
「ヴァル君」
ギルバートは優しく声をかける。
「才能というものは、道を示すだけだ。そこからどんな人間になるかは、君自身が決めることだ」
その言葉は、俺の翔の部分にも向けられているように感じた。
才能があっても、力があっても、それだけでは誰かを幸せにはできない。
大切なのは、その力を何のために使うかだ。
「はい」
俺は頷いた。
そして、両親達との稽古が始まったのだ。




