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私は公爵夫人になる。
去年の誕生日、死神の手違いで届いた結晶石。それを在るべき場所に戻し、いなくなるべき人間の魂が刈り取られた。
醜い嫉妬に取り憑かれた赤毛の陰湿ないじめに耐えて、今を生きている。
病弱に生まれただけでも可哀想なのに、死に抗い必死に生きようとする私を嘲笑うその姿は、まるで私の存在を否定するかのようだった。
私よりも先に生まれただけのくせに!!私が得るはずだった丈夫な体も、貴族としての身分も奪った泥棒。
罪人の分際で何事もなかったように振る舞える図々しい神経の持ち主。
体調が良くなったとしても、完全に治ったわけではない。
子供でもわかることなのに、赤毛は私を早死にさせようと追い詰めてくる。
寒い日に窓を開けたり、わざと火傷するくらい熱い紅茶を飲ませたり。
どれも私に言われたからだと、いつものように嘘をついては、リックや両親に咎められる。
口で言ってもわからないおバカな赤毛には、痛みで覚えさせるのが効率的。
そんな運命の悪戯に何度も苦しんだけれど、それでも私は諦めなかった。神に与えられた試練だと信じて、必死に耐え抜いた。
神に与えられた試練を乗り切り、私は見事、真実の愛を貫いたのだ。
最愛のリックと結ばれ、私はついに公爵夫人としての地位を手に入れた。醜い赤毛と結婚させられると言われた過去も、今となっては遠い記憶。
私は優しいから少しの間だけは覚えていてあげる。
でもね、半年もすれば記憶から消し去るの。
だって、これから幸せな毎日を生きていく私の記憶に、あんな醜くみすぼらしい赤毛の記憶が存在しているなんて耐えられない。
──こんなにも幸せなことがあっていいのだろうか?
いいに決まっている。
だって私はみんなに愛される可愛い女の子。
私と赤毛。どちらが生きていなければならないのか、考えるまでもない。
今日は十六歳の私の誕生日。
だけではない。
多くの貴族の前で私が婚約者と発表された。今年で成人を迎えるリックは公爵家を継ぎ、当主となるのだ。
私は誇らしい気持ちで胸を張った。リックは私の隣で微笑み、優しい瞳が私を見つめている。
人生の負け犬が羨ましそうに私を見る目は滑稽。
どんなに不細工が着飾ったところで、私のように可愛くなれるわけもない。
私に着てもらえないドレスが可哀想。
嫉妬に駆られながらも、パーティーに集まった多くの人間が祝福してくれた。
そう、今日は……。残酷なまでに無慈悲な運命に打ち勝ち、幸せな未来を歩むことが約束された特別な日でもある。
運命を超えた愛は誰にも壊せない。私の幸せは誰にも奪えないのよ!!
明日から始まる幸せな日々に胸が高鳴る。
これからはリックと二人で歩んで行くんだ。人生を。
私達の愛があれば、どんな困難だって乗り越えられる。
だってそうでしょう?
私は死の運命に打ち勝った。私を脅かすものはもうない。
──目障りな赤毛がいなくなってくれたのが、一番のプレゼントだったわね。
私は物語のお姫様なんかよりも、今の自分の方がずっと幸せだった。
多くの人に愛され、かつて私を苦しめていた赤毛はもうどこにもいない。
彼女が消えたことで、私の笑いは止まらなくなった。全てが自分の思い通りに進むことの面白さに、心が躍って仕方がなかった。
「夜分遅くに失礼します」
どこからか聞こえた声に振り返り、部屋を見渡すが誰もいない。気のせいにしてはハッキリと聞こえた。耳に残るほどの不快な声が。
ふと、月明かりの中にぼんやりとした人影が浮かび上がっていく。
最初はただの影だと思ったが、その輪郭は徐々に鮮明になり、男の姿となった。
男は闇に溶け込むように静かに私を見つめている。
──人間、なの……?
突然、現れた男に驚きながらも、私の視線はとある一点に集中していた。
頭に二本の角を生やした男は嗤う。まるで私の心を読んだかのように。
背筋がゾクリとした。
感情のない冷ややかな笑みは、私の心臓をわし掴みにしたような恐怖を与える。
全身の力が抜けて、立っていられない。
血のように真っ赤な瞳を持つその男は、まるでこの世のものではない存在のようだった。私は思わず息を呑む。
その場に座り込んでしまえば、冷たく私を見下す瞳と目が合う。
十六年間生きてきて、私にそんな目を向ける男はいなかった。
わかりやすいほどの好意と羨望、嫉妬。いつだって私に向けられる視線の意味は決まっていた。
それなのに!!この男の瞳には何の感情も宿っていない。
極度の緊張と恐怖から声が出なかった。
助けを呼べば誰かは来てくれる。いつだってそうだった。今回だってきっと!!
悲鳴を上げるだけでいい。そんな簡単なことさえ、今の私には出来ない。
手足は震え、鼓動は耳元で激しく響く。呼吸がままならない。苦しくて胸を押さえた。
男は動かない。ただじっと、私を見つめるだけ。
──逃げなくては……。
直感で思った。
部屋の外に出たら助かる。その希望だけが私を動かした。
まとわりつく不快な何かに抗いながらも、私は未来のために立ち上がった。
すぐさま部屋から飛び出そうと扉に手をかけた瞬間。
男は低い声で言った。
「お迎えに上がりました。ルビア・ジューエル様」




