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十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。  作者: 藍水ーあいみー
スカーレットを殺した者達の場合

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 あまりにも真剣で、冗談ではなかった。


 これまでにも同じことを言う烙印者はいたが、リックフォードのそれは違う。


 心からの叫び(ねがい)ではなく、そうなることが当然であるかのような口ぶり。


 笑わずにはいられない。地上に戻ることを当然視するその態度は、まるで自分がこの世の主人公であるかのようだった。


 「なぜ、地上に戻る必要があるのだ?」

 「スカーレットに詫びるために決まっているだろう」

 「それで?」

 「なっ……!!スカーレットの顔を見て詫びねば意味がないだろう!!」

 「今更?お主らが殺したスカーレットは、もう死んだと言うのに」


 閻魔は嘲笑うように言った。


 もう、どこにもいないのだ。優しいスカーレットは。


 今はもう静かに眠るだけ。


 「それがどうした?」


 スカーレットの笑顔、優しい声、温かい手の感触。熱のこもった眼差し。全てを鮮明に覚えている。


 例え、体が滅び魂がなくなろうとも


 「スカーレットは俺の中で生きている。それで充分だ」


 許しを乞う謝罪ではなく、気持ちを楽にしたいだけの謝罪。


 自身の過去を省みることなく、悪いとさえ思っていない。リックフォードはただ、スカーレットの愛を踏み躙った自分を正当化したいだけ。


 したいのは、謝罪ではなく言い訳。


 ルビアのせいで……。ルビアが……。そんな言葉を並べて最終的に「俺は悪くない」とでも言うつもりだ。


 スカーレットの優しさに甘えるつもりでしかない。


 なぜなら、スカーレットはきっと愚かなリックフォードを許すからだ。


 優しいからこそ、形だけでも謝罪をしてくれるリックフォードを責められない。それは最早、脅迫。


 「地獄に落ちた者が地上に戻れるわけがないだろう?」


 人間失格。生きる価値はない。四人はその烙印を押された。


 心からの謝罪をしようとも、どれだけ過去を悔やんでも、魂に刻まれた烙印は消えない。未来永劫、地獄で生きるのだ。


 「ふむ……。だが、妾は優しい。お主らにチャンスをやろう」


 何かを企んでいそうなほど、純粋で明るい笑顔。


 「あの山を一番に登った者には褒美をくれてやる」


 そう言って指を差したのは針山。


 一本一本の針が鋭く輝く。足を踏み入れた瞬間に激痛が待ち受けているのは見てわかる。


 傷はすぐに治るとはいえ、痛みが引くわけではない。躊躇うのが人間の心理。


 だが、リックフォードは誰よりも速く駆け出した。その姿を見て他の三人も後を追う。


 地上に戻れるチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。


 太く長い針は体に刺さると抜くのが一苦労。覚悟を決めて一歩を踏み出したはいいが、二歩目は気が遠くなる。


 後ろに下がってしまえば、これ以上の痛みを受けることはない。そんな誘惑が何度も頭をよぎる。


 特に、ルビアはその一歩を踏み出すことさえ躊躇う。いつだって、好きなことだけをして生きてきたルビアにとって、痛みしか伴わない地獄は自分のいるべき場所ではないと考える。


 ここが屋敷なら、代わりに針山に登る使用人は多くいた。肝心なときに役に立たない使用人に苛立ちさえ覚える。


 手足が震えながら、リックフォードがどんどんと登っていく姿を見つめた。躊躇っているうちに、もう半分も登っていた。


 鈍っていた決心が固まっていく。このまま見ているだけでは何も変わらない。


 可哀想な自分こそが、閻魔からの褒美を手に入れるに相応しい。


 針が刺さるたびに激しい痛みに襲われるも止まってはいけない。先頭を行くリックフォードに追いつかなければ。


 下から追ってくるルビアは脅威ではない。


 「スカーレット。待っていろ。すぐに会いに行ってやるからな」


 狂気に満ちた目に映る幻想(スカーレット)。優しく微笑み、手を差し伸べてくれている。


 光なんて届かない、薄暗い地獄に差し込まれた光は、リックフォードだけが見ている幻。


 その手を掴もうと伸ばした先は、針山の頂点。


 地上に戻る権利を得た。そう確信した瞬間、ラージーがリックフォードの足を掴んだ。


 傷は癒えても痛みは消えず、流れた血はそのまま。血まみれのラージーは憎悪そのもの。


 「貴様のような男がスカーレットに近づくなど許さんぞ!!」


 ラージーの声は冷たく、怒りに満ちていた。彼の目は憎悪で燃え、リックフォードを引きずり落とそうと力を込める。


 「く、この……!!離せ!!俺のスカーレットを汚しやがって!!」


 蹴り落とそうにも痛みで力が入らない。怒りに身を任せたラージーの力は思いのほか強かった。


 文字通りの足の引っ張り合いを見物しながらも、閻魔は少しだけ針に細工した。


 どんな分厚い肉も貫いてしまう針を、一瞬だけ簡単に折れるようにしたのだ。


 後はまた、針の強度は元通り。


 リックフォードの右手に突き刺さっていた針が、忽然と折れる。


 驚きの表情を浮かべるリックフォードのバランスが崩れ、引っ張られていく。そのまま針で裂かれた体を引きずられ落下していった。下にいたラージー、ミュル、ルビアも巻き込んで。


 全員、全身が血まみれの状態で地面に倒れ込む。


 「惜しかったのう。もう少しだったというのに」


 そう言い放ち、乾いた拍手を鳴らす閻魔。その声には誰に対しても慈悲はなく、ただ冷酷な嘲笑が込められていた。


 「まだだ!次に……」


 リックフォードは痛みに耐えながらも、必死に這い上がろうとする。彼の瞳にはまだ諦めの色はない。


 他人の死は良くても、自分が死ぬことは恐れる。生への執着。


 「次なんてあるわけがないだろう?与えられたチャンスは一度のみ。お主らはチャンスを掴めんかった。それだけだ」


 痛みに耐えて、あと一歩のところまで登りつめていたリックフォードは、邪魔をしてきたラージーの頭を何度も針山に突き刺した。血が滲み、ラージーの顔は苦痛に歪む。


 「くっ、この……若造が!図に乗るなよ!!」


 いつまでもやられっぱなしではいられない。すかさず、ラージーも反撃に転ずる。


 殺しても死なないという利点が、何をしてもいいと思わせていた。


 「お前が邪魔をしなければ!!今頃はスカーレットに会いに行けていたんだぞ!!」

 「地獄から出られんのに、どうやって会うつもりなのだ?」

 「はぁ!!?褒美をくれると言ったのはお前だろう!!」

 「そうだな。妾は褒美をくれてやると言った。地上に戻すなんて一言も言っておらん」


 閻魔の言葉に踊らされ、翻弄される四人は愉快。


 信頼を失った四人は汚く罵り合うだけ。


 あんなにもスカーレットを嫌っていたのに、今では自分こそがスカーレットに一番、大切にされていたと言い張る。


 「お主らの気持ちが本物なら、願いは叶うかもしれんぞ」


 天から伸びてきた糸。その下にはスカーレットがいた。最後に見たボロボロの姿で。


 直感でわかった。スカーレットの許しを得たなら、あの糸で地上に戻れると。


 しかし、目の前に現れた救いの光ばかりに気を取られていたせいで、見逃していたものがあった。


 背後で閻魔が楽しげに笑っていたのだ。何かを企むように、その顔は歪んでいた。

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