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十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。  作者: あいみ
第二王子の場合

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1

 赤い髪をしたそばかすの女の子に出会ったのは、日差しがとても強い夏の日。


 彼女が亡くなる一年と少し前。










 夏の太陽が照りつけるある日、僕はいつものように街の見回りをしていた。第二王子としての役目、それは国の民の声を聞き、国をより良くするための小さな散歩のような仕事だ。変装などはせず、侍従のオルバスを従えてゆったりと歩く。


 「お、王子様。今日もご苦労様」

 「良かったらこれ、食べておくれ」


 声をかけてくれるのは、見慣れた顔ぶれだ。

 暑い日には倒れてしまわないように、水分の多い果物を差し出してくれる。


 「ありがとう。今日も困り事はないかい」

 「ないない。こうして王子様が俺達のことを気にかけてくれてるおかげでな」

 「それは良かった」


 最初はよそよそしかった彼らも、毎日のように足を運ぶ僕をいつしか、親しみを込めて接してくれるようになった。


 ここにいる僕は第二王子ではない。ただのリヒト。だからこそ、彼らも気軽に声をかけてくれるようになった。


 身分があるから偉いなんて僕は思わない。

 運良く第二王子に生まれただけの僕が、国を支えてくれる民を見下すなんて、絶対にあってはならないこと。


 だからこそ僕は、彼らの平和を守りたい。そのために、新たな部隊も設立した。


 “表向きには”彼らの声を聞いて、日常の小さな困り事から大きな問題まで、解決にあたる。王族としてではなく、リヒトとして。


 僕達の国は比較的安全で平和。だが、その平和の裏には見えない問題が潜んでいる。

 

 金や権力に溺れた欲深い貴族は平民の人生を奪うことに罪の意識すらない。


 持って生まれた身分差に、いつだって彼らは泣き寝入りをするしかなかった。

 それらを解決するのが、僕の仕事。


 ある日のこと。いつもと変わらない日常に訪れた小さな変化。


 若くして王位を継承した兄上は日々の忙しさからあまり眠れず、疲れが溜まっていった。

 顔色は悪いし、食事にもあまり手をつけない。


 満足な睡眠が取れなくなり、食欲がないのだ。

 王宮医が眠れる薬を処方してくれているが、体が慣れてしまったのか今ではもう効かない。


 兄上は王として弱い姿を見せないように、いつだって凛と振る舞う。


 カッコ良いと思った。同時に、何か力になりたくて、薬屋を覗いてみるも兄上が処方されている薬と同じ物しか棚に並んでいない。


 負担を減らすために仕事を分担しているが、国王にしか出来ない仕事もある。


 周りも心配しているが、何でも一人で背負い込む悪い癖が出てしまっていた。


 「あ、あの。眠れるお薬を探しているのですか?」


 真っ赤な長い髪をした少女は俯いていた。まるで顔を見られたくないかのように。


 サイズの合わない服を着て、手には買い物袋が山のように重なっていた。


 「うん。でも、ここにあるのは全て試したんだ」

 「ソメイユというハーブティーなら、よく眠れると思います」

 「あれは香り付けの薬草じゃなかった?」


 ソメイユは花の形をしたとても珍しい薬草。葉を一枚浮かべると爽やかな香りが広がり、主に女性のお茶会でよく使われる。

 香り草とも呼ばれるソメイユを飲むなんて考えたこともなかった。


 実際、紅茶に浮かべて飲むわけだし、人体に有害ってわけではないだろうけど。

 それでもやはり、香り付けのイメージしかない。


 後ろにいるオルバスも、ソメイユにそんな効果があると知らない様子。彼女の言葉を疑っている。


 「一般には知られていないのですが、リラックス効果を持ち深い眠りを促してくれるんです。まずは熱いお湯で淹れてから、人肌になるまでゆっくり冷ますと、ぐっすり眠れます」

 「わかった。試してみるよ。ありがとう」


 僕には嘘をついているように見えなかったから薬草を買った。

 すると、どうだろう。ずっと俯いていた顔が上げられて、その目には驚きと嬉しさが混ざっていた。

 表情もどこか喜んでいるように見える。まるで、信じてもらったことが、嬉しいかのように。


 ほんの少し上がった口角。ぎこちない笑顔。


 数秒、僕と目が合ってはハッとしたように、慌てて走り去っていく。というか、逃げられた?


 新鮮な体験。残された僕達はその背中を最後まで見つめることしか出来なかった。



 夜になり、兄上の部屋を訪ねた。

 窓は開け放たれ、涼しい夜風がカーテンを揺らす。兄上は静かに外を見つめていた。


 夜空を眺めていたわけではない。外いっぱいに広がる景色に心を落ち着かせていただけ。


 「どうした」


 疲れを隠した笑みを浮かべて、優しく問いかけてくれる。


 「兄上にハーブティーを。これを飲むとよく眠れると聞いたんです」

 「そうか。悪いな」


 色々な方法を試して、どれもあまり効果がなかったせいか、あまり期待していない。

 僕自身も半信半疑だ。このハーブティーに睡眠効果があるとしたらなぜ、世間に知られていないのか。

 そして、彼女が知っている事実もまた、疑う理由としては充分すぎた。


 彼女に教わった通りに、熱いお湯を注ぎ、ゆっくりと冷ます。ふんわりと漂う甘い香りが部屋を包み込む。


 話に聞く爽やかな香りではない。そのせいか、兄上もこれがソメイユであるとわからなかった。


 「あれ?」


 カップに注いだときは薄い青色だったはずなのに、冷めていくうちにいつの間にか薄い赤色に変わっていた。


 「優しい味わいだな」


 一口飲んだ兄上は目を細めて微笑んだ。柔らかい表情。


 ゆっくりと全部を飲み干した兄上は意味もなく僕の頭を撫でた。


 「あまり無理はするなよ」

 「それは兄上のほうですよ。今日はもうゆっくり休んで下さい」


 期待をせずにはいられない。兄上のあんな表情を見たのはいつぶりか。


 効果があったと知ったのは翌日。


 「久しぶりに眠れた気がする。体がスッキリしたように軽い」

 「本当ですか!?」

 「あぁ。朝まで一度も起きなかったからな」


 これまでの薬は眠れはするが、夜中に目を覚めてしまっていた。


 たった一晩、ゆっくり眠れただけなのに兄上の顔色はすごく良い。珍しく朝食を食べるものだから、側近達は安堵の息をつく。


 「例のハーブティーは希少価値が高い物か?」

 「いいえ」


 ソメイユは安価で比較的手に入れやすい。

 薬屋に行かなくても、庭で育てることも出来る。


 そんなことを聞くなんて兄上らしくなかった。

 気に入ったとかではなくて、このハーブティーならずっと続けられると直感で思ったんだ。


 「私が買い占めたら困る者はいるか」

 「いえ。大丈夫です。僕が今日また買ってきますね」


 彼女にお礼を言わないとな。君のおかけで兄上がまた眠れるようになったと。


 赤毛でそばかすの少女。彼女の顔を思い浮かべると、胸が高鳴り、また会いたい気持ちが込み上げてくる。


 次に会ったときは名前を聞こう。そんなことを思いながら、オルバスと共に街に向かった。


 この感情の正体がわからないまま、僕はただ、また彼女に会いたかった。それだけなんだ。

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