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今日は実にめでたい。
愛する娘のルビアが十六歳を迎えた。
去年、十五歳の誕生日にあろうことか死の象徴でもある結晶石が届いたときには、生きた心地がしなかったが、リックフォードが気付かせてくれた。
結晶石はルビアにではなくスカーレットに届いた物。
死ぬべきはスカーレットであると。
あの瞬間、一気に心は軽くなり晴れやかになった。
あんな汚らわしいだけの者とルビアを間違えたことは腹立たしかったが、この世から消してくれる死神には感謝をしたいくらいだ。
そして、迎えた当日。
多くの貴族がルビアの誕生日を祝うために集まった。
リックフォードの友人も多く、渡されるプレゼントは豪華。
招待状に婚約者を発表するとひと言添えていたため、伯爵家に縁もゆかりも無い貴族までもが足を運んでくれる。
ここにいる全員と人脈を繋げたと、伯爵は大喜び。
代々、しがない伯爵家だったジュエール家が自分の代でこんなにも繁栄した。偉業を成し遂げたと高らかに笑う。
既に二十歳を迎えたリックフォードのために、高級なワインが注がれる。
そのワインを誰よりも先に飲むのは、当然のことながら伯爵。
次々にグラスに注いでは一本二本と飲み尽くす。
めでたい!実にめでたい!!
ワインだけでなく、リックフォードが用意してくれた豪華な料理にも手を伸ばす。
年甲斐もなく体のラインや胸を強調する真っ赤なドレスを着た夫人もまた、浴びるようにワインを呑む。
招待客からどんな視線を向けられているか気付きもしない。
このめでたい日を祝うだけ。
天使のようなルビアが生きて、醜いスカーレットが死ぬ。
この喜びを誰かと分かち合いたい。
高級なワインを飲み干していく二人に近づく者はいない。
リックフォードが贈った青いドレスに身を包むルビアの美しさに、両親は涙を流す。
体が弱く、長く生きられないと宣告されて早十六年。
立派に育ってくれただけではなく、次期公爵と婚約を結ぶなんて、こんな孝行娘、他を探してもいない。
かつて、醜く生まれたスカーレットという少女がいた。
彼女はその容姿ゆえに、周囲から嘲笑され、孤独な日々を過ごしていた。
いや、孤独というにはあまりにも……。
実母が亡くなり、味方のいなくなった伯爵家で過ごす日々は苦しいなんて言葉では表せない。
家族だけではなく、使用人や元婚約者からの暴力暴言。
正統な貴族。伯爵令嬢でもあるはずのスカーレットは使用人のようにこき使われ、病弱なルビアのお世話係でもあった。
醜いと蔑むスカーレットをわざわざ近くに置く理由。それは……。
痛めつけたいだけである。
窓を開けた。紅茶が熱い。伸びた爪が肌に当たった。人殺しのような目を向けられる。他にも数多くのデタラメな発言で、両親や婚約者の怒りを煽ってきた。
ルビアに心酔しきっている彼らは、ルビアの言葉を信じて疑わない。
心優しいルビアを傷つけたスカーレットを罰する名目で、加減の知らない暴力がスカーレットを襲う。
そんなスカーレット唯一の救いは、一時間だけ許される買い物の時間。
とはいっても、自分の物を買うのではなく、使用人から押し付けられた仕事である。
毎日のように行くわけではない。暑い日や雨の日。外に出るのが億劫になる日ばかり。
それでも良かった。その時間だけは痛みから解放されるのだから。
貴族としての格好をさせてもらえるわけもないので、すれ違う人は皆、スカーレットを貧しい平民の娘としか認識していなかった。
外に出られるのは良いことだけではない。帰りが一秒でも遅れようものなら、食事を与えられず、当主である伯爵に一日中土下座を強いられる。
許しがあるまで顔を上げることは許されないのだ。
「ルビア、小公爵様。我々は先に失礼するよ」
「もう、お父様。飲みすぎよ。お母様も」
「ふふ、仕方ないじゃない。今日は記念すべき日なのよ?少しくらい羽目を外してもバチは当たらないわ」
「それもそうね」
母親が何を言っているのか理解したルビアは、それはそれは美しく微笑んだ。
愛人との間に生まれた子供ではなく、正当な貴族だったなら惚れてしまうような美しさ。
だが、ここに集まった貴族はルビアが自信を持つ容姿に騙されることなく、平民特有の“下品”な振る舞いを見抜いていた。
聡明だったリックフォードがすっかりルビアとの愛を信じる姿は、見限るには充分すぎる。
極めつけが義姉の魂が天に還ったその日に、生まれたことを祝う誕生日パーティーを開く無神経さと常識のなさ。
それを止めることなく、婚約者として一役買うリックフォードと、高級なワインや料理に手を伸ばし大声で笑う伯爵。
男の視線を集めるためのドレスを着る夫人。
彼らと付き合うメリットがなさすぎる。
退場していく二人の耳に、周囲の陰口は届かない。
すっかり酔ってしまい足元がふらつく。
使用人の助けを借りながらも、二人は何とか自室へと辿り着いた。部屋の扉が閉まると、外の喧騒が嘘のように静まり返る。
着替えることなくベッドに倒れ込めば、酔いが一気に襲い、二人は深い眠りに落ちていった。
静寂に響く時計の針の音。
完全に閉め切った室内に風が舞う。
「お休みのところ、失礼致します」
酒に酔って大きないびきをかいて眠る伯爵。
その隣で眠る伯爵夫人はうっとりした寝顔。
娘が公爵夫人となり、その恩恵を受けて良い思いをしている幸福な夢の中にいた。
そこに、ひと際異彩を放つ男が現れる。彼は頭から角を生やし、その漆黒の瞳は冷たく光っていた。
充満するアルコールの匂いを気にする様子はない。
男は静かに二人の寝顔を見下ろしながら、冷たい声で告げた。
男の気配に起きることなく、のんきに眠り続ける二人を冷たく見下ろしながら
「お迎えに上がりました。ラージー・ジュエール様。ミュル・ジュエール様」




