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ルビアの十六歳の誕生日は、本来なら公爵家で祝うはずだったが、伯爵家で開かれることになった。
そのことを伝えるとルビアは少し寂しそうだったが、気持ちを切り替え、伯爵家での誕生日を楽しむことにした。
多くの友人に招待状を出し、皆からは出席の返事をもらい、俺もルビアも当日が待ち遠しかった。
パーティー当日。
煌びやかに飾り付けをされた大広間には多くの貴族が集まる。
ルビアは淡いドレスに身を包み、緊張を滲ませながらも微笑んでいた。俺がエスコートして入ると、会場の空気がわずかに揺れる。
誰もが彼女に視線を奪われていた。
その様子を見て、俺は確信する。ルビアに並ぶ者などいない、と。
他の令嬢にしてもそうだ。ルビアの可憐さ、美しさには何一つ敵わない。
「みんな、今日は俺の婚約者、ルビアの誕生日パーティーに集まってくれて感謝する!!」
そう告げると、場の空気は静まり返った。
「リック。そちらの……ご令嬢はジュエール家の次女ではないのか?」
「それがどうした」
「いや、お前。それは……」
友人達は顔を見合わせて黙り込んだ。
──俺がこんな美しい妻を迎えることに嫉妬しているのか?
目で合図を送ると、ルビアは小さく頷いて一歩前に出た。
「皆さん、今日はお越しいただきありがとうございます。リックの婚約者として、皆さんと一緒にこの日を祝えることを嬉しく思います。私が公爵夫人になった暁には、皆さんを支援してあげますので、困ったことがあれば何でも相談して下さいね」
今日のために何度も練習を重ねたルビアは、堂々と胸を張り噛むことなく言い切った。
身分を手に入れても変わることのない優しさ。まさに天使。
「なぁ、リック。本当に婚約者は長女のスカーレット嬢ではないのか?」
「何が言いたい」
「……いや、いい」
あんな醜女の赤毛が、俺の婚約者に相応しいとでも言いたいのか?
冗談じゃない。俺に相応しいのはルビアだけだ。
だが、今日はルビアの誕生日。祝福の場でそんな言葉を口にして空気を悪くするわけにはいかない。
怒りを必死に押し殺し、言葉を飲み込んだ。
周囲からの妬みの視線は決して気持ちの良いものではない。だが、それでも俺はどこか優越感を覚えていた。
なぜなら俺は、この世で最も美しい女性、ルビアと結婚する。それだけで、彼らの負の感情を受け止める価値があるのだ。
ルビアのことをもっと覚えてもらうために、挨拶回りをしても誰も彼もよそよそしい。
大勢の人々と握手を交わし、名前を繰り返し告げても、どこか距離を感じてしまう。
気のせいと思うにはあまりにも……。
令嬢ならルビアの美しさに戸惑っているだけかもしれないが、俺の友人までもがどこか冷たい態度を取っているのを見て、ただの気のせいとは思えなくなっていた。
「そういえば。スカーレット嬢はパーティーに参加しないのですか?」
誰かが口を開き問うと、他の人も賛同するかのように会場内を見渡す。
見知った顔ばかりで、ここに赤毛がいないと全員が認識している。
「お姉様は……本日、魂が天に還りました。だから、二度と皆さんと会うことはありません」
「天に……。あぁ、結晶石に選ばれてしまったのか」
「え、じゃあ。今の伯爵家にいるのは……」
赤毛は一度として社交の場に出たことはない。
あんな女のためにドレスを用意するなんて金の無駄遣いをしたくない気持ちはよくわかる。
俺が親だとしてもドレスどころか、髪を梳く櫛の一つも買い与えるつもりはない。
そもそも!!体の弱いルビアがパーティーに参加出来ないというのに、取り柄が醜さしかない赤毛が高貴な貴族のパーティーに呼ばれるはずもないのだ。
故に、誰もあの女の醜さを知らずにいる。
良いことだな。俺もルビアとだけ出会いたかった。
「リック。悪いがそろそろ帰るよ」
「早いな。来たばかりじゃないか」
「だって、なぁ?」
言葉を濁しながら別の友人と目を合わせた。
「魂が天に還ったってことは、スカーレット嬢は……」
「そんな大変なときに誕生日パーティーを開くなんて」
「大丈夫ですよ!今日は記念すべき日なんですから!!」
暗くなりかけた空気を明るくするように手を叩いた。
「えーーっと……?」
「私がリックの婚約者になって、赤毛でそばかすだらけの醜いお姉様がこの世から去ってくれたんですよ?皆さんだって汚いものを見なくて済みますし。これほどまでに記念すべき日はありません!!」
ルビアの優しさにうなずいていると友人達は皆、帰ると言い出して聞かない。
やれやれ。ルビアが可憐すぎるために、彼らのプライドを傷つけてしまったようだな。
やはり美しいというのは罪。無論、皆が帰ったからといってルビアが悪いわけではない。
心の狭い彼らが悪いのだ。
「仕方がない。今日はお開きにしよう」
「ええー、もう?じゃあ、リックは泊まってくれる?」
「そうしたいのだが、父上にも報告しないといけないからな。明日また来るよ」
夜は一緒に過ごせないため、今日は朝からパーティーの時間になるまで二人してルビアの部屋にこもっていた。
寂しいと口にした声は弱々しく、それが俺の胸を締めつけた。
顎を持ち上げて、唇にそっと甘いキスを落とす。ルビアの白く細い指を取って、用意していた指輪をはめた。
青い宝石が光を受けてキラリと輝く。ルビアの美しさには到底敵わないが、この宝石には俺の想いが詰まっている。離れていても、どんなに夜が長くても、この指輪が俺達を繋げてくれると信じていた。
「これで、少しは寂しくないだろう?」
そう尋ねると、ルビアは小さく笑った。その笑顔は俺にとって何よりの宝物。
愛しさが溢れる。離れがたくなってしまう前に、今日のところは帰宅した。
幸せが胸をいっぱいにする。




