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十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。  作者: あいみ
リックフォードの場合

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4

 ルビアは俺の全て。


 ルビアがいなければ、俺の生活は空虚だ。彼女の笑顔を見るために、俺は毎日伯爵家へ通っていた。


 パナシア薬を届けるため、毎日のように伯爵家を訪ねる。


 体が弱いルビアは、いつも出迎えてくれた。そんな姿に、俺の胸は締め付けられる思いで満ちていた。


 悪化させる不安もあったが、会いたい気持ちが勝ち、何も言えない。


 薬を飲み続けることでルビアの体は格段に良くなっていった。効果を実感したのは、運動のとき。


 最初は控えめだったが、次第に激しく体を動かしていった。


 この運動がルビアに一番合っているようだった。


 たまに、終わった直後に赤毛が部屋に入ってくることもあった。


 俺の婚約者という立場を失ってからは、こうしてストーカー紛いなことをしてくる赤毛の行動には軽蔑しかない。


 咎めれば、言い訳はいつも同じだった。幼稚な嘘ばかりつく赤毛に苛立ちが募る。


 そんな赤毛を鞭で折檻するのが俺の役目。


 外に買い物にも行っているようだし見える所に傷を作るのは良くない。


 何も悪くないルビア達に疑いが向けられるのが何よりも心苦しく、見える傷は避け、背中だけを打った。


 充分に痛めつけてやった後は、部屋から追い出すように蹴り飛ばす。


 汚い空気を入れ替えるために窓を開ければ風が吹き、冷える体を温めるように運動を再開する。



 無理をさせすぎたある日の翌日、ルビアは熱を出してしまい会う時間が減ってしまう。


 くそっ!!顔を見れないどころか声も聞けないとは。


 体の調子を思えば無理も出来ないのはわかっているが、それでもこの距離感は耐え難かった。


 看病は断られた。俺に感染るのを気にしているらしい。


 直接看病できないのはもどかしかった


 侍女の話では、ルビアはうなされながらも俺の名前を呼んでくれていると。

 普段の世話は赤毛がしているが、あんな不潔で汚い人間が病人の近くにいると治るものも治らないからと、部屋に近づくことを禁じた。


 パナシア薬を飲んだからすぐにでも回復するはずだが、今日はもう諦めるしかない。


 ルビアに会えないなら、ここにいても意味がないと帰ろうと思った瞬間。


 最後に会ったときよりもみすぼらしい赤毛が、欠けた皿に少量の料理を運んでいた。


 ルビアに会えない寂しさを、赤毛で晴らすのもアリだな。


 あとをつけると、小汚い屋根裏部屋に着いた。

 掃除はされているようだが、清潔感はない。


 粗末な食事を食べる姿に笑いが込み上げてくる。


 「仮にも貴族令嬢が惨めだな」


 日当たりは悪く薄暗い。電気もないため、夜はほとんど真っ暗。


 赤毛にはお似合いではあるが、人間が使う部屋を与えてやる伯爵の心の広さに感動した。


 何の利益ももたらさない穀潰しが、人間と同等に扱ってもらえることに感謝するべきだ。


 不安に溺れたその目が気に障った。

 自分は被害者だとでも言いたそうな表情は、俺の怒りを煽るばかり。


 「そうだ。お前、俺に気があるんだったな」


 これまでに数多くの女性に好意を向けられてきたが、赤毛からの好意など迷惑を通り越して気持ちが悪い。


 「お前のような女、趣味ではないが我慢してやる」

 「リックフォード様……?」


 力のない女を押さえ付けるなど朝飯前。


 暴れる赤毛の頬を叩けばようやく大人しくなった。

 薄いボロ切れのような服は簡単に破れる。


 反抗的な視線を向けてくる赤毛に、怒りしか湧かなかった。


 「ふん、まぁまぁだったな。感謝しろ。この俺の相手をさせてやったんだからな」


 貧相な体だったが、暇潰しにはなった。

 醜女などを嫁にもらう物好きなんているはずもなく、この俺の手によって女になれたのは喜ばしいこと。


 ──これで少しは、自分の立場を理解しただろう。


 放心状態の赤毛は何も答えない。


 が、この赤毛のせいで俺とルビアの愛に亀裂が入るところだった。


 パナシア薬のおかげでルビアの風邪はすぐに良くなった。


 見舞いの花にはピンクのカーネーションを選んだ。

 病み上がりのルビアが出迎えてくれることはないが、今日からまた会えると思うと気持ちは軽い。


 「ルビア?どうしたんだ?」


 部屋に通されると、入ってきた俺に声をかけることなく窓の外ばかり見つめる。


 ──まだ体調が良くないのか?


 体が冷えないようにショールをかけると、ルビアが泣いていることに気が付いた。


 「ど、どうしたんだ、ルビア」

 「やっぱりリックは私よりも、あの赤毛が好きなの?」

 「何を言っているんだ!!?俺が愛しているのはルビアだけだ!!!!」

 「だったらどうして、赤毛なんかに会いに行ったの」


 使用人が見てしまったらしい。

 俺が屋根裏部屋、赤毛の部屋に入っていく姿を。

 最初は見間違いと思い気に留めていなかったが、出てくる姿も見られていたため、ルビアに報告をしたそうだ。


 「何も言わないってことは、やっぱり……?」

 「そうじゃない!!俺だって行きたくはなかった。だが、あの女が俺に……自分を抱かなければルビアを殺すと脅されて。仕方なかったんだ」

 「そ、そんな……」

 「こんなこと、言い訳にもならないことはわかっている。どんな事情があれ、婚約者がいる身としてそんな脅しに屈するなど、あってはならないのに。本当にすまない。愛しいルビアを傷つけてしまい、許してほしいと言える立場ではないが」

 「……本当に? 本当に、お姉様に脅されていたの?」

「あぁ。俺はルビアを守りたかっただけだ」


 ルビアは唇を噛み、震える手で涙を拭った。


「信じたいのに、怖かったの……」

「ルビア……」

「でも、信じるわ。リックのこと、愛しているもの」

 「俺のほうこそすまない!!ルビアを守りたい一心だったとはいえ、どうかしていたんだ!!」


 互いに熱のこもった視線が交わる。

 愛を確かめ合うように深く長いキスを繰り返す。会えなかった時間を取り戻すように、強く抱きしめながら。


 気持ちが落ち着いてきた頃、次第に赤毛への怒りが溜まり爆発した。


 胃に優しい温かいスープを持ってきた侍女に、両親を呼び赤毛を連れて来るようにお願いした。数分後。三人は来たが、赤毛如きが最後というのが気に食わない。


 ──俺達を待たせるなんて何様のつもりだ?


 いつもと変わらない。俯いたまま。

 遅れたことに関しての謝罪もなかった。


 その不遜な態度が俺をイラつかせるだけだが、咎めるべきはそれではない。


 「お父様!お母様!この赤毛が私のリックに色目を使ったの!それだけじゃないわ!私を殺すと脅して、無理やり関係を持ったの」

 「何ですって!!?この売女が!!よりにもよって妹の婚約者に……!!」

 「私は何も……!リックフォード様が!!」

 「は?俺が好き好んでお前みたいな醜女に手を出すとでも?こんな侮辱は初めてだな」

 「酷いわ、お姉様。自らの罪を認めないどころか、リックを犯罪者呼ばわりして」

 「私は絶対にそんなことをしていないわ」

 「じゃあ、リックが嘘をついてるってこと?」


 俯き黙り込んだ赤毛は、自分の言葉が誰にも届かないことを理解した。


 当然だ。俺と醜い赤毛。どちらの言い分が正しいかなんて、考えるまでもない。


 平然と被害者面をして嘘をつく図太い神経の持ち主。

 家族だけでなく、使用人にもその傲慢さは伝わる。


 義妹の婚約者を脅迫した最低な悪女(あね)


 「ねぇ、お姉様。謝ってくれないの?お姉様のしたことは、私達に対する裏切りでしょう?」


 ルビアの声は震えていた。無理もない。

 自分の命を利用され、あろうことか俺と関係を持つように迫ったのだ。

 怒りと悲しみで頭がおかしくなるのを我慢して、気丈に振る舞う姿はまさに淑女。


 傍らには伯爵が厳しい表情で立ち、ルビアの言葉に冷たく追い打ちをかける。


 「何を黙っている!!さっさと謝らんか!!」

 「お姉様。私ね。リックからお姉様の極悪さを聞いたとき、心臓が止まるかと思ったのよ。どうしてそんなことをしたの、お姉様」

「ち、違っ……」

「私、本当に怖かったのよ」


 必死に涙を堪えていたルビアも、ついには泣き出した。


「お姉様が謝ってくれるなら、私はもういいわ」

 「なんて優しい子なのかしら。私の可愛い娘。心がボロボロに傷ついているのに、それでも謝罪だけで許してあげるなんて」

 「貴様はルビアの優しさを無下にするつもりか!!さっさと頭を下げろ!!」


 伯爵の声は冷たく、鋭かった。赤毛はその命令に逆らえず、渋々膝をつく。部屋の空気は張り詰め、まるで時間が止まったかのように重かった。


 「……ご、ごめんな……」


 赤毛の声は震え、謝罪の言葉は小さく呟かれた。


 「そんな頭が高い謝罪があるのか?」


 赤毛の頭を力いっぱい踏みつけた。


 「ルビアは誠意を見せろと言ったんだぞ!!その汚く軽い頭を床に擦り付けるのは当然だろう、バカが!!」

 「仕方ないわ、リック。お姉様は教養もマナーもない、正真正銘のバカなんだもの」

 「バカには何を言っても無駄というわけか。おい、いつまでそうやって黙っているつもりだ?」

 「ごめんなさい。申し訳ありませんでした」

 「えーー。何に対しての、ごめんなさい、なの?ちゃんと言って?」

 「…………リックフォード様を……誘惑するために、貴女の命を脅かすことを言って……」

 「私はまだ傷ついてるわ。でも……お姉様が反省してくれるなら、それでいい」


 周りからは白い目で見られ、完全に居場所を失くした赤毛に、それでも身の回りの世話をさせてやるルビアの優しさは、両親から受け継いだものなのだろう。


 誰にも真似出来ない慈悲深さは、いつだって俺の心を射止める。


 廊下から事の顛末を見守っていた使用人も、優しすぎるルビアに涙を流して感動していた。

 非道で残酷な裏切りにあったのに、それでも、許すだけでなく屋敷から追い出すこともしない。


 俺はルビアを好きになって良かった。心の底からそう思う。

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