#18: 可能な限り処刑を回避する(2)
翌日から、少しだけやり方を変えた。
大げさなことはしない。
目立つのは逆効果。
だから、ほんの少しだけ。
言葉の選び方を変える。
態度を調整する。
(やりすぎない、でも崩しすぎない)
廊下ですれ違う貴族に、軽く視線を向ける。
無視もしないし、媚びもしない。
絶妙な距離。
「……」
相手が一瞬だけ戸惑うのが分かる。
(でしょーね)
今までのロゼリアとは、少し違う。
でも。
別人にはならない。
それが大事。
「ロゼリア様」
セリアが横に並ぶ。
「本日の予定ですが」
「分かってる」
軽く返す。
そのまま歩き続ける。
(まずは“普通”に見せる)
変わりすぎても怪しまれる。
変わらなすぎても終わる。
面倒くさいバランス。
「……昨日の件ですが」
セリアが声を落とす。
「何か考えが?」
(さすがに気づくか)
ちらりと見る。
相変わらず鋭い。
「まあ、それなりに」
曖昧に答える。
全部言う気はない。
でも、隠しすぎるのも逆効果。
「無策ではありません」
それだけ付け足す。
セリアは一瞬だけ沈黙してから、静かに頷いた。
「承知しました」
(信用された?)
少なくとも。
否定はされていない。
それだけで十分。
前方から、ノアが歩いてくる。
視線が合う。
一瞬の間。
「……」
何か言いかけて、やめたような顔。
「どうしたの」
先に聞く。
「いや」
短く返す。
でも。
「昨日の動き」
そこで言葉を切る。
(あー、それね)
「悪くなかった」
(へえ)
思わず少しだけ目を細める。
褒められるとは思ってなかった。
「ありがとう」
素直に返す。
変に突っかからない。
それも“調整”。
ノアは少しだけ意外そうな顔をして、そのまま去っていった。
(ほんと分かりやすい)
小さく息を吐く。
「評価は上がっています」
セリアが静かに言う。
「少なくとも、以前よりは」
「でしょ」
それくらいは分かる。
問題は――
(これがどこまで通用するか)
その時。
遠くから視線を感じる。
自然に顔を向ける。
数人の貴族が、こちらを見ている。
ひそひそと何か話している。
(もう来たか)
早い。
思ったよりも。
「……噂になっていますね」
セリアも気づいたらしい。
「内容は?」
「不明ですが、好意的ではないかと」
(まあそうなるよね)
昨日の件。
あのモンスター。
そして、自分。
全部が繋がって見えるのは当然。
(むしろ遅いくらい)
足を止めずに、そのまま歩く。
無視。
反応したら負け。
でも。
耳は拾ってしまう。
「……ロゼリア様が……」
「例の……」
「関係が……」
断片的な言葉。
でも、十分。
(疑われてる)
はっきりと。
「調査が入る可能性があります」
セリアの声が低くなる。
「公式に?」
「はい」
(来たな)
心の中で呟く。
避けたかった流れ。
でも。
完全には避けられないと思ってた。
「……誰が動いてると思う?」
小さく聞く。
「現時点では不明ですが」
一瞬、間。
「王家、もしくは上位貴族かと」
(規模デカすぎ)
軽く笑いそうになるのを抑える。
笑えないけど。
「マイケル様の関与は?」
「不明です」
(あいつは読めない)
ほんとに。
味方とも敵とも言い切れない。
その時。
後ろから足音。
ゆっくりとした、余裕のある歩き方。
「楽しそうな話をしてるな」
(出た)
振り返らなくても分かる。
「聞き耳立てる趣味あった?」
「たまたまだ」
マイケルの声。
軽い。
でも。
「君の名前、結構出てるぞ」
(でしょうね)
「光栄だね」
皮肉気に返す。
「そういう余裕があるのはいいことだ」
くすっと笑う。
「だが――」
少しだけ声のトーンが落ちる。
「今回は、少し面倒かもしれないな」
(知ってる感じ?)
視線だけで問いかける。
マイケルは、ほんの少しだけ目を細めた。
「正式に動く可能性がある」
(やっぱり)
確定に近い。
「審問、あるいは」
一瞬の間。
「調査」
その単語で、空気が変わる。
重く。
現実的に。
(ついに来たか)
心の中で静かに呟く。
逃げてたわけじゃない。
でも。
確実に、近づいてきている。
“そのイベント”が。
「ロゼリア嬢」
不意に、呼び止められる。
足を止める。
振り返るより先に、空気で分かる。
(あー……これ、完全にそれだ)
ゆっくりと視線を向ける。
そこに立っていたのは、見慣れない男。
いや、正確には“見たことはある”。
城の中枢に近い人間。
役職までは思い出せないけど、関わりたくないタイプなのは確実。
「何か?」
できるだけ平坦に返す。
相手は一歩だけ距離を詰めた。
「少々、お時間をいただけますか」
丁寧な言葉。
でも、拒否権がない言い方。
(はい来た)
心の中でため息。
「内容によるわ」
あえて即答しない。
相手の出方を見る。
「昨日の件についてです」
(直球か)
逃げ道なし。
「……モンスターの件?」
「ええ」
男は軽く頷く。
「いくつか、確認したいことがありまして」
周囲の空気が、少しだけ張り詰める。
近くにいた貴族たちも、会話を止めている。
(見世物かよ)
内心でぼやく。
でも顔には出さない。
「ここで?」
「いえ」
すぐに否定される。
「正式な場を設けます」
(あー、終わった)
ほぼ確定。
逃げられないやつ。
「ロゼリア嬢には、後日出頭していただきます」
その言葉で、完全に理解する。
「……審問ってこと?」
ほんの少しだけ、声を落とす。
男は曖昧に微笑んだ。
「調査の一環です」
(言い方変えただけじゃん)
実質同じ。
「拒否権は?」
一応聞く。
意味ないのは分かってるけど。
「ございません」
即答。
(ですよねー)
小さく息を吐く。
横でセリアが、ほんのわずかに前に出る。
でも、何も言わない。
状況を理解している。
ノアも黙っている。
余計な口出しは逆効果だと分かっている顔。
マイケルは――
少しだけ、楽しそうに見ている。
(あとで殴る)
心の中で決める。
「日時と場所は後ほど通達します」
男は淡々と続ける。
「ご準備を」
それだけ言って、一礼。
そのまま去っていく。
残された沈黙。
重い。
分かりやすく。
「……完全に来ましたね」
セリアが小さく言う。
「うん」
短く返す。
隠す意味もない。
「回避は難しいかと」
「だろうね」
むしろ、ここまで来たら避けるフェーズじゃない。
(どう乗り切るか、だ)
ノアが腕を組む。
「証言は必要になるだろう」
「協力する」
即答する。
迷いはない。
ここで一人でやるのは無理。
マイケルが軽く笑う。
「面白くなってきたな」
「全然面白くないんだけど」
即ツッコミ。
でも。
その軽さが、少しだけ救いになる。
「で、どうする?」
マイケルが覗き込むように聞いてくる。
(どうする、ね)
一瞬だけ考える。
でも、答えはもう出てる。
「やるしかないでしょ」
肩をすくめる。
逃げ場なんてない。
「正面から潰す」
その言葉に、セリアが静かに頷く。
ノアも否定しない。
マイケルは、くすっと笑った。
「いいね」
軽い声。
でも、その目は少しだけ真面目になる。
「期待してる」
(勝手にしろ)
心の中で返す。
小さく息を吐く。
空を見上げる。
(ついに来たか)
逃げ続けるフェーズは終わり。
ここからは
(裁判イベント、開始ってわけね)
ほんの少しだけ、口元が歪んだ。
「ウマ娘 プリティーダービー」を見終わったら、「TO BE HERO X」を見て、それから「ソードアート・オンライン」を見たいです。




