#12:ウィンガー王国の(傲慢)王子様がいらっしゃいました!
木剣を持ったまま、私は小さく息を吐いた。
(きつい……)
腕がじんわりと重い。
さっきよりはマシだけど、それでも慣れないものは慣れない。
「もう一度」
セリアの声は相変わらず落ち着いている。
容赦はない。
「今の形を崩さないように」
(簡単に言うけど)
心の中でぼやきながら、もう一度構える。
それっぽく。
たぶん。
一歩踏み込んで――
「止まれ」
低い声が、空気を切った。
(……え?)
動きが止まる。
というか、止められた。
周りの空気も、一瞬で変わる。
さっきまでの軽さが消える。
視線が、一斉に入口の方へ向いた。
そこにいたのは。
見慣れない制服。
整った装飾。
そして...
明らかに、場に似合わない存在感。
「なんだ、このぬるい空気は」
第一声、それ。
(誰、この人)
思わずそう思う。
近くにいた騎士が、すぐに姿勢を正した。
「ウィンガー王国の王子殿下にございます!」
(ああ、なるほど)
納得したくないけど、納得するしかない。
王子は、ゆっくりとこちらを見渡す。
興味なさそうに。
退屈そうに。
「訓練、か」
短く呟く。
それから。
「ずいぶんと緩いな」
(言うわね)
空気が、少しだけ張る。
誰も何も言わない。
言えない。
その中で。
王子の視線が、止まった。
私で。
(なんでよ)
嫌な予感しかしない。
「……君」
来た。
ゆっくりと歩いてくる。
迷いなく。
距離が、近づく。
「貴族の令嬢が、こんなところで何をしている?」
声は落ち着いている。
でも、どこか刺さる。
「見学と……少し、練習を」
できるだけ自然に答える。
余計な感情は乗せない。
王子は、ほんの少しだけ眉を動かした。
「練習?」
その一言に、わずかな違和感。
「それが?」
聞き返される前に、セリアが一歩前に出た。
「護身のための基礎です」
簡潔に言う。
王子はセリアを一瞥する。
興味がなさそうに。
それから、またこちらへ。
「護身ね」
わずかに口元が動く。
笑っているのかどうか、微妙なところ。
「必要か?」
(……は?)
「君が?」
完全に、見下している言い方。
少しだけ、眉が動く。
「状況によります」
短く返す。
それ以上は言わない。
言いたくない。
王子は、じっとこちらを見る。
それから。
一歩、近づいた。
距離が、一気に縮まる。
(近い)
無意識に、少しだけ後ろに引きそうになるのを抑える。
「そんなものを覚えて、どうするつもりだ」
低い声。
逃げ場を塞ぐような距離。
「貴族らしく振る舞えば、それで十分だろう」
(……)
言い返したい。
でも。
ここは、王子。
下手なことは言えない。
「それでも」
ゆっくりと口を開く。
「何もできないよりは、ましです」
一瞬。
空気が、止まる。
王子の目が、わずかに細くなる。
「ほう」
その反応は、予想外だったのか。
それとも。
「ずいぶんと強気だな」
(そうでもない)
むしろ抑えてる方。
でも。
「事実を言っただけです」
口が、勝手にそう動いた。
(あ)
一瞬、遅れて気づく。
言い方。
ちょっとまずかったかも。
周りの空気が、ぴりっと張る。
でも。
王子は
少しだけ、口元を歪めた。
「事実、ね」
低く繰り返す声。
そのまま、もう一歩踏み込んでくる。
(近いって)
距離感がおかしい。
逃げ場がない。
「なら、見せてみろ」
(……は?)
一瞬、思考が止まる。
「護身術とやら」
軽く顎で示す。
「どれほどのものか」
(いやいやいや)
無理でしょ。
さっき自分でも分かってる。
「王子殿下」
セリアが間に入る。
落ち着いた声。
「これは基礎段階で――」
「構わん」
即答。
話を聞く気がない。
「むしろその方がいい」
(何がいいのよ)
「ほら」
視線が、完全にこちらに固定される。
逃げられない。
「やってみろ」
(詰んだ)
心の中でそう呟く。
でも。
ここで完全に拒否するのも、逆に目立つ。
(どうする……)
一瞬だけ、セリアを見る。
ほんのわずかに。
頷いた。
(え、やるの?)
逃げ道、消えた。
小さく息を吐く。
「……分かりました」
観念する。
木剣を握り直す。
さっき教わった形。
とりあえず、それを思い出す。
一歩、踏み込む。
――その瞬間。
「遅いな」
声と同時に、腕を軽く取られる。
(っ)
一瞬で崩される体勢。
近い。
さっきよりもさらに。
「その程度で、何が守れる」
(うるさい)
分かってる。
分かってるけど。
(……なんか、腹立つ)
じわっと、感情が浮かぶ。
その時。
「力を抜いて」
セリアの声が、横から入る。
(……力、抜く)
一瞬だけ、意識がそっちに向く。
掴まれている腕。
力が入ってる。
(抜く……)
ほんの少しだけ、力を緩める。
その瞬間。
支点が、ずれる。
「あ?」
王子の声。
ほんの一瞬の隙。
(今)
考えるより先に、体が動いた。
空いている手。
そのまま―
振り抜く。
ゴンッ
鈍い音が、響いた。
……静寂。
空気が、止まる。
(……え)
ゆっくりと、顔を上げる。
目の前。
王子が、固まっている。
さっきまでの余裕はない。
(……当たった?)
いや。
(当たったよね、今)
周りを見る。
誰も動かない。
騎士たちも。
セリアも。
全員、止まってる。
(……やった?)
数秒遅れて。
(やったよねこれ!?)
一気に血の気が引く。
(やばい)
(これ、普通にやばいやつ)
無職転生のライトノベルを集めたいのですが、小説の読み方を学ばなければなりません。
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怠け者くさくて「91 Days」を見るのをやめたけど、今は「ウマ娘 プリティーダービー」を見てる。




