#13:本当に傲慢だ。
誰も、動かなかった。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
さっきまでのざわめきも、笑い声も。
全部、消えたみたいに。
目の前。
ウィンガー王国の王子が、立っている。
動かない。
(……)
(終わった)
頭の中で、その言葉がゆっくり浮かぶ。
やった。
やってしまった。
しかも、思いっきり。
(いや、なんで当たるのよ)
自分でも分からない。
さっきの流れ。
力を抜いて。
隙ができて。
そのまま..
(いやいやいや)
考えれば考えるほど、最悪。
周りを見る余裕なんてない。
見なくても分かる。
全員、固まってる。
セリアも。
騎士たちも。
たぶん、誰一人として予想してなかった。
(当然でしょ)
一番予想してなかったの、私だから。
ゆっくりと。
王子が、動いた。
(来る)
反射的に、背筋が強張る。
怒る。
絶対怒る。
当然。
……なのに。
王子は、何も言わない。
ただ。
自分の頬に、軽く触れた。
指先で、確かめるみたいに。
沈黙。
長い。
やけに長く感じる。
それから。
ゆっくりと、顔を上げた。
視線が、合う。
逃げられない。
その目は―
怒っていない。
(……え?)
予想していたものと、違う。
怒りでも。
侮蔑でもない.
ただ、じっと。
観察するみたいに。
「……」
数秒。
何も言わずに、こちらを見る。
(何その間)
むしろ、そっちの方が怖い。
やがて。
王子の口が、わずかに動いた。
「……くそ..あんたは本当に..」
低い声。
静かに。
「あんたは本当に傲慢だな」
「……傲慢だな」
その一言が、静かに落ちる。
(……は?)
頭が、一瞬ついていかない。
怒られると思っていた。
叱責でも、命令でもなく。
出てきたのは、それ。
傲慢。
(どっちがよ)
思わずそう返しそうになるのを、ぎりぎりで飲み込む。
王子は、まだこちらを見ている。
さっきと同じ。
でも。
ほんの少しだけ、違う。
「普通の令嬢なら」
ゆっくりと、口を開く。
「こんなことはしない」
淡々とした声。
責めているようで。
でも、どこか違う。
「怯えるか、取り繕う」
視線が、ほんのわずかに細くなる。
「どちらかだ」
(……まあ、それはそう)
反論できない。
むしろ、さっきまでの自分ならそっちだった。
たぶん。
「だが」
一歩、距離が詰まる。
また。
(近いってば)
「君は違う」
その言葉に、少しだけ空気が揺れる。
周りの騎士たちも、戸惑っているのが分かる。
怒られない。
処罰もない。
それどころか。
「躊躇がない」
まっすぐに、言われる。
「判断も速い」
(いや、あれは事故みたいなものなんだけど)
言えない。
絶対に言えない。
「そして」
ほんの一瞬だけ、間が空く。
「遠慮がない」
(それは認める)
内心でだけ、頷く。
王子は、小さく息を吐いた。
それから。
ほんのわずかに、口元を歪める。
「退屈しなさそうだ」
(……なにそれ)
意味が分からない.
怒られてない。
むしろ。
興味を持たれてる?
「面白い」
短く、そう言った。
その一言で。
空気が、少しだけ戻る。
張り詰めていたものが、緩む。
騎士たちが、ようやく息をつく。
誰かが、小さく動く.
世界が、再び動き出す。
(助かった……の?)
まだよく分からない。
でも。
最悪の事態は、避けたらしい。
その時。
「殿下」
別の声が入る。
従者らしき男が、一歩前に出た。
控えめに。
でも、はっきりと。
「そろそろお時間が」
王子は、ちらりとそちらを見る。
少しだけ、面倒そうに。
「……分かっている」
短く返す。
それから、もう一度だけこちらを見た。
「またな」
軽い一言。
それだけ残して。
あっさりと、背を向ける。
(え、終わり?)
拍子抜けするくらい、あっさり。
去っていく背中を、しばらく見送る。
誰も、すぐには動かない。
「……ロゼリア様」
セリアの声で、ようやく現実に戻る。
「大丈夫ですか?」
「精神的にはね」
即答する。
体はちょっと怪しい。
小さく息を吐く。
(ほんと、なんなのよ……)
その時。
近くで、小さな声が聞こえた。
騎士の一人。
ひそひそと。
「さっきの、見たか?」
「見た……殿下が怒らないなんて」
「いや、それより―」
少しだけ、声を潜める。
「最近、厨房の方もおかしいらしいぞ」
(……え?)
「食材が傷むのが早いとか」
「変な臭いがするとか……」
(なにそれ)
思わず、そちらに視線が向く。
騎士たちは、気づいていない。
ただの雑談みたいに続けている。
でも。
(……ちょっと待って)
胸の奥で、何かが引っかかる。
(そんなイベント、あった?)
記憶を探る
ゲームの知識。
ルート。
フラグ。
……出てこない。
(知らない)
その違和感が、ゆっくり広がる。
(これ……)
ただの噂じゃない気がする。
「ロゼリア様?」
セリアが不思議そうに見る。
「……なんでもない」
そう答えながらも。
視線は、厨房のある方角へ向いたままだった。
(……悪い食べ物?)
小さく、胸の奥で何かが軋む。
――嫌な予感だけが、はっきりと残った。
リアリティ番組は好きじゃない。つまらないから。
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私がよく見る深夜番組があるんだけど、それは基本的に有名人のゴシップ番組なんだ。
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この章は土壇場で書き上げた。




