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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の三・・・第二の関門『白浜』
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第95話 災厄

 それは突然始まりました。十人近くの荒くれた男たちが浜に雪崩れ込んで来たのです。ここに残っている者たちはその場で動けなくなりました。明らかに今までの盗賊と様子が違うのです。知らない顔ばかり。そして、何をする暇もなく、手当たり次第に女も子供も殴り倒し始めました。悲鳴がそこここから湧き上がります。長老も他の年寄りたちも桃太郎も慄然とするばかりです。住処の小屋を踏み荒らし、桃太郎たちの料理場の方にも迫ってきます。長老は思いもかけず勢いよく立ち上がると、「お逃げなされ! おまえさんは関係ない!」と桃太郎に向かって叫びました。老人たちがよろけながらも手近の(もり)を手に取ると桃太郎も一本を手にしました。「やめなされ! おまえさんには京へ行ってもらわねばならん!」 長老はそう叫ぶと、銛の胴体で桃太郎の持つ銛を払い落としました。予想もしない怪力です。桃太郎は手に跳ね返ってきた痺れるような痛みに思わず後ずさりました。

 「早う行け!」 長老たちは銛を構えていよいよ迫ってくる盗賊たちに向かって仁王立ちしていました。桃太郎は板の間の横手へと飛び出し、浜に沿って南の方へと走っていきました。背後では長老たちがあっけなく転がされていきます。桃太郎は振り返り、次いで海の彼方を見やります。漁師たちが帰ってくる気配はまだありません。

 くそ! 何でこんなことが起こるんじゃ!?

 桃太郎は心に叫びながら、走る先は聳える断崖に阻まれているのに気がつきました。砂浜からいきなり立ち上がり、海へと長く進出している突端をそろそろ立ち騒ぎ始めた白波が打ちつけています。崖をよじ登るしかないのか? 思いながらも、崖はどんどん迫ってきます。

 「逃すか!」 男が一人、短刀を振り翳しながら追いかけてきます。

 桃太郎は飛び上がりました。追っ手にびっくりしたのですが、恐怖のあまり、とんでもなく飛び上がっていました。気がつくと、崖のてっぺんに着地していました。

 「なんじゃあ!?」 

 下の方から男の吠える声が聞こえてきます。桃太郎は自分が何をしたのかよくわからないまま下をのぞき込みました。火をつけられ、燃え上がる家々が一瞬目に飛び込んできましたが、それを見渡す余裕などありません。諦める様子のない男が崖を登ってきます。馴れているのか、ものすごい速さです。あっという間に桃太郎と同じ所に立っていました。崖上はかなり広く、突端までは少し距離があります。

 「へへへ」 舌なめずりしそうに笑う髭ボーボーの男は、短刀を自分の顔の前で構えながら、桃太郎をどんどん突端の方へと追い詰めていきます。打ち付ける波の音が容赦なく迫ってきます。どんどん端へと後ずさって行き、もう後がないと思った時、

 黄金を投げつけたら・・・? 

 そんな考えが閃いた途端、男の短刀が桃太郎に襲いかか・・・ったと思った瞬間、桃太郎は何者かに胸を突き飛ばされて、崖の突端から背中向けに空中へ飛び出していました。桃太郎から跳ね返るようにそれは間近の男に襲いかかり、顔を嵐のように掻きむしりました。男は短刀を放り出してしまい、両手でそれを引き剥がそうとしますが、ふくらはぎにも何かに噛みつかれて右に左に振り回されます。そして男の頭上では燃え上がる鳳凰が羽を大きく羽ばたかせながら、両足で男のさんばら髪に着地し、炎をその髪に燃え移らせました。

 「ぎえ〜〜〜」

 男は狂ったように頭を払いながら暴れ回ると、頭から火を噴きながら、桃太郎とは反対側の、砂浜の崖下へと墜落していきました。

 それを見送ると、ふうたとしろと、燃えて真っ黒焦げになったとびすけが桃太郎が墜落した突端から下をのぞき込みました。波が岩肌に打ちつけています。桃太郎の姿は見えません。

 (やばい! やっちまった!) ふうたが叫びました。

 (何で落ちた?) とびすけが不安に身を震わせました。

 (当たりどころが悪かったのかもな) 弁解するように言います。

 しろはただ呆然と波を見つめて崖の端に佇むだけです。

 木々の間を移動しながら、桃太郎の行方を見守っていました。あまり離れすぎると考えも読めません。桃太郎が崖の方に走って行ったのを機会に後を追いました。少なくとも村も含めて窮地に陥ったことはわかったのです。まさか、思わぬ方向からサルと犬とキジがちょこちょこと追ってくることなど追っ手の男の目にも入らなかったようです。たとえ、入ったとしてもそんなものを相手にするような場合でもないのでしょう。

 

 今までの野荒らしたちは、村の男たちの留守を狙うことはなかったのです。堂々と男たちと渡り合い、実力を見せつけて去っていくのです。もちろん、彼らがキレるほどの抵抗さえしなければ必要以上の悪さもしません。何度襲われても誰一人として命まで奪われたことはなかったのです。しかし、今日の惨状は・・・

 ありったけのものは持ち去られ、家屋は燃やされ、家族は根絶やしに・・・

 辛うじて最初に死んだふりをしてただ一人、命だけは引き留めた血まみれの老婆の言葉で、桃太郎だけは逃げおおせたかもしれないと、漁師たちに伝えることはできました。


 桃太郎は何とか海面に浮かび上がりました。泳ぐことなど知りません。『もも』の頃に練習したこともありませんでした。大波に高く低く苛まれながらとにかくもがき、顔を水の外に出しておくだけで必死でした。岩の突き出ている所へ向かおうと水をかきますが、かえって岩にぶち当てられそうで身がすくみます。時々見上げる崖上にふうたとしろらしい姿が見え隠れし・・・ふうたがこちらに向かって何か叫んでいるようにも見えますが・・・

 この状態の自分が、サルや犬やキジに助けてもらえる方法があるとも思えない・・・

 と、突然、

 ドシン! 

 と、腰のあたりに何かがぶち当たりました。うわっとのけぞって沈みそうになると、自分の両足の間に何かが滑り込んできました。そして、またがるような格好になったと思うと、ぐぐっと浮き上がってきて桃太郎を海面の上へと持ち上げました。波の間に間に上下に揺られながら。

 

 (何だ、あれ!?) ふうたが叫びました。

 (海の上に座ってるぞ!) とびすけも叫びました。

 (とりあえず、助かってる?) しろも問いかけます。


 「え・・・」

 桃太郎がびっくりして下を見ると、大きな海亀の上に乗っています。甲羅が丸々波の上に浮かんでいました。村の池にも小振りの亀がいたりするので、巨大ではあっても亀というものであろうとは想像がつきました。

 (ようお越し)

 桃太郎の頭の中にそんな言葉が流れ込んできました。

 「な・・・何じゃあ!?」

 桃太郎は訳がわからず叫びました。

 (聞こえたみたいだな。おまえさんも『月』に降ろしてもらった口だろ?)

 「何のことじゃ?」

 (とぼけるない。オレの言うことが聞こえてるということはそういうことだ。犬とサルとキジのやつらがついてまわってるんだからわかるさ)

 「月に降ろしてもらう?」 

 桃太郎にわかっているのは、自分が桃から生まれたということだけです。なぜ桃から生まれたのかなど全然わかりません。

 (ははん・・・サルのヤツらによると、おまえが一番最初に降ろしてもらったらしいな・・・それでおまえは何とか『人』に近いようにはできたらしいが・・・。なるほど、それで後から降ろされたオレたちはおまえで力を使い果たしたからまともに『人』にできなかったのか)

 亀は一人で納得しています。

 桃太郎はますます混乱しました。大体、喋るサルと「ケーン」しか言わないキジについてまわられるのも奇怪な話なのです。

 ・・・『犬』て、しろも本当にそうなのか?

 (どうだ? 出来損ないたちが集まってる所があるぞ。『人』の形はしてるが海の中でしか暮らせないように作られてしまったものたちだ。連中に会えば、わからなくなってるおまえの正体もわかるさ)

 「オレが水の中で暮らせる訳ないだろ!」 桃太郎は腹が立ってきました。

 (そんなことないさ。どうせおまえも出来損ないだ。だから『人』にできないことができるのさ)

 海亀は一気に海の中へ沈んでいきました。


 「わわ! 何すんねん!」

 ふうたは思わず口に出して叫んでいました。浮き上がってきた桃太郎を見てホッと一息ついたのですが、辛うじて桃太郎たちの会話は『考え』として聞き取ることができました。あの『亀』とかいうヤツは考えを盗み聞きする力がとんでもなく強いのか、こっちの事情をあらかた知っているようです。『月』に腹立ち紛れに海にでも放り込まれてしまったのでしょう。何だか、こっちを妬みでもしているような・・・そんなものが伝わってきます。

 ふうたたちは誰もいなくなった海面を茫然と見つめていました。

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