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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の一・・・事の始め
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第80話 落下桃

 ─── 私の旅のお話をするには、まずは旅の途中で出会った『桃太郎』のお話から始めねばなりません。村の人々はこんなお話を私にして下さったのです。

 時は、私が旅に出る五年ほど前に遡ります。───


 

 

 まだ天から星の降る夜。

 高みからどうどうと滝の流れ落ちる、深い水の溜まりに、

 遥かな上空から何かが落ちてきました。

 それは姿も見えないまま、高い水しぶきだけを上げて深く沈み・・・

 

 しばらくすると、

 ぼっかりと浮かび上がってきました。

 

 巨大な桃の果実でした。

 

 桃はその実の下に大振りの葉を二枚、横に広げると、その上に乗るようにして

 滝の送り出す波に揺られながら、当分、そこで漂っていました。

 

 やがて白々と夜が明け始めました。

 桃は時を得たかのように、自ら水の上を進み始めました。

 川の流れの始まりの方へ向かって。

 

 桃は渓流の流れに乗るでもなく、桃なりの進み方で、ゆっくりと、

 時をかけて川を下っていきました。

 まるで、時が追い抜いていくのを待っているかのようです・・・

 

 

 

 「キャハハハハ」

 女たち男たちが、キラキラと水に照り映える光の中で、洗濯にいそしんでいます。世間話に笑い声を立てながら。

 村の洗濯場は今日も賑やかです。

 そばには物干し場も作られ、洗い終わったものは広げてどんどん干されていきます。

 日常の風景でした。

 「何じゃあれ!?」

 岩棚の突端で洗い物をしていた女が突然、川上の方を指して立ち上がりながら叫びました。

 全員がその方を見ます。

 川上からゆっくりゆっくり、ゆらゆらと流れてくるものが・・・

 「桃じゃ!」

 誰かが気がついたように声を上げました。

 「何じゃと!?」

 人々は様々に叫びながら岩棚の淵に集まってきました。

 桃・・・らしき形をしたものはゆっくりゆっくりと、近づいてきます。

 そして、人々が唖然と見つめる中で、まるで流れに逆らって進路を変えたかのように、岩棚の方に迫ってきました。

 縦横六尺はあろうかと思える巨大な桃は、流れの水が入ってきたり底からの湧き水が押し出したりして常に入れ替わっている清らかな溜まりの中に、やはりその水の動きを無視するかのように入り込んでくると、そこで進むのを止め、人々の目の前でゆっくりゆらゆらと行きつ戻りつし始めました。

 「何が言いたいんじゃ?」

 桃の動きを目で追いながら、一人の男が独り言のように呟きました。

 「さあ・・・?」

 誰ともなく応えます。

 「ほんまに桃なんか?」

 人々は様々に、ざわめき始めました。そして、

 「どうすんの、これ?」

 ついに誰かが言いました。

 そうです。放っといてこのまま腐ったりなんかしてもまずかろう、とにかく何なのか確かめた方ががええんではないか? ということになり、

 とりあえずみんなでこれを岸に引き上げてみよう、ということになりました。

 どうやって引き上げるかあれこれ考えるうち、洗濯板を何枚か並べてそれを登らせるように後ろから押し上げよう、ということになりました。水面から岩棚の表面までそれほど高くないので、上げられそうに思えました。

 淵のすぐそばは大人の膝上ぐらいの深さです。何人かが溜まりの中に入って、桃に手を触れ、こちらの方に寄せてみました。

 「ほんに桃の手触りじゃぞ」

 「桃みたいな柔らかさじゃな」

 「なんか・・・うまそうじゃ」

 とりあえず、淵に並べられた洗濯板の上にその実を乗っからせようと押します。しかし洗濯板には引っかかるものの、下の葉が邪魔をするのか、登るようにはすべってくれません。いっそ持ち上げようともしてみますが、大の男三、四人がかかっても宙に持ち上げられるような重さでもないのです。よっぽど中身がしっかり詰まっているのでしょうか。

 とは言うものの、見れば見るほど、さわればさわるほど、ただでっかいだけの本物の桃のように思えてなりません。

 「どうせじゃ、食べられるもんかどうか、このままここで切ってみたらどうじゃろ?」

 「そうじゃな、淵に押さえつけといたら、切れんこともなかろ」

 村人は、包丁では間に合うまい、とナタを持ってくることにしました。

 そこで、一番近場の家の者が家からナタを持ってきました。

 「よーし、切るぞー、しっかり押さえといてくんろよー!」「おー!」

 溜まりの中の男たちが一斉に桃を淵に押し当てて固定します。

 「せーの!」 男がナタを大きく振りかぶりました。 

 

 ――― パッシャーン! ―――

 

 桃を切ったとは思えないような変な音がして、そばにいた人たち全員がずぶ濡れになりました。

 

 え! な、中身、水!?

 

 ナタの一撃を浴びて、まるで桃は破裂したかのように大量の水らしきものを撒き散らし、

ぺしゃんこになった皮が下の葉を覆うように水の上にくしゃくしゃに広がって浮いていました。

 桃を押さえていた男たちは弾ける皮に薙ぎ倒されたようで、みんな水の中に尻餅をついています。

 岸上の人々はずぶ濡れになったまま何が起こったのか訳がわからず、呆然と立ち尽くしていました。

 てっきり、美味しい桃がみんなで分け合えるものと期待していたのに・・・。

 しかし・・・

 

 「何じゃこれ!?」は、まだ続きました。岸上の一人の女がそれを指差します。

 あまりのびっくりにやっと気がついたのですが、破れた皮がかぶさるように一つの大きな塊が、浮かぶ葉の上に乗っていました。

 水の中の男の一人が立って、恐る恐るながらかぶさっている皮をどけました。

 太い網の目状になった、

 「もしかして・・・種か・・・?」

 大きさは二尺ほど。まさに、桃の種のような形と見た目です。ただでっかいだけの。そして、

 その網目の中で何かがもごもごとうごめいているようです。

 人々は寄り集まってそれをのぞき込みました。

 「赤子・・・か・・・?」

 確かに、赤子のように見えます。

 「出してやった方がええのんか?」

 誰かがまわりを見まわしながら言いますが、そんなこと誰にもわかりません。

 見つめているうちにも、中の赤子の動きはだんだん鈍くなり、動かなくなってきました。

 「大変じゃ!」

 誰かが叫びました。確かに、出してやるに越したことはなさそうです。

 水の中の男たちがその種を抱え上げ、岸の上に置きました。これは意外にも一人でも持てる重さです。

 さて、どうすればいいのか、中に入っている以上、開け方が何かあるというのか・・・?

 何人かで岩棚の上に置いた種をゆっくりとあちこち回し、開け口があるのかどうか調べました。しかし、網目の同じ形の半分ずつが合わさったようで、あると言えばその合わせ目らしい筋が縦にうっすらと一本走っているぐらいです。

 「ここしかあるまいな」

 みんなうなづきました。そこしかなさそうです。

 二人の男たちが種を立てて支えると、

 「よーし、ナタでここじゃあ」とナタを持っている男にその筋を顎で示しながら呼びかけました。

 ナタの男はナタを振り上げました。

 「ゆるりとな」 男が振り下ろす直前に支えている男があわてて声をかけます。

 そう言われてナタの男は危うくコケそうになり、もう一度構え直してゆっくりと、

 ナタでココン、と合わせ目を軽く叩きました。

 

 パカン

 

 意外にも簡単に種は真っ二つに割れ、

 割れた途端に空気を思いっきり吸い込んだ赤子が、

  

 ホギャ〜〜〜!

 

 産声を上げました。

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